2009.03.17 「迎撃」で「報復戦」を挑発した麻生首相
メディアまで「北」バッシングの危険性

坂井定雄 (中東ジャーナリスト)

遅ればせながら、原寿雄さんの「ジャーナリズムの可能性」(岩波新書)をしっかり読んだ。2008年の出来事まで取り上げている新しさだが、原さんのライフワークの精粋。内容のすべてにわたって、同意し、共感し、改めて学んだ。まだの人はぜひ読んでください。

北朝鮮は12日、「人工衛星『光明星2号』を運搬するロケット『銀河2号』」の打ち上げ、期間、日本上空を超える飛行コース、1,2段目ロケットの落下海域などを、国際海事機関(IMO)に通告した。これに先だつ2日、麻生首相は、人工衛星の打ち上げ目的であっても迎撃対象になるとの認識を示した。これに対して北朝鮮人民軍総参謀部は9日、「平和的な衛星に対する迎撃は戦争を意味する。われわれは迎撃手段だけでなく、本拠地に対する報復戦を始める」と声明した。浜田防衛相は11日の参院予算委で「自衛隊法で定義される破壊対象には、弾道ミサイルのみならず、事故などで制御を失った我が国に落下する可能性のある人工衛星も含まれる」と発言した。なんとも、危険極まる言葉の応酬である。
首相、防衛相、外相がそろって「迎撃対象」だと言い出したのは、一昨年から毎年2千数百億円の予算で19年度から各地の航空自衛隊基地に配備を始めたミサイル防衛システムの、本格的PRのためだろう。まだ40年前の日本のロケット技術にも達していない北朝鮮を仮想敵として、何兆円かかるかわからない、役に立つかどうかも確証できてないミサイル防衛システムに、根強い反対があるのは当然。麻生政権は、反対論への反撃にこの機をとらえようとしている。

新聞、テレビの報道が、政府に同調して、「北」バッシングを展開しているのは情けない。一例だけあげれば3月13日朝日新聞2面のトップ。「北朝鮮『衛星』ごり押し」の大見出し。「ごり押し」とは何と一方的、主観的な言葉か。弾道ミサイル技術開発に役立つのはもちろんだが、人工衛星の初打ち上げに、「北」がそれ以上の熱意をもっていて当たり前ではないか。

北朝鮮を含め世界のどの国も衛星を打ち上げる権利を持っている。政府が北朝鮮非難の拠り所としている国連安保理決議1718(06年10月)は、北朝鮮の核実験を受けて採択された。核不拡散条約の立場から、核実験を非難し(第1項)、いかなる核実験または弾道ミサイルの発射もこれ以上実施しないことを要求(第2項)している。だが、この決議で人工衛星打ち上げまで禁止していると解釈することはできない。だから、「本当はミサイル実験なのに『衛星』ごり押し」だといわないと、安保理決議違反だとはいえない。まして、日本政府が要求する制裁などは、米国も同調するはずがない。


日本が最初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げたのは1970年。そのとき、私は内之浦で打ち上げの記事を書いたが、打ち上げ技術は弾道ミサイルに転用できる技術で、中国はじめ周辺諸国から軍事転用への強い警戒が表明されていた。米国内にも日本の核武装を警戒する議論が根づよく、「おおすみ」打ち上げはそれを勢い付ける可能性があった。わたしの原稿でも、そうした国際社会の懸念にかなり触れて、「平和利用」を強調した記憶がある。いまでは世界第4位の宇宙開発国を誇り、重量3トンもの人工衛星を軌道に乗せる技術を実用化し、来年には6トンもの重量を軌道に乗せる計画なのだ。その日本が、やっと最初の人工衛星を上げるという北朝鮮を声高に非難している姿は、なんとも傲慢で嫌な感じがする。
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