2024.02.07 「台湾の武力統一は既定の方針である」
――八ヶ岳山麓から(460)――
                  
阿部治平 (もと高校教師)

はじめに
 劉明福著『中国「軍事強国」の夢』(文春新書 2023・09)は、世界最強の国家をめざす中国の戦略を語ったものである。
 著者(1951年生)は、中国国防大学教授、上級大佐。一般的には、中国タカ派の論客として知られる。2010年に出版した『中国の夢』は、出版とともに、たちまちベストセラーになり、国外でも強い関心を持って読まれた。
 ただし、同じ著者の本著『中国「軍事強国」の夢』のほうは、成り立ちが少し複雑だ。訳者の加藤嘉一氏と監訳者の峰村健司氏によれば、劉氏執筆のもとの原稿は中国語で約60万字あったが、2020年に中共中央党学校出版社から出版されたものは、検閲によって削除され23万字なってしまった。本書は訳者らが劉氏から完全版原稿と、日本での編集・出版権を入手して、翻訳編集したものである。

旧著『中国の夢』の核心部分
 劉氏は、10年余前の『中国の夢』の中で、「21世紀中国の目標は世界ナンバーワンになることである」「ナンバーワンの大国になれなければ、時代遅れの国、淘汰される国になるに違いない」と説いた。
 また、「誰がナンバーワンの大国になるかをめぐる競争は、誰が勝つか負けるかの闘争であり、誰が世界を支配するのかをめぐる争いである。 ……中国が自らを、そして世界を救いたいのであれば、舵取り役になる覚悟が必要である」「中国が世界ナンバーワンとして台頭することをめざす限り、……アメリカは中国を封じ込めるために最善を尽くすだろう」ともいった。
 このむき出しの戦闘精神、つまり「中国が米国に代わって世界第一の軍事大国になる」という考えは、中国人の民族感情をくすぐり、熱烈な共感を受けた。

 だが、胡錦涛政権はこれを発禁とし、中国軍事科学学会常務理事で国際軍事小委員会委員長の羅援少将は、これは「望ましい願望と現実の間の問題だ」と述べた。つまり中国の現状はそこまでは行っていないという意味である。
 また海軍装備論証研究センター総合論証研究所の尹朔上級研究員も、これに反対して、中国は「韜光養晦(とうこうようかい=才能を隠して、内に力を蓄える)」戦略を維持すべきだと述べた(以上、中国検索サイト「百度一下」)。
 だが、元国家主席で文化大革命によって失脚・惨死した劉少奇の子息、劉源総後勤部政治委員(のち上将)は劉明福氏との関係が密であり、『中国の夢』を支持した。
 2012年習近平氏が中国共産党総書記に就任するとともに、「中国の夢」は、「中華民族の偉大なる復興」と「一帯一路」を主な内容とする習氏の政治スローガンとなり、劉氏も中国軍内の単なる異端、タカ派ではなく、習近平総書記のブレーンの一人となっていった。

新著『中国「軍事強国」の夢』の核心部分
 翻訳者らによると、本書の核心ともいうべき第5章は、2020年に出版された中国語版では丸ごと削除された。「習近平政権が最重要視する台湾問題について、精緻かつ的確に分析していたため、掲載が許可されなかったようだ」とのことである。
 習近平氏のいう「中華民族の偉大なる復興」の重要な要素のひとつが「国家統一」である。劉氏は、アメリカは中国に対して台湾の「平和的統一」を求めているが、台湾が平和の維持を口実に統一を長期的に拒むようであれば、中国大陸は武力をもって国家の統一を実現するしかない。平和のために統一を犠牲にしてはならない。統一は平和よりも尊いと主張する。これが主旋律である。
 以下、特に断らない限り、劉氏の主張=本書第5章の要約である。

南北戦争史
 アメリカの南北戦争は「米国統一戦争」である。リンカーンが大統領に就任したとき、アメリカは北部の資本主義体制と南部の奴隷制の「一国二制度」だった。南北戦争前半は、北部の苦戦が続いた。
 リンカーンは、のちに戦局を有利に展開するために、「一国二制度」を放棄し、アメリカ国家の分裂に反対し、奴隷制に反対するという二つの旗を掲げる方向に舵を切った。奴隷制の廃止によって、北部は国内外の道義的な支援を獲得すると同時に、南部寄りだったイギリスの干渉を防ぎ、最終的な勝利をかちとったのである。
 「一国一制度」に生まれ変わったアメリカは、「祖国に忠誠を誓い、永遠に分裂しない」という価値観と、国家としての戦略的地位の大幅向上とを得て、さらなるアメリカ史発展の新時代を切り開いた。
 
統一とその後の台湾
 台湾問題の解決は、「平和的統一」でなく「武力統一」が前提となる。(毛沢東の「政権は銃口から生まれる」になぞらえ)「統一は銃口から生まれる」のである。
 この戦争は、「米国内戦モデル」の超越、「上陸作戦モデル」の超越、「人民解放軍の伝統的作戦モデル」の超越を前提とした「中国の特色ある新型戦争」である。武力行使のタイミングは、台湾独立勢力でも、日米のような干渉勢力でもなく中国が決定する。
 台湾上陸作戦は必ずしも必要ない(別な方法で制圧できる)。だが軍による上陸管轄・駐留は必須だ。併合後の台湾統治は「一国二制度」ではなく「一国一制度」である。「台湾独立処罰法」を制定し、台湾独立勢力を裁判し、「脱台湾独立化」を徹底する。

未来戦争
 世界一流軍隊実現の要は海洋にある。近現代のロシア・イギリス・アメリカ・ドイツ・日本も海洋強国であった。だから海洋に向かうことで、中華も発展する、いやそうしなければならない。
 「海洋が中国の未来戦争にとっての主戦場になる」なぜならば、海洋の安全保障が中国の経済安全保障にとっての生命線になっているからだ。中国は、北朝鮮・韓国・日本・フィリピン・マレーシア・ブルネイ・インドネシア・ベトナム8ヶ国との間で海洋権益をめぐってぶつかっており、「多くの島嶼が一部の周辺国家に占領されている」
 アメリカと日本は海上を通じて中国を封じ込めようとしており、海上での局地戦の可能性は常にある。だから「中華民族が海洋強国を建設するという戦略的目標に適応するためには、『海戦場』の建設を国防建設の重点に置かなければならない」
 21世紀に入って中国は、石油・天然ガスなどの資源の輸入が増加し、海洋交通の安全は俄然重要になった。南シナ海のサンゴ礁への大型爆撃機が発着できる基地建設も、たとえばマラッカ海峡で戦闘が生まれた場合の備えである。
 「中国は2012年以降、釣魚島(尖閣諸島)における権益を守るための闘争を積極的に展開してきた。東シナ海の防空識別圏を設定して、支配を常態化することで、日本の釣魚島への一方的な支配を打破してきた」

おわりに
 劉氏の戦略は、各国の主権を重んじながらアジアの平和構築をどうするかといった観点がまったく欠いている。みたところ、中国のいわゆる「戦狼外交」は、劉氏の「軍事強国」戦略に沿ったものであることは明らかである。
 日本の革新派の中には、「日中両国政府の間には、平和と友好に向けた共通の土台が存在している。この土台にたった外交的努力によって、平和と友好の関係を確かなものにしていくことは、日中両国政府の共通の責任ではないか」といった見解がある。
 歴史的な経過からすれば、もっともな意見である。だが、劉氏からすれば、問題にならない。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、この地域を平和の共同体に変え、その流れを域外に広げて東アジアサミット(EAS)という枠組みへ発展させようとしてきた。さらにASEANは、(現実的というにはほど遠いが)2019年の首脳会議では、ASEANインド太平洋構想(AOIP)を採択した。だが劉氏は、海洋強国を論じながらASEANという存在をほとんど問題にしていない。ASEANの同盟というには結びつきが弱いところを見透かしているようである。
 いまや中国と付き合ってゆく際に、平和外交という麗句だけで現実を飾る時期は終ったのかもしれない。我々は、アジアの平和のための提言を作り直す必要に迫られている。
 (2024・01・20)

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