2022.01.06 回顧と追悼
韓国通信NO686

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

 「多くの人間にとって本当に必要なものはそう多くはない。少なくとも私は『金さえあれば何でもできて幸せになる』という迷信、『武力さえあれば身が守られる』という妄信から自由である。  
 何が真実で何が不要なのか、何が人として最低限共有できるものなのか、目を凝らして見つめ、健全な感性と自然との関係を回復することである。」
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 2019年アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師の言葉である。口先だけの軽薄な人間が次々と首相になるわが国で、彼は全世界に人の命と平和の大切さ人間の生き方を実践して見せてくれた。<写真/NHKETV特集から>

<コロナに明け暮れた2021年>
 忘れられない人たちが旅立った年でもあった。
 歴史を歪めた教科書の危険について警告し闘い続けた「子どもと教科書全国ネット21の俵義文さん(享年80)は、「生きることは手をつなぐこと。生きることは闘うこと。生きることは仲間を増やすこと。花には太陽を。子どもたちには平和を。」というメッセージを遺して逝った。
 評論家の内橋克人さん(享年89)。不公平な社会に心を痛めながら物静かで優しい語り口で、ともに生きる社会を訴え続けた。辛口の社会批判でありながら自分に言い聞かせる姿は宗教者のような深い感動があった。
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 歴史学者の色川大吉(享年96)さんは歴史の中の民衆に光をあて私たちに勇気と可能性を与えた。秩父困民党事件の講演を依頼したが日程の都合で実現しなかったのが悔やまれる。当時、若手新進気鋭の学者。あれから50年もたった。
 99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さんの朴烈事件の小説化『余白の春―金子文子』、大杉栄と伊藤野枝を描いた『美は乱調にあり』はともに男女の愛をテーマにしながら社会性を持つ作品だった。明るく前向きな思考が多くの人から慕われた。90才を過ぎて反原発、安保法制反対集会でマイクを握り若者を励まし続けた。

 詩人金芝河の詩と生き方に触発され、韓国の民主化運動、なかでも光州市事件に衝撃をうけた富山妙子さんは絵画表現とともに日本の朝鮮半島侵略の歴史と責任を問い続けた。瀬戸内さんと同じ年齢で逝かれた。大先輩と同じテーマを追い続け、同時代を生きた同志である富山さんへ親しみと尊敬の念は断ちがたい。
 2006年に亡くなった詩人茨木のり子さんが生きていれば95才。ハングル学習の先輩として親しみを抱き一方的に雑文を送り付けた関係。亡くなってから15年たった今も、晩年の作品のひとこと「自分の感性くらい 自分で守れ ばかものよ」に励まされている。
私には程遠い存在だった人たちが私の中に生き続ける。記憶と彼らが遺したもの。私の生き方が問われているという緊張感がある。
 「私にやり残したものがあるとするなら…」と茨木のり子風に呟いてみるのだが、残された人生を「生きている限り」という思いは消えない。
 
 閑話休題
 ベストセラーとなった半藤一利(享年90)さんの『昭和史』は内容として目新しいものは無かった。むしろ今頃になって昭和史が注目されることに衝撃を受けた。戦前回帰の潮流のなかで、戦中派として伝えたかった反戦の意思を彼から受け継ぎたい。
 白戸三平(享年89)の『カムイ伝』から抵抗の止むことのない民衆の声を聞いた。高橋和巳の一連の作品をむさぼり読んだ時期に読んだ忘れられない作品として。
 テレビドラマ『若者たち』、『北の国から』の俳優田中邦衛(享年90)さんの熱演。傍らにいる友人のように、ともに怒り、悲しみ、笑って過ごした。
 歌手横井久美子さん(76)は「ボーチェ・アンジェリカ」のメンバー、後にフォークシンガーとして平和運動で活躍。労働組合の新年旗開きに招いたことがある。曲名は覚えていないが彼女とデュエットをした。組合の委員長をしていた余得。証拠写真も残っている。年下の人がなくなるのは辛い。
 森山真弓さん(93)。結婚式の来賓として新婦へ花向けの言葉「自立のために仕事を持ちなさい」が新鮮だった。官僚として労働省婦人少年局長を最後に政界入り(世襲議員と同様に嫌いなパターンだが)。自民党政権の官房長官、文部大臣、法務大臣を歴任した。「女性初」が付いて回る女性のトップランナーだった。自民党議員の中にあって女性の権利向上のために貢献したという評価は高い。大相撲で総理大臣杯を渡すことが「女人禁制」という相撲界の掟に阻まれた。女性初の官房長官が女性差別に苦汁を呑まされた。

<戦争は起こさせない>
 オミクロン株の感染拡大が不気味さを加えている中、台湾をめぐって米中対立が戦争に発展する気配がある。台湾有事に備えて日米共同作戦が具体化される。2016年に施行された安保法制によってわが国も米軍と一緒に戦闘に入るというシナリオだ。沖縄はもちろん全土が戦場になる。不戦の誓いを立てた平和国家である。「武力さえあれば身が守られるという妄信から自由でなければならない」(中村哲)。

Do you hear the people sing?  民衆の歌が聞こえるか?
Singing a song of angry men?   怒れる者たちの歌が
It is the music of a people     それは民衆の歌う歌
Who would not make war again! 二度と戦争をしない者たちの歌 
 若者たちの声にまじり死者たちの声が聞こえないだろうか。

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