2022.04.05 西側世論は政府とメディアによって高度に統制されている?
――八ヶ岳山麓から(368)――

阿部治平(もと高校教師)

 中国はウクライナ戦争では、表向きは中間的立場である。ロシアの侵攻を「戦争」とは認めず、「ロシア・ウクライナ衝突」とか「特別軍事行動」と呼んでいる。同時に西側の対ロシア経済制裁に対しては幾度となく批判を加え、一方でウクライナに対して中国は人道援助をしているとしてバランスを取ろうとしている。

 中国共産党の機関紙「人民日報」やその国際紙「環球時報」など中国メディアは、ロシア政府の言い分を引用することが多いが、この2,3週間アメリカ政府批判にくわえて、アメリカメディアに対しても、政府と結託してフェイクニュースを流していると非難してきた。
 たとえば、3月20日の「環球時報」社説はウクライナ危機をめぐって、ワシントンとアメリカメディアは調子を合わせて、ウクライナ情勢に関連する情報を捏造したと非難した。
 「北京はロシアがウクライナでの軍事行動をとることを事前に知っていたが、侵攻は冬季オリンピックが終わってからにしてほしいとロシアに要求したとか、またロシアが中国に軍事・財政援助を求めてきたとか、さらに中国がロシアへの相互援助の提供に賛成したとか」は、でたらめだというのだ。
 これは「ニューヨークタイムズ」や「ウォールストリートジャーナル」の記事を指すものと思われるが、「環球時報」が言う通りなら、中国は事前にプーチンのウクライナ侵攻を知らなかったし、ロシアは中国に援助を求めてはいないし、求められても今のところその気はないということになろう。

 3月25日「環球時報」の評論には、西側政府とメディアの世論工作を論じたものがあった。北京大学現代中国文学教授張頤武(ちょういぶ)氏の「ワシントンはウクライナに新たなベルリンの壁を作るなかれ」という文章である。これを読んでいくうちにわたしは混乱した。その概略を以下に要約して紹介する。

 ――ロシア・ウクライナ間の衝突は、目下のところグローバルな世論の焦点となっている。この衝突をめぐっては世論に新しい特徴がみられる。西側世論は高度に一致しているが、それは、主流メディアが政府の国際政治目標と計画にうまく歩調を合わせ、他のメディアとともに強靭な世論を作り上げたからである。その企図するところは、世論の方向を主導しコントロールすること、西側国際世論の場に強い影響を与えることである。

 ウクライナ戦争に関しては、日本にもNATOは冷戦が終わったとき解散すべきだったとか、NATOが東へ拡大しすぎたのが戦争の遠因だという人がいる。日本国憲法の精神からすれば、国会決議のようにウクライナに全面的に加担してロシアを敵に回してはいけないという人もいる。
 だが、ジョージア戦争で見られたように、ロシアはウクライナ東部のロシア語話者が住んでいるところを占領して、事実上ロシアの領土にしようとしている。プーチンのロシアを侵略者ではないという人は少ない。この世論を張教授は統制された報道によるものだという。つづけて張教授はこう主張する。
 ――西側は一貫して言論と報道の自由をかかげるが、今回のロシア・ウクライナ衝突では、強硬手段によって言論機関にたいする発言権を振りまわしている。ロシアに関しては様々な形で世論を囲み込んで、「隔離壁」を作り、全面的な世論戦に打って出た。

 張教授は、西側の「隔離壁」なるものについてはこういう。
 ――異なった意見を直接弾圧し、西側世論への宣伝を「ひとつ」にまとめること。これは西側国家が採用する重要な手段である。このところ、西側による非西側主流の世論の全面的圧制と制限は極端なレベルに到達した。西側政府はロシア・メディアの報道を直接的禁止するか、制限する手段に出た。またロシア・メディアメンバーの活動を制限している。ネットではロシア関係のアカウントを封鎖し、西側主流の主張と異なるいかなる世論の形成も制限している。

 これを読んだとき、わたしは一瞬、張教授は「中国」と「西側」を取り違えていると感じた。つづいて国家とメディアの癒着、世論工作については、
 ――西側主流の世論とメディアのニュースは、国際世論の場で中長期的に主導的地位を保持し、ロシア・ウクライナ衝突に関する異なる声は、ニュースの「隔離壁」の内に置かれ、あるいは徹底的に「消音」され、あるいは攻撃対象とされる。
 ――西側の人々はこのような有効なコントロールの下に置かれている。西側では、非西側の主張を直接圧迫するとともに、国家もみずから「主導世論」を作っている。現在西側世論の主流には強烈な一面的宣伝傾向があって、ウクライナ側に立った宣伝をふくめて、ウクライナが提供するか、西側メディアが主導的に特ダネ取材した各種のニュースをウイルス式に伝播させている。
 ――それも自分に有利なあるいは大衆受けするものでありさえすればこれを使って、未確認のものでも、明らかに虚偽のニュースでも、好きかってに報道する。特に個別メディアの特ダネを、主流メディアが適当に取り上げ、また主流メディアはこれに「未確認」などの注を付けて報道したり、別なメディアがこれを二次的に拡大したりする。
 ――主流メディアとネット・メディアの共同作業によって高度に一致した「世論」が形成され、いまや反ロシアの主張と矛盾したり異なったりする主張は見ることができない。いうまでもなく人々の感情やニュースのなりゆきも(政府あるいはメディアによって)分析され誘導されている。
 
 張教授は、西側政府と主要メディアによる情報操作によって、西側ネット上には反ロシアの声がうるさく登場するが、それは唯一単純な「囲い込まれた壁の中」の宣伝にすぎず、中身は極めて狭く単一化した世論だという。
 ――西側世論の「隔離壁」の役割は完全に暴露された。この「隔離壁」を打破しようとすれば、多種の声を西側大衆に知らせ、世論の場を多様化し、伝達経路を多元化するのが道理というものだ。

 アメリカのイラクやアフガニスタンへの侵攻などは、情報操作があって西側メディアが政府に追随した例である。それは否定しないし、われわれも警戒しなければならないことだ。だが、張教授の言い分を言うがままに受け止めようとしても、あまりに荒唐無稽である。
 むしろ張教授はウクライナ問題を論じる機会に、習近平政権の言論統制に対する自分の思いを奴隷の言葉で吐き出したのではなかろうか。そして「環球時報」編集部もその恐れがあることを承知で掲載したのかもしれない。
     
(2022・03・28)
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