2024.02.13 ハンガリーのノヴァク大統領が辞意表明
児童への性的虐待犯に恩赦適用で
            
盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

 2月10日(土曜日)、ノヴァク大統領は昨年4月のローマ法王来訪時に実行した恩赦で、児童への性的虐待で収監されていた人物を放免したことが間違いだったことを認め、辞意を表明しました。これに伴い、当時、法務大臣として恩赦リストを作成し、大統領恩赦の共同署名を行ったヴァルガ・ユーディット(国会議員、4月欧州議会選挙での与党<Fidesz・ハンガリー市民同盟>のリスト最上位候補)も国会議員の辞任と公的政治生活からの引退を表明しました。Fideszを代表する40代の女性政治家が揃って政治生活からの引退を表明するという異常事態となりました。

 ハンガリーは性的少数者と小児性愛者を区別することなく犯罪的行為とみなし、性的少数者についての知識や文献を広めることを禁じており、これが欧州委員会との間の係争問題になっています。昨年、国立博物館で性的少数者を連想させるような展示会が開かれたことを理由に、国立博物館館長が罷免されました。
 このように一方で厳しい態度をとりながら、他方で児童への性的虐待で有罪判決を受けた施設副所長に恩赦を与えた矛盾が野党から追及され、今年に入ってから大統領辞任を求める野党の動きが活発化していました。Fideszは欧州議会選挙に与える影響を恐れ、問題の早期決着を図るために、大統領辞任やむなしということになりました。

 他方、なぜ小児性愛で有罪判決を受けた人物が恩赦を受けたのか、また誰が恩赦の申請をしたのかなどの背景は不明です。ただ、恩赦を受けた人物は自分が児童愛犯罪を犯したわけではなく、実際の実行者だった児童施設の所長をかばうために、嘘の供述を行ったことが有罪判決の理由となったのだそうです。すでに刑期をほとんど終える状態で、かつ模範囚だったことが、恩赦の根拠となったようですが、その内容は公になっていません。他方、恩赦を仲介したFidesz関係者がいるはずで、どういう経緯で誰が恩赦申請をおこなったのかは、あきらかになっていません。

 オルバン首相は、EU内の政治的劣勢を押し返すためにも、春の欧州議会選挙で勝利することを至上命令としており、この問題を長引かせて選挙に影響が出ることを恐れて、辞任を求めたものと思われます。しかし、Fideszの顔を二人同時に失うことは大きな痛手になりますが、権力維持のために仕方がないと考えたのでしょう。オルバン首相の決断が吉と出るか、凶と出るかは分かりません。

 ヴァルガ・ユーディットは対EUの難しい交渉の前面に立って奮闘していましたが、昨年、離婚しました。前妻の国会議員辞任を受けて、前夫のマジャール・ピーテルはFacebookに投稿し、「これまで微力ながら、ハンガリー市民社会の発展に貢献しようと努力してきたが、最近になって、私の貢献が権力行使の隠蔽や途方もない富の取得という政治目的のために利用されてきたことが分かった」。「ハンガリーはロガーン・アンタル(閣僚会議官房長官)やオリガーク、わずかな特権家族のために存在するのではない」と書き込み、現在保持している政府系企業のポストから離れることを表明しました。この前夫の言葉から、Fidesz政治家や支持者の中で、それなりの不満が蓄積されていることが分かります。これがFideszの結束を乱すのか、それとも逆に結束を強めることになるのか。都市住民や若者のFidesz離れは始まっているが、それが野党を支持する力になっていないのが、ハンガリーの現状です。

 ロガーン・アンタルがイデオロギー管理する政府系メディアはこの事態に混乱していますが、国営TVでは、連日、ジュルチャーニィ批判やソロス批判を続け、野党を「ドル野党(外国から金をもらっているという意味)」と命名し、野党系のメディアを「ドル・メディア」と名付けて、この名称を広めようとしています。さすがにブダペストの市民はあまりの馬鹿らしさにあきれ果て、国営TVはFideszチャンネルとして軽蔑していますが、地方ではこの種の低劣な政治攻撃を行うTVしか見られません。二人の女性政治家の引退がFidesz支持勢力にどのような影響力を与えるかは、今後の見所です。いずれ「奢る者、久しからず」ということになるでしょうが、何がきっかけでレジームが崩れるのか。オルバン独裁体制の綻びが見える事件です。




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