2023.05.26
立憲泉代表による「非自民・非共産=中道リベラル路線」は成功しない、連合の支援を受けても次期衆院選は大敗する
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)
G7広島サミットのPR効果で岸田内閣の支持率が上がる一方、立憲民主党の影は日に日に薄くなっていく。5月20、21両日に実施された毎日新聞世論調査では、内閣支持率が前回36%から45%へ9ポイント上昇し、不支持率が56%から46%へ10ポイント下落した。読売新聞の世論調査でも支持率が47%から56%へ9ポイント上昇した。いずれも近来にない大幅な上昇だと言える。毎日新聞の世論調査は、回答を「支持する」「支持しない」「どちらとも言えない」に3区分し、「支持する=支持率」「支持しない=不支持率」として公表する。これに対して読売新聞は、「どちらとも言えない」と答えた人に対してさらに「どちらかと言えば」と重ね聞きし、そこでの「弱い支持・不支持」も含めて支持率・不支持率を算出する。一種の「情報操作」とも言えるが、こんな仕組みを知らない読者には(両紙を併読していれば別だが)確かめる術もない。
それはそうとして、毎日新聞世論調査には見過ごせない項目がある。それは「立憲民主党と日本維新の会のどちらが野党第1党としてふさわしいと思いますか」の質問だが、立憲民主党25%、日本維新の会47%と倍近い差がついたのである。また、政党支持率も日本維新の会が15%から17%へ2ポイント上昇したのに対して、立憲民主党は11%から9%へ2ポイント下落し、その差は倍近い8ポイントになった。泉代表と岡田幹事長を主軸とする立憲執行部は、「野党第1党」の座を維持しながら維新を「目下のパートナー」として利用しようとして国会共闘を進めてきた。その延長線上に次期衆院選での選挙協力を想定し、あわよくば自らのイニシアティブの下で「非自民・非共産=第2保守党」の結成を企んでいたのである。
ところが、表向き「改革政党」を名乗る維新が統一地方選で躍進し、立憲の「目下のパートナー」から野党第1党を巡る「ライバル」になったことで情勢は一変する。もともと安全保障戦略など国政の基本方針が必ずしも一致しない両党の間では力関係が全てであり、どちらがイニシアティブを取るかで政策の方向が大きく変わる。維新は、立憲との国会共闘を通して「野党=改革政党」としての存在感を高めることに成功し、もはや立憲に利用価値がないと見るや共闘関係の破棄に踏み切ったのである。泉・岡田立憲執行部の「非自民・非共産=第2保守党路線」が崩壊した一瞬だった。
泉代表は5月10日、党両院議員懇談会で衆参補選全敗の責任を追及され、「次期衆院選の議席目標を示し、達成できなければ代表辞任の覚悟をみせるべきだ」との声に対して、次期衆院選で150議席に達しなければ辞任する意向を表明した。それ以降、泉代表および岡田幹事長の動きが急に激しくなった。泉代表は5月15日のフジテレビのニュース番組で、「選挙は独自でやる。維新ともやらないが、共産党とも僕らはやらない。野党統一候補をめざしてきた部分は相当あるが、千葉5区はそれぞれ候補者が立った。立憲民主党はまず独自の道でしっかり訴える。野党だから足し算すればいい、とみんなが思っていない以上は、野党同士の競い合いの中で、中道リベラル路線がいいのか、自民党よりも激しい新自由路線がいいのかっていうことを、野党の中で競い合わなきゃいかんですね。これはもう、立憲民主党として、リベラル中道をしっかり姿勢として打ち出していくということです」と、共産党との選挙協力を明確に否定した。
岡田幹事長もまた5月16日の記者会見で、泉代表が民放の番組で日本維新の会と共産党と次期衆院選で選挙協力しない考えを示したことについて「代表がおっしゃった通りだ」と口をそろえ、これまで疎遠になってきた国民民主党との関係については「大きな塊をつくる」として候補者調整への期待感を示した。これを受けて泉代表は17日、連合の芳野会長と会談し、次期衆院選などをめぐって関係が冷え込む国民民主党との仲介を要請した。この中で泉代表は連合の芳野会長に対し、「連合が立憲、国民の距離感をもっと縮められるように協力をしてほしい」と要請し、芳野会長は「連合としても一枚岩に近づけていくようにやっていきたい」と応じたという。一方、芳野会長は、泉代表が次期衆院選で共産党との選挙協力を否定したことを評価した上で、泉代表が次期衆院選で獲得議席が150を下回った場合、辞任する意向を示していることについて、芳野会長は「継続することも責任の一つ」などと述べ、目標に達しなかった場合でも辞任する必要はないとの考えを示した(各紙、5月18日)。
この事態は、神津連合会長が前原民進党代表や小池都知事と結託して「希望の党」を立ち上げたときの構図と酷似している。今度は前原氏に代わって泉氏が、神津氏に代わって芳野氏がその旗を振ることになっただけのことである。政権交代が可能な「保守2大政党制」を整えるため、神津連合会長が仲立ちとなって「非自民・非共産」を標榜する第2保守党をつくるという一大政治プロモーションが展開されたのは、わずか数年前(2017年)のことだ。だが、この「クーデター」ともいうべき策動は成功ぜず、枝野氏らによる立憲民主党の結成につながった。驚くべきはその後、これまで前原氏と政治信条も行動も共にしてきた泉氏が、さしたる説明もなく立憲民主党に鞍替えし、あろうことか立憲代表に選ばれるという(信じられないような)事態が起こったのである。
それ以降、泉代表は「提案路線」と称して与党批判を極力回避し、野党としての役割を放棄して与党に終始追随してきた。その結果、国会運営もすべて与党ペースで進められるようになり、国会審議における野党の影が見えなくなった。各種の世論調査で立憲の政党支持率が維新を下回るようになったのは、立憲の野党としての存在意義が薄れているためであり、もはや「野党第1党」とは見なされなくなった政治状況を反映している。維新を利用しようとした立憲が、逆に「改革政党」を掲げる維新に利用され、あまつさえ今度は「野党第1党」の座まで脅かされている有様は見苦しい。維新に袖にされた泉代表は、苦し紛れに「150議席」という異様に高い目標を掲げたが、党外はもちろん党内の誰も実現できるとは思っていない。
冒頭の各紙世論調査にも見られるように、立憲民主党の評判は甚だよろしくない。とりわけ泉氏が代表になってからというものは、「野党第1党」というだけでいったい何をしたいのかがわからない旧態依然とした「既成政党」と見なされるようになった。これでは、(たとえ表向きであれ)「新しい政治=改革路線」をスローガンに掲げる維新に太刀打ちできるはずがない。時の流れは、いまや「逆流」となって立憲を吞み込もうとしているのである。
一方、「蚊帳の外」に置かれた共産党も苦しい状況にある。もはやメディア空間では存在感を失っているので、赤旗読者でもない限りその動向を知る術(すべ)がない。私は赤旗を精読している読者の1人なので、このような事態に対する最近の様子を少し伝えて結びにしよう。共産党の基本姿勢は、5月18日の志位委員長記者会見および22日の小池書記局長記者会見でわかる。その骨子はいずれも翌日の赤旗で大きく報道されている。
――2021年総選挙では、市民と野党共闘は大きな成果を挙げた。この事実を踏まえた議論が必要だ。国会では、自民・公明・維新・国民の「4党連合」(悪政連合とも言っている)によって、大軍拡・改憲の動きが進められ、翼賛体制の危険が生まれている。今ほど野党がスクラムを組んで立ち向かうことが求められている時はない(志位委員長記者会見)。
――立憲民主党などを含めた共闘の話し合いは、こちらから門戸を閉ざすことはしない。泉代表が述べたような態度が変わらないのであれば、われわれとしても独自に対応していくことになる。野党間の選挙協力については、国政選挙である以上、政党本部間での合意が必要であり、地方単位で進めることはしない(小池書記局長記者会見)。
連合の後押しで国民民主党との関係を修復し、維新と「野党第1党」の座を争うとする立憲民主党には、国民民主党を「悪政連合」の一員とみなす共産党との「共闘」の可能性はまったくない。新潟や東京都内の一部では、「市民と野党共闘」路線を維持することを表明している立憲の地方組織もあるようだが、野党間の選挙協力には「政党本部間の合意」が必要だとする共産党からすれば、これも難しい。要するに、野党は〝バラバラ〟のままで選挙戦をたたかうということになる。
この事態は、与党政権にとっては願ってもない〝千載一遇〟のチャンスであり、「既成政党打倒」を掲げる維新にとっても得難い機会となる。連合の支援を要請した立憲民主党は、連合内部での足並みの乱れによってその効果を期待できず、予想以上の大敗を喫するだろう。独力で戦わなければならない共産党もまた、苦戦を免れない。次期衆院選後の政局は一変し、日本の政治情勢はかってない激動の時代に巻き込まれていくのではないか。会期末(6月21日)まで残り1カ月を切った5月24日、維新藤田幹事長は次期衆院選で泉氏(京都3区)、岡田克也幹事長(三重3区)に対抗馬を擁立すると表明した。前回衆院選では、泉氏は共産が候補者を擁立しなかったこともあって楽勝だったが、今回は維新・共産が候補者を立てるとなると、京都3区は稀に見る激戦区となる。京都3区の有権者である私は、次期衆院選が待ち遠しい。(つづく)
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