2022.02.26  皇室のリスク管理
        小室圭氏のアメリカ法曹資格受験をめぐって

小川 洋 (教育研究者)

 このところ皇族関連で進学や資格試験が話題となっている。いずれも秋篠宮家関係で、ひとつは悠仁親王の高校進学、いま一つは長女眞子さんの夫でありアメリカのロースクールに在籍していた小室圭氏の資格試験の話題である。いずれも、マスメディアの記事は書き手の勉強不足でもの足りず、結果的に誤解を招くものが多い。本稿では小室氏に関してアメリカの法曹資格について取り上げたい。
 まず司法制度は国によって異なり、法曹養成制度もさまざまである。例えばイギリスの法廷を舞台とした映画などを見ていると、法廷弁護士(barrister)と事務弁護士(solicitor)の2種類の弁護士が出てきて戸惑う(ちなみにスコットランドも似た制度だが名称が異なる)。依頼人が法律相談するのは事務弁護士で、訴訟に進んだ場合、カツラを付けた法廷弁護士が法廷に立つが、彼らが依頼人と直接やり取りすることはない。異なる知識や技術が求められているのだ。いずれの弁護士も高等教育機関の法曹養成課程を修了し、一定期間の実務経験によって資格が認められるが、その間に国家試験はない。

司法試験ではなく法曹資格試験が適切か
 アメリカの場合も小室氏が受験している試験(Bar Exam)を「司法試験」と呼ぶのは不適切で、正確には「法曹資格試験」とでも呼ぶべきではないか。「司法試験」と呼ぶことで、日本の制度と同様なものと誤解して論じる向きもあるからだ。日本では、法務省が毎年一回、司法試験を実施し、合格者に修習生として同じ内容のトレーニングを課し、その修了段階で弁護士、検察官、裁判官に分かれるが、アメリカの場合どこの州でも、最初から検察官や裁判官になる道はない。検察官は州議会選挙と同時の選挙で選ばれることが多く、裁判官の選出法は連邦レベルや州レベルでさらに多様である。
 また日本の司法試験では、合格予定者数が決められており競争試験になるが、アメリカでは資格試験であり、一定以上の成績であれば合格する。そのためもあって日本の弁護士は現在4万数千人程度、全米では130万人余りと国民一人あたりの人数では10倍ほどの開きがある。弁護士社会自体が日本以上に格差社会なのである。小室氏は弁護士資格さえとれば年収2,000万円程度が確実で、ニューヨーク(NY)での生活には困らないという話が流れているが、それは大手法律事務所に就職し、大手企業の国際取引などを専門にバリバリと仕事ができた場合であり、小室氏の経歴からして、そのような待遇を直ちに得られるとは考えにくい。

ロースクール卒業生は合格して当然の試験
 数年前アメリカで、J.D.ヴァンスの『ヒルビリー・エレジー』という自伝が出版され、大きな話題となった。彼はアパラチア山脈の西麓の絶望的に貧困な環境の中で生まれ育ったが、最終的に全米トップのイェール大学ロースクールに進み、卒業後は弁護士として活動する傍ら多くの講演もこなし、現在ではオハイオ州の共和党上院議員候補となっている。
 本書からは学生と法律事務所の関係に日米間で大きな違いがあることがわかる。毎年新学年が始まる9月には全国から有力な法律事務所がキャンパスにきて、学生と面接が繰り広げられるという。ここには2年生になったばかりの学生も参加する。何回かの面接を経て、早い学生はここで採用の話がまとまるらしい。最終面接まで行った学生が、前祝いのように高級レストランで最上級のもてなしを受ける場面も紹介されている。つまり青田買いである。小室氏の場合はすでに法律事務所に助手として雇用されていると言われ、リクルーターとのやり取りは必要なかったのかもしれないが、逆に昨年夏の試験に不合格になった時点で解雇されてもおかしくなかった。
 ロースクールの学生にとって試験は卒業試験のようなもので、イェール大学の場合、卒業生が法曹資格試験に不合格になることは想定されてはおらず、このようなリクルートが一般的なようだ。小室氏の受験したニューヨーク州の合格率は70%台半ばだったそうで、日本の国家資格でいえば薬剤師免許試験に近いものだろう。まともに課程を修了した者ならば合格するのが当然の試験なのである。参考までに日本の薬剤師試験の昨年度の合格率は68.66%だった。薬学部は近年も新増設が続いており、歴史が古い大学では合格率は90%以上が普通である一方、歴史が浅い大学の中には合格率が50%台というものもある。アメリカの法曹資格試験も一部の大学の卒業生が全体の合格率の足を引っ張っている形だ。
 小室氏の卒業したフォーダム大学は全米30位までには入っていないが、レベル的には上位に属しており、卒業生の大部分は合格するはずだ。小室氏の場合、英語を母語としない分、不利ではあろうが、成績優秀で最高の奨学金を得ているとされ合格して当然のはずだった。昨年秋に小室氏の不合格の結果が出た際、宮内庁に衝撃が走ったというが、彼自身も合格するつもりだったのだろう。

不思議な生活設計
 小室氏の生活設計にも疑問を感じる。ラーメン一杯2,000~3,000円、光熱水費を含めればアパート代は年間700万円以上が必要となるといわれるNYの中心部に住むには、年収2,000万円でも不足するだろうし、家庭をもって子どもも育てるというのであれば自然も豊かな隣接州の郊外の戸建てを選ぶだろう。マンハッタンに住む必要があるとも思えない。日本がバブル経済のころには西側先進国の多くの都市に、親が資産家や超高給取りだという若者たちのグループがあり、彼らは高級アパートに住み、何年も語学学校などに通いながら仲間と麻雀などで時間を潰していた。まさか小室氏に、そのような付き合いはないと思うが、このまま法曹資格も得られず定職に就けなければ、皇室からの仕送りを受けながら、似たような生活を送ることにならざるをえない。
 眞子さんは曲がりなりにも、日本国の次代天皇になる可能性のある皇嗣の令嬢である。将来の見通しを立てられない夫と海外での生活をずるずる送るという事態は避けなければならない。リスクマネジメントの要諦は、常に最悪の事態を想定し、それを避ける道筋を用意することだが、宮内庁も秋篠宮家もリスク管理能力が欠けているのではないか。
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