2022.03.15 ロシア軍の侵略に音楽で抵抗する、キエフ交響楽団

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)


 ロシア軍の侵略に抵抗しているウクライナの人々を、世界中のメディアが支援している。
 先日(5日)には、世界中に放送・取材網を張り巡らし、24時間放送を続けている英BBCの報道について紹介したが、ここでは米紙ワシントン・ポストの3月10日の電子版報道「Music as resistance :Kyev’s orchestra plays on」(キエフ、音楽で抵抗 オーケストラ演奏開始)を紹介しようー紙面には映像を何枚も掲載しているが、転載できないのが残念。

 (ウクライナ・キエフ)ロシアとの戦争は、オーケストラを壊した。半数以上の団員が首都から離れた。そして音楽は死んだ。
 楽団はウクライナ・チャイコフスキー・アカデミーの一部で、チャイコフスキーに支援されて発展した。19世紀、ロシア皇帝は支配するキエフをしばしば訪れた。
 今回の紛争で、キエフに留まった音楽家たちは、自宅近くに飛んでくるミサイルに耐え、夜は塹壕に隠れ、食料と医薬を得るために長い行列に入った。彼らの家族や親類の多くは、ウクライナ各地に、あるいはロシアの支配下に逃れた。

 彼らは、自宅で、あるいは頭上の街路では爆弾が爆発している地下で、自分の楽器を鳴らした。オーケストラでともに演奏する日に備えて。
 3月9日、その日がきた。キエフの中心、マイダン広場で、堂々とキエフ・クラシック交響楽団の野外コンサート。マイダン広場は、ウクライナでの革命を象徴する場所で、2014年には、親モスクワの大統領を追いはらい、ウクライナを親西側に変えることとなった場所だ。ミサイルや爆弾がいつ落ちてくるかわからないのを承知で、楽団員たちは、厚いコートとジャケットで身を固め、野外の演奏を開始した。

 「私たちは、音楽で私たちの強さを示すのです」とアカデミーの上級顧問ルーリ・ルツェンコ氏は言った。
 ロシアの戦争が始まってから3週目に入った。凍るような天気の中で行われた25分間だけの演奏会は、ロシアに対するレジスタンスの最近の一例だった。何万人もの市民たちを民兵に参加させ、あるいは他の方法でウクライナを支えることに役立っている。
 同交響楽団の指揮者ヘルマン・マカレンコ氏は言ったー「われわれの東の隣人は、“ウクライナには文化はない”と言っている。だが、私たちは私たちの文化を示したい。世界でも最良の文化の一つを」
 このオーケストラはいま、チャイコフスキーの交響曲をこの広場で演奏するのですか、と尋ねると、マカレンコ氏は頭を振ったー「私たちには、演奏者が十分いない」。「演奏者たちは、ウクライナの音楽を演奏するのを望んでいる」。
 午後1時を少し過ぎたとき、20人の音楽家たちが、バイオリン、フルート、クラリネットその他の楽器を持って、広場に集まってきた。マカレンコ氏は、指揮棒を持って立った。
 百人ほどの観客が集まってきた。大部分はカメラと携帯電話を手にしていた。一部は青と黄色の国旗を手にしていた。広場の内と外で砲弾が爆発していた。
 にぎやかなウクライナの作曲家の曲で、演奏会は始まった。マカレンコ氏は指揮棒を元気に振った。続いてウクライナ国歌。観客は精一杯、手にした国旗を振った。そして、ベートーベンの2曲とウクライナの作曲家ダンケヴィッチの歌曲が演奏された。
 ビオラ奏者のアリャイェフ氏は、ウクライナの多くの楽団のほか、米国、韓国、モンテネグロの楽団でも演奏経験がある。「プーチンはこの戦争で、私のポケットからカネを取り上げた」といった。二人の子供は、ブルガリアに避難、彼は、キエフに残っている。「私はキエフをウクライナの首都として維持し、ロシアをできるだけ早く蹴りだすよ」と語った。
 前日、楽団の友人が、この演奏会への参加を求めてきた。彼はためらいなく、直ちに引き受けた。彼は語ったー「これは私の義務であり、運命だ。わたしは、それをやるだけだ」
(了)
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