2021.08.23 日本列島が新型コロナウイルスで〝真っ赤(過去最多)〟に染まっても、菅首相は「自粛」と「宣言」を繰り返すだけ
国民の命を守れない菅内閣は下野しなければならない

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)


 東京五輪が開幕してから今日8月20日で1か月近く(29日)、閉幕してから12日が経過した。国内の新型コロナウイルス新規感染者数の推移をみると、7月23日(開幕)4349人、8月8日(閉幕)1万166人、8月20日(現在)2万5156人と感染拡大は日に日に勢いを増している。五輪開催中に約1万人、閉幕から現在まで約1万人、合わせて2万人余りが増えた勘定だ。開幕時の国内感染者数4349人を基準にすると、閉幕時は3.3倍、現在は5.8倍に達している。

 菅首相やJOCは、五輪開催と新型コロナ感染者数の増加は「関係ない!」と火消しに必死だが、国民は誰一人そんなゴマカシを信じていない。菅首相は本当のことを言っていない、菅首相の言うことは当てにならない、との評価が行き渡っているからだ。国民には「自粛」を求めながら、その一方、国際的な人の大移動を伴う東京五輪は開催する――、こんな言行不一致な人間の言うことは信用できないと誰もが思っているのである。だから緊急事態宣言をいくら発出しても国民には「馬の耳に念仏」程度にしか届かない。

 五輪閉幕後、さすがのNHKも連日新型コロナの感染状況を伝えるようになった。夜の「ニュース9」でも、トップでその日の感染状況を伝えるようになったのである。感染状況を示す日本列島地図が大写しになり、「過去最多」を記録した地域が真っ赤に塗られ、それが日に日に拡大していく様子が手に取るように分かるようになった。最初のころは首都圏を中心にした「点」だったが、最近では首都圏と関西圏を結ぶ「線」となった。都市計画研究者の端くれである私には、それが高度成長時代の「太平洋ベルト地帯構想図」に重なって見える。

 1964年の東京五輪開催当時、日本は「国土開発ブーム」「都市開発ブーム」に沸いていた。1964年東京五輪開催の2年前、1962年に戦後初の「全国総合開発計画」(全総)が閣議決定され、5年後の1969年にはさらにバージョンアップされた「新全国総合開発計画」(新全総)が登場した。京浜工業地帯、阪神工業地帯、北九州工業地帯を結ぶ国土幹線(高速道路、新幹線、通信網など)の建設が急ピッチで進められ、太平洋沿岸の至る所に巨大臨海コンビナートが造成された。日本列島の山という山が削られ、海という海は埋め立てられていったのである。

 当時は、公害問題が最大の政治課題だった。工場廃液の垂れ流しによる海や河川の汚染が激化して水質汚染が限界に達し、火力発電所や工場からの排気ガスによる大気汚染が都市の上空を分厚く覆っていた。水俣病(熊本、新潟)、イタイイタイ病(富山)、四日市喘息(三重)など地域住民の生命と健康を脅かしていた深刻な公害問題に対して訴訟が始まり、「4大公害訴訟」として一気に国民の最大関心事に浮上した。これを機に全国各地に公害反対住民運動が広まり、山を削って海を埋め立てる開発計画への抗議運動が激化したのである。

 いま、全国に広がろうとしている新型コロナウイルスの感染状況は、当時の公害問題による凄まじい環境破壊、国土荒廃のあり様を想起させる。新型コロナウイルスは、太平洋ベルト地帯に沿って感染爆発が「点」から「線」へと拡大し、さらには国土全体の「面」にまで広がろうとしている。〝真っ赤(過去最多)〟に塗られた感染地図が全土を覆う日もそう遠くはない。それにもかかわらず、菅首相はパラリンピックを予定通り開催する方針を変えず、「無観客」を掲げながら学校児童生徒の参加を認めようとしている。専門家が「この状況では誰が考えても無理」だと思うことを強行しようとしているのである。

 菅首相には、政治家に必須の〝歴史観〟や〝科学的想像力〟が決定的に欠落しているように思える。科学や学問に対する最低限のリスペクトすらないことは、学術会議会員候補の任命拒否で明らかになった。任命拒否の理由も説明できず、ただ(政治的に)気に食わないという理由だけで拒否するのは、どこかの「田舎政治」と同じことだ。また、歴史観がないことは、「沖縄のことは戦後生まれの自分は知らない」と沖縄県知事に公言したことで明らかになった。歴史は過去の事実や教訓を深く学んで現在の行動を律するものだから、生まれてくる以前のことは知らなくても平気だというのでは話にならない。

 横浜市議の政治経験を基に伸し上がった「叩き上げ」の菅氏には、政治家としての基礎教養をつける機会がなかったのではないか。それが安倍内閣で官房長官になり、さらには後継首相になったのがそもそもの間違いだった。こんな不幸な事態は一刻も早く是正しなければならない。燃え盛る新型コロナウイルスの感染爆発を目前にして「打つ手がない」と立ちすくんでいるような人物は、首相の責に耐えることができないからだ。

 8月11日の朝日新聞社説は、「コロナ下の首相、菅氏に任せて大丈夫か」と論じた。事実上の退陣要求である。メディア各紙は、全国紙も地方紙もこのことを真剣に考えてほしい。国民の間ではもはや内閣支持率が底を打っているように、早くから菅内閣を見放している。新型コロナウイルスが「燎原の火」のように広がる前に、菅首相を退陣させることが最大の「感染防止対策」なのであるから。(つづく)

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