2024.04.10  韓国の総選挙(つづき)
        韓国通信NO742
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 前回号で韓国の総選挙が混戦状態とお伝えした。保守系各紙は連日、野党攻撃の記事で溢れかえる。記事の大半は野党「共に民主党」の党首の李在明(イ・ジェミョン)と新党を結成した曹国(チョ・グク)個人への集中攻撃ばかりが目に付く。投票日は明日10日。

<韓国と日本の「反共」>
 韓国社会は新大統領の出現で様変わりした。就任早々に北との対決姿勢を鮮明に打ち出した尹大統領の支持基盤は岩盤のような反共主義者たちである。
 日本の治安維持法を下敷きにした「国家保安法」に支えられた韓国の反共主義は根強い。新政権になって、「容共」「アカ」「従北」という乱暴な言葉が以前にもまして飛び交うようになった。「秘密保護法」「共謀罪」を新設した日本に語る資格はないが、金大中、廬武鉉、文在寅大統領も「国家保安法」を廃止できなかった。朝鮮戦争の記憶と反北朝鮮プロパガンダに育まれた反共主義は韓国社会の一面でもある。
 朝鮮労働党による一党支配が続く北朝鮮。対抗するかのように現在の韓国では共産主義を標榜する政党は一切認められていない。韓国が反共国家と言われる所以である。
 反共国家ではないが、反共風土が強いのがわが国の特色と言える。政治資金問題で明らかになった自民党政治を変える絶好のチャンスにもかかわらず、反共風土によって不発に終わる気配がある。共産党排除を主張する政党、労働運動は、国民に沁み込んだ反共風土に迎合しながら、反共風土を拡大再生産しているように見える。
 日本共産党への国民感情は複雑だ。戦前の非合法時代から今日までの苦難の歴史が影響して反共風土が根深く残った。政策は支持しても近寄りがたい存在として国民には映る。私も「アカは危険」という社会の雰囲気の中で育ったひとりだ。

 興味深いことに韓国は反共国家でありながら日本共産党に関心と親しみを感じる人が結構多い。共産党というとソッポを向く日本人は多いが、私の韓国の友人ではそんな人はいない。かつて日本の植民地だった苦難の歴史と共産党の歴史から生まれた連帯感なのかもしれない。1980年代の後半まで、日本から進歩的な新聞、雑誌類の持ち込みは禁止され、活動家は入国ができなかった。韓国に変化が生じたのは民主化以降である。共産党の委員長が韓国を訪問した2006年を画期として、日本共産党をタブー視せず客観的に報じるようになったのは確かだ。

<ハンギョレ新聞>
 2024/4/03号付け記事を読んで驚いた。タイトルは、「日本を震撼とさせた自民党裏金スクープ」。東京/キム・ソヨン特派員の署名入り記事である。
韓国の総選挙(つづき)
韓国の総選挙(つづき)

 記事は冒頭で、裏金問題で大揺れの日本政治、派閥の解散、自民党議員の懲戒処分にいたる事件の経過を説明。スクープをしたのは「赤旗」だったことを明らかにする。頻繁に行われた自民党派閥主催のパーティの収入と支出を粘り強く取材・調査したことが発端となった。
 日本学術会議の任命拒否問題、海上自衛隊幹部らの靖国集団参拝、安倍首相の桜を見る会の報道など政治の根幹にかかわる問題を次々とスクープ報道した実績を紹介している。(日本語版だがオリジナルは韓国人向けの記事である)
 記者の質問に「権力を監視する報道を続けたい」(山本編集長)、「政治がひどい状況だが、希望があることを示したい」(小木曾編集局長)と語った。<写真上下ともハンギョレ新聞から転載/上右/編集局長/上左/日曜版編集長/下左写真/党本部>
朝日新聞のネット記事、雑誌『週刊金曜日』と月刊『マスコミ市民』、テレビニュースに接しながら過ごす毎日だが、ネットで配信された今回のハンギョレ新聞の記事から新鮮な驚きとカルチャーショクを受けた。
 真っ先に感じたこと。日本の政治を揺るがすほどの問題を大手報道機関が何故見逃し、「赤旗」が指摘できたのかという問題がある。「赤旗」が取り上げなかったら何も起きなかった。ハンギョレの記事は直接触れていないが、「真相究明」「政治不信」を主張し始めたメディアの無節操ぶりと努力不足は明らかだろう。
 ハンギョレ新聞の「赤旗」に対する敬意と謙虚さを日本の新聞は学んでいい。「赤旗だからできた」と嘯くなら、日本のジャーナリズムは反共に染まっている証拠ではないか。
 年間優れた報道を顕彰するするジャーナリスト大賞(JCJ賞)に「赤旗」の活躍を推薦する声が上がっているという。政党の機関紙としては異例かも知れないが私も大賛成だ。

<映画『戦雲いくさふむ』>
 三上智恵監督のドキュメンタリー映画である。沖縄本島、与那国島、石垣島、宮古島、奄美大島で着々と進められている自衛隊のミサイル部隊の配置。台湾有事を前提にした戦争準備の現実は本土ではあまり知らされていない。島民たちの日常生活に密着した監督の思いが伝わる。美しい自然が戦場になろうとしている。無関心であることへの反省が強く求められ、沖縄を本土の「捨て石」とした歴史が蘇る。孤立しながらも現実と向き合う島民たちの姿に励まされ、沖縄は迫りくる私たちの現実であることを実感。戦争は絶対にさせないという監督の強い意思が伝わってくる。必見! おすすめしたい。
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