2024.05.13 世界のノンフィクション秀作を読む(67)
 
三上智恵(ジャーナリスト、映画監督)の『戦雲――要塞化する沖縄、島々の記録』(集英社新書)――沖縄から日本全土に広がる戦雲の予兆に警鐘(上)

横田 喬 (作家)


 著者(1964~)は沖縄のテレビ局出身の女性ジャーナリスト。この十年、南西諸島を訪ね歩き、本土メディアが殆ど伝えない戦力配備が続く実態を取材してきた。2022年末の安保三文書は「南西諸島にミサイルを並べ、最悪の場合、報復攻撃の戦場になるもやむなし」と記す。アメリカと日本政府が主導する、予断を許さぬ危険な実態の全容とは?

 2022年9月16日、沖縄の二つの新聞には衝撃的な見出しが躍った。<「先島に住民避難シェルター」/「政府検討 有事を想定」/「石垣市など複数候補地」> 政府は2023年度予算案の概算要求で、武力攻撃に耐えうるシェルターの調査費を計上した。台湾情勢が緊迫しているとして、避難が困難な離島に地上型・地下型、共に検討するという。
 私は青ざめた。アメリカ下院議長のペロシ議員の台湾訪問以降、アメリカの挑発に乗って中国の軍事威嚇行動も過熱。さらにアメリカは原子力空母を韓国に入れたり、カナダの戦艦と台湾海峡を航行したりして、台湾有事は近いという報道が日毎に増えている。そんな中で、「シェルター」に予算が付いたと報道されれば人々は一気に不安に陥り、あらぬ方向に空気が動きかねない、と懸念するからだ。

 シェルターは各戸に造られるのか? 何人入れるのか? 食糧は備蓄したとして、水道や下水はどう維持するのか? 放射性物質には耐えられるのか? 予算が足りず、シェルターが行き渡らないとか、案外早く戦場化すると、結局ガマに再び駆け込むことにならないか? こんな妄想と不安で瞬時に頭がパンパンになる。シェルターの議論は「どうやって助かろう?」という思考に流れてしまう。
 人はみな、何とか家族だけでも助けたいと思うものだ。だからシェルター工事の順番の取り合いや、食糧や水の備蓄合戦に乗り出してしまったら、もう収拾が付かない。しかし、本来はまだ冷静にこう考えるべきだ。「今本当に危機が迫っていますか?」「なぜ私たちの島が攻撃されないといけなくなったのですか?」「それは未だ止められますよね?」と。

 私たち「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」は連絡を取り合い、県庁で記者会見を設定。シェルターや戦争準備に予算をかける前に、南西諸島の軍事要塞化中止を求めることにした。多分、沖縄のこの危機感は、本土にはほとんど共有されていないだろう。
 上記の「会」の共同代表、具志堅隆松さんは、ずっと(沖縄戦での)遺骨収集のボランティア活動に取り組んできた人。次の戦争犠牲者が出そうな情勢に居たたまれず、国連にも出向いて訴え、精力的に動いてきた。あろうことか、「沖縄には避難に適した自然壕(ガマを指す)がある」などと発言する国会議員まで出現。世も末、と憤っている。シェルターもガマも、沖縄に居る150万人全員の命を守り切れる筈もない。シェルターは最後の議論、その前に戦争をさせないことを優先して取り組まねば、と彼は訴える。
 ――沖縄から、日米の軍隊が中国を攻撃する。それをするから、ここで戦争が始まる。しなければ始まらない。その危機を取り除き、その後に、危険要因である軍隊は全部撤去させるところまで行くべき。それが日本軍であろうと・・・・・・。

 集会では、先ず山城博治共同代表がマイクを握り、昼休みの県庁職員やサラリーマンたちに訴えた。「避難シェルターは、沖縄が戦場になると認めたようなもの。シェルターを造る前に外交をやれ! 北京に行け! アメリカに行け!」
 登壇者は口々に、なぜ沖縄県民が戦争に脅えなければならないのか、150万県民の命はシェルターなどでは到底救えないと、怒りと危機感を顕わにしていた。でも、この問題は実はとても難しく、既に新たな分断を呼んでしまっている。命の危険が迫っているのに、「シェルターは要らない」とは何事か、と同じ反戦平和を目指す陣営からも非難の声がある。

 自衛隊配備の問題と闘ってきた宮古島や石垣島の人々からも困惑の声。「私たちは安全に避難できる方法を確立してくれ、保護計画も不十分なうちはミサイルを配備するな、と訴えてきた。シェルターは要らないという闘い方はできない」と言う。それも当然だろう。ミサイルが飛んで来る恐怖をよりリアルに感じている地域の人にしてみたら、沖縄本島でとんでもない主張を始めたと誤解されるかもしれない。
 だが、だからこそ共通認識と主張する順序が大事なのだ。「入れる人はシェルターに入ろう」「逃げれる人は逃げ場を確保しよう」という「逃げ勝負、隠れ勝負」が始まってしまうと、シェルター需要にたかる業者が島を闊歩。不安を煽り、出て行く先がある人は出て行く。余裕のある人とそうでない人が分断される、という具合に共同体が崩れていくだろう。
そんな末期の段階に至る何歩も手前に居る今だからこそ、無意識に戦争への道をゾロゾロと歩いて行く人たちの群れに、あちこちからブレーキをかけなければならない。

 全国紙にもキナ臭い記事が増えているが、最近特に「産経新聞」の論調に恐怖を禁じえない。「南西有事」という言葉を使い、ここが戦場になるのは既定路線のように記事を展開している。そして、今の弾薬保有量では戦闘継続力がない。20倍以上にしないと中国の侵攻に対抗できないという見方を繰り返し報じている。
 この議論は、南西諸島に生活する人間からすると、恐怖でしかない。「南西有事」に備えて20倍に増やす弾薬というのは、占領された後に、島にいる敵を殲滅し、逆上陸する離島奪還作戦の中で、私たちの島に向けて撃ち込まれるものとして使われる可能性が高い。自分たちを焼くための火薬を増やせ、持ち込ませろという議論には怒り心頭だ。

 すると、すぐに「じゃあ日本が侵略されてもいいの?」という反論が来る。だが、この沖縄の平和運動を敵視する人たちは、同じ国民の命や暮らしを犠牲にしてでも、自分の安全だけは確保したいと公言しているようなものだ。自分は絶対に現地に近寄らず、助かる側に入りたいという見っともないまでの利己的な発言だ、と気づかないのだろうか。
 “台湾有事”になればその辺りが戦争に巻き込まれるだろう、という被害者面した政府の言い回しを漠然と信じている人々は「足りないなら、もっと弾薬を用意しないと! 南西諸島に備蓄しないと!」と思うかも知れない。

 でも、軍事武装している島はどうなるか。仮にミサイル発射基地となった宮古島が中国軍に占領された場合には、周辺の島々に日米共同で設置していく新たな拠点からミサイルを撃ち込み、その後に日本版の海兵隊と言われる水陸機動団が、九州や辺野古から逆上陸して敵を殲滅する作戦となっている。つまり、今のところ外国を攻撃することは出来ない自衛隊のミサイルは、自国の領土が敵に占領された場合に奪還のために「国内に」撃ち込まれる想定なのだ。
 占領された島に住民が沢山残っていても、国土奪還のために弾が撃ち込まれる可能性は大である。ということは、今後この地域に大量に運び込まれようとしている弾薬は、私たちの島を焼き、沖縄に生きる命に撃ち込まれるミサイルなのだ。用途をきちんと理解していれば、私たち沖縄県民は「弾薬はあればあるほど安心」などと思える筈がない。

 最後にもう一度言う。私たち全員がシェルターに入ることは出来ません。沖縄県民約150万人が避難する術もなく、受け入れ態勢の構築も非現実的。病気や高齢で移動不可能な3万人を置いて逃げるつもりもありません。それを考えるよりは、軍事作戦にここを使うのを止めてもらう方がずっと現実的です。この島から出て行くべきは軍事組織の方。どうやって「戦争に向かう流れを止めるか」に全力を尽くしましょう!

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() 2024/05/13 Mon 07:39 [ Edit ]
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