2023.11.29 〝人口減少問題〟にまったく触れない決議案の不思議、日本の少子化・超高齢化は共産党の関心事ではないのか、第29回党大会決議案を読んで(2)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その8)
           
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

               
 最近の赤旗広告欄で頻繁に目に付くのは、友寄英隆著『人口減少社会とマルクス経済学』(新日本出版社、2023年10月刊)の広告だ。友寄氏は共産党中央委員、赤旗編集委員、同経済部長、月刊誌『経済』編集長などを歴任した多数の著書を持つ共産党の理論家である。同氏は『人口減少社会とは何か』(学習の友社、2017年)を皮切りに数々の人口問題に関する論考を発表してきたが、今回の著書はその集大成ともいえるもので、マルクス経済学の立場から人口問題にアプローチした労作といえる。「はじめに」の中には、同氏の問題意識が次のように記されている(抜粋)。
 ――そもそも人口問題は、人間の生命の生産と再生産に関わると同時に、人間社会の生成・発展・没落の展開と深く絡み合っている問題である。それは、個々の人間の生き方、家族形成と子孫継承のあり方と同時に、人類の社会発展と文明の消長にも深く関わっている。科学的社会主義の基礎である唯物史観は、人類社会の発展の法則を人類そのものの生産と再生産、人間存在の物質的条件(生活手段・生産手段)という二つの問題を基礎に据えてとらえる歴史観、世界観である。唯物史観の前提が「人間」であり、人間相互間の社会的関係としての「人間社会」であることから、人口問題の探求は、唯物史観の探求と深く関わっている。
 ――しかし、従来の唯物史観のとらえかたは、社会発展の法則についての側面だけに注目して、その根底にある人間の生産と再生産の問題、人口問題への目配りが欠けていたのではないだろうか。言い換えれば、唯物史観の基礎としての人口問題の探求が欠落していたのではないだろうか。
 ――少子化・人口減少問題は、様々な国家政策を左右する重要な要因となっている。年金、医療、保育、介護などの社会保障政策はもちろん、税制、労働政策、産業政策、教育政策などにも大きな影響を持っている。その意味では、人口問題の研究は、階級闘争のための理論的イデオロギー的課題でもある。

 すでに、メディアの世界においても「人口減少問題」は一大トピックスと化していて、連日話題は尽きない。先頭を走る日本経済新聞は、50人余の大型取材班を編成して2021年8月から23年4月まで大型連載「人口と世界」を掲載し、今般、加筆・再編成して『人口と世界』(日本経済新聞出版、2023年6月)を刊行した。その問題意識は次のようなものである(はじめに、要約)。
 ――かつて人類最大の課題は人口爆発だった。20世紀に人口を4倍に増やした人口爆発。現代文明の基礎となったこの急激な人口増加は、今世紀で終わる。米ワシントン大学によると、世界人口は2064年の97億人がピークで、その後、人類は経験したことのない下り坂を迎える。低迷する出生率、経済成長の停滞、労働者不足、社会保障費の膨張――。人口減少のひずみが世界で噴出し始めた。人類は衰退の道へと迷い込むのか、それとも繁栄を続けられるのか。取材班はこの問いから出発し、取材を始めた。
 ――日本はもはや手遅れなのか。人口減少への対策は長年議論されてきたが、結婚や出産への価値観の変化、仕事と育児の両立の難しさ、上がらない収入など、少子化を招いた社会構造は変わらないままだ。旧弊から脱し、新たなモデルを築かなければ停滞から脱するのは難しい。暗く長いトンネルの向こうに光明を見出せるかどうかは、社会を構成する私たち一人ひとりにかかっている。

 かたや共産党の理論家、かたや日本資本主義の「機関紙」ともいうべき日本経済新聞の立場は180度異なるが、「人口減少問題」が現代日本の直面する危機的状況だと捉える点では共通している。問題なのは、友寄書が人口減少社会の状況を「現在の日本の人口減少の状況は『日本社会に非常ベルが鳴っている状態』」と強い警鐘を発しているにもかかわらず、決議案には不可思議にも「人口減少問題」がまったくネグレクト(無視)されており、一言も触れられていないことだ。おそらくその原因は、志位委員長が主導した「改定綱領」(2020年)が今回の決議案の台本になっており、改定綱領では「人口減少問題」が完全にスルーされていることが大きく影響しているのだろう。

 志位委員長による改定綱領の解説書、『改定綱領が開いた〈新たな視野〉』(新日本出版社、2020年)を読むと、そこでは「中国はもはや社会主義国を目指す国ではない」とする綱領上の規定の見直しによって、「世界の見晴らしがグーンとよくなった」とする世界論が誇らしげに展開されている。それに続いて(1)国際政治の主役が一握りの大国から世界の全ての国々と市民社会に交代した、(2)核不拡散条約という枠組みの性格が大きく変わった、(3)東南アジア諸国連合など平和の地域共同体が影響を広げている、(4)ジェンダー平等など国際的な人権保障が発展している、といった一連の国際情勢の進化が列挙されている。

 つまり、改定綱領は旧ソ連や中国との「歴史的頸木(くびき)」を断ち切ることによって、日本共産党が「発達した資本主義国」の社会変革において、今後世界的にも重要な位置を占める党であることを強調するものとなっている。旧ソ連や中国のような「資本主義的発達が遅れた国」、「自由と民主主義の諸制度が存在しないもとで、革命戦争という議会的でない道で革命が起こった国」においては社会主義革命が成功しないことが明らかになった今、マルクス、エンゲルスが言うように「発達した資本主義国」でこそ社会主義革命が達成されるのであり、この点で自主独立の道を貫き、理論と実践を鍛え上げてきた日本共産党が、発達した資本主義国での社会変革において世界をリードする位置を占めている――と言うのである。

 志位委員長はまた、資本主義では解決できない矛盾の深まりをジェンダー平等、貧富の格差、気候変動などを改定綱領において解明し、社会主義革命にもとづく未来社会への道をより豊かに多面的に示すことによって、「社会主義に前進することは、大局的には歴史の不可避的な発展方向」という命題を導いたことを強調している。そして改定綱領は、21世紀の世界資本主義の矛盾そのものを正面からとらえ、この体制を乗り越える本当の社会主義の展望をよりすっきりした形で示すことができたと結論づける。

 しかしながら、この改定綱領や決議案を別の角度から見ると、そこには容易ならぬ問題が浮かび上がってくる。それは、21世紀の世界資本主義にとって死活問題と化している「人口減少問題」を完全に見落としている点である。国立社会保障・人口問題研究所による将来人口推計は国勢調査ごとに行われるが、改定綱領が制定された2020年1月には、2015年国勢調査にもとづく将来推計人口(2017年推計)がすでに明らかになっていた。それによると、日本の総人口は1億2709万人(2015年)をピークに下降に転じ、50年後の2065年には8808万人(69.3%)に激減することが予測されている。また、志位氏が委員長に就任した2000年においても、1995年国勢調査にもとづく将来推計人口(1997年推計)が公表されており、65年後の2065年には8763万人(69.8%)、100年後の2100年には6736万人(53.6%)に激減すると予測されていた。これらの推計値の意味するものは、日本の将来に大きな影を落とす大問題であると同時に、今後の国政選挙や地方選挙の議員定数や選挙区割りに直結するだけに各政党にとっては最大の関心事でもある。にもかかわらず、改定綱領においても今回の決議案においても「人口減少問題」が一言も触れられていないのはなぜか。

 友寄書と相前後して刊行されたマルクス経済学からの人口問題に関する著作には、大西広(慶応大学名誉教授)『〈人口ゼロ〉の資本論、持続不可能になった資本主義』(講談社+α新書、2023年9月)がある。友寄書が多くの論点を掲げて複雑な構成になっているのに比べて、大西書は論旨が明確で読みやすく、結論も分かりやすい。以下の目次構成だけを見ても、そのストーリーが容易に理解できるようになっている。

〇第Ⅰ部 人口問題は貧困問題
 第1章 日本人口は2080年に7400万人に縮む、第2章 労働者の貧困が人口減の根本原因
〇第Ⅱ部 マルクス経済学の人口論
 第3章 経済学は少子化問題をどのように論じているか、第4章 マルクス経済学の人口論、第5章 人口論の焦点は歴史的にも社会格差、第6章 ジェンダー差別は生命の再生産を阻害する
〇第Ⅲ部 人口問題は資本主義の超克を要求する
 第7章 人口問題は「社会化された社会」を要求する、第8章 人口問題は「平等社会」を要求する、第9章 真の解決は国際関係も変える、第10章 資本主義からの脱却へ

 大西書の最大の特徴は、人間社会が持続していくうえでの不可欠の条件である「人口の再生産=人類の再生産」を〝先進資本主義国〟が最終的に保障できず、「人口減少問題」を基本的に解決できないことを解明した点にある。大西書は、このままの状態が続けば先進資本主義国の将来人口は「ゼロ」になることから、先進国段階では資本主義システムが持続可能性を喪失し、正当性を失うと結論している。こうした観点からすれば、21世紀の世界資本主義にとっては存続を懸けた一大問題である「人口減少問題」について、「発達した資本主義国」の社会変革の先頭に立つ日本共産党が綱領や決議案で一言も触れないことなどおよそ考えられない。にもかかわらず決議案が「人口減少問題」に何ら触れないのは不可思議であり、それ以上にきわめて異常だと言わなければならない。

 ここからは私の推測であるが、党勢拡大主義という「成長型モデル」の呪縛から抜けられない共産党にとって、実は「人口減少問題」はきわめて扱いにくい問題ではないか、ということである。志位委員長の就任からの20年間というものは、党員は38万人から27万人へ、赤旗読者は199万人から100万人と大幅に後退しており、その上、今後「人口減少問題」が激化することになると、もはやこれ以上の党勢拡大は難しいとの空気が広がりかねない。実態は公表されていないが、決議案で「世代的継承」の重要性と緊急性が繰り返し強調されているように、現在の党員構成は著しく高齢化しており、若年党員を補給しなければ、もはや党組織の存続そのものが危うくなってきている。党の基本組織である「支部」は毎年凄まじい勢いで減少しており、赤旗配達が難しくなってきていることに加えて、地区組織の役員すら選出できない地域が続出していると聞く。

 このような党組織の危機的状況にはまったく触れず、日本の深刻な「人口減少問題」も完全にスルーして、志位委員長がことさらに中国に関する規定を改めた改定綱領の意義を強調するのはなぜか。それは、長期にわたる党勢後退問題の分析と総括を避けるためであり、その背景となっている日本の「人口減少問題」の深刻さから目を背けるためだ――と言われても仕方がない。日本共産党が「発達した資本主義国」における社会変革の先頭を切る存在だと胸を張るのもよいが、肝心の党勢が少子化・超高齢化の波に呑み込まれては、その「将来は危うい」と言わなければならない。目下、赤旗では決議案に対する意見や提案を募集しているという。拙ブログのような意見を持つ修正案がでないかどうか、注目したい。(つづく)

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