2020.03.29  「本日休載」

今日03月29日(日)は休載します。

リベラル21編集委員会

2020.03.28 内容ないコロナ首相会見に抗議広がる
日本マスコミ文化情報労組(MIC)9組合が共同声明

隅井孝雄 (ジャーナリスト)

 コロナウイルス感染が広がり続けている3月14日、安倍首相はコロナ特措法の成立を受けて2度目の記者会見を行った。前回(2/29)の会見がわずか34分で打ち切ったことを批判されたが、今回は18分増えて52分になった。進行役の長谷川栄一内閣広報官が約44分で会見を打ち切ろうとしたが、「これで記者会見と呼べるか」、「質問まだあり」など記者の声が飛び、会場は騒然とした。
 結局、安倍首相の「まあいいじゃないか」という一言もあり、最終的に12人が質問した(前回、質問記者は5人にとどまった。しかし、首相が会見場を後にした時にも、会見を続けるよう求める記者の声が相次いだ)。
 今回の首相記者会見にあたっては、事前に官邸記者クラブの幹事社、東京新聞と共同通信が官邸報道室に対し、十分な時間を取り、多くの質問に答えるよう要望していた。しかし、実際には多くの質問に答えることなく、手を挙げる記者たちを残して、事実上の打ち切りだったといえる。
 なお、NHKはこの記者会見の中継をしたが、途中で中継を打ち切った。その直後に長谷川内閣広報官が会見を打ち切りしようとした。このことから、NHKと長谷川内閣広報官の間で、事前に会見時間について密約があったのではないかとみられる。

 ▼突然の休校要請、判断根拠提示されず一方的打ち切り
 2月29日、新型コロナウイルスへの政府の対応に関する安倍晋三首相の記者会見は突然の休校要請だったが、記者会見の時間はわずか34分。「まだ質問があります」という声を司会の長谷川内閣広報官は無視して会見は打ち切られた。安倍首相は自宅へ。
 「まだ質問があります」と声を挙げたジャーナリストの江川紹子氏は、以下の文面のツイッターを連続投稿した。
 「安倍首相の記者会見、一生懸命“まだ聞きたいことがあります”と訴えたけど、事前に指名されて質問も提出していたらしい大手メディアの記者に対して、用意されていた原稿読んで終わりでした。」(江川紹子)
 「専門家会議では議論してない全国一斉休校要請について、他の専門家に相談したのか、今回の判断した根拠やエビデンスは何か、それに伴う弊害やリスクとの検討はどのようにやったのか、期待される効果や獲得目標は何か…その他いろいろ聞きたいことはあったんだけど」(江川紹子)
 ▼マスコミ労組など、十分な時間と質問できる時間を要求、署名3万人超える
 朝日新聞と毎日新聞は会見の翌日、15日の紙面で、記者会見打ち切りの経過を詳報したことも注目される。政府の記者会見に対する、不誠実な対応は、メディアはもとより市民の間にも批判が広がっている。
 3月18日には「日本マスコミ文化情報労組(MIC)の議長、南彰新聞労連委員長(朝日新聞記者)、と「国会パブリックビューイング」の代表、上西充子法政大学教授が、日本記者クラブで会見し、安倍首相に十分な時間を確保し、質問を求めるジャーナリストの多くに丁寧に答えるよう要望した。
 MICはこのところ安倍首相の会見が短時間で、挙手があるにもかかわらず打ち切られる例が続いていること、官邸クラブで東京新聞望月記者ら特定記者に全く答えないなどの事態が続いていることなどから、「オープンな記者会見を求める」署名運動を行っており、第一陣として12日に3万3000人分の署名を官邸に提出している。
 南MIC議長は「為政者、権力者の一方的な発信を防ぐためには、会見で記者が多角的に質問することが重要だ」と指摘、「会見の主導権を首相官邸に握られている。再質問もできる十分な時間を確保し、フリーの記者なども幅広く参加できる形で実施すべきだ」と述べた。
 また国会パブリックビューイングの上西教授は、「記者会見は国会の議論と同様の重要性を持つ。記者会見の実情も可視化され、ジャーナリズムの役割を発揮できるようになるため連携していきたい」と述べた。
 MICは3月18日付で「市民の疑問を解消する首相への質問機会を取り戻そう」という加盟9組合の共同声明を発表した。MICの加盟組合は、新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労の9全国単産。






2020.03.27 ヤマアラシに見習い猫に学ぶ
           私たちに本当に必要なものは何?

杜 海樹(フリーライター)

  心理学の方面で使われることも多い“ヤマアラシのジレンマ”という有名な寓話がある。ヤマアラシとは、体の大部分を鋭い針毛で覆われた小動物で、大概の動物園に行けば目にすることができる動物だ。そのヤマアラシは、冬の寒さを凌ぐ時、他の動物同様に仲間同士が身を寄せ合って暖を取るというのだが、体毛が針毛であることから、近づきすぎるとお互いを針で刺し合う結果となってしまい暖を取るどころではなくなってしまう。そうかといって離れていては寒さは防げない。ヤマアラシは近づけば痛いし遠ざかれば寒いという葛藤に悩まされることになる訳だが、次第に中間点というか双方が許容できる距離を見つけて安定していくという話だ。現在のヤマアラシはというと、お互い争うことなく針毛を折り畳んで皆仲良く並んで温々と暖まっているという。人間社会にもこうした芸当が当たり前の様にほしいところだ。
 
 かつて、宮城県石巻市沖の田代島という小さな島に“垂れ耳ジャック”という名の人気者の猫がいた。片耳がペコンと垂れていたことからそう呼ばれていた猫で、人間のアイドル歌手顔負けの人気があり、猫好きの間ではかなり名の通った猫であった。人気者の猫というと、丸々と太っていて可愛らしいとか、子猫の様に甘えてくる等のイメージで想像されるかと思うが、ジャックの場合は全く違っていた。その風貌は人気という言葉から連想するには余りにもかけ離れていて、常にオドオド、毛はボサボサ、隅っこ暮らしの毎日・・・といったとても残念な雰囲気満々の猫であった。だが、そんなジャックを人々は次々と応援したのであった。ジャックの姿は、どこか公園の片隅に佇むホームレスの様でもあり会社の隅に追い込まれた窓際族の様でもありで、存在し続けていること自体が人気の源泉であったという珍しい猫であった。人間にもジャックのような魅力がほしいところだ。

 そのジャックの棲んでいた田代島は別名“猫の楽園”とも呼ばれている猫島だ。元々は養蚕のネズミよけとして猫が飼われていたというが、次第に半野生化し、現在は漁業の守護神的存在として島の地域猫として暮らしているという。その田代島に、2011年3月11日、大津波が襲った。島は10メートル程の波にのまれたという。震災当時、島の猫たちはどうなった…という心配の声が飛び交った訳だが、何と猫たちは真っ先に高台へと走って逃げ、ほとんどの猫たちが無事だったという。断っておくが、島の猫たちに大津波の経験があるわけもなく、ましてや避難訓練など受けたことは当然ない。地震の後には津波が来るとか、高台が安全だとか誰かに教えられた訳ではない。それにもかかわらず高台へ一目散に逃げたというのだから驚きだ。人間にも猫の様な基本性能がほしいところだ。
2020.03.26 都内で開催の「ヒロシマ連続講座」が100回に
   5年目を迎えた元高校教員の試み

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 2016年から、東京都内で続けられてきた「ヒロシマ連続講座」が、3月21日にあった例会で100回になった。都内在住の元高校教員が、「原爆や戦争の被害について理解を深めよう」という狙いで始めた、首都圏在住者を対象とする一種の学習会だが、一市民が主宰する原爆や戦争に関する講座がこれほど長期にわたって続いてきた例は極めて珍しい。

 原爆や戦争の被害について理解を深めるために
 「ヒロシマ連続講座」を始めたのは、東京都立川市在住の竹内良男さん(70歳)だ。
 東京で高校教員をしていた竹内さんは、30数年前、修学旅行の生徒たちを引率して広島を訪れた。その時、被爆者の証言を聞き、衝撃を受ける。それを機に、悲惨極まる原爆被爆の実相をもっと知りたいと、広島、長崎を訪れるようになった。
 退職後も広島を訪れ、慰霊碑を回ったり、被爆者の証言に耳を傾け続けた。そのかたわら、希望者を募って、慰霊碑や原爆や戦争に関する遺跡を巡るフィールドワークを組織するなどの活動にも取り組んできた。こうした活動による竹内さんの“広島詣で”はすでに100回を超える。

 こうした活動の中で、竹内さんが痛感したのは、「広島から遠のくほど人々のヒロシマへの関心は薄れる」ということだった。そして、こう思う。「首都圏の人たちにもヒロシマに関心をもってもらうにはどうしたらいいだろうか」
 そこで、思いついたのが「ヒロシマ連続講座」だった。被爆者や研究者、ジャーナリスト、平和運動関係者らを招き、原爆被害や戦争の実態について話してもらう。そうすれば、受講者は広島でどんなことがあったのか理解してもらえる。「そればかりか、講座は被爆体験や戦争体験を次の世代に伝える場となるかもしれない」。竹内さんはそう考えた。
 
 会場は北区のJR山手線駒込駅近くの愛恵ビル3階(公益財団法人・愛恵福祉支援財団)にある貸し会議室。講座開講日は土曜日の午後で、月に1~3回。講座のテーマと講師は毎回、竹内さんが自ら選定する。

 原爆以外の多彩なテーマも取り上げる
 第1回講座は2016年1月23日で、テーマは「広島・原爆供養塔」、講師はジャーナリストの堀川惠子さん。広島市の平和記念公園の片隅にある原爆供養塔に祭られた7万人の遺骨をめぐる謎に迫った話だった。
 以来、さまざまなテーマが取り上げてきた。それは、原爆に関わるテーマに留まらず、戦争がからむあらゆるテーマに及び、その多彩さに目を見張らせられる。
 例えば――広島の「黒い雨」、原爆で死んだ少年少女たち、脱走アメリカ兵援助、人間魚雷「伏龍」、韓国の被爆者たち、第五福竜丸事件、「原爆の図」巡回展、韓国人BC級戦犯の訴え、丸山眞男と原爆、東京大空襲、日本国憲法、五日市憲法草案、大学と戦争、原水爆禁止署名運動、足尾銅山・谷中村、昭和天皇と戦争、拉孟全滅戦、アウシュヴィッツ、南京事件、原爆と部落差別、「この世界の片隅に」を読み解く、シベリア抑留、炭鉱と戦争、日本の核開発、長崎で被爆した朝鮮人「徴用工」、関東大震災と朝鮮人虐殺、学童集団疎開、ブラジルの被爆者たち……

 講座は1年間で終えるつもりだった。が、「貴重な話が聞けてよかった」「もっと続けて」との声が寄せられたため、止めるわけにもゆかず、ずっと続けてきたという。そして、竹内さんは、こう付け加える。「被爆から75年。被爆者の高齢化が進んでいるので、今聞いておかねばならないことが山ほどある。そう思うと被爆体験を聴ける講座はやめられない」
 これまでの講座参加者は約2150人にのぼる。

 核セミナーと核問題討論会
 私の記憶によれば、戦後この方、市民が中心となった、核問題をテーマとした学習会的な催しがいくつかあった。とくに記憶に残っているのは、次の二つだ。
 一つは、東京の市民グループ「原爆体験を伝える会」が、1975年の2月10日から4月14日までの間に東京・市ヶ谷の日本YMCAで開いた連続・核セミナー「原爆から原発まで」である。これは「ヒロシマ・ナガサキの悲劇から三十年たったいま、私たちをとりまく<核状況>はますます悪化している。米ソを始めとする大国の核競争は止むことを知らず、インドの核実験は世界的な核拡散の口火を切ったに等しい。そして『核エネルギーの平和的利用』の名による原子力発電所の建設計画は、それがはらむあらゆる危険にもかかわらず推し進められている。私たちはヒロシマ・ナガサキの国民的体験から本当に教訓を学んだといえるのだろうか」(同会編『原爆から原発まで―核セミナーの記録』<アグネ刊>)という問題意識を基に同会が10回にわたって開いたセミナーだった。21人の講師とⅠ団体代表が、10の課題について講演した。
 原爆体験を伝える会は、国際政治学者の袖井林二郎、原爆文献研究家・詩人の長岡弘芳の両氏らが中心となってつくられた市民グループで、1970年代から80年代にかけて、原爆体験を内外に紹介する活動をおこなった。
 
 もう一つは、1981年から82年にかけて東京・神田の教育会館や渋谷の婦人会館を会場に13回にわたって続けられた「忘れまいぞ核問題討論会」である。82年6月の第2回国連軍縮特別総会を前にして、日本国民の間に核兵器完全禁止の機運を盛り上げようという狙いから計画された、市民のための学習会だった。主導したのは評論家の陸井三郎、物理学者の服部学の両氏と市民団体代表。講師は学者、研究者らで、会場には生協組合員や地域婦人会の会員らがつめかけた。

 どちらも、市民がグループで取り組んだ催しだった。それらに比べると、「ヒロシマ連続講座」を1人で仕切る竹内さんの奮闘ぶりが際立つ。これも、ヒロシマに寄せる思いの強さ、深さから生み出されたものだろうか。

 ヒロシマ講座は資料代1000円。だれでも参加できるが、事前申込みが必要。申込先はqq2g2vdd@vanilla.ocn.ne.jp 竹内良男さん。
 次回の講座(第101回)は4月4日(土)午後1時から。テーマは「満蒙開拓とは何だったのか?」である。

元高校教師のヒロシマ
第98回ヒロシマ連続講座(2020年2月15日、東京都北区で)

<筆者追記>この記事を発表後、講座主宰者から「(新型コロナウイルスを巡る)このところの状況を考えて4月4日の講座は延期することにしました」との連絡がありました。

2020.03.25 新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたもの
             ――八ヶ岳山麓から(309)――

阿部治平 (もと高校教師)

中国でも日本同様、新型コロナウイルスの感染拡大が庶民の経済に大きな打撃を与えている。なかでも最下層の農民工(出稼ぎ農民)の生活は深刻な影響を受けている。
3月12日「財新」ネットは、あるボランティア団体が調査した農民工の生活に関する記事を掲載した。以下、私見を交えてこの記事の要約を記す。

同記事によると、調査対象の農民工46戸のうち、3分の1が仕事に復帰できただけであった。復帰したとはいえ、勤め先が操業時間を短縮している場合、たいてい収入は10~20%減少している。他方仕事に復帰できないものは、すでに借金に頼る生活をしており、高利の借金に巻き込まれたものもいる。46戸のうち、8割は非正規就業であり、その日暮らしである。30戸は春節に帰郷しなかったが、いま彼らにできることといったら、仕事を待つことだけだという。
  注)「農民工」とは、中国の戸籍制度の農村戸籍を持ち、原籍地に土地を持っている
    が、農村を離れて都市で働く労働力のことである。東部臨海大都市には100万単
    位で存在し、すでにその第二世代が一半を占めるという。労働条件は劣悪、賃金  
      は都市戸籍労働者の半分。就業・ 医療・年金・教育などの面では「制度的差別」
    が存在しているうえ、都市住民の彼らに対する差別意識は強烈で、彼らに対する
    同情心はあまり期待できない。

帰郷した16戸の中で9戸が出稼ぎ先に戻った。残りの農民工は、帰るためのバスがないとか、北京で住むアパートを借りる当てがないとかで、依然郷里にとどまっている。
さる「保母」斡旋会社によれば、「保母」のほとんど2分の1が春節に帰郷したが、帰ってきたものは5分の1にすぎない。北京に戻っても2週間は隔離されるから仕事を探すことができない。また(村落は新型コロナウイルスを警戒して封鎖しているから)「保母」によっては、村から出ることができないひともいる。
  注)「保母」とは、家事労働に従事する女性農民工をさす。

農民工によっては貯金をほとんど使いつくし、親戚友人からカネを借り、あるいはクレジットカードの支出超過で生活を維持している。ある人は北京に戻ったものの元の職場の喫茶店はお客が少ないために全面的に開店できない。この人はたちまち窮状に陥った。
「今手もとにカネがない。ここのところスマホの『支付宝』でカネを使っているが、私はもう500元余り使った。今月末までに銀行口座に入れるカネがない、来月はどうすればよいか。私の周りの同郷のものはみんな同じようなやり方でカネを使っている。仕方ない。飯を食わないとどうしようもないから」
  注)「支付宝」は、アリババのオンライン決済サービスで、先にスマホで買物をし、次
      の月末に銀行口座から自動的に引き落として決済する仕組みである 。
少額貸付のAPP(不明――阿部)がある。銀行よりも低金利で、1万元まで借りられる。だが、これを知らない人も多いようだ。借金自殺、夜逃げしたのは一人二人ではない。

困窮農民工は新コロナウイルス感染拡大によって二重三重の圧力に直面している。例えば以前からの話だが、原則的に義務教育は、本籍地の学校に入る制度になっている。農民工の児童は出稼ぎ先の都市の小学校に入学することはできず、出稼ぎ者の子弟むけの小学校に上がらなければならない。これはいわば私学である。学校は学費収入がなければ経営がなりたたない。ところが農民工の収入は新型コロナウイルスの感染拡大以後、減少している。子供を教育したい農民工にしてれみれば、1ヶ月500元の学費に給食費を加えれば、重い負担となる。
ある農民工を援助するボランティアは「政府がもっとマトを得た施策をするよう希望する。例えばこれら子供の学費の減免措置をとるとか、居住区に頼んで貧窮農民工戸に援助を提供してもらうとか」と嘆いている。

新型コロナウイルス感染が拡大してから、中国では児童生徒の登校をやめさせ、オンライン授業をやっている(日本ではこれを高く評価する人がいるが、実際には農村牧野では電波が届かないことがある)。都市に暮らす農民工家庭では電波問題はもちろんないが、農民工のなかにはパソコンがないうえに、ネットにも入っていないものもいて、多くの子供が正常なオンライン授業を受けられない。時には子供たちがスマホを順番で使うこともある。スマホにせよパソコンにせよ、ネット費用も家庭によってはばかにならない。
またオンライン授業は授業時間が短く、教師との問答が少ないという。しかもこの方法では保護者の援助を必要とすることが多いが、これにはある程度の学力・教養が必要だ。農民工のかなりはそれが足りていない。
「子供に勉強は終わったかと聞くと、終わったという。俺は学問がないからいつもだまされているんじゃないかと思うが、本当のところはわからない」
「先生がおたくの娘は勉強ができないというが、俺は娘を叱って泣かせるだけだ。宿題をやり直して先生に提出させるが、それが正しいのかどうかわからない。娘はよそのうちの両親は子供に教えるのにパパは私に教えないと不平を言う」  
1800個のノートパソコンを貧窮家庭に配った篤志家もいる。だが社会の貧窮農民工戸に対する関心は依然として十分ではないという。

関係当局も農民工の貧窮問題を知らないわけではない。
国務院扶貧弁公室総合局局長蘇国霞は、3月5日「(農村からの)労働力外出総人口のうち貧窮戸は1420万。新コロナウイルス感染状況がもたらしたヒト、モノの流動は制限を受けて、去年の52%だった。それは貧窮家庭の収入を減らしてしまった。これが長期にわたるとなれば影響はもっと大きくなる」と述べた。
また国家扶貧弁公室と銀行保証監査会は、新型コロナウイルス感染の影響を受けたために借金を返すことができない貧国家庭に対しては、(金融機関からの)借金の半年の延期を認め、不良貸付けの記録対象とはしないという政策を出したという(これがどのくらい末端の貧窮農民を救うか保証の限りではない)。
蘇国霞氏は、「今年は扶貧問題(貧困救済の課題)仕上げの年である。中国の貧困人口は2012年末の9899万人から2019年末の551万人にまで減少した。しかし学者の多くは「農村の最低収入20%の階層人口は大量に貧困線前後に滞留している。彼ら(の家庭経済)は非常に脆弱でいつ貧乏に戻るかわからないのだから軽視してはならないという」と主張している。蘇氏もこれを肯定して、貧困状態から脱出したとされた人々が容易に再び貧困線以下に転落する可能性を認めている。
  注)貧困線は、中央政府が決定するもので、時代が下るにしたがって上がってきた。現
             在は一日の生活費ほぼ1ドルの暮らしが貧困線とされている。
たしかに、1億余の貧困者は約10年間に550万に減少した。日本ではこれを捉えて、中国政府の施策が適切であったと評価する向きがあるが、これは統計上の話である。政府当局者も認めているように、農村では主な労働力が死んだり病気になったりすると、それまで貧困家庭の範疇に入らなかった者がたちまち貧困層に転落するのが現実である。

新型コロナウイルスの感染拡大は、農民工の貧窮状態をより深刻なものにした。日本でも臨時職員や非正規労働者、自営業、ひとり親の家庭などを直撃している。災害によって貧しいものが一層貧しくなる現象は中国も日本も変わらないが、貧窮生活を余儀なくされる国民をどの程度で食い止められるかは、その国の政府の貧困に対する政策と力量によるものであろう。
2020.03.24 第二次大戦以来の、市民の団結が重要な事態
メルケル独首相の演説

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 ドイツのメルケル首相は3月18日、「コロナウイルス対策について」と題した重要演説を、全ドイツ、全世界に向けて行いました。ドイツ語翻訳家・林美佳子さんの全文翻訳(ネット公開)から約1ページ半を紹介します。林さんに連絡することができず、無断引用となりました。演説の緊急性、重要性を考え、紹介させていただきました。読者の方々はぜひ、ネットで林さんの全文翻訳をご覧ください。

 「私は今日このような通常とは違った方法で皆様に話かけています。それは、この状況で連邦首相としての私を、そして連邦政府の同僚たちをなにが導いているかを皆様にお伝えしたいからです。開かれた民主主義に必要なことは、私たちが政治的決断を透明にし、説明すること、私たちの行動の根拠をできる限り示して、それを伝達することで理解を得られるようにすることです。
 もし、市民の皆さんがこの課題を自分の課題として理解すれば、私たちはこれを乗り越えられると固く信じています。このため次のことを言わせてください。事態は深刻です。あなたも真剣に考えてください。東西ドイツ統一以来、いいえ、第二次世界大戦以来、これほど市民による一致団結した行動が重要になるような課題が、我が国に降りかかってきたことはありませんでした。
 私はここで、現在のエピデミック(流行病の一般的用語。今回は全世界的規模の流行病を指す「パンデミック」という用語が使われている)の状況、連邦政府および各省庁がわが国のすべての人を守り、経済的、社会的、文化的な損害を押さえるための様々な措置を説明したいと思います。しかし、私は、あなたがた一人一人が必要とされている理由と、一人一人がどのような貢献をできるかについてもお伝えしたいと思います。エピデミックについてですが、私がここで言うことはすべて、連邦政府とロバート・コッホ研究所の専門家やその他の学者およびウイルス学者との継続審議から得られた所見です。世界中で懸命に研究が進められていますが、コロナウイルスに対する治療法もワクチンもまだありません。
 この状況が続く限り、唯一できることは、ウイルスの拡散スピードを緩和し、数か月にわたって引き延ばすことで時間を稼ぐことです。これが私たちのすべての行動の指針です。研究者がクスリとワクチンを開発するための時間です。また、発症した人ができる限りベストな条件で治療を受けられるようにするための時間でもあります。」(中略)
 「さて、今日私にとって最も緊急性の高いものについて申し上げます。私たちがウイルスの速すぎる拡散を阻止する効果的な手段を投入しなければ、あらゆる国の施策が無駄になってしまうでしょう。その手段とは私たち自身です。私たちの誰もが同じようにウイルスにかかる可能性があるように、今誰もが皆協力する必要があります。まず第一の協力は、今日何が重要なのかについて真剣に考えることです。パニックに陥らず、しかし、自分にはあまり関係がないなどと一瞬たりとも考えないことです。不要な人など誰もいません。私たち全員の力が必要なのです。
 私たちがどれだけ脆弱であるか、どれだけ他の人の思いやりのある行動に依存しているか、それをエピデミックは私たちに教えます。また、それはつまり、どれだけ私たちが力を合わせて行動することで自分たち自身を守り、お互いに力づけることができるかということでもあります。
 一人一人の行動が大切なのです。私たちは、ウイルスの拡散をただ受け入れるしかない運命であるわけではありません。私たちには対抗策があります。つまり、思いやりからお互いに距離を取ることです。
 ウイルス学者の助言は明確です。握手はもうしない、頻繁によく手を洗う、最低でも1.5メートル人との距離を取る、特にお年寄りは感染の危険性が高いのでほとんど接触しないのがベスト、ということです。」(中略)
 「私たちは民主主義社会です。私たちは強制ではなく、知識の共有と協力によって生きています。これは歴史的な課題であり、力を合わせることでしか乗り越えられません。
 私たちがこの危機を乗り越えられるということには、私はまったく疑いを持っていません。けれども、犠牲者が何人出るのか。どれだけ多くの愛する人たちを亡くすことになるのか。それは大部分私たち自身にかかっています。私たちは今、一致団結して対処できます。現在の制限を受け止め、お互いに協力し合うことができます。
 この状況は深刻であり、まだ見通しが立っていません。 それはつまり、一人一人がどれだけきちんと規則を守って実行に移すかということにも事態が左右されるということです。
 たとえ今まで一度もこのようなことを経験したことがなくても、私たちは、思いやりを持って理性的に行動し、それによって命を救うことを示さなければなりません。それは、一人一人例外なく、つまり私たち全員にかかっているのです。
 皆様、ご自愛ください、そして愛する人たちを守ってください。ありがとうございました。」(了)



2020.03.23 「新型コロナ暴落」は大恐慌への導火線か?
     ―大恐慌の90年後に考える―
 
半澤健市 (元金融機関勤務)

 過ぐる「大恐慌」の発端はNY株式の暴落であった。
1929年10月のことである。

《1929年恐慌の後に何がきたのか》
 暴落直前のダウ平均の高値は381ドル、それが3年後に安値40ドルをつけた。株価は9割下ったのである。(¢は切捨て)。
大恐慌の原因には諸説あって今回は述べる紙数がないが、現象としては典型的な金融バブルとその崩壊であった。

それから90年経った今日までの間、経済の世界になにが起こったのか。
30年代に、主要国は為替切り下げ、ブロック経済形成で解決を図ったが、結局「ナチズム独裁」(独・伊)、「天皇制軍国主義」(日)、「ニューディール政策」(米)、「社会主義建設」(ソ連)とに分かれて国策を強力に実践した。それは第二次世界大戦につながり、前二者のファシズム枢軸が、後二者のデモクラシー連合に敗北して戦争は終わった。事態は一応の解決をみた。大きな犠牲を払いつつ「戦争が大恐慌を克服」したといえる。

《戦後世界には何がきたのか》
 第二次世界大戦後の世界は、枢軸国を屈服させた資本主義の西側諸国と、共産主義の東側諸国とが、冷戦という対立を続けた。冷戦は90年に資本主義体制が勝利した。「歴史は終わった」と述べた哲学者もいたが、それは終わらなかった。

戦後の71年には、金と米ドルのリンクが切れた「ニクソン・ショック」が走った。あわや29年の再来かと思われた「リーマン不況」は08年に起こった。こういう事象は、資本主義の矛盾が、未解決であったことを示している。埋められた地雷が時々爆発するのである。資本主義は、利潤拡大運動をやめると、生きていけないシステムだからである。マグロが水中を泳ぎ続けないと死ぬのと同じである。

矛盾の克服にどんな道具が使用されたのか。二、三を例示してみよう。
一つ。米ドルの金離脱によってドルは紙切れ同様になった。しかし米国のヘゲモニーを背景に、中国の挑戦で弱点を露呈しつつも、ドルの打ち立てた世界はなお続いている。
二つ。リーマン不況の契機となったサブプライム・ローンは詐欺同様の商品と知られて失敗した。それでも数学科出身の天才が製造した金融工学商品が、手を変え品を変えても販売されている。日本の金融機関も上顧客らしい。
三つ。自己責任を経済理念としながら、メガバンクなどの巨大企業を破綻から救済する。「潰すと国民経済に被害が及ぶ」と言って税金を投入する。愛国心と恐怖心の悪用である。

《大恐慌の導火線になるだろう》
 「新型コロナ暴落」は大恐慌の導火線になるだろうか。なるだろうと考える。
今のところ暴落の震度は大恐慌のそれに及ばない。しかし底は浅いが角度は鋭い。次に導火線たりうる理由を挙げる。

一つ。カネのバラまきは限度に来ている。現にそのツケが今回の暴落である。
リーマン不況は、中国の公共投資が呼び水となり。世界経済はマイナスから成長軌道に乗った。しかし今度は誰がいるのか。主要国では政府も個人も山のような債務を抱えている。今回暴落の一因は、金融緩和政策への不信であり、巨額の財政資金が必要であることを示している。
二つ。市場原理が従来通りに働かない環境が出現した。
経済や生活が「新型コロナウイルス=自然の猛威」という制御困難な敵に首根っこを抑えられている。商品市場や市民生活が突然のボトルネック発生に遭遇している。
たとえば国境による出入国の停止。そういう環境下では偏狭なナショナリズムが醸成される。一体化に成功してきたEUが加盟国間の対立から解体の危機を迎えている。これらは自明であった市場原理の作動を妨げる。
三つ。自己責任を強調する新自由主義のイデオロギーが市民社会に深く浸透している。
80年以後、それは徐々に時に急速に市民の意識を捉えた。公共機関の民営化など、特に日本では、真の検証のないまま常識になった。今度は水道を民営化するという。労組の必要性は自明のものではない。春闘の主役は経営者団体である。こういう環境は一見、資本の論理に整合するかに見える。

《資本の論理を反転せよ》
 しかし一旦、その論理が自分から「人間」を奪ったことを知れば、その論理は誰の利益になるかを知れば、それは抵抗の論理に転化されるであろう。大恐慌を経ることで、或いは対立と分裂を克服することで、その転化は遂に実現するであろう。辛い逆説だがそれは私たちに希望を与える。(20/03/17)

2020.03.22 「本日休載」
 
今日03月22日(日)は休載します。

リベラル21編集委員会

2020.03.21 パンデミック宣言で東京五輪はどうなる?
 開催延期・中止は安倍政権の終焉につながる
                
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 遅きに失したとはいえ3月11日、 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は漸くにして新型コロナウイルス感染拡大は「パンデミック(世界的な大流行)」に相当すると表明した。中国湖北省武漢が発生源とされる新型コロナ感染は、3月11日時点で114国・地域にすでに拡大しており、これまでに11万8000人超の感染が確認され、4291人が死亡したという。テドロス事務局長は感染者及び死者数は今後も増加する見通しと述べたが、その後、各国当局の発表に基づきAFPがまとめた統計によると3月16日現在、世界の新型コロナウイルス感染者数は141の国・地域で16万9390人に達し、うち6420人が亡くなったとされる。恐るべき勢いだ。

 テドロス事務局長はまた3月13日、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスなどヨーロッパ各国での新型コロナウイルスの感染者急増を念頭に、「今や欧州が新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の中心地だ」との認識を示した。テドロス事務局長は「欧州では中国以外の世界の感染・死者数を合わせた数字を上回り、パンデミックの中心地となった」と述べた。テドロス氏によると、3月13日時点で感染は123カ国・地域に広がり、患者数は13万2000人を超えている。その後3月16日午前2時時点の地域別感染者数(AFP通信)は、アジアが9万1973人(死者3320人)、欧州が5万2407人(死者2291人)、中東が1万5291人(死者738人)、米国・カナダが3201人(死者52人)、中南米・カリブ海諸国が448人(死者6人)、アフリカが315人(死者8人)、オセアニアが303人(死者5人)となっている。

 テドロス事務局長は、これまで中国への過度の政治的配慮からパンデミック宣言に踏み切ることを躊躇してきたとされる。しかし、その結果が中国以外のヨーロッパ各国での急速な感染拡大につながったとしたら、責任は重大だと言わなければならない。緊急事態宣言やパンデミック宣言に時機を逸したことが、世界各国の警戒心を高めることの障害になったとしたら、テドロス事務局長の判断は許されるものではないし、責任を免れるわけにはいかないだろう。

 パンデミック宣言はまた、東京五輪の開催についても深刻な影響を及ぼさずにはおかない。これまで日本では、東京五輪開催のために国内での感染をいかに食い止めるかに最大の力点が置かれてきた。大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」への対応一つを見ても水際対策が極力重視されてきたのは、国内への感染拡大が東京五輪の開催の中止につながることを極度に恐れていたからだ。その背後には、東京五輪の開催に懸ける安倍首相の並々ならぬ執念がある。

 そもそも安倍首相は、フクシマ原発の放射能汚染を警戒する世界各国の懸念を払拭するため、東京五輪の開催を決めるIOC総会において専門家の判断に基づくものでもなければ先の見通しもなく、「フクシマ原発の汚染水は完全にコントロールされている」と大見得を切った政治的前科がある。それ程にまで安倍首相が東京五輪に執着するのは、それが安倍内閣の政権浮揚にとって欠かすことのできない政治戦略の一環として位置付けられているためだ。しかし、原発汚染水の処理がその後も一向に進まず、最近に至っては「海に流すほかない」といった荒唐無稽な方針が出されるまでに事態は膠着しているのである。

 だがWHOのパンデミック宣言は、東京五輪の開催が「国内マター」ではなく一挙に「世界マター」になったことを印象付けた。例え日本国内の感染が期限内に収束したとしても、選手団や役員そして応援団などを送り出す世界各国の感染が収束しなければ五輪開催は難しい。WHOが〝パンデミック終息宣言〟を出さない限り東京五輪は開催できないことは誰もが知っているからだ。新型インフルエンザの場合も発生から終息宣言まで2度の山があり、1年有余の時間を要している。ヨーロッパがパンデミックの中心になった現在、今年7月に迫った東京五輪が開催できるなどと考えるのは、余ほどの国際的感覚に欠ける自己中心的グループだけだ。

 すでに国際オリンピック委員会(IOC)側からも日本側からも、東京五輪の可否に関して様々な観測気球が揚げられている。IOC側からは最古参のパウンド委員(カナダ)が2月25日、5月下旬が判断の期限になるとの考えを示し、「その時期になれば、東京に安心して行けるほど事態がコントロールされているか誰もが考えないといけないだろう」と語った(読売2月26日)。また日本側からは、大会組織委員会の高橋理事が3月10日付けの米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューに対して、「ウイルスは世界中に蔓延している。選手が来られなければ五輪は成立しない。2年の延期が現実的だ」との見解を示した。

 高橋理事は毎日新聞の取材にも応じ、(1)東京大会はIOCが巨額の放映権料を失うため中止できない、(2)無観客開催は組織委員会にとって重要な収入源である入場料を失うことになる、(3)年内延期は欧米のプロスポーツと時期が重なり、来年のスポーツ日程もすでに固まっている、(4)5月下旬に対応を決めるとの声があるが、多方面に迷惑が掛かるので今月下旬の組織委員会理事会に提言する―との見解を表明している(毎日3月12日)。

 3月12日にはさらに重大な発言が相次いだ。IOCバッハ会長がドイツ公共放送のインタビューを受け、東京五輪の開催中止や延期について、「我々はWHOの助言に従う」との態度をはじめて明らかにした。また同日、トランプ米大統領は東京五輪の開催について、「観客がいない状態で競技を行うよりは、1年延期する方がよい代替案だと思う」との個人的意見を述べた(各紙3月13日)。驚いた安倍首相は13日午前、トランプ氏との電話会談で「五輪開催は予定通り」と力説して理解を求め、橋本五輪担当相や小池東京都知事なども延期話の打ち消しに躍起となった。

 だが、事態は次第に延期論に傾きつつある。毎日新聞は日本オリンピック委員会(JOC)関係者の声として、「最終的には米国の動向がキャスティングボートを握る。強行開催は難しくなってきた」(3月13日)との意向を伝え、朝日新聞は「東京五輪、延期論が拡大」との見出しで、政権幹部の「新型インフルエンザでも流行に2度の山があり、収束までに1年かかった。夏ごろ下火になっていたとしても、IOCは予定通り開催と判断できるだろうか」との声や、東京都幹部の「延期は一番最悪な状況の中での最適な解だ」との意見を紹介している(3月14日)。

 事態は極めて流動的であり予断を許さないが、東京五輪を目標にフル回転してきた安倍政権はここにきて最大の危機に直面することになったことは間違いない。東京都の試算によれば、東京五輪の経済効果は2013年から2030年までの18年間で32兆円に上る。32兆円の内訳は、五輪前8年間でインフラ整備等21兆円、五輪後の10年間で五輪関連イベント等11兆円となっており、うち都内が20兆円と約6割を占めるが、訪日客の観光需要拡大などにともない地方にも12兆円の波及効果があると試算している(日経17年3月7日)。

 すでに膨大な公共投資・民間投資が注ぎ込まれている以上、万が一中止になれば経済面への打撃は大きく、訪日客の全面ストップはもとより関連イベントが軒並み中止に追い込まれ、その影響は全国に及ぶことになる。SMBC日興は3月6日、新型コロナウイルス感染が7月まで収束せず、東京五輪が開催中止に追い込まれた場合、約7.8兆円の経済損失が発生するとの試算を公表した。国内総生産(GDP)を1.4%程度押し下げ、日本経済は大打撃を被ることになるという(時事通信3月6日)。 

 問題は、それが経済的打撃だけには止まらないことだ。東京五輪が延期・中止に追い込まれれば、東京五輪を契機として安倍政権の更なる延命と浮揚を図り、安倍一強体制を維持し続けようとする野望が一挙に崩れることになる。毎日新聞の次の指摘は鋭い(3月14日)。「首相は経済優先の姿勢をアピールすることで長期安定政権を築いてきた。だが、ウイルスの感染拡大を受けた世界的な株安が日本を直撃する。2回先送りした10%への消費税率引き上げを19年10月に踏み切ったのは、翌年に控える『五輪特需』を見越し、増税による景気落ち込みが最小限になるタイミングと踏んだためだ。五輪を契機に政権浮揚を図る戦略から、首相は今年1月の施政方針演説で五輪開催に向け『国民一丸となって新しい時代へ共に踏み出そう』とアピールしたが、五輪が延期・中止に追い込まれれば政権が見込んだシナリオは崩れかねない」。

2020.03.20 「本日休載」
 
今日03月20日(金)は休載します。

リベラル21編集委員会