2024.02.02 共産党の党員除名に対する批判と反批判をめぐって
――八ヶ岳山麓から(459)――
                 
阿部治平 (もと高校教師)

はじめに
 この1月15~18日第29回共産党大会が開かれた。党大会のテーマのひとつは、「かもがわ出版」編集主幹松竹伸幸氏の復党問題であった。
 松竹氏は、全党員の直接選挙による「党首公選論」と「核抑止抜きの専守防衛論」を主な内容とする『シン・共産党宣言』(文春新書 2023・01)を出版した。共産党は、これを綱領・規約に反する行動として松竹氏を除名し、氏は党大会に対して除名の再審査請求をおこなった。
 これは共産党の近未来を占ううえでかなり重要な事件だとおもう。

党大会会場での除名批判
 29回党大会では、松竹除名に反対した人が一人いた。横浜港北区選出の県議3期という大山奈々子氏である。彼女の発言は、「しんぶん赤旗」の見出しでは「問題は出版より除名処分/共産党『怖い』と思われる」となっている。
 大山氏は、松竹氏の著作は読んでいないという。だが、除名については何人もの人から「やっぱり共産党は怖い」「除名はだめだ」「将来共産党が政権を取ったら、国民をこんなふうに統制すると思えてしまう」といわれた、と述べたのち、概略次のように発言した。

 異論を唱えたから除名したのではないと、(赤旗で)わが党の見解が報じられているが、同時に松竹氏の議論(への批判)が熱心に展開されているから、やはり「異論だから排除された」と思われてしまう。そうでないならば、わが党が民主的である証左として、松竹氏による除名再審査請求を適切に受け止めるよう要望する。
 除名は対話の拒否にほかならない。排除の論理ではなく包摂の論理を尊重することは、政党運営にも求められている。(「赤旗」2024・01・18)
 
批判への反論
 党大会では、大山氏の主張に対して2人の反論があったが、さらに田村智子副委員長(当時)は、翌日の大会結語において、おおむね以下のように大山氏を批判した。
 
 この発言者の発言内容は極めて重大だ。私は、発言者の姿勢に根本的な問題があることを厳しく指摘する。党内外の人が言っていることのみをもって、「処分が問題」と断じるのは、あまりにも党員としての主体性を欠き、誠実さを欠く発言だ。
 発言者は、「希望の党」の小池百合子代表の「排除」発言をもちだして、「あのとき国民が感じた失意が、いま私たち共産党に向けられていると認識すべき」とまで発言した。反共分裂主義によって野党共闘を破壊した大逆流と並べて、党の対応を批判するというのは、まったく節度を欠いた乱暴な発言というほかない。
 発言者は、「除名というのは対話の拒否だ」「包摂の論理を尊重することは、政党運営にも求められている」と述べたが、除名された元党員は、党外からいきなり党攻撃を開始したものである。批判の矛先を百八十度間違えている。
 党を除名された元党員の問題は、支配勢力の攻撃にのみ込まれ、射落とされ、屈服したところに政治的本質がある。この本質をまったく理解していないことに、発言者の大きな問題がある(「赤旗」2023・01・19)。

 語るに落ちるとはこのことである。田村氏の発言はおおかた幹部会で決めたものだろうが、「共産党は異論を許さない」という世間の批判を地でいってしまった。私の周辺でも、発言者への敬意を持たない頭ごなしの反論は、新しい委員長田村智子の権威を傷つけるものだという批判があった。
 大山氏は、満場の代議員の前で、わが身への非難をどんな思いで受け止めたであろうか。これについては、朝日や毎日だけでなく、信濃毎日新聞も1月25日の社説でとりあげ、「共産党は『民主集中制』を採用するが、これまでの集権的な仕組みで幅広い支持が得られるか」としたのち、「除名に異論を唱えた出席者の意見を田村氏が指弾する場面があり、党所属の地方議員から疑問視する声が出ていた」と指摘した。

『意見集』の除名批判
 このやりとりが交わされた党大会の20日前、共産党から340人近い党員が寄せた『大会決議案への感想・意見・提案集(全3冊)』(以下『意見集』)が刊行された。論点は党勢拡大から人類生存の危機に至るまで多岐にわたり、賛否両論いずれも非常に真剣で、しかも興味深い内容だった。

 松竹除名を支持する意見は、ほとんどが規約の「党の決定に反する意見を勝手に発表することはしない」という条項に違反したというものであった。除名反対あるいは留保の意見は多様である。以下に私なりにまとめてみた。

松竹氏の著作は党攻撃だというが、「専守防衛」とか「党首公選」は党攻撃に値しない。党首公選制は時代の変化に合っている。これは全党で議論すべきだ。

除名処分は理不尽で、党に甚大な打撃を与えている。知識人党員のこれ以上の離反を防ぎ、新規に青年層を獲得するためには、処分撤回を抜きにしては不可能だ。彼の除名処分についての審査請求には誠意ある対応をすべきだ。

松竹氏は、誰もが知っている「党の安保政策の歴史的事実および現在の組織運営の事実」からの主張をしており、国民、党員が自由に批判や意見を主張できる性格のものである。

党規約にしたがうと「異論」を(全国の党員に)広く知らせる手段がない。「異論」には重要な示唆がある場合がある。松竹氏によって、わたしははじめて党内に「党首公選」を求める意見があることを知った。

松竹氏と鈴木氏はルール違反だが、党の地方選後退の大きな原因は、松竹・鈴木の除名処分にある。党勢後退の原因を「政治対決の弁証法」とか、「反共攻撃」のためとかというのはまともな分析・総括ではない。
注)鈴木元氏は元共産党京都府委員会常任委員。共産党を批判する『志位和夫氏への手紙』(かもがわ出版 2023・01)を出版したこと、松竹氏と出版時期について打ち合わせたことを規約違反として除名された。

決議案に「民主集中制をよわめる議論がある」と記されているが、松竹氏はそういう主張はしていない。(批判するなら)誰がと名指ししてほしい。

「党首公選制」は「すべての指導機関は選挙によってつくられる」という規約の条文にかなったものである。規約には「分派形成につながるから党首公選制を採用しない」などという規定はない。

29回大会では、「分派」「内部問題」「反共攻撃」など組織運営の根幹にかかわる「用語」に、具体的かつ公正な解釈を可能にする「定義」を与えるべきである。

 批判意見は『意見集』では目立つが、これは少数者の意見だと思う。そして田村智子氏の大会結語に従えば、これら批判意見は「誠実さを欠き、節度を欠き、批判の矛先を180度間違えたもの」となるであろう。

おわりに
 党外から見ると、松竹氏の「党首公選論」は常識の範囲だし、「核抑止抜きの専守防衛論」は共産党トップ志位和夫氏の安保防衛論とさほど異なるものではない。
 だが、共産党は少しでも党を変革しようとする者に対しては身構える。幹部らが自己を党と同一視し、指導体制維持を自己目的としているからである。選挙に連敗しても志位氏が「路線が正しいのだから辞任はしない」と言ったのはそれである。
しかも党員の多くは、党中央のイデオロギーと方針に強く縛られ、長期の党勢拡大運動が無残な結果に終わっても、なおその是非を問わずに既定の路線に従う。
 共産党が「保守的」といわれる所以である。共産党は日本の他の政党とは比べものにならないほど、強い「慣性の法則」に支配されているのである。(2024・01・29)
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