2021.12.03 大賞に日韓問題を論じた「歴史認識 日韓の溝」
2021年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
                  
岩垂 弘 (ジャーナリスト)


 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、ジャーナリストの田畑光永・鎌田慧の両氏ら)は12月2日 、2021年度の第27回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を次のように発表した。

◆基金賞=大賞(1点)
ジャーナリスト・元朝日新聞記者、渡辺延志氏の「歴史認識 日韓の溝」<ちくま新書>

◆奨励賞(6点)
★池尾伸一・東京新聞編集委員の「魂の発電所 負けねど福島 オレたちの再エネ十年物語」<徳間書店>
★共同通信取材班の「わたしの居場所」<現代人文社>
★札幌テレビ放送の「核のごみは問いかける 『尊重』の先には…」
 ★毎日新聞記者・千葉紀和、上東麻子両氏の「ルポ『命の選別』 誰が弱者を切り捨てるのか?」<文藝春秋>
★イラストレーター、橋本勝氏の長年にわたる一連の政治風刺漫画
★宮田求・北日本新聞社編集委員の「連載・神の川 永遠に―イ病勝訴50年」

審査委員特別賞(1点)
RKB毎日放送の「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」

 基金運営委員会によると、第27回平和・協同ジャーナリスト基金賞の候補作品は推薦・応募合わせて88点。その内訳は活字部門39点、映像部門49点。
今年度の特徴は、これらの候補作品のテーマが極めて多様であったことだという。これまでは、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、原発、憲法、安保、沖縄の米軍基地なといった課題を論じたものが大半だったが、今年はこれらに加えて、日韓問題、外国人労働者問題、入国管理局での人権問題、コロナ禍、「優生社会」化問題などに肉薄した作品が寄せられ、しかも力作が多かったという。

 ■基金賞=大賞に選ばれた「歴史認識 日韓の溝」は、「日本と韓国の関係にきしみが増している。戦時中の徴用工をめぐる問題で対立が深まり、最悪と指摘されるまでに関係は悪化した。両国における嫌韓、反日の感情は高まり、憎しみや敵対感を隠さない言動は珍しくなくなった。……それはなぜだろう」との問題意識から、日韓両国の関係史を現地取材や膨大な文献でたどった論考。選考委では「文中に出てくる『問われているのは、過去に何があったかのかということにとどまらず、今日を生きる私たち日本人の歴史認識であるとの思いが強くなった』という著者の言葉が心に残った」「ドイツは自国が過去に行ったことを繰り返し検証して国民が共通の歴史認識をもつように努めている。だから、敵対国だったフランスとも友好的な関係を築けた。日本人もこれに見習わなくては」「今はこういう著書がぜひ必要」との発言があったという。

 ■奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれた。
 まず、活字部門だが、池尾伸一・東京新聞編集委員の「魂の発電所 負けねど福島 オレたちの再エネ十年物語」が「東日本大震災から10年。これは、被害を被った地域の市民同士の協同と連帯による新しい経済・エネルギーの仕組みを目指した人びとの闘いの軌跡をまとめた記録で、地域循環型経済の成功例がここにある。福島県で飯舘電力(太陽エネルギー)を始めた出資者80人の努力と成果は、日本各地の農村に大きな刺激を与え、範となる」と評価された。

 同じく奨励賞となった共同通信取材班の「わたしの居場所」には、審査委員から「コロナ禍によって人びとは分断され、孤立化させられた。格差も拡大した。そんな中にあっても、生きがいや人びとの連帯を求めて、さまざまな生き方を独自に始めた人たちが全国各地に現れた。そうした人たちを紹介した記事はまことに面白く、読ませる」「コロナ禍にめげず、多様な分野、地域で働く人たちの生き方は私たちに希望を与えてくれる」といった賛辞が寄せられたという。

 やはり奨励賞となった毎日新聞記者・千葉紀和、上東麻子両氏の「ルポ『命の選別』 誰が弱者を切り捨てるのか?」は、医学、生命科学、ビジネス、医療福祉の現場などに「優生思想」が浸透し、そこで「命の選択」が実際に行われていることを浮き彫りにしたルポルタージュ。選考委では「優生思想の本源は何かについて考えさせる優れたルポで、感服した」「日本社会の『優生社会』化には、日本人の生産第一主義や経済優先思考が大きく影響していると思った」といった発言があったという。

 イラストレーター、橋本勝さんは特徴ある政治風刺漫画で知られる。とくに、長年にわたる反戦、反核、憲法第9条擁護をテーマとしたイラストは多くのファンの心をつかんできた。平和運動のあるところ、必ず橋本さんのイラストがあったと言っても過言ではない。選考委では、ここ数年、毎年、橋本さんの活動が候補に挙げられてきが、今年は選考委の冒頭で、満場一致で橋本さんに奨励賞を贈ることが決まったという。

 宮田求・北日本新聞社編集委員の「連載・神の川 永遠に―イ病勝訴50年」も奨励賞受賞となったが、これは、4大公害裁判の一つ、イタイイタイ病損害賠償訴訟の勝訴から50年を迎えたのを機に、富山県の神通川流域に発症したイタイイタイ病の歴史を検証し、この病の原因と被害の全容を改めて明らかにしたもの。選考委では「私たちは、再び悲劇を繰り返さないために、これまでの公害から学ばなくてはいけない。この連載はそれに応えてくれる」「産業振興を重視する行政の路線を支持していたメディアが、公害報道に積極的でなかったという識者の指摘を末尾に載せていることを評価したい」などの発言がありたという。

 映像部門から奨励賞に選ばれた札幌テレビ放送の「核のごみは問いかける 『尊重』の先には…」にタイしては、「“核のゴミ”は人類にとって大きな問題であるが、その処理場建設の候補地の一つとして北海道の、小さな予算しか組めない町に20億円というエサで調査を強行しようとする政府。町の多くの人びとが反対する中、町長や賛成町民もいて、町は揺れる。その町の姿をとらえ、見る者にこの問題がもつ重要さを考えさせる番組となっている」との評価だった。
 
 この部門で審査委員特別賞にになったRKB毎日放送製作の「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」については、「戦後76年。再び起こしてはならない太平洋戦争の歴史は日本人の中で風化してゆく。そうした現状の中、この作品は、これまでほとんど知られていなかった事実を掘り起こし、戦犯として裁かれた人びとが、加害者であることと被害者であることを同時に体験していたという事実を中心に描くことで、反戦を強く訴える番組となっている」「今年度の映画、テレビ番組の中では稀有な作品と言える」とされた。

 基金賞贈呈式は12月11日(土)、東京・内幸町の日本記者クラブで行われる。コロナ禍がまだ収束していないところから、主催者は、密を避けるために一般公開はやめ、参列者は受賞者、基金役員、報道関係者のみとする方針だ。

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