2024.02.10 「支援」と「推薦」はどう違うか、市民派首長選挙における政党の立ち位置に共産は失敗した、2024年京都市長選から感じたこと(2=完)

広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)
                
 前回に引き続き、もう少し有権者の投票行動に関する分析を見よう。朝日新聞の出口調査は、「門川市政の評価」および「候補者を応援する政党や議員、団体」との関係から誰に投票したかを尋ねている(朝日新聞2月6日)。総じて、門川市政に肯定的な人は松井氏に、否定的な人は福山氏にと投票先がはっきりと分かれている。また、候補者の政治的背後関係を重視した人が3分の2、そうでない人が3分の1と、多くの人が候補者をよく理解して投票している。投票率は全体として40%余りと低かったが、浮動票的な投票は少なく、よく考えた投票が多かったと言える。
 
 (1)門川市長の4期16年間の市政に対しては「評価する」(「ある程度」と「大いに」を合わせて)52%、「評価しない」(「あまり」と「全く」を合わせて)47%だった。「評価する」と回答した人の47%が松井氏に、28%が福山氏に投票した。「評価しない」と回答した人の43%が福山氏、24%が松井氏だった。

 (2)投票の際、候補者を応援する政党や議員、団体などをどの程度重視したかについては、「重視した」(「ある程度」と「大いに」を合わせて)64%、「重視しなかった」(「あまり」と「全く」を合わせて)34%だった。「重視した」人の39%が松井氏に、37%が福山氏に投票した。「重視しなかった」人の32%が福山氏、30%が松井氏だった。

 (3)世代別では、松井氏が80歳代以上で49%の支持を集めた一方、30代では23%だった。福山氏は40代が27%だったほかは、各年代で3割以上の支持を集め、70代では40%が支持した。

 毎日新聞は2月4日、投票を終えた有権者を対象にインターネット調査を実施し、投票行動を分析した(毎日新聞2月6日)。松井氏は自民・公明支持層を固め、立憲・国民支持層の半分近くを獲得したが、「政治とカネ」の問題および「門川市政の評価」の関係からすると、福山氏が松井氏を凌駕して批判票の受け皿になった。

 (1)「政治とカネ」の問題については、投票者の64%が「考慮した」と回答し、うち41%が福山氏に、32%が松井氏に投票した。「考慮しなかった」人の55%は松井氏を選んだ。

 (2)門川市政の評価に関しては、6割が「評価しない」(「あまり」と「全く」を合わせて)、4割が「評価する」(「ある程度」と「大いに」を合わせて)だった。「評価しない」と答えた層の4割が福山氏を選んだ。

 (3)政党支持者別にみると、松井氏は自民支持層の7割、公明支持層の9割を固めたが、立憲支持層は4割、国民支持層は5割、無党派層は3割だった。福山氏は共産支持層の9割、立憲支持層の4割、無党派層の4割を獲得した。

 投票率は41.7%と前回40.7%から僅かに上がったが、有権者の5割に届かず依然として非常に低い。しかし行政区別に投票率をみると、松井・福山両氏の得票数が投票率と密接に関係していることがよくわかる。行政区別投票率と得票数を掲載している朝日新聞(2月6日)によると、投票率が高い北区(45.9%)、上京区(46.6%)、左京区(48.9%)、中京区(46.1%)では、中京区を除いていずれも福山氏がトップになり、それ以外の投票率が低い行政区では全て松井氏が第1位となっている。とりわけ投票率の低い南区(35.8%)、山科区(37.8%)、伏見区(36.2%)では福山票と松井票の差が大きく、投票率が勝敗を分けるカギになったことをうかがわせる。

 それからもう一つ選挙戦の勝敗を分けたのは、松井陣営と福山陣営における政党の立ち位置だった。松井陣営は自民・立憲・公明・国民の4党推薦で「非共産=与野党相乗り」連合艦隊を組んだが、福山陣営は候補者本人が「市民派」を標榜し、「政党の推薦は受けない」と宣言したことから、共産は後方からの「支援」政党となった。ところが、選挙戦が加熱してデッドヒート状態になってくると、この構図に大きな変化が生じたのである。毎日新聞(2月6日)は、終盤戦の状況を次のように伝えている。

 ――今回の選挙は日本維新の会などが村山氏の推薦を決め、35年ぶりに主要政党レベルでは3極の戦いになるとみられた。だが、村山氏側の政治資金問題で告示直前に推薦が取り消され、長年続く「共産対非共産」の構図が軸になった。福山氏の激しい追い上げに、松井陣営は演説や新聞広告などで「市役所に赤旗が立っていいのか」「時計の針を戻してはならない」とネガティブキャンペーンを張り、他陣営から「品格を欠く」との批判もあった。

 松井陣営のネガティブキャンペーンに激しく反応したのは、「支援政党」の立場にある(はずの)共産だった。終盤戦には田村委員長をはじめ党幹部が総出で街頭演説に立ち、しんぶん赤旗は「反共攻撃打破!」一色になった。
 〇「福山氏激しく競り合う」「反共攻撃打破し必勝を」、渡辺党府委員長の情勢報告(赤旗1月30日)
 〇「京都市長選 市民と共産党が手つなぎ自民党政治と対決、三つの争点、田村委員長の訴え」(赤旗1月31日)
 〇「反共攻撃振り払い勝利へ」、共産党府委員長が会見(赤旗2月1日)など

 京都市長選に2度目の挑戦を決意した福山氏が「一人街宣」を始めたのは、昨年9月のことだった。そのキャッチフレーズは「〝ええもん〟は継承し〝あかんもん〟は変える」、所信は「1.忘れ物を取りに行く~暮らしとなりわいを全力応援する市政に」「そろそろ京都をリニューアル」「おもろい街京都」といった全ての市民にアピールする穏やかものだった(京都民報2023年9月17日)。また、記者会見での一問一答では次のように答えている(抜粋)。

 ――門川市政の評価は、「門川さんは大学の先輩で、あんまり悪くは言いたくはないです。京都みたいな難しい土地で、4期もよく頑張らはったと思います。ただ、生活に苦しんでいる市民に対し、『社会的な役割を行政が果たすのはもう終わり』というような言い方で、コロナ禍で一番しんどい時に、福祉のカットを『ショックドクトリン』的にやりました。そういう痛みに向き合わなかった点が残念です」

 ――前回選の教訓は、「勝つつもりでしたが、結果は結構、票差がありました。僕自身は市民にとってええものはええと政策本位でやろうと言うてきました。保守層の中には恐れや不安を持っている人がいたと思います。そういう人たちに、きちんと届く政策や訴えができたのか、その点では少し反省があります。京都独特の『共産対非共産』という対立構図に、飲み込まれてしまった部分があると思います。市民の懸念や不安を受け止めながら前に進めれば、前回とは違う景色が見える可能性があるんじゃないかと思います」

 福山氏はこのように、保守層も含めて「門川市政」に疑問を感じる広範な市民が支持できる市長選挙をやろうと考えていた。その政治姿勢に共感する多彩な市民が福山陣営に集まり、支持の輪が次第に広がっていった。「共産対非共産」でもなく「保守対革新」でもない、京都ではかってない新しい選挙構図が生まれつつあったのである。共産も中盤戦ころまでは自制的に振舞い、このまま行けば勝利する展望が広がりつつあった。ところが、この情勢に危機を感じた松井陣営が最後に打った手が「反共キャンペーン」だった。そして、この「反共キャンペーン」の〝挑発〟にまんまと乗せられたのが共産だったのである。

 京都の事情を何も知らない田村委員長がある日突然やって来て、「京都市長選は自民党政治と対決だ」とぶった瞬間から、京都の空気が変わった。「支援政党」であるはずの共産が前面に立ち、市長選の終盤を「反共攻撃打破!」一色で染めた瞬間から、市民派選挙は「政党選挙」へと変貌したのである。だが、今回の京都市長選は貴重な教訓を残した。民意が多様化し、政党も多党化している現在、首長選挙を「政党選挙」として展開することはもはや不可能になったということではないか。これからは「支援」の在り方が首長選挙のカギになる。この情勢の変化を理解できず、複雑な選挙情勢を「反共攻撃」としか受け止められないような政党は消えていくしかない。

 福山氏は実に立派な候補者だった。40歳で司法試験に通った苦労人弁護士は、穏やかな風貌と飾り気ない語り口で多くの有権者の心を掴んだ。こんな素晴らしい候補者は、やはり「政争の都・京都」でしか生まれない。30年余に及ぶ「共産対非共産」の不毛な政治的対立から抜け出て、「市民の市民による市民のための市政」を実現するのは容易なことではないからだ。でも、その可能性を見せてくれたのが福山氏だった。福山氏にはぜひ「三度目の正直」に臨んでもらいたい。私の周辺の老いぼれたちは、みんな「生きてその日を迎えよう」と決意している。

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