2022.06.30  西側支援は間に合うか?ー中国から見たウクライナ戦況
        ――八ヶ岳山麓から(382)――

阿部治平 (元高校教員)

 中国「環球時報」紙は、6月16日ウクライナの戦況について、中立的で客観的な分析記事を載せた。中国共産党機関紙人民日報の国際版の記事にしてはめずらしく宣伝臭がない。NATO批判もロシアびいきもない。筆者は同紙記者の馬俊と晨陽。
 ニュースとしては遅すぎるが、以下その要約をお示しする。

〇はじめに
 現在、ウクライナ戦争は残酷な消耗戦に入った。
 ロシア軍がまもなく先進的装備を消耗しつくすという話はあいかわらず次々現れるが、ウクライナは西側にもっと武器援助を速めてほしいと呼びかけている。大規模な消耗戦にウクライナ・ロシア双方のどちらが先に堪えられなくなるか、いまこれが焦点だ。

〇ロシア軍は先進的装備を消耗したか
 6月13日、イギリス「デイリー・メール」紙は、ロシアは先進的で精密な武器はすでに使い終わり、いま50年前に開発した古い重量型の対艦ミサイルを使っていると伝えた。イギリス国防部によると、それはKh―22対艦ミサイルで、設計当時の目標は核弾頭を装備してアメリカ軍の空母を破壊するというものであった。
 ウクライナの爆発物処理部隊はすでにこのミサイルの残骸を発見しており、その頭部は900キロに達し、威力は大型工場あるいは鉄道橋梁を破壊するに十分なものである。「この種の5.5トンの重量級ミサイルが弾頭を装着して対地攻撃をしたときは、不正確のために付近は大規模な損害を受け、人員の死傷を招く恐れがある」
 ロシア軍の精密なミサイルは、消耗に近づいているという西側のニュースはまったくの宣伝とはいいがたい。ペンタゴンは、4月ロシア軍には正確なミサイルが欠けており、旧式ミサイルとソ連時代の弾薬に頼らざるを得ないといった。確かににロシア軍のウクライナに対する第一段階の「特別軍事行動」では、地上装備は損害が大きかった。
 アメリカ「Business Insider誌」ネットは、ロシア軍はこの戦闘で主力戦車650両、装甲車3000輌を失ったというが、ウクライナ側は破壊した主力戦車は1200輌だという。
 今年5月、ソーシャルメディアは、ロシア軍の旧式T-62中型戦車がウクライナ南部のヘルソンの前線に運ばれたという写真を流した。西側メディアの多くは、これをロシア軍がすでに戦車の備蓄を使いつくしたから旧式戦車を寄せ集めて使わざるを得ないのだと分析した。

〇ロシア軍は戦術を変えた――兵器備蓄は豊富だ
 西側統計によれば、ロシア軍がウクライナ戦争に投入した精密誘導兵器は、艦対地ミサイル・カリブル、空対地ミサイル・Kh101、極超音速ミサイル・キンジャール、短距離弾道ミサイル・イスカンデルなどである。
 ゼレンスキー大統領は6月12日公式談話の中で、ロシア軍はすでに2606発の巡航ミサイルと弾道ミサイルを発射したといった。ウクライナの情報機関の5月末の統計によると、「ロシア軍は60%以上の精密誘導兵器を使用した」という。
 ある匿名の軍事専門家は15日、「環球時報」記者に、ロシア軍の精密誘導兵器の使用頻度は確実に少なくなっていると話した。これには備蓄量が影響している可能性があるが、むしろロシア軍の戦術が変わったものとみられる。
 当面ロシア軍はウクライナ東部地区で「火砲開路」の制圧射撃による漸次前進の戦術を取って成功しており、高価な精密誘導兵器はウクライナ核心地域の高い価値の目標に使用しようとしている。
 アメリカのインターネットサイト「Breaking Defense」も、ロシア軍は長距離ミサイルを使いつくしたのではなく、手もとに十分な在庫を持ちNATOに対する威嚇力を維持しているとみている。

〇ロシア軍は十分な戦車を持っている
 「環球時報」記者が接した専門家によると、目下の趨勢からすると、ロシア軍の地上部隊は戦車の備蓄を消耗しつくしたという状況にはない。ウクライナ戦争開始前までにロシア軍は1万3000輌の各種戦車を準備していた。そのうち比較的現代化したT-72/T-80/T90系列の戦車は3000輌を超えていた。
 ヘルソン前線のT-62戦車から判断すると、これら備蓄した戦車の保管状態はかなり良好で、ロシア軍は簡単な整備によって戦場に投入することができる。また徹底的な損害を被ってはいない戦車は修理できるので、かなり大きな割合で再び使うことができる。
 アメリカの「星条旗」紙の伝えるところでは、東部戦線のさるウクライナ軍指揮官は、ロシア軍は進撃の前には毎回猛烈な砲火を浴びせてウクライナの守備軍を圧倒しているという。「考えられうる将来、ロシア軍が弾薬を使いつくす可能性はあまりない。彼らの使った弾薬はソ連時代の在庫であって、ソ連時代ロシア人は武器の面ではけちけちしていなかったのだ」
 それにひきかえ、ウクライナは消耗戦の苦しみを味わっている。ウクライナ政府顧問のダニリュクは、ロシア軍は毎日ウクライナの陣地に5万発に及ぶ砲弾を発射しているが、ウクライナ軍のソ連製砲弾はもう使いつくし、毎日5000~6000発を打ち返すことができるだけだといっている。
 大統領府顧問ポドリャクは、13日西側指導者を「緊迫感が欠乏している」と非難し、わが軍はすでに武器庫のソ連時代の武器弾薬をほとんど使いつくしたといった。彼は、西側がいそいで榴弾砲1000門、多連装ロケット砲300門余、戦車5000輌、装甲車2000輌、無人機1000機をウクライナに提供する必要があると、軍事援助を要求した。

〇ウクライナ軍はNATOに頼るしか手がない
 ウクライナの国防工業は基本的に破壊され、自国で装備の損失を補填することはできず、ただ西側の提供する軍事援助に希望を見出すだけである。これ以前からNATO傘下の東欧国家は、ソ連製武器弾薬をウクライナに提供したし、アメリカは、ウクライナが必要とするソ連時代の弾薬と部品を世界中探しまわった。あるアメリカの官僚は、ソ連製兵器をすべてウクライナに提供したために、「世界から消えてなくなった」といった。
 いまやウクライナ軍は、ソ連製兵器からNATO標準の兵器の使用に転換せざるをえなくなった。たとえば、ウクライナは再三アメリカに装輪式自走多連装ロケット砲ハイマースを要求しているが、アメリカ軍統合参謀本部議長マーク・ミリーは、「ウクライナ軍兵士は威力の大きな長距離兵器をどう操作するかを学習しなければならないが、それには数週間かかる」と語った。

〇武器の空白とカネの負担に悩むNATO
 フランスの24テレビ・ネット局によると、NATO諸国がウクライナに対して重型武器の提供を遅らせているのは、これに対する「ロシアの激怒」を心配するだけではない。これら国家自身の武器庫が枯渇に瀕しているからである。
 たとえばポーランド大統領トゥダは13日公開の席で、ウクライナへの軍事援助は、ポ-ランド自身の武器庫を空っぽにした。西側同盟国自身これら装備を補填する必要があると表明した。ポーランドはウクライナに数百輌のT-72 戦車を援助したのち、ドイツにさらに先進的な「ジャガー2」系列の戦車の提供を要求した。
 重装備は、戦争初期に西側が提供した携帯式ミサイルに比べてはるかに高価である。アメリカの携帯式対戦車ミサイルのジャベリンは7万8000ドル、イギリスのNLAWミサイルは3万6000ドルである。さらに、アメリカのM777榴弾砲1門の兵器市場価格は600万ドルを超えるし、ドイツのPzH2000自走榴弾砲の単価はさらに1700万ドルに達する。
 つまり西側が提供する数十億ドルの軍事援助は、金額は膨大なものだが、重装備をいくらも買えないことを意味する。これら高価な装備は、ウクライナの東部戦線で消耗されるわけで、いくら大金持のアメリカでもつらいところだ。(要約おわり)

ウクライナ戦争は消耗戦の様相を呈している。
 「環球時報」記者による分析作業は、6月初旬のことであろう。これはその後の10倍の火力を持つロシア軍にウクライナ軍が苦戦しているというニュースに符合している。当然のことだが西側が適時十分な援助をしなかったら、ウクライナは敗北する。ウクライナが欲しがっていた長距離砲ハイマースが届いたのは、遅れに遅れてようやく24日である。
  西側の対露経済制裁はいまだ効果を発揮していない。NATO諸国の国内経済の悪化と武器援助の負担は日増しに増大している。そこかしこに「戦争疲労症」も現れてきた。
 しかもロシア軍は本土から西側支援武器倉庫、重要インフラなど核心目標にミサイルを撃ち込んでくるが、ウクライナ軍には敵基地攻撃はゆるされない。
 しろうとがみても、いまや長期戦を左右する重大局面を迎えている。
 ロシアに占領されたウクライナ東部がそれなりの安定状態となり、プーチンの勝利宣言と高笑いによって戦争が終るなら、それこそ21世紀のミュンヘン会談であり、自由と民主主義の敗北である。                                      (2022・06・24)

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