2017.06.15  北朝鮮制裁のゆきづまりと次に来るもの
    ――八ヶ岳山麓から(224)――

阿部治平(もと高校教師)


北朝鮮がミサイル発射実験を行うたびに、NHKをはじめテレビ各局は緊急速報を画面に流し、ニュースショーでは北の「挑発」を非難する。北朝鮮「専門家」も「挑発」とか「脅威」を声高に語る。
一例を引く。
北朝鮮による挑発行為を受けて、日本海に展開しているアメリカ海軍の空母2隻が、自衛隊の護衛艦や戦闘機と共同訓練を行った。
日本海の能登半島沖で行われた訓練には、アメリカ海軍の空母「カール・ビンソン」と、「ロナルド・レーガン」が、また海上自衛隊からは、護衛艦「ひゅうが」とイージス艦「あしがら」が参加し、日米の連携などを確認した。
さらに、空母に搭載されているF/A-18戦闘攻撃機と、航空自衛隊のF-15戦闘機も訓練を行った。
共同訓練に、アメリカから空母が2隻参加するのは極めて異例で、日米両政府は、強固な日米同盟をアピールすることで、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮を強くけん制する狙いがある(Yahoo news6/2(金) 0:05配信)。

「挑発」とは、相手を刺激して事件・紛争を起すようにしむけることである。では北朝鮮が何を「挑発」しているのか。米朝戦争か?まさか。
上の記事では、北朝鮮が核やミサイルの実験をして、その能力を誇示するのは「挑発」で、日本海のアメリカ海軍空母が、自衛隊の艦船や戦闘機と共同訓練を行うのは「けん制」である。
さきの米韓合同軍事演習は「斬首作戦」だった。米軍の作戦概念「decapitation strike(strategy)」を翻訳したものだそうだが、人の首をはねる、つまり金正恩を殺害することである。これは「挑発」か「けん制」か、安倍晋三首相がこの頃連発する言葉を使えば、意図的な「印象操作」ではないか。
日本では拉致問題はあるし、金正恩が叔父や異母兄を殺しているから「北朝鮮は悪だ、悪だから潰してもよい」という論理が当り前のようになっている。だが北朝鮮はISではない。国連加盟国であり、160余の国と国交をもつ独立国である。メディアはもっと客観的視点をもってもらいたい。

以前に述べたことの繰返しになるが、北に対する国連決議がほとんど効目がないのはなぜか、この理由をもう一度振り返りたい。それは北朝鮮がアメリカの攻撃に対する「報復能力」を持つためである。北朝鮮の立場に立ってみれば、核・ミサイル開発は追詰められて選んだ政策だった。
北朝鮮の核開発を止めさせようとした1994年の「米朝枠組み合意」は、順調に実施されなかった。その後ブッシュ政権はイラン・イラク・北朝鮮を「悪の枢軸」に指定し、イラクを侵略してフセイン政権を倒し中東を殺人と破壊の混乱に陥れた。このとき北の指導者金正日は「つぎは我が身」を確信じたであろう。
通常兵器での戦争をしかけられたら勝ち目はない。そこで彼は核とミサイル開発を急いだ。さらに2011年、アメリカはリビアとエジプトの独裁政権を打倒した。同じ年、金正日は死に、金正恩は父親の核・ミサイル開発事業を継承した。
だから金正恩は、核とミサイルの性能が十分な対米攻撃能力を持つまでは、孤立を恐れず、核実験とミサイル発射をやり続ける。北朝鮮が国連の制裁決議など屁でもないのは、いまや誰でもわかるようになった。

中国は昔も今も北朝鮮の核・ミサイル保有の論理をよく承知している。中国は北朝鮮貿易の90%を占めていて、国連決議に従って対北朝鮮制裁をやろうとすれば徹底的にやれるはずだが、いままで本気で北に圧力をかけてはこなかった。
いま石炭輸入規制をやって、限度を年間4億ドル、750万tまでとしているが、これ以上の石油の供給を止めるなどの経済制裁をやる気はない。やるとしたらかなりの冒険だからだ。やれば北朝鮮経済は混乱する、脱北者は急増する。ながびけば朝鮮労働党の一党独裁は危機に陥るかもしれない。金王朝が危機に瀕するなら、中国は北朝鮮という緩衝国を失う危険がある。その衝撃は中国に跳ねかえり、中国共産党の一党支配を揺るがす事態を招きかねない。

中国共産党総書記習近平は、大統領に就任したばかりのトランプが朝鮮半島で戦争を始めるのを警戒していた。ところがフロリダの米中会談で、トランプはイデオロギーには関心がなく、独裁だからという理由で北朝鮮体制を転覆せず、核・ミサイル開発を放棄すればそれでよしとしていることがわかった。
心配が解けると、習近平はトランプの北朝鮮説得をまるごと請負った。そう出たのは、中国にはアメリカとは別に、北朝鮮に核を持たれては困る事情があるからだ。
これも繰り返しになるが、北によって核独占が崩されれば、中国の核保有大国ととしての地位が失われ、習近平の偉大な中華帝国興隆の夢が脅かされる。北の核が中国への脅威となる可能性がある。北の核実験場が国境に近く核汚染が危惧される。
もっといえば、北朝鮮の核武装は日本に核開発の口実を与えかねない。日本の核武装は中国にとっては悪夢である。日本がアメリカの核の傘に入っているほうがよほどましである。

ところが、まずいことに習近平はドジを踏んだ(と私は思う)。彼は北朝鮮に高圧的な態度で、核とミサイル開発の停止と放棄を迫った。とりわけ中共指導下のメディアは、あたかも宗主国の朝貢国に対するように、貧乏国北朝鮮は富強の中国に頼れといい、核を放棄せよ、そうすれば金王朝を守ってやるし、経済の面倒も見てやると書いた。
当然、北の自尊心はいたく傷ついた。もともとあった中国に対する不信感はたちまち激しい反感にかわった。外交交渉の裏はわからないが、表向きでは中国の説得はほとんど効目がなくなった。かくして史上最悪の国家関係のなか、中国にとって北朝鮮の核兵器は現実の脅威となった。

国際的な経済制裁が無力だとわかったいま、これに代わるものは武力行使だが、これは不可能だ。残るは米朝対話だが、アメリカは行きがかり上、簡単には米朝交渉には踏切れない。北朝鮮も反米感情が骨身にしみついている。アメリカがいくら北朝鮮体制への不干渉をいっても、対米不信はそう簡単に払拭はできない。
こういう難しい事情はあるが、オスロの米朝秘密会談を終えた北朝鮮外務省の崔善姫北米局長は、5月13日北京でトランプ政権と「条件が熟せば対話する」と語った。北もいちがいに対話を拒否しているわけではない。

そのなかで米中を中心とした制裁一辺倒の対北朝鮮政策を批判してきたのは、文在寅韓国大統領である。いままだ北朝鮮は韓国をアメリカの傀儡とみているが、文在寅は大統領に就任以来、断絶状態だった対北朝鮮関係を見なおし、接触を試みている。これから紆余曲折はあるだろうが、南北間の人的経済的交流を拡大し、さらに政治的・軍事的なレベルにまで進めば、朝鮮半島の核問題は解決の糸口を見出すことができる。
制裁政策ではにっちもさっちもゆかないいま、私は文在寅路線は現状打開策の有力候補と見るべきだと思う。日本の右派メディアはそれを親北外交と批判するだろうが、韓国が北に接近して何が悪いのだろう。同じ朝鮮(韓)民族ではないか。

安倍政権は、ひたすら北朝鮮の「挑発」を非難し「脅威」を叫んで、アメリカとともに中国に対して北朝鮮制裁強化を求めつづけている。ゆくゆく米中韓と北朝鮮が静かな対話をはじめたらどうするつもりだろうか。またアメリカに追随して「大変結構なこと」とかいうのだろうか。
(2017・06・5記)
2017.06.12  ラマダン(イスラム教の断食月)入りでテロ続発
    イスラム国(IS)が今年もテロ呼びかけ

伊藤力司 (ジャーナリスト)
 

16億人から17億人と推定されている全世界のイスラム教徒(ムスリム)は、今年5月27日から1か月のラマダン(断食月)の間、夜明けから日没まで間一切の飲食を控えている。断食はイスラム教の教祖ムハンマドが信徒に命じた行いである。信徒たちは日のあるうちは一斉に断食をし、日没とともに食事を共にすることでムスリムとしての一体感を強め、さらに苦痛を共有することで自分たちの宗教を再確認し、信仰心を高揚させるのだという。

ムスリムは断食を通じて、宗教的な感情を高ぶらせ善行に励もうとする。イラクとシリアの一部を根拠地にした「イスラム国」(IS)などイスラム過激派は、こうしたラマダンの効用を利用して戦闘員にテロを命じている。果たせるかな、5月31日アフガニスタンの首都カブールの中心部で大規模な爆弾テロが発生して150人以上が死亡。6月3日夜には英国の首都ロンドン中心部でテロ犯3人がワゴン車を暴走させて歩行者を跳ね飛ばし、さらに近くの飲食店街で刃物を使って通行人を殺傷するというテロ事件で7人が死亡、少なくとも48人が負傷した。

英国ではラマダンに入る前の5月22日夜、イングランド中部の大都市マンチェスターのイベント会場で、米有名歌手のコンサート終演直後の群衆を目掛けて爆弾を爆発させ、少なくとも19人が死亡、50人以上が負傷した。このマンチェスター爆破事件と6月3日のロンドン連続テロ事件では、ISがネットを通じて犯行声明を出している。

また世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアではラマダン前の5月24日夜、首都ジャカルタ市内のバスターミナル付近で起きた2度の爆発により警官3人が死亡、警官ら12人が負傷した。現場付近に爆弾を爆発させたテロ犯とみられる男の遺体2体が見つかった。翌日ISが系列メディアのアマク通信を通じて「実行したのはISの兵士だ」と主張した。

一方フィリピン南部のムスリム地域のミンダナオ島マラウイ地区では、5月23日から続く政府軍とISに忠誠を誓う現地ムスリム武装勢力との戦闘で30日までに、一般市民を含む死者が100人を超えたとフィリピン・メディアが報じた。ミンダナオ島とその西方のスルー諸島を根拠地とするイスラム過激派武装組織「アブサヤフ」と「マウテ」はともにISに忠誠を誓っている集団だ。

2003年のブッシュ米大統領によるイラク侵攻で始まった中東の混迷は、2011年に本格化した民衆運動「アラブの春」を通じて中東アラブ世界全域に拡大した。とりわけ2011年3月に始まったシリア内戦は、イスラム過激派を育てる場となった。秩序が崩壊したイラクとシリアを足場に、預言者ムハンマドの後継者という意味の「カリフ」が統治するイスラム国(Islamic State=IS)の樹立を宣言したのが2014年6月のことだった。

以来3年間にわたりISを名乗るテロリストは、フランス、ベルギー、ドイツ、スウェーデンなど、西ヨーロッパで次々に爆弾や自動車暴走によるテロ事件を引き起こし、世界を恐怖に追い込んできた。ごく最近では6月7日、イスラム教シーア派の“ご本尊”とも言うべきイランの首都テヘランの国会議事堂とイラン・イスラム革命の指導者故ホメイニ師を祀る霊廟をISの戦闘員計6人が銃撃や爆弾で襲撃、少なくとも12人が死亡、42人が負傷した。

ISは2014年6月以来イラク第2の都市モスルを占領し、シリア北部の都市ラッカを「首都」と宣言して保持してきた。だが昨年来満を持してイラク中部から北部のIS根拠地を制圧してきたイラク政府軍は本年当初から、イランの革命防衛隊やイラクのシーア派民兵、レバノンのシーア派民兵ヒズボラなどの支援を得て、本格的なモスル解放作戦を進め「モスル陥落は真近か」と言われるに至った。

またIS戦闘員が立てこもるラッカに対する包囲作戦も、ロシア軍の援護を受けたシリア政府軍や現地のクルド人民兵隊などが、米軍を始めとする有志国連合の援護も受けて進展中だ。この包囲作戦に参加しているトルコ軍によると、ラッカの陥落は遠くないという。モスルとラッカからは、一般市民に変装したIS戦闘員が続々と逃亡しつつあると報じられている。

おそらくISは“建国”の2014年6月以来最悪のピンチを迎えているのだろう。劣勢に立っているだけに、イスラム信仰心が高まるラマダンの間に世界中でテロを起こそうと呼びかけているのだろう。参考までに、5月22日のマンチェスターのテロ事件の後ISが出した犯行声明を紹介しよう。

「アッラーのお導きとその恩寵のより、至高至大のアッラーの宗教への報復として、多神教を恐怖させ、ムスリムたちの館への彼らの攻撃に対する反撃として、カリフ国の兵士の1人が英国のマンチェスター市における十字軍の集会のなかで爆発物を置くことに成功した。そこで、放埓なコンサートのためのアリーナの建物において爆弾を爆発させ、およそ30人の十字軍の殺害とその他70人の負傷につながった。アッラーのお許しにより、次にくるものは、十字の崇拝者およびその傀儡たちにとってより強力で、ひどいものとなる。万世の主、アッラーに讃えあれ。(保坂修司訳)

2017.06.10  アフガニスタン 2001年以来最悪の危機に(上)
    首都で最大のテロ、反政府デモ、トランプも及び腰

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)


 アフガニスタンの首都カブールで5月31日に発生した爆弾テロは、死者150人以上、負傷者数百人となり、2001年の米同時多発テロ事件をきっかけとした米国主導のアフガン戦争でタリバン政権が崩壊し、カルザイ政権が樹立されていらい、首都で最悪のテロ事件となった。カブールは厳重な警備下に置かれ、中心部の政府・外交区画はとくに出入りが厳しく制限され、外国の大使館や援助組織の要員も安心して生活できるはずの場所だった。それだけに、大量の爆発物が運び込まれ、爆発されたことへの恐怖の衝撃は深刻で、大使館や援助組織の駐在員多数が争って帰国した。
 犯行組織は、現在まで名乗りを上げていない。中東からアフガニスタンに進出し、拠点を築いてテロを繰り返し始めた宣伝好きの「イスラム国(IS)」も名乗りを上げず、最大の反政府武装勢力のタリバンは関与を否定する一方で、タリバンから離脱したより過激なハッカーニ派の犯行だといっている。
 おそらく、攻撃した組織が狙ったタイミングは、6月6日、7日の2日間、アシュラフ・ガニ大統領が主催してカブールで開いた国際和平会議。2014年に発足したガニ大統領の“挙国一致”政権に参加する政党、パシュトゥン、タジク、ハザラ、ウズベク各民族の政治・武装組織の指導者らと、米国はじめ支援各国の代表、援助機関代表が参加する、いわば危機突破のための国際会議だった。会議は予定通りカブールで開かれたが、大規模テロ事件で出席するはずだった各国代表、大使館員らが参加を取りやめ、あるいは急きょ帰国し、さびしい会合になってしまった。
 そのうえ、事件直後から、首都でガニ大統領の辞任を求める大規模な反政府デモが始まり、アフガニスタンの危機の深さがさらに露呈した。
 ▽政治的危機:アフガニスタンでは2001年9月の米同時多発テロ事件直後の10―11月、米国主導のアフガン戦争でタリバン政権が崩壊。暫定政権、移行政権を経て、04~14年の11年間はカルザイ政権。14年4月の後継大統領選挙では、国内最大民族パシュトゥン人のガニと、パシュトゥン人の父・タジク人の母を持つアブドラが厳しく争った。選挙結果は当初、アブドラの勝利が発表されたが、パシュトゥン人勢力から不正集計だとの激しい反対が起きたため、米国が仲介して選管の集計をやり直し、逆にガニの当選が確定。ガニを大統領、アブドラを対等な立場の官房長官として、各民族の軍閥や有力者が政権の要職を占める“挙国政権”が発足した。米国の支援もあり、当初は順調に進むかにみえたが、間もなくガニ大統領の傲慢、能力不足、民族の違いの悪用などへの不満が高まり、アブドラとの協調関係も失われてしまった。それでもオバマ政権下の米国はガニ大統領を支援してきたが、トランプ政権は少なくともこれまでのところ、米軍増派の方針を一応表明しただけ。ガニ政権への支援の姿勢はあいまいで、対アフガン政策は不明のまま。「イスラム国(IS)」支配地を実験場にして大規模爆風爆弾モアブを投下しただけだ。
 ▽軍事的危機
現在、アフガニスタンの国軍は16万500人、国家警察隊14万8300人。外国からの戦闘支援部隊は米軍8400人だけ。他にNATO諸国の部隊2、3千人程度が国軍の訓練に残留している。しかし、ここ数年、反政府武装勢力タリバンの攻勢が拡大、今年に入ってからは3か月で国軍が1千人以上死亡、4月にはタリバンに攻撃された基地で200人以上の国軍兵士が死亡した戦闘も発生した。アフガン政府が実質的に支配している地域は、2015年末の72%から昨年末の57%に減少したと、米政府は推定している。減少した大部分は、タリバンが支配する地域になった。
かっては米軍とNATO諸国中心の国際支援部隊(ISAF)が計14万人以上いた外国軍隊は、2015年までにほぼ撤退を完了している。
 トランプ米政権発足後、アフガニスタン政府は米軍増強を改めて要請したが、これまでのところ、マクマスター安全保障担当大統領補佐官が3000~5000人の米軍増派に同意しただけ。政権内に増派反対があり、トランプ大統領もアフガンへの軍事介入強化には消極的だといわれている。他のNATO諸国は、アフガンから手を引いた状況。
 日本も多額の資金協力をして、合わせて31万人の国軍と国家警察隊を作り上げた。それなのに、武装勢力は1万人にも満たないといわれるタリバンやその他の武装勢力に国土の半分近くの支配を奪われたのは、なぜなのか。その理由の納得できる説明を読んだことも、聞いたこともないが、米国が支援してきたガニ政権への国民の反感の広がりが、根底にあることだけは確かだ。
(続く)
2017.06.06  社会主義、こんなはずではなかったが
    ――八ヶ岳山麓から(223)――

阿部治平(もと高校教師)


中国の一瞬現れてはすぐに消されてしまうウェブサイト上で、中国の貧しい人々(原文「窮人」)の定義集を発見しました。原作者名がありません。
以前、「我々の父祖はこんな社会をつくるために、抗日戦争を戦い国共内戦を戦って祖国の広野を血で染めたのか」という嘆きを読んだことがありますが、今回も「老百姓(庶民)」のためいきが聞こえてきそうな感じです。
ゴチックのところが原作者のものですが、その内容を、原作者の意図を曲げないように注意して編集・解説してみました。

「窮人」
もともとの名前は労働者階級である
中国の労働者には日本でいう「労働三権」がありません。中国では自主労組を組織することも、賃上げや労働時間短縮などの要求を通すために団体交渉をやったり、争議に入ることもできません。もしストをやれば、スト組織者は反革命、国家転覆罪に問われるかもしれません。日本では労働者は労働三権があるのに、過労死・女性労働問題などでもあまり闘いませんが。

尊称はプロレタリア階級であり、偽称は中国の指導階級である
中国憲法第1条には、中国が「労働者階級が指導し、労働者・農民の同盟を基礎とする人民民主主義独裁の社会主義国家」であるとあります。また人民民主主義独裁」とはプロレタリアート独裁の形式のひとつとしています。

率直にいうと貧乏人、経済学上の定義は低収入階層である
上海などの大都市の2015年の若い人の平均年収はほぼ5万元。円換算で約75万円で、日本の4分の1程度。統計上は毎年賃金は10%程度上昇しています。いま農民工の日当は100元程度、年300日働くとすれば年収は3万元、すなわち45万円程度になります。若い人は地方都市の食堂の仕事でも月4000元程度を要求するようです。大学教師の初任給は月6000元、年収120万円程度。
しかし、ジニ係数を見ればわかるように、中国では所得格差が大きく、平均収入はあまり意味をもちません。上位20%の人の年収が24万元で360万円くらい。上位1%の(といっても1000万人超)の収入は日本人の想像をはるかに越えます。この階層には隠れた収入がGDPの30%はあるといいます。
ちなみに、2011年私の中国での日本語教師としての月収は3000元でヨーロッパ人教師の3分の2。大学に文句をいったら「英語圏からの教師はなかなか得られない。日本人はいくらでも来る。したがってこれは市場原理だ」といいました。じゃ、中国的市場経済のもとでは同一労働同一賃金の原理はどうなっているのでしょうか。

外国での呼び方はブルーカラーで、別名は肉体労働者である
中国史の上では宋朝以後貴族は消滅。支配階級は皇帝と、それに仕える「士大夫」とか「読書人」と呼ばれる官僚階層でした。支配される側は庶民です。「士大夫」は頭を使い、庶民は体を使います。この伝統の力は強力で、「士」と「庶」の関係は今日も普遍的に存在します。いま「庶」が「士」になるのは、大変むずかしい。

愛称は弱勢集団で、あだ名は蟻族である
愛称はともかく、蟻族はよく知られたあだ名です。中国では、2000年前後から中国は大学の定員拡大、新増設政策をとったために、年間700万という大卒者を生み出しています。ところが期待する職にありつけない者が北京・上海などの東部大都市には、100万人前後存在するといわれています。蟻族は大学卒業後、故郷に錦を飾ろうとしてもそうはできず、低賃金労働で生計を立て、郊外の農民工地域「城中村」にある安いアパートの部屋を借り、5,6人でルームシェアをして、読書だの映画だのの文化もレクレーションもない生活を余儀なくされています。

社会学上の定義は、生存しているだけの人である
原文では「生存型生活者」となっています。この典型は鼠族です。蟻族が「城中村」から追い出され、地下室で生活するものをいいます。1960年代中ソ対立激化のころ、毛沢東の「深挖洞・広積糧・不称覇(深く穴を掘り、食糧を蓄え、覇をとなえず)」政策によって、都市ではソ連の空爆対策の防空壕を掘りました。現在広いものは地下商場になりましたが、小さいのは安アパートになり鼠族がすみかとしています。

政治学上の定義は社会の不安定要素である
貧困階層は、中国だけではありませんが、ときどきガス抜きをしないといつ暴れ出すかわからない存在です。政府が「反日」をよびかけると、得たりや応とたちあがり、日系店舗や日本資本の自動車をめちゃめちゃに破壊して、期待以上の業績を上げるわけです。
農村でも政府による農地取上げなどの際、よく暴動が起こりますが、散発的で横の連帯がないので指導者株を逮捕して警察で拷問、虐待をやればたいていは収まります。

常日頃は失業者とよばれ、政府から与えられた名前は一時帰休である
貧困者がすべて失業者ではありませんが、一時帰休のほうは事実上の解雇失業者です。レイオフされた中年労働者の再就職は大変困難なものになっており、若年も含めた全体失業者は約8%あるといいます。
ところが、統計上では、求人が求職をかなり越えています。高失業率と人手不足がなぜ併存するかについては、いろいろな説があります。私は年齢や知識、技術などをめぐる求人側と求職側の要求のミスマッチングがあると思います。

民政部門の定義は生活保護の該当者である
中国の「最低生活保護費」制度は、1997年にようやく都市貧困者を対象として発足しました。その後の経済成長政策によって都市・農村の格差が急激に広がったため、2007年に農村にも「生活保護費」制度が実施されるようになりました。地域によって違いがありますが、2007年では年収857元(1万2800円)以下を対象とし、2011年に年収2300元(約2万8000円)以下に引き上げられました。
その結果、農村部の最低生活保護費受給者は6374万人から1億2238万人を越え、生活保護支給額は一人当り月約60元(約900円)であったものが、2011年には250元(約3050円)になりました。
しかし、郷村の役人がピンハネをやって騒動が起きたことがあり、ところによっては支給額を全村民で分けるといったこともあって、そのまま保護対象者の手にわたるとは限りません。

2017.06.03  巨大ポスター合戦
    -ハンガリーの政治状況(下)

盛田常夫 (経済学者・在ハンガリー)

政権政党の反論ポスター
 野党のポスター攻勢にたいして、政権政党であるFIDESZも反撃し、社会党は億万長者ソロスの支援を受け、JOBBIKはFIDESZから離脱しオルバン首相の政敵となった億万長者シミチカの支援を受けているという巨大ポスターを設置した。
 このポスターの左には、社会党党首ボトゥカを操るソロスが、右にはJOBBIK党首ヴォナを操るシミチカが配置されている。野党の活動資金を提供しているのは、これらの億万長者だというキャンペーンである。
 シミチカはオルバン首相の僚友として、長らくFIDESZのメディア網構築を一手に引き受けてきた。その結果、Hir TVや日刊紙Magyar Nemzet、高速道路建設会社Kozgep、街中の広告塔管理会社Mahirなどを所有し、巨額公共事業を受注し巨額の富を築いてきた。しかし、その成功は、皮肉なことに、オルバン首相との権力争いを勃発させることになり、シミチカは政権政党FIDESZを離れ、反オルバンの姿勢を示すようになった。
盛田原稿(下)用画像1
   ソロスが社会党党首ボトゥカを、シミチカがJOBBIK党首ヴォナを
   操っているという風刺ポスター

 今次のJOBBIKのポスター作戦では、シミチカ所有の広告塔会社Mahirがポスター設置の仕事を請け負った。そこから、JOBBIKのポスターキャンペーンの資金は、シミチカから出ているのではないかと囁かれている。そこからこの反論ポスターが生まれた。
 他方、社会党党首ボトゥカにたいする風刺は、党首に選ばれたボトォカが、「富者がもっと(税を)負担して、公正を実現しよう」というポスターをもじったものである。「億万長者に支えられているのが野党ではないか」というキャンペーンである。
盛田原稿(下)用画像2
 社会党は旧態依然として、貧者の味方を自認して、所得税の累進課税などを主張しているが、政権政党と同様に、野党も現在のハンガリー経済の基本問題の所在を理解していない。だから、相互にちぐはぐなポスター合戦になっている。
 来年の総選挙に備えた前哨戦が、巨大ポスターによる中傷合戦として展開されているのが、今のハンガリーの政治である。
(関連する記事は、http://morita-from-hungary.comを参照されたい)

2017.06.02  巨大ポスター合戦
    -ハンガリーの政治状況(中)

盛田常夫 (経済学者・在ハンガリー)

暴露される腐敗
 右左に関係なく、「長期化する独裁権力は必ず腐敗する」。現ハンガリーの政府を構成する政党FIDESZは、体制展開以後、長期に続いた社会党政権の腐敗に乗じて政権を奪取した。とくに首都ブダペストの社会党の腐敗はひどく、2014年の総選挙では拠点であった首都圏の議席をほとんど失うほどに凋落してしまった。
 社会党の腐敗批判に乗じて権力を得た現政権だが、2期続いているFIDESZ政権の幹部にかかわる腐敗の情報が頻繁に暴露されるようになった。ハンガリーでは、内閣府や省庁のトップがある程度裁量を利かせることができる予算やEU補助金がかなりある。それが政権政党の政治家やその周辺の事業者の私服を肥やしている。自由にできる巨額の資金に手を付けない政治家はいない。何のことはない、社会党時代と大差ない。だから、政治的無関心層が有権者の4割を超える。右であろうが左であろうが、政治家の腐敗に差異などないからである。盛田原稿(中)用画像1
    右がオルバン首相、左がメーサーロシュ町長

 ハンガリー首相オルバンはアルチュートドボズという小さな村に育ち、隣村のフェルチュートで小学校時代を過ごした。そのフェルチュートの現在の町長メーサーロシュ・リューリンツは、2016年現在で1000億Ft(およそ400億円)の資産を保有する長者になった。もちろん、メーサーロシュ町長とオルバン首相は切っても切れない仲にある。事業を営んでいるとはいえ、田舎町の町長がこれほどの巨額の資産を真っ当な事業で稼げるはずがない。巨額の補助金事業を受注した結果である。
2016年に偶然に、メーサーロシュ町長がアドリア海沿岸ザダル港近くに所有している別荘(220万ユーロ)の存在が明らかになった。クロアチアのサッカー選手に貸していた別荘を熱狂的サッカーファンか、あるいはマフィアが襲撃したことから、この別荘の存在が明らかになった。こうやって蓄財したお金を国外の資産購入に充てている。
 他方、オルバン首相だが、彼の父が高速道路の砂利運搬事業や、建築廃材の埋め立て事業で巨額の富を獲得した。オルバン首相は5人の子持ちだが、長女ラーヘルが年間学費58,860スイスフランもするローザンヌの大学に通っていることがメディアで報じられた。ラーヘルは自分たちのお金で学費を捻出したと強弁したが、娘婿ティボルツ・イシュトヴァーンが新設した会社が地方自治体を経由してEU補助金申請を出し、巨額の補助金を獲得して、突然に億万長者になったことも報じられた。
こういう事情から、ブダペスト市内にはオルバン首相とメーサーロシュ町長の顔写真が、大きなポスターで掲示されている。このポスターは極右翼政党とみなされているヨッビック(JOBBIK)が政治キャンペーンとして全国に設置しているもので、「彼らが(公金を)盗んでいる」、「われわれはそれを取り返そう、そして賃金引上げに使おう」と書かれている。
 このJOBBIKのキャンペーンポスターにはいろいろなヴァージョンがあり、同じく巨額の補助金取得の疑いがかけられている内閣府長官ローガンと、やはり同じ嫌疑をかけられているオルバン首相の個人的顧問ハボーニィがセットになっているポスターがある。
盛田原稿(中)用画像2
     右がローガン内閣府長官、左がハボーニィ顧問(「彼らが盗んでいる」)
 ローガンは俗物的な知恵者で、「電気・ガス料金強制値下げ」を発案した功績で内閣府長官のポストを得た。また、ハンガリー国債を30万ユーロ購入すれば、ハンガリーの永住権を取得できるというスキームを発案したのもローガンだとされる。ローガンは主として中国人を相手にしたこのビジネスで儲けるために、永住権付き国債の売買を仲介するオフショア企業を作り、この企業は70億Ftの収益を上げたと言われる。
 2016年10月には知人の結婚式に出席するのにヘリコプターを使い、ベンツの高級車が送迎したことがメディアに暴露された。もちろん、自分のお金は一切使っていない。まさに、成り上がり者である。
ハボーニィは政治家ではなく、もともと芸術短期大学で学んだ彫像家であったが、政治家との個人的関係を利用して蓄財に励み、オルバン首相の個人顧問として、芸術文化の分野の「助言者」として、威勢を張っている。たいした能力もないのに、政治家とのコネで成り上がった人物である。政権政党支持者の間でも、評判は良くない人物として知られている。
なお、ハボーニィはこのポスターの写真が無断で使用されたとして告訴している。

2017.06.01  巨大ポスター合戦
    -ハンガリーの政治状況(上)
 
盛田常夫 (経済学者・在ハンガリー)
              
 ブダペストの中心部を飾っている建築物や街路の構想は、19世紀末から20世紀初頭にかけて作り上げられたものだ。当時の政治家は私財をなげうって、ブダペスト市やハンガリーの国造りに力を注ぎ、百年の時間を超えても人々の感動を生み出す街を創造した。国を創る気概に燃えた政治家や芸術家が、命をかけて仕上げた創造物は、世紀を超える時間を生き続ける。
 これにたいして、現代の政治家はどうだろう。政治は私服を肥やす手段に成り下がり、甘い汁を吸える権力を維持するためなら、甘い言葉で国民を手なずけて延命を図る。そして、権力維持が危うくなると、国外に敵を作って民族主義を煽り、権力の継続を図ろうとする。その点で、日本もヨーロッパも大差ない。

電気・ガス料金の強制値下げ
 ほとんどの人々は経済の仕組みに不案内だから、経済政策で国民を騙すのにそれほどの知恵は要らない。ハンガリー政府は民間企業が経営する電気・ガス会社の料金を強制的に下げさせる法案を作り、政府の介入によって節約できた金額を毎月の料金請求書に記載している。「貴方は政府の料金引下げ政策によって、今月は○○Ftの金額を節約することができました。政府がこの政策を導入してから、貴方が節約できた金額は合算して○○Ftになります」という文言が、毎月の請求書に記載されている。
 27%もの高率の消費税を徴収しながら、電気・ガス料金の数パーセントの引下げ額を毎月、請求書に記載させている。一般消費税率を下げれば、民間企業に電気・ガス料金の値下げを強制しなくても、料金節約分程度の所得を回収することができる。途方もない消費税を徴収しながら、他方で数パーセントの電気・ガス料金の値下げを政府が強制した「成果」を恩着せがましく、毎月の請求書に「政府の政策のお陰」だと記載させている。その請求書を毎月受け取る国民は、政府の慈悲政策に感謝するだろうことが想定されている。国民の無知につけ込んだ、政権政党の典型的なポピュリズム政策である。
 欧州委員会はこのハンガリー政府の政策について、「民間企業への不当な介入であり、政権政党の政治的キャンペーンの日常化の疑いがある」という立場をとっており、その審査が続いている。これにたいして、ハンガリー政府は、「欧州委員会はハンガリーの主権を侵し、ハンガリー政府の政策にケチを付け、国民が享受している利益を奪おうとしている」というキャンペーンを張っている。
 ハンガリー政府は難民・移民の取り扱いをめぐって欧州委員会と対立しているが、難民・移民問題に引っかけて、「欧州委員会は何ごとについても、国民を守るハンガリー政府の政策にケチを付け、ハンガリーの主権にもとづいて施行している政策を撤廃させようとしている」という反欧州委員会キャンペーンを行っている。

1763盛田上ポスター

 これが「ブリュッセルを止めよう。国民対話2017」という政府キャンペーンポスターである。ご丁寧にも、ハンガリー政府は「国民対話」と称して、有権者にアンケート調査の手紙を送り、欧州委員会の政策への賛否を問うている。「政府は欧州委員会の横暴からハンガリー国民を守っている」という印象を植え付けるための政治的キャンペーンである。こういうやり方も、「政権政党の政治的キャンペーン」の疑いがあると調査を受けている。このアンケート調査に回答した有権者は1割にも満たず、そのために、有権者全員に手紙を送付するという税金の無駄遣いが行われている。
それほど欧州委員会の政策と相容れないなら、EUを脱退したらどうかという批判が寄せられるのは当然のことである。しかし、現政権には脱退の意思など一欠片もない。だから、欧州委員会の調査に素直に応じ、勧告を受け入れ、修正する姿勢を崩していない。要するに、国内向けのキャンペーンと欧州委員会との対外交渉を使い分ける二枚舌政策を行っている。これがハンガリー政府のポピュリズム政策である。

2017.05.29  「貧しい人々の犠牲で金持ちをさらに富ませるトランプ予算案」(Wポスト)
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

トランプ米大統領は23日、2018年度(今年10月―来年9月)の連邦予算案を発表した。米議会史上最低の支持率の大統領が、貧しい多数の国民の社会保障を大幅に削り、それで浮かせた予算で少数の裕福な国民への資産税と累進課税を大幅に軽減するとともに、軍事予算を大幅に増額する。今年度比で、国防予算9%増、国内治安予算7%、退役軍人予算6%増。メキシコとの国境の壁建設も進める計画だ。
昨年の大統領選挙運動でトランプは、民主党のクリントン候補を、ウオール街の金持ちたちの代表だと激しく攻撃し、自分は貧しいアメリカ人の仕事と収入を増やすと約束、とくに中西部の貧しい白人層に支持を広げて勝利したといわれている。就任後100日が過ぎたが、一向にプアー・ホワイトと呼ばれる貧しい人たちの仕事や、賃金が増える兆しもなく、オバマ政権の努力で拡大した医療保険、貧しい人たちへの生活支援が、早くもごっそり奪われようとしている。トランプに投票した、貧しい白人層の人たちは、いまでもトランプを支持し,期待をつないでいるのだろうか。
長い年月にわたって民主主義社会を築いてきたアメリカ合衆国で、こんなことが起こっていいのだろうか。続くのだろうか。ここでは、米国のメディアがどう報道したかを、ニューヨーク・タイムズとともに国際的にも高く信頼されているワシントン・ポスト2017.5.23日付けの報道のごく一部を、紹介したい。ニュースと自社の主張、分析、識者の発言を豊富に報道しているので、5月23日の本紙のニュースと電子版での主解説をそれぞれ最初の部分だけ紹介しよう。
▼ワシントン・ポスト本紙
トランプの予算案 社会のセーフティ・ネットからどんなに削減するのか
デニス・ルー、キム・ソッフン記者

23日、トランプ大統領は、2018年度予算案を発表した。それによると、多くの救貧プログラムが大幅にカットされ、フード・スタンプの4分の1以上、子供健康保険の19%が削られる。
さまざまな貧困者支援事業の大幅なカットを第一にしようとしているこの予算案は、トランプが各省庁や国防当局に、現行予算の変更を求める私案を示してから2か月たっている。最大の予算カットは、芸術、科学研究、対外援助である。
(注)フード・スタンプ:4千万人以上の低所得者への食費支援

主な予算削減項目 
SNAP(フード・スタンプ計画) 現行計画(10年間で6、720億ドル)を4、787億ドルに減額-28.8%、
CHIP(子供健康保険、600万人の低所得者の子供が受給) -19.4%
MEDICAID(低所得者7,700万人への公的医療保険) -15.5%
TANF(極低所得者の両親と子供への経済支援)-13.1%
失業保険 ―11.5%
低所得労働者減税 ―8.3%

▼ワシントン・ポスト電子版
貧しい人々の犠牲で金持ちをさらに富ませるトランプ予算
マックス・ユーレンフロウンド(政治ニューレター発行・執筆者)

オバマ前大統領にとって、金持ちの米国民と貧乏な米国民を隔てているギャップは、彼が2013年の演説で述べたように「われわれの時代の、頑強な挑戦対象」だった。彼と彼の政権は8年にわたり、不平等の縮小を国家政策の中心的な目標として、野党共和党や経済的現実に立ち向かってきた。
にもかかわらず、米国はもっとも不平等な先進国の一つなのだが、この23日にトランプ大統領は、彼の前任者の不平等縮小への努力を決定的に放棄してしまった。
彼の最初の連邦予算案に示された政策は、金持ちの収入を増やし、その一方で貧乏人から奪うことになるだろう。
トランプは税制改革案を明らかにし、それには 主に大金持ち納税者が支払ってきた不動産税と累進課税の上限引き下げによる何兆ドルもの縮小ないし廃止が含まれる。彼はメディケイド(低所得者への公的連邦医療保険)への支出を大幅に縮小するとともに、各州に対しフード・スタンプはじめ主要な貧困支援事業での厳しい適用制限を可能にする。
2017.05.22  大使館のエルサレム移転、入植地新規建設を支持するな
  ―トランプのイスラエル、パレスチナ訪問

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

トランプ米大統領は、22,23両日、イスラエルとパレスチナを訪問、ネタニヤフ・イスラエル首相、アッバス・パレスチナ自治政府議長と会談する。

トランプの訪問に先立って、トランプの親しい友人で、トランプ人事で真っ先に駐イスラエル大使に任命された、ユダヤ系アメリカ人のダヴィッド・フリードマンが15日テルアビブの米大使館に赴任した。彼は、極め付きの親イスラエル派の破産処理専門の弁護士。かねてから、パレスチナ紛争解決のため米国を含め国際社会が堅持してきた、イスラエル・パレスチナ2国家による解決方式を否定し、イスラエル一国による全パレスチナ支配を主張してきた。フリードマンはすぐテルアビブからエルサレムに向かい、ユダヤ教徒の最重要な聖地である西壁(嘆きの壁)で祈祷した。

トランプは選挙中、米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転を選挙公約として発言、ユダヤ系保守派の喝采を浴びたが、就任後、訪米したネタニヤフ首相には大使館の移転を公言せず、その代わりのように、米国が公式には堅持してきたイスラエル・パレスチナ2国家による解決方式にはこだわらないと表明した。それは、パレスチナをユダヤ人国家、アラブ人国家に2分割し、エルサレムはどちらにも属さない国際管理都市とすることを1947年に国連総会が決定し、世界各国が尊重してきたパレスチナ紛争解決方式を否定する発言だった。
48年のイスラエル独立、第1次戦争の後、67年の第3次戦争でイスラエルは東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザのほぼパレスチナ全土を占領、東エルサレムを一方的に併合し、西エルサレムと一体化して首都宣言した。しかし80年代から、イスラエル占領からの解放を目指すパレスチナ人の抵抗闘争が高まり、93年にラビン・イスラル首相とアラファト・パレスチナ解放機構(PLO)議長がワシントンで「パレスチナ暫定自治協定」に調印、イスラエルは67年戦争占領地から順次撤退することとなり、パレスチナ人の自治政府が発足した。しかしその後も、占領地のいたるところに軍に守られたユダヤ人入植地が建設され、ヨルダン川西岸地区、東エルサレムはひどい虫食い状態になっていった。
さらに95年、イスラエルでラビン首相がユダヤ教過激派の青年に暗殺され、09年に強硬な右派のネタニヤフが首相に就任、自治地域と入植地やイスラエル領との間に高い壁を築いていった。

トランプ就任後の今年3月30日、イスラエル閣議は、東エルサレムに計2000棟の住宅建設を決定した。トランプ当選直後にネタニヤフ首相が決めた、5500戸の建設計画の一部だ。大規模な住宅地建設としては、約20年ぶりとなる。このイスラエルの入植地での建設計画について、国連安保理は昨年12月、ヨルダン川西岸地区と東エルサレムでの新規入植地建設は違法だとする決議を採択している(米国は棄権)。
トランプは、安倍首相に続いて訪米したネタニヤフに、2国間解決方式にこだわらないと表明、ネタニヤフを喜ばせたが、新入植地建設にはブレーキをかけるような発言をしたと伝えられた。ネタニヤフは、トランプ発言を無視したか、トランプの真意を承知していたのだ。今回のイスラエル訪問に、トランプはどんな土産を持っていくのだろうか。国際社会が一致して拒否してきた東エルサレムの領土化、首都宣言を米国が承認することになる大使館移転は、絶対に許せない。
2017.05.19  習近平は北朝鮮の核ミサイル問題を解決できるか
 ――八ヶ岳山麓から(222)――

阿部治平(もと高校教師)

いいかげんな歴史認識
4月の米中会談のおり習近平中国主席はトランプ米大統領に、中国と韓国(コリア)の歴史について、「コリアは実は中国の一部だったことがある」と語ったと伝えられた(ウォールストリート・ジャーナル、2017・04・12)。
私はこれには驚いた。もちろん韓国の民間は色めき立ち、政府も反発した。だが米中両国政府とも習発言をはっきり否定しなかった。中国外交部報道官にいたっては、「韓国人はこれを心配する必要はない」という人を食った発言をした。私は、これを習発言が実際にあったことを示すものと受け取った。
漢王朝が紀元前後、朝鮮半島北半分を楽浪郡・帯方郡として支配したことはある。だが1259年モンゴルが高麗を征服し、20世紀初頭から1945年まで日本が植民地にしたほかに、朝鮮半島がまるごと外国の直轄領になった歴史はない。朝鮮王朝は、ベトナム・ビルマ・琉球などとともに明清王朝の冊封体制下にあったが、実際には独立していた。たぶん習近平は青春時代が文化大革命期に当り勉強する時間がなくて、ペキンの横町の老百姓(庶民)レベルの朝鮮認識しか持てなかったのである。
だが習発言は今日彼が考えているよりは、はるかに大きな重みをもっている。いいかげんな知識で朝鮮民族を見下してしまったのだから。

核心的利益はゆずらない
習近平の「中国の『核心的利益』を断固守る」という路線は、トランプの「アメリカ・ファースト」と一脈通じるものがある。習近平の「夢」はアジア、ひいては世界における覇者、アメリカと覇権を分かち合える国家であり、トランプは白人中心の強いアメリカの再構築である。
米中首脳会談においては、北朝鮮の核・ミサイル対策で「金王朝に最大限の圧力をかけるが、現体制はつぶさない」という方針で、習近平とトランプとは一致した。そこで習近平は北の核・ミサイル廃棄を請け負い、トランプはただちに貿易問題で譲歩し、中国を為替操作国とするのを中止した。
とはいえ、米中間には思惑において大きな違いがある。アメリカは、本心では北の体制崩壊を望むが、中国は本気で朝鮮労働党の一党体制を守ろうとしている。
その理由は、北の体制崩壊はただちに中国共産党の一党支配体制の危機をもたらすからである。北の金氏支配体制は中国にとって「核心的利益」である。
だから、人民日報の国際版環球時報「社評」は、アメリカが武力介入して北朝鮮の体制を崩壊させ、金氏王朝をつぶすことには反対して「米韓両軍が38度線を越えて北朝鮮に軍事進攻した場合は、中国はすぐに必要な軍事介入を行うべし」と主張した(環球時報2017・4・22)。ここが重要だと思う。
中国が北の核・ミサイル廃棄を求めるのは、北朝鮮の核保有によって、核不拡散条約NPTで保障された中国の核保有大国としての地位があやうくなり、同時に中朝両国が「血盟」関係からじょじょに敵対的に変化したいま、北の核とミサイルの開発は中国にとっても脅威となるからである。
過去、北の核実験は中朝国境から70キロという場所で行われ、核実験による地震で中国側の住民が逃げ出すという事態があった。そのうえずさんな核管理による放射能汚染も懸念材料である。
中国は韓国に対しても、その軍事力強化が中国の「核心的利益」の脅威になると判断すれば、友好関係という外衣をさっぱりと投げ捨て、断然強硬な対抗手段にでる。朴槿恵政権がアメリカのTHAADミサイル導入を容認すると、ただちに韓国からの輸入規制をおこない、韓流を排除し韓国への観光旅行を停止した。さらにはロッテグループがTHAAD配備用地を提供したことから、ロッテの菓子類への規制を強化し、老百姓にロッテ・ボイコットをやらせている。
こうして中韓蜜月時代は簡単に終った。このほど韓国大統領に就任した文在寅がTHAADミサイル維持やむなしとしたら、中韓関係のさらなる悪化は目に見えている。

南北分断こそ
朝鮮半島大衆の願いに反して、中国は南北統一を望まない。なぜか。
かりに北朝鮮主導で統一国家ができたとき、核と大陸間弾道ミサイルをもつうえに韓国の経済力をそなえた国家ができあがる。南主導ならば、鴨緑江・図們(豆満)江国境の中国の弱い腹部に、やがては中国よりは生活水準の高い民衆と民主主義政治の影響がおよぶだろう。
南北いずれの主導にせよ、統一国家は容易に中国のいうことを聞かない、完全な自立国家になるはずだ。そのうえ中国国内には、延辺朝鮮族自治州あたりを中心に統一朝鮮との統合を要求する動きが必ず生まれる。それは必然的に中国国内の他の少数民族運動を激励する。
だから中国にとっては、南北分断状態が好ましい。金氏一党支配のまま、緩衝国として北朝鮮を存続させ、中国主導で北の核を取り除いて骨抜きにし、北に改革開放路線をとらせられれば理想的である。

交渉相手をバカにしては
中国包囲網を築こうとした安倍政権の努力空しく、東アジアでの中国の急速な台頭とアメリカの覇権後退は否定のしようがない。だが中国がこの勢いで北の核・ミサイル廃棄をなしとげることができるだろうか。
中国首脳の意を受けた環球時報「社評」は、北朝鮮に対して「核とミサイル開発の一時停止から核の廃棄に進み対外開放の道を選ぶならば、中国が現体制を維持してやる」という論調で一貫している。
これだけでも北にとっては屈辱的なのに、中国はアメリカに尻を叩かれて「いうことを聞かないと食料や石油など戦略物資の貿易を制限し、経済の命脈を止めるぞ」と締上げる。
中国はこのように、朝鮮半島の両国とりわけ北朝鮮にたいしてほとんど外交儀礼を無視した威圧的言論を展開してきた。北が中国を名指しで非難し、「裏切り者」呼ばわりするのは自然のなりゆきである。5月14日中国が新たな世界秩序を構築しようとする「一帯一路」首脳会議開会の朝、金正恩がミサイルをぶっ放したのは、強烈な憤懣を爆発させたものである。
北朝鮮が求めているのは、中国の庇護ではない。完全な平等の中朝関係であり、アメリカとの直接対話であり、核兵器の保有が北朝鮮の絶対的独立を保証し、北が自由にふるまうことを国際社会が認めることである。
いままで内政の混乱から発言できなかった韓国も、これからは南北問題の当事者としてふるまうだろう。文在寅は蚊帳の外に置かれるのに甘んじることなく、米中露といった大国による問題解決を極力避け、主体的に北との直接交渉を追求するだろう。

いばらの道
中国は一時の成功によって自らを覇者と思いこみ、あまりに朝鮮民族の誇りを傷つけるふるまいにでた。裏ではどんな取引がされているかわからないが、表に出た限りでは、中国は北の反発によっていまや騎虎の勢い、降りるに降りられない状況に陥っているのではないか。
「金正恩は被害妄想だ」という米国連大使の発言があったが、アメリカの外交官がこんなことを言っているうちは何も生まれない。北朝鮮はせっせと核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイルの完成に精を出すだろう。そしてまた我々を震撼させるのである。
以前にも触れたが、中国が手を焼いているいま、結局はアメリカが北朝鮮に歩み寄って、韓国とともに北朝鮮と直接対話し、「核・ミサイル」と「米軍の朝鮮半島からの撤退」を材料に交渉することのほか道はないとおもう。それを軽佻浮薄のトランプ大統領のアメリカにできるか、これがまた大きな疑問である。