2021.07.28 広がる盗聴スキャンダル(ハンガリー)
       ー切り抜けられるかオルバン政権
                         
盛田常夫 (在ハンガリー、経済学者)

 ハンガリーでは先週末も、官房長官の記者会見で、イスラエル製盗聴ソフト「ペガサス」にかかわるスキャンダルにかんする質問が相次いだ。このソフトウェアを購入したのは、現在明らかになっているところ、ヨーロッパではハンガリーだけだ。この問題を報じた英紙ガーディアンは次のように詳細を報道している。なお、このスキャンダルは同紙のほか、仏ルモンド、米ワシントンポストなど世界の14の組織によって追跡されているという。
 ガーディアン紙によれば、現在、このスパイウェアの対象となって携帯電話5万件の情報が流出しているが、そのなかで50ヵ国1000名がスパイ対象として特定されている。その中には、CNN、ニューヨーク・タイムズ、アル・ジャジーラの記者たちが含まれており、ジャーナリストの他には政治家、著名実業家、在野の活動家、アラブの王室メンバーなどが含まれているという。
 イスラエル企業NSOがこのスパイウェアを新規の国に販売するにあたっては、事前に国防大臣の承認を必要としている模様で、40ヵ国の諜報機関がこれを購入している。現在国名が明らかになっているのは、アゼルバイジャン、バーレーン、カザフスタン、メキシコ、モロッコ、ルワンダ、サウジアラビア、インド、アラブ首長国連邦、ハンガリーである。諜報機関への販売が50%を占め、残りは法務関係(38%)、軍事関係(11%)となっている。
 このスパイウェアがスマートフォンに送り込まれると、SMS、EMAIL、WhatsApp chats、写真とヴィデオ、マイクスウィッチ、カメラスウィッチ、通話録音、GPSデータ、カレンダー、住所録の情報を吸い取ることができる。2018年に殺害されたサウジアラビアのカショギ記者に近い女性2名にこのソフトが送り込まれていることが判明している。
 ハンガリー政府がこのソフトの購入を決めたのは、先に記したように、2017年のオルバン首相とネタニヤフ首相との会談だったと報道されている。名目上の目的はテロリストの監視である。しかし、メディア支配を目標に掲げていたハンガリー市民同盟(フィデス)政権は政敵や反政府系の記者の盗聴に使ってきたと思われる。独立系メディアを保有しているヴァルガ・ゾルターンもまた、スパイウェアによる監視対象になっていたが、ガーディアン紙記者とのインタビューのなかで、保有していた独立系サイト24.huを手放すことを、政権に近い人物から強要されたこと、さらに編集部員を入れ替えれば政府の広告補助を受けることができると脅された旨を話している。
 ハンガリー政府要人は政府に不利なニュースが出るごとに、「フェイクニューズ」(スィーヤルトー対外経済・外務大臣の常套文句。彼には、Mr. フェイクという苗字が相応しいほど、fake, fakeと叫んでいる)とレッテル貼りして批判を避けてきたが、今度ばかりはスパイ活動が国際的な広がりをもって暴露され、その処理に思案しているようだ。
 ハンガリー政府は欧州委員会から、司法・メディアの独立性、国家としての法治性を疑問視されており、改善がなければパンデミック関連の補助金凍結が通告されている。オルバン政権は国内の保守層に期待すべく、反ペドフィル法がEU委員会から攻撃されているという主張にもとづいて、国民投票することを決めている。国内の圧倒的支持を得られれば、難局を乗り切ることができると考えている。
 反社会主義・共産主義を掲げるフィデス政権が、ロシア、中国、トルコの独裁政権と手を結び、国内では一党独裁の地位を強固にしようとするのは矛盾する行動だが、権力を維持するために手段を選ばないと考えれば納得できる。

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