2022.02.23  EUのコロナ補助金支出には「法治遵守」が条件 

―欧州司法裁、ハンガリーとポーランドの訴えを却下
盛田常夫 (経済学者、ハンガリー在住)

 2月16日、欧州司法裁判所はハンガリーとポーランドから提訴されていた訴えを却下する判断を下した。これは欧州委員会がコロナ禍からの経済復興のために設定した構造化補助金支出と「法治制(rule of law)」遵守を結び付ける判断を下したことにたいして、ハンガリーとポーランドが異議を唱え、欧州裁判所に提訴した案件である。
 欧州議会には、ハンガリーとポーランドでは「法治制」が遵守されていないという強い異議があり、補助金支出には法治制遵守を条件とするべきだとの決議がおこなわれ、欧州委員会はその線に沿って補助金支出条件を確定する予定で、司法裁判所の結論を待っていた。
 これにたいして、ハンガリーとポーランドは、「法治制」と予算執行は無関係な事柄であり、予算執行が停止されるのは、EUの基本条約である欧州連合条約(マーストリヒト条約)第7条で規定された「資格停止」処分にもとづく場合に限られるという論理を展開して、欧州委員会の決定に異議を唱え、司法裁判所の判断を仰いだ。
 今回の司法裁判所の決定は、このハンガリーとポーランドの訴えを却下し、欧州委員会が補助金支出に条件を付けることにゴーサインを出したものである。ただし、補助金支出停止が決定されるには、ハンガリーとポーランドにおける「法治制」毀損の具体的事例を確定する必要があり、実際に決定が実行されるまでにはさらに長い時間(半年から1年)がかかると言われている。
 これたいして、ハンガリー政府はこの決定はハンガリーを敵視する政治的なものであり、政府が昨年末に議会に提案し可決された反ペドファイル法(ハンガリー政府はこれを「ペドファイルの暴挙から子供を守る法律」としているが、「性的指向を基に人を差別する」との批判が強い)への敵視から生まれた判決であるとしている。そこでハンガリー政府は来る4月の国民投票(総選挙と同時に実行)では、この法案への支持を表明し、ブリュッセルの暴挙に回答を与えようと訴えている。
 ハンガリー政府の主張は意識的に法律制定と裁判所への提訴を絡めているが、欧州議会は補助金に条件をつけることを2020年12月16日に決定し、それにたいしてハンガリーとポーランドが提訴したのは2121年3月であった。ハンガリーの反ペドファイル法は2021年11月に可決されたもので、欧州の基本的価値を損なう法案の一つではあっても、この法案が原因で今回の決定が下されたわけではない。
 ハンガリーの反ペドファイル法はペドファイルから子供を守るためと称しているが、実態は反LBGT法であり、「性教育は家庭の問題であるとして、性的少数者にかんする性教育を学校やメディアで行うことを禁止する」ものである。政府はまた、学校等での性的少数者を支持する活動家の宣伝キャンペーンを禁止することが目的だとも公言している。
 しかし、今まで学校に、そのような活動家が入ってきて、性的指向扇動を行ったという事例は報告されていない。にもかかわらず、総選挙前にことさらLGBT問題を取り上げ法律に仕立てたのは、保守層の支持を固めるためだと考えられる。
 ハンガリーでこの法律が制定された後、フォンデアライエン欧州委員長はオルバン首相に対して、「恥を知りなさい」と厳しい叱責の言葉を投げかけたと報道されている。Fidesz(キリスト教民主国民党)政府としては、ブリュッセルの横暴と戦うFideszという構図を作りあげることで、国内の支持層を固める意図があると考えられる。
 外交政策でロシアや中国寄りの姿勢を示す「東方瀬戸際政策」をとっているハンガリー政府は、国内でもEUの横暴と戦う頼もしい政府という印象を作ることで権力基盤を固めようとしている。EUへのいわば反抗的態度は、「EU内瀬戸際政策」と名付けることができる。
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