2021.09.27 始まった?習近平の文化大革命(3)
―学習塾、ゲーム、芸能界・・・

田畑光永 (ジャーナリスト)

 前回は8月に習近平が打ち出した「共同富裕」という目標に向かって最初に動き出したIT活用産業というかネット業界というか、とにかくインターネットによる情報伝達の速さ、広さを活用するネット販売や食品デリバリー、配車サービスといった分野の大手企業をめぐる状況を見た。そこでは政府側が独占禁止法の鞘を抜いて、巨額の罰金を突きつけたのに対して、業界側は抵抗するどころか、罰金を払った上に、さらに巨額の献金や中所得層を育てるための事業への出資を申し出るなどの従順な姿勢で応ずるという、我々の目には異様とも見える光景が現出した。
 この動きが今後、どのように展開してゆくかは、正直なところ見当もつかないので、とりあえず次は教育産業、芸能界といったところに目を転じよう。
 まず教育産業。つまり受験競争を勝ち抜くための学校外で補修授業をおこなう学習塾などに対する規制である。もっともそれが「共同富裕」にどうつながるのか、これまた明確な説明はない。風が吹けば桶屋が儲かる式の連想でいけば、塾の学費が高いと、多くの親は子供を1人だけにしてその子に学費を集中する。その結果、子供が減り、労働力が減り、1人の若者が支える老人の数が増えて、社会の活力が失われる、といった筋道がひとつ考えられる。
 そんな長い話ではないと、別の考え方もある。現在、中国では学校の教職員以外の、塾の講師など教育産業職で働く人の数が1000万人にも達するという。この人たちは実質的には学齢の子供の親のすねをかじって生活しているようなものだから、その家庭の生活水準を下げるだけで、社会の富を増やすことに貢献しない。彼らを生産労働に振り向けるべきだ、という説もありそうである。
 どちらも、なるほど分かった、とうなずかせるほどの説得力はない。が、そこはひとまずおいて、それではどんな政策が打ち出されたのかを見よう。
 7月24日に中国共産党の中央弁公庁と国務院(政府)が「義務教育段階の児童・生徒の宿題の負担と学外教育(塾、補修学校など)の負担の一段の軽減に関する意見」というのを出した。これは文字通り学生、生徒の学業の負担を軽減すべしという指示である。伝えられるところでは、中国の子供たちは大変らしい。宿題も多いし、学校が終わると、塾へ急いでそちらの勉強。文字通り寝る間も惜しんで勉強しなければならない。そこでこの「意見」はそういう負担を軽くすべしとの指示である。
 しかし、その方法は塾の存続を直撃するものであった。曰く、学習塾の新設を認めず、既存の塾は非営利組織とする。曰く、株式市場で調達した資金を学習塾に投資することを禁ずる。曰く、週末や祝日。夏・冬休みに塾で教えてはならない。
 ほとんど塾の存在そのものを悪とみなしている感がある。その理由としては何と言っても塾そのものの学費も総じて安くない上に、有名校に入学できる学区内のマンションが高騰するといった受験競争に付随する社会問題まで発生してきたので、とりあえず塾通いの過熱を抑えようとしたのであろう。
 そして8月30日、今度は教育部(文部省)が「学校での試験の管理強化についての通知」を出した。
 こちらはテストを減らして子供たちの負担を軽くするとともに、試験結果を見て一喜一憂する親の焦燥を減らそうという方策か。
 内容は、1,全体的に試験の回数を大幅に減らす。2,小学校低学年生にはペーパーテストは実施しない。3,同3~6年は学期末試験だけ。4,中学は学期の中間と期末の試験のみ。週間テスト、月間テスト、単元テストなど各種テストは一律廃止、とする。
 また試験の結果についても、評価は4~5段階とし、公表したり、順位をつけたりしない。細かい評価は学生、生徒本人か保護者に直接伝え、テスト結果によるクラス替えや座席替えをしてはならない、などとしている。
 総じてここまでは、学童、学生の負担を軽くするように政策で誘導していることは明らかである。ただ学童、学生の学業による負担はどの程度が適当であると判断しているのかについての言及は避けている。本来、こういう問題は行政当局の判断の前に専門家による検討、判断があるべきはずだが、それは抜きで、党あるいは政府の政治判断で細かい規定が実施に移されているように見える。
 この学業の負担軽減と関連しての措置かどうか、これまた不明だが、8月30日、今度は国家新聞出版署というところから、「未成年者(18歳未満)のオンライン・ゲーム利用制限を強化する通知」というのが発表された。中国語で「新聞」というのは、日本と違って「ニュース」あるいは「報道」という意味だから、おそらくインターネットを使い、またゲーム内容は著作物という判断で、報道・出版をあつかうこの役所が管轄しているのであろう。
 オンライン・ゲームについては、これまでも無制限というわけではなく、2019年以来、未成年者は休日に限り1日3時間、それ以外は1.5時間という利用時間制限があった。そして8月初めには『経済参考報』という新聞が、オンライン・ゲームを「精神的アヘン」、「電子麻薬」などの言葉で批判を加え、ゲーム大手の株は下落したという(香港紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』による)。その規制を今回、よりきびしくして、未成年者の利用は金曜~日曜と祝日の夜8~9時の1時間だけ、とした。さらに実名による利用を徹底し、親の名前で登録するような事例が判明すれば、会社側を処罰するという。
 これに追い射ちをかけるように、今月8日には、同じく国家新聞出版署がオンライン・ゲームの新作に関する審査を一時、凍結すると発表した。一時といっても期限への言及はなく、新ゲームの投入が出来なくなった騰訊控股(「テンセント」)、網易(「ネットイース」)など、業界大手は逆風にさらされることとなった。
 子供たちは塾での勉強や学校の試験の重圧からはかなり解放されても、その時間をゲームに投じることはだめと釘を刺された形である。それならテレビや映画で好きな俳優やタレントの番組を楽しもうかと考えても、こちらも厳しい規制が待ち受けている。
 芸能界についてはすでに2.3か月前から、ただならぬ雰囲気が漂っていた。有名女優が「アリババ」の創業者と親密な関係にあるとか、有名タレントのセクハラ癖とか、某男子俳優が日本で東京・乃木神社での友人の結婚式に参加し、さらに靖国神社にも行ったとかという類の、まあスキャンダルと言えるかどうか程度の話がメディアを賑わし、それと同時に俳優やタレントの人気の度合いをそれぞれのファンクラブが音頭をとって、投票で争うことが流行し、そのランキングでかなりのお金が動くといった事象や、男性アイドルが女性のような衣服をまとって、女性のような仕草をしたりするのを、好ましくない風潮として非難するなどの文章がしばしば登場するようになった。
 こういう芸能界の状況に対して、共産党と政府が公けに指示を発したのは9月に入ってからである。9日の新華社電によると、この日、政府の「文化・観光部」はテレビ・電話会議を開いて、文化娯楽領域の行政管理における突出した問題の処理に力を入れ、断固として「歪風邪気を滋生する土壌を取り除き、より豊富に、より栄養のある文芸作品を生みだすため、初心を堅守し、道徳と芸術の両面で優れた芸術家を育てよ」との要求を発した。
 そして、これは共産党中央宣伝部の「文芸娯楽領域の総合的行政管理工作に関する通知」に基づくものと断った上で、特に「“飯圏”乱象」の整頓が必要だと付け加えている。「飯圏」とは妙な言葉だが、「飯」の中国語の発音は「ファン」、「圏」は輪を意味するから、「飯圏」はファンクラブである。その「乱象」とは前段で紹介した人気投票にスターそれぞれのファンクラブがさかんに肩入れして、一種異様な社会現象を生んでいることを指すようだ。ともかく、共産党はそれが嫌いらしいのである。
 さて、ここまで読んでいただいて、どんな感想をお持ちだろうか。「共同富裕」の時代へ、というスローガンはいいとして、それが学校での試験の制限、塾の規制、オンライン・ゲームの規制、さらに芸能界のファンクラブへの警告とどうつながるのか、首を傾げておられるのではないだろうか。
 確かに個々の現象相互には特に関連はないし、共同富裕とも直接のつながりは見えない。では一体なんなのだ?「共同富裕」という目標に向かって、国中、気持ちをそろえて頑張れ!という政権の呼びかけにこたえる一種の世直し運動と考えればいいのではないか、と私は見ている。中国でも最近の風潮を「文革2.0」と呼んでいるそうだから、新しい時代の始まりにふさわしい世の中にするために、不合理なもの、不要なもの、不真面目なものを排除して、正しい道へ進もうという世直し運動ではないだろうか。
 では、なぜ今、世直しなのか、それを次回は考えたい。(次回へ続く)


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