2009.02.05 「失職出稼ぎ農民2000万人」は正しいか?
管見中国(15)
田畑光永 (ジャーナリスト)

1月14日の「管見中国(14)」で、中国国営新華社通信が編集発行するニュース雑誌「瞭望」新年号に「預警群体性事件」(「騒乱に備えよ」)という文章が載ったことを紹介した。
群体性事件を起す人間はさまざまであろうが、昨年伝えられた事件の多くは農村を舞台とするものであった。それが今年はさらに多発する可能性があるので、それに備えよというのが、紹介した文章の趣旨であるが、これはその続編とも言うべきものである。
去る2日、中央財経指導グループ事務室副主任・中央農村工作指導グループ事務室主任という肩書きを持つ陳錫文という人物が農村問題について記者団にブリーフィングを行って、なかなか興味深い発言をした。
その内容の一部は日本でも3日の新聞に報道されたが、それは主として出稼ぎ農民1億3000万人のうち約2000万人が職を失ったという点を捉えたものであった。報道としてはそれでいいのだが、私はこの数字の出し方に興味と疑問を持った。
まず、この数字は出稼ぎの多い15の省の150の村でサンプル調査を行った結果であるということであった。中国の農村は広いし、人口も膨大である。一口に150の村といっても、そこで聞き取り調査をおこなうのはなかなかに大変な仕事である。だから大体中国の農村に関する数字というのはおおまかなものが多いのが常であるのだが、今回、とにかく旧正月の真っ最中にかなり広範囲にわざわざ実地調査をしたという点で、私はやはり農民が為政者の心配の種であることが裏書されたと思った。
しかし、その結果の処理の仕方には首をかしげた。調査結果によると、旧正月前に帰郷した出稼ぎ農民は全体の38.5%であった。4割弱である。そのうち6割強、60.4%は引き続き都市に仕事が確保されているが、残りの4割弱、39.6%は仕事を失ったか、仕事を探しているという。そこで4割弱×4割弱≒15%。1億3000万×15%≒2000万というわけである。
なぜ首を傾げたかといえば、帰郷しなかった6割は全員仕事があるということが前提されているからである。現に仕事があり、職場に戻れることが保証されている人間は、旧正月には土産を手に勇躍家族のもとに帰るであろう。しかし、仕事を失ったものは仕事のある人間ほど帰りやすくはないのではないか。勿論、あきらめて帰るものもいるだろうが、都会に残って仕事を探す人間も多いのではないか。すくなくとも失職者全員が帰郷したという前提はおかしくないか。
これは私の推測に過ぎないが、安定した仕事のある人間が旧正月に帰郷しない理由と仕事のない人間が帰郷しない理由を想像すると、前者より後者のほうが切実ではないか。かりに帰郷した農民の中の有職、無職の比率が都会に残った人間にもあてはまるとすれば、1億3000万×4割弱≒5000万人となる。失職出稼ぎ農民は2000万人どころではないはずだ。

さてこの会見では、「群体性事件」についても質問が出て、それに陳主任は真面目に答えている。要点は「中央は農村社会の安定工作を高度に重視している。カギとなるのは土地収用、環境汚染、移住、集団財産の処理といった敏感かつ農民の利益に直接かかわる矛盾と問題を適切の処理することである」
「もし事件が起こったら、各級の指導幹部がまず第一線に出向いて、大衆に面と向かって説明、説得にあたらなければならない。指導者が逃げて、警察を第一線に出すことは矛盾を激化しやすい。暴行、破壊、放火などの不幸な事件が起きたとき以外、原則として武力は用いるべきでない」
「率直に言って去年は多くの群体性事件が起きた。現在、関係部門で集計中である。おそらく“両会”(全国人民代表大会と政治協商会議、ともに3月開会)前には、基本的な数字が上がって来るであろう」
この最終項目はこのところ政府は騒乱の発生件数を公表しなくなっているから、在北京記者団はこの陳主任の発言を覚えていて、是非数字を明らかにさせて欲しいものだ。
日本にはニッパチという言葉があるが、中国でも今年はニッパチに要注意だそうである。二月は旧正月明けに出稼ぎから失職して帰郷した農民たちが心配、八月は七月に大学を卒業しても仕事のない連中が心配、なのだそうである。さてとりあえず二月は?

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