安倍路線の評価を巡って
参院選挙は自民党の歴史的敗北という結果で終わりました。当然のことながら30日の朝刊各紙の社説は選挙結果の論説で埋め尽くされています。
戦後レジームからの脱却を掲げて安倍政権はこの10ヶ月に教育基本法の改正、国民投票法、防衛庁の省昇格と荒業を次々と繰り出してきました。今回の国民の審判はこれらの施策にもはっきりとNOを突きつけたのか…。新聞は民意をどう汲み取ったのでしょう。各社説を読んでの印象はまったくバラバラです。ならば、それらを比較検討してみることは各新聞の姿勢をチェックする格好の方法ではないでしょうか。
産経、読売、日経の全国紙三紙は「選挙の結果が安倍政権の示した国の形の方向を国民が否定した」とは考えていないようです。むしろ、敗因を意図的に別のところに切り離して述べています。
産経は敗因を「政治とカネ」をめぐる有権者の政治不信と「清新な候補者を用意できなかったこと」だと書いています。その上で政権の政治路線を支持していますが、下の社説で言う「実現態勢の不備」という表現は抽象的過ぎて内容ガ見えません。
「戦後レジーム(体制)」からの脱却を掲げ、憲法改正を政治日程に乗せ、教育再生の具体化を図るなど、新しい国づくりに向かおうとした安倍首相の政治路線の方向は評価できるが、それを実現させる態勢があまりに不備であったことは否定できない。(産経新聞)
最大の争点となった年金や格差の問題は、いずれも過去の政権の"負の遺産"と言うべきものだ。必ずしも、政権発足後10か月の安倍首相に全責任を負わせることは出来まい。
厳しい選挙結果にもかかわらず、安倍首相は、「新しい国づくりに責任を果たす」と繰り返し強調した。引き続き「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法改正や教育再生に取り組む決意の表明である。
それには、選挙の審判を重く受け止め、民主党との協調も模索しつつ、態勢の立て直しを図らねばならない。(読売新聞、中略有)
日経は安倍氏の「仕事」についての評価には触れていません。その上で路線と別のところに敗因を押し込めています。
参院選での与党の敗因ははっきりしている。年金の記録漏れ問題で有権者は政府に裏切られたような感情を抱き、政府不信の声が渦巻いた。(日本経済新聞)
朝日と毎日は安倍政権の路線に対して「国民は首を縦に振らなかったと」いう認識を示しています。朝日の「それらはいまの政治が取り組むべき最優先課題なのか」、毎日の「暮らしの実感から離れた理念先行型の安倍路線」、要するに国民のあまり関心のないところで首相が熱心にやってしまったということでしょう。しかし、これは歯切れの悪いむず痒い書き方です。熱心にやったことが悪いのではなく、熱心にやった内容が悪いのだという明瞭な指摘が必要です。
ところが、首相が持ち出したのは「美しい国」であり、「戦後レジームからの脱却」だった。憲法改正のための国民投票法をつくり、教育基本法を改正し、防衛庁を省に昇格させた。こうした実績を見てほしい、と胸を張ってみせた。
有権者にはそれぞれ賛否のある課題だろう。だが、それらはいまの政治が取り組むべき最優先課題なのか。そんな違和感が積もり積もっていたことは、世論調査などにも表れていた。(朝日新聞)
首相は「戦後レジームからの脱却」を前面に掲げてきた。実際に改正教育基本法や防衛省昇格、国民投票法なども成立させた。集団的自衛権の憲法解釈の見直しについても進めている。
国民は暮らしの実感から離れた理念先行型の安倍路線に対して明らかに「ノー」と言ったと言える。(毎日新聞)
茨城新聞の社説は朝日・毎日と同じ作りであるけれど直截的に言い切って分かりやすい表現になっています。
選挙結果を見る限り、「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げる安倍政治に、必ずしも国民がもろ手を挙げ賛成していないことは明らかだ。満足しているとは言い難い。有権者は「美しい国」や「改革実行」を訴えた安倍政治より、「国民生活が第一」と訴えた小沢民主党の格差是正路線を支持優先した。特に少なくとも憲法九条と安全保障、国際貢献の関係では、国民の総意を反映した高度慎重な政治判断が必要だ。(茨城新聞)
新聞を見ていても中央と地方の意識のずれを感じます。全国紙はどれもいわば高所大局から論じ庶民の感覚に密着していないところがあります。安倍政権のとり憑かれたように猛進していく政治手法の危うさ、それに対して国民が自然に抱いた心情についていくつもの地方紙が言及しています。
先の国会で強行採決を連発した強引さは際立つ。タカ派的な国家観や歴史認識に基づく「戦後体制からの脱却」に向け、九条改憲などに突き進む危うさを感じ取り、ブレーキをかけようと考えた人も少なくなかった。(北海道新聞)
愛国心を盛り込んだ教育基本法改正をはじめ、憲法改正、集団的自衛権行使の政府解釈の見直しと、首相が足早に進めてきた「戦後レジーム(体制)からの脱却」路線に対する国民の警戒感も見逃せないだろう。 (高知新聞)
憲法改正は自民党の歴代首相が積み残した宿題だが、自主憲法制定の党是が安倍政治のもとで息を吹き返した。世論は一般的な改憲手続きに柔軟だが、戦争放棄の九条改正には厳しい目を向ける。微妙な世論の賛否を束ねて改憲に持っていこうとする安倍政治のスタンスに危うさはなかったか。(河北新報)
安倍首相の手法で最も特徴的なのはコミュニケーション不全のまま突っ走ることです。象徴的なのが「美しい国」。美しいという言葉ほどそれぞれの主観でどうにでもなるものはありません。おまけに具体的な肉付けもない。安倍首相のわたくしの思いを国民は共有できませんでした。
戦後生まれ初の日本国首相は戦後体制脱却を唱える。しかし気負いは空転した。語る言葉が目次の域を出ず、戦後の何が悪く、だからどうする、を語れなければ、国民がついていくはずはない。(東京新聞)
さらに、悪いことに説明不足のまま政策として実現していきます。もともと地に足が着いていないものをろくな話し合いもせずに押し付けてしまう。大臣たちもそんな任命権者に似て説明は大嫌いでした。なんとか還元水大臣も絆創膏大臣も…。
もう一つは、強引な政治手法である。憲法改正に向け、国民投票法を国会で強行してまで成立させたのが象徴的だ。(秋田魁新報)
さて、新聞は世におもねることなく、正確で公正なその主張は人々のひとつの指針となるべきものです。全国紙が判断を留保した部分を地方紙は曖昧にせず分かりやすく意思表示しています。
首相は続投する意向を表明したものの、政権基盤の弱体化は避けられない。示された民意を、首相は謙虚に受け止めるべきである。憲法改正をはじめとする「戦後レジーム(体制)からの脱却」路線を、強引に進めるのは許されない。(信濃毎日新聞)
「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、国民投票法や改正教育基本法を成立させた安倍政権の「実績」は有権者に受け入れられなかった。安倍首相と与党は、この点を直視しなければならない。(新潟日報)
安倍首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ先の国会で強行採決した国民投票法や教育改革関連法などを実績としてアピールした。だが、渦巻く不信の中で安倍流の強引さに、有権者は反発を強めたとみられよう。
安倍政治に自民党支持層を含む有権者が「ノー」を突き付けたことで安倍カラーは色あせた。参院選勝利をてこに推し進めようとした憲法改正や教育再生などについても、見直しが迫られよう。(山陽新聞)
以上、選挙結果の社説からおもに安倍政権の「戦後レジームからの脱却」の評価に関わる部分を抜き出して書きました。最後に沖縄の2紙をご紹介します。参院選の結果という同じテーマで沖縄は独自の視点を持っています。改めて沖縄の特別な位置を感じないではいられません。
年金問題は沖縄選挙区でも大きな争点になった。「集団自決」(強制集団死)の記述をめぐる教科書検定問題や憲法改正の動きに対しても、有権者は敏感だった。
歴史認識や戦後体験などウチナーンチュの琴線に触れるテーマが浮上したために、野党支持層だけでなく、広範な有権者から「このまま進むと大変なことになる」という危機感が生まれた。退職教員など沖縄戦や米軍統治を経験した世代の動きが目立ったのも今回の特徴だ。
西銘陣営は年金や教科書検定問題に対して、選挙期間中、「政府に喝」というチラシを配って政府の対応を批判した。選挙のための選挙用の主張ではなく、選挙後もその姿勢を貫き、喝を入れてほしい。(沖縄タイムズ)
衆院で議席の3分の2を占める巨大与党を背景に「数の論理」で押し切る政治手法を推し進め、与野党の合意が軽視される。こうした「安倍政治」への異議申し立てでもある。猛省を促していると受け止めるべきだ。
国民は、首相が掲げる「戦後レジーム(体制)からの脱却」に対しても、もっと丁寧な説明を求めているのではないか。国の行方や国民の暮らしを左右する重要法案に対して、慎重に論議を尽くすことを政治に強く期待しているはずだ。首相をはじめ、政府与党は国民の期待や願いには耳を傾け、常に謙虚であるべきだ。今後の国のかじ取りに生かす必要がある。(琉球新報)
全国紙は右顧左眄して論旨が濁っているような印象です。
選挙前と選挙後の分析、とてもわかりやすかったです。とかく護憲か改憲か、で単純に判断しがちだけど、もっと深く見ないとだめなんですね。
政治オンチの私でも、納得のいく一票を入れることができました。
いや、そのわたしは白石さんではないんです。 (^_^)ゞ.
生協ってなんだろうって、いちばん基本的なところで時々考えてしまう今日この頃です。





全国紙の間の違いは、今までにも多く取り上げられていて知っていましたが、お恥ずかしいことですが、地方紙はもっと保守的なのかと漠然と考えていました。
確かに選挙結果を見ても、大都市圏だけでなく地方の怒りが自民の惨敗を引き起こしたわけで、それを率直に伝えているのだとおもいます。 おかげさまで目を開かれました。
でもあの方は、この期に及んでも、真の敗因・・・政治家としての未熟さ・・・は分かっていないようですね。