2020.06.30  トランプ政権、最後の1年(16)
         イスラエルの占領地併合に抗議高まる  欧州25ヵ国、日本でも抗議署名多数

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 イスラエルのネタニヤフ政権は、事実上イスラエルの軍事支配下にあるパレスチナ・ヨルダン川西岸地区の領土併合作業を、7月1日以降から開始しようとしている。実際の作業は、領土化宣言、国民投票、入植地の周辺を拡大して防護壁の強化、現在もイスラエル軍の支配下にある主要幹線道路の領土化作業など。これに対し、世界各国で非難、抗議が広がり、24日までに25ヵ国の立法議員1,080人が抗議声明に署名。各国政府、議会に送られたと英BBC放送は伝えている。英国では「影の内閣」の主要閣僚と国会議員240人以上が署名している。

 この作業開始は、トランプ米大統領がネタニヤフ政権に提案した、ヨルダン川西岸地区の約30%をイスラエルの領土とし、約70%をパレスチナの領土として残す案が手掛かりになった。ネタニヤフ政権は、パレスチナ全土の領土化を目指していながらも、トランプ提案に好意を表明。一方パレスチナ自治政府と住民は、トランプ政権への非難をさらに強めた。

 パレスチナ自治政府領としてイスラエルを除く国際社会が認めている地域は、東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザ。総面積は日本の茨木県と同じくらいの6、020平方キロ(うち365平方キロがガザ)。人口は497万6千人(うち西岸地区は298万人)。
 国際社会とイスラエル政府、パレスチナ自治政府代表が調印した、もっとも最近の協定は、93年にワシントンで調印されたパレスチナ暫定自治宣言。それに基づきパレスチナ暫定自治が始まったが、イスラエルは東エルサレムの支配と、ヨルダン川西岸地区での、入植地と幹線道路のイ軍による支配をつづけたため、パレスチナ人の抵抗が続いてきた。
 イスラエルが暫定自治宣言に調印した労働党政権の期間は、暫定自治は一応尊重されたが、2001年の総選挙で極右政党のリクードが勝利して以来、パレスチナ自治政府と関係が悪化、入植地の建設が拡大。特に09年の総選挙でリクードのネタニヤフ政権が勝利して、現在に至るまで、パレスチナ自治政府との関係は悪化したまま、入植地の強行建設が続いている。

 さらに、2017年に発足した米国のトランプ政権は、国連はじめ国際社会の取り決め、意志を踏みにじって、ネタニヤフ政権が大歓迎する行動を開始。イスラエルの建国以来の熱望通り、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転。ヨルダン川西岸地区での入植地拡大を黙認、イスラエルが67年の第3次中東戦争で占領したままの、シリア領ゴラン高原のイスラエル領土化を承認した。そして今回、ヨルダン川西岸での不法入植地のイスラエル領土併合を黙認したのだ。

 ▼日本でも、パレスチナ人民の支援活動に長年取り組んできた、奈良者英佑さんを代表とする人たちが、次のような「イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合に反対する実行委員会声明」(和文と英文)を緊急に発表。集まった署名とともに、イスラエル政府、駐日イスラエル大使館、日本政府の官邸と外務省に、今日30日に送付した。以下にその全文を添付します。



イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合計画に強く反対する(和文)

イスラエル政府は、西岸地区のうち広大な部分を自国領として併合することを早ければ7月1日にも公式発表する計画だと伝えられる。これは、パレスチナ人にとって当然の自決と独立の権利を真っ向から否定するばかりではなく、国際法と国際秩序を全くないがしろにするものである。この計画が実行されればイスラエル/パレスチナ紛争の平和的解決への道は完全に閉ざされ、中東地域の紛争は一層激化し、それは世界の平和を脅かすだろう。私たちは、この無責任な政策を深く憂慮する。
占領地を併合することは、国連憲章とジュネーヴ議定書に対する重大な侵害である。ジュネーヴ第4議定書は、西岸地区でのイスラエル人入植地建設のような、自国民の移住を禁止している。また、国連安全保障理事会決議242号は、イスラエルが1967年の戦争で占領した領土からの撤退を要求している。さらに、1993年のオスロ合意は、領土、入植地、難民などの重要な諸問題を平和的な交渉で解決すること、諸当事者が、一方的な措置をとらないことを求めている。
アメリカのトランプ政権は今年1月「中東和平案」を発表した。その中で、イスラエルが西岸地区の入植地ブロックとヨルダン渓谷を併合することを提案した。当然ながら、パレスチナ人はこれを断固拒絶した。イスラエルもこの理不尽な提案を断るべきであった。
わたしたちは、ここに、イスラエル政府がこの無責任な西岸地区併合計画を撤回するよう強く求める。
同時に私たちは日本政府に対して以下の3点を要求する。

1.日本・イスラエル間の武器取引禁止と両国間の軍事・安全保障協力の停止
2.日本・イスラエル間の貿易など経済関係に対する厳しい規制
3.西岸地区の入植地やその他のイスラエル占領地で生産された物品の輸入禁止

2020年6月30日
イスラエルによるヨルダン川西岸地区の併合に反対する実行委員会(東京)
2020.06.29  安倍政権8年間のレガシーは「アベノマスク」だけだった

広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 毎日新聞6月18日の記事、「安倍政権の8年は何だったのか、「レガシーは『アベノマスク』だけ」、憲法改正困難に」を読んで思わず噴き出してしまった。安倍政権の本質をこれほどまで見事に活写した見出しはかってなかったからだ。6月17日に閉会した通常国会では多数の法案が成立したにもかかわらず、衆参両院の憲法審査会の審議が低調に終わり、自民党が早期成立を目指す国民投票法改正案はたなざらしとなった。安倍首相の党総裁任期満了が来年9月と迫る中、在任中の憲法改正はもはや「絶望状態」になったと言ってもよい。自民党内からは「8年もやってレガシー(遺産)は『アベノマスク』だけでは」と焦りの声が漏れ始めたという。

 私の手元では安倍政権の「遺産」であるアベノマスクを大切に保存している。友人の中にも同じよう思いの者が結構沢山いて、先日も久しぶりの飲み会で「アベノマスク同好会」をつくり、末永く安倍政権の「遺産」を語り継ごうと大いに盛り上がった。それほどアベノマスクは国民的反響を呼び、安倍政権の本質を象徴する存在になったのである。8年間にわたる歴代最長の政権であるにもかかわらず、国民の記憶に残ったのは「アベノマスクだけ」というのは余りにも惨めで悲しいが、それが現実であるだけに受け入れるしかない。

 国会閉会翌日の6月18日、安倍首相は官邸で恒例の記者会見を開いた。夕方の6時からという時間帯にテレビ同時中継があるとあって、多くの視聴者の耳目をそばだてたに違いない。私もミーハー的興味で視聴したが、「プロンプター安倍」の冒頭演説はいつも通り。触れたくないことや肝心なことはすっ飛ばし、あとは政策課題を羅列して空虚な決意を示す―という型通りのものだった。外交日程を理由に質問が10分で打ち切られたのもいつも通りで、黒川東京高検検事長のことや野党の国会延長に関する要求など、都合の悪いことについては一言も語らなかった。これに関するNHK政治部記者の解説もいつも通りで、首相会見の要旨をただなぞらえただけの無内容そのものだった。

 各紙6月19日の「首相会見の要旨」も読んでみたが、その中で気になったテーマについて2つだけ取り上げてみたい。第1は河合夫妻逮捕問題、第2は未来投資会議での「新たな社会像、国家像」だ。河合夫妻逮捕についての冒頭発言は、以下のようなものだ(毎日)。
 「本日、我が党所属であった現職国会議員が逮捕されたことは大変遺憾だ。法相を任命した者として、責任を痛感している。国民に深くお詫びを申し上げる。国民の厳しいまなざしをしっかりと受け止め、我々国会議員は改めて自ら襟を正さなければならない」 この発言については、次のような問題点を指摘できる。
 (1)法と秩序を守る立場にある法相が、あろうことか「巨額のカネで票を買う」という前代未聞の公職選挙法上の買収行為を犯したにもかかわらず、河合(夫)本人の名前や職責を明らかにせず、責任追及をあいまいにしている。また、買収選挙で当選した河合(妻)の名前も伏せ、「我が党の現職国会議員が逮捕された」とだけしか言わない。これは、これまで一切の説明責任を果たさず、議員辞職をも拒んでいる河合夫妻への露骨な擁護姿勢をあらわすもので、目に余るとしか言いようがない。
 (2)河合(夫)を法相に任命した総理責任を「痛感している」と言いながら、具体的にどのような責任を取るかについては、いつものように言及を避けている。河合(妻)が出馬した参院選に際しては、選挙資金として破格の1億5千万円を党本部から支出し、自らも応援演説で「アンリ!」「アンリ!」と絶叫したにもかかわらず、身に降りかかる火の粉を払うためか、党総裁としての政治責任を回避している姿は如何にも見苦しい。
 (3)極め付きは、自らの責任を棚に上げ、〝国会議員総懺悔〟ともいうべき国会議員全体の責任にすり替えていることだろう。「我々国会議員は改めて襟を正さなければならない」などとはよくも言えたもので、これは戦争責任を免れるため当時の指導者が〝国民1億総懺悔〟と言ったのと同じ論法だ。よく出てくる「与党も野党もない」という安倍首相のフレーズも、与野党ゴッチャにして自民党の政治責任をあいまいにするときによく使われる常套文句と化している。
 
  次に、拙稿がこれまで取り上げてきた「新たな日常」(ニューノーマル)に関する未来投資会議への言及も注目される。
 「私たちは今回の感染症を乗り越えた後の新しい日本の姿、ポストコロナの未来も描いていかなければならない。集中から分散へ、日本列島の姿、国土の在り方を今回の感染症は根本から変えていく。コロナの時代、その先の未来を見据えながら、新たな社会像、国家像を大胆に構想していく。未来投資会議を拡大し、幅広いメンバーに参加いただき、来月から議論を開始する」

 前回の拙稿でも紹介したように、日本の「成長戦略の司令塔」である未来投資会議では、国民がコロナ恐怖におののき、外出自粛はもとより生活様式に至るまで国家の管理下に置かれようとしている状況に乗じて、マイナンバーカードのひも付けなどを初めとして経済社会の「デジタル化」を一挙に実現すべく、一連のショックドクトリン政策が講じられてきた。ところが今回の記者会見では、それがいつの間にか「新たな社会像、国家像を大胆に構想していく」に格上げされているではないか。コロナ時代だからといって日本国土の姿や日本社会の姿が一挙に変わるわけでもあるまいに、それを「今回の感染症が根本から変えていく」などというのは、そこに何か思惑があってのこととしか考えられない。

 思いつくのは、最近になって今年秋に解散総選挙が行われるとのニュースが数多く流れるようになったことだ。麻生財務相が安倍首相と差しで会談したとか、甘利氏が「解散真近」などと触れ歩いているとか、二階幹事長が各派閥の会合に出向いているとか、とかく話題に事欠かないのである。私は、未来投資会議で「新たな社会像、国家像を大胆に構想する」のは、支持率下落一方の安倍政権が「九死に一生」の秘策としてコロナ危機に乗じた「新たな社会像、国家像」を打ち出し、それで総選挙を戦おうとしているのではないかと考えている。これまでの失策の全てをコロナ危機に乗じて「帳消し」にし、新たな社会、新たな国家を安倍政権とともにつくろうと訴えるためである。

 共同通信社が6月20、21日両日に実施した全国世論によると、内閣支持率は前回(5月29~31日実施)の39.4%から36.7%へ2.7ポイント続落し、2017年7月(加計学園問題当時)の最低35.8%に次ぐ低さとなった。また。不支持率は45.5%から49.7%へ4.2ポイント上昇した。理由は明白で、河合夫妻の議員辞職の必要性について「辞職すべきだ」90.4%、安倍首相の責任について「責任がある」75.9%と驚くべき高さの数字が出ているにもかかわらず、河合夫妻も安倍首相もいっこうにその責任を取ろうとしていないからだ。

 今年秋までコロナ危機は収束するか、第二波、第三波の感染が襲ってこないのか、河合夫妻立件にともなう裁判はどう進行するかなど不確定要因は山積しており、政局の行方を見通すことは極めて難しい。だが1つ言えることは、未来投資会議でどれほど大胆な構想に彩られた「新たな社会像、国家像」が打ち出されたところで、河合夫妻のような前代未聞の買収選挙の記憶が国民の脳裏から消えるはずがないということであり、安倍政権の「九死に一生」の秘策など通用する余地がないということである。所詮「百の説法、屁一つ」なのである。
2020.06.28  「本日休載」
今日6月28日(日)は休載します。

リベラル21編集委員会

2020.06.27  「護郷隊」とはだれのことか
          ――八ヶ岳山麓から(315)――

阿部治平 (もと高校教師)

このほど、長野県駒ケ根市の旧赤穂町・旧中沢村で太平洋戦争の末期、日本軍が住民の思想傾向を探っていた文書が見つかった。同市博物館の専門研究員小木曽真一さん(71)の調査によるものだ。
発見された文書は、1945(昭和20)年6月29日付で陸軍大尉から各町村長あてて、「問題ヲ生ズル場合ハ細大漏ラサズ当部隊当通報」を指示し、「一般民衆ニシテ思想的ニ動向不穏ト認ル者アリタル場合」「部隊、工場等勤務者ニシテ其ノ町村ニ悪影響ヲ及ボス言動アリタル場合」などを例示し、学校長や在郷軍人とも連絡をとりあい、指示を徹底するよう求めていた。
6月2日付の信濃毎日新聞の記事はこれにつづいて「当時、諜報・謀略などの研究をしていた陸軍登戸研究所が45年4月ごろから、同地域に疎開し、学校、神社を軍需工場や倉庫にし、住民に爆弾作りなどをさせていた。疎開は本土決戦準備の一環とされ、住民を巻き込んだゲリラ戦を想定していたとみられている」と記している。

私は驚いた。というのは、つい数日前読んだ三上智恵著『沖縄スパイ戦史』(集英社新書、2020・02・22)に、こう記されていたからである。
「終戦間際、沖縄だけではなく全国に地域の住民で組織するゲリラ兵部隊が作られていた(召集されたのは14~40歳で、ゲリラ訓練は主に少年が対象だった)。このことはまだ知られていないが、地域の住民でゲリラ戦をするという無茶な考えは決して沖縄だけに限られたものではなく、ましてや沖縄県民だから軽視され、少年たちが消費されたという問題でもない……」

太平洋戦争の末期、1945年3月26日から沖縄戦が始まった。その3か月後6月23日牛島満司令官が自決し第32軍は崩壊した。しかし、日本はまだ降伏していない。沖縄本島北部では米軍に対するゲリラ戦が続いていた。
これよりさき、1945年1月大本営は本土決戦の準備を進め、男子の根こそぎ動員をはかった。沖縄の旧制中学生が動員された鉄血勤皇隊の名前は私も知っている。沖縄本島では、陸軍中野学校で訓練を受けた青年将校が14歳以上の少年たちを「護郷隊」という名のゲリラ兵として組織、訓練し、山岳戦に兵士として投入した。
彼らは、日本兵が敗残兵となって略奪殺人を働くなか、圧倒的な戦力をもつ米軍を相手に橋や道路の爆破、戦車の破壊、偵察斥候にかりたてられ多数が戦死した。今でいえば中学2年生くらいから高校生の年代である。

『沖縄スパイ戦史』の著者三上さんらは上記の本に先立って映画を作った。著作と映画の関係についてこう述べている。
「本書は平成30(2018)年夏に公開したドキュメンタリー映画で、2019年度文化庁映画賞文化記録映画部門優秀賞や第92回キネマ旬報文化映画部門ベストワンほかに選ばれた『沖縄スパイ戦史』(三上智恵・大矢英代共同監督作品)の取材をもとに、映画の中には登場していない方々を含む元少年兵20人あまりの証言に始まり、『秘密戦』を遂行した陸軍中野学校出身の隊長らの生涯や、日本軍によるスパイ虐殺の被害者側、加害者側双方の証言や資料調査などを、映画が完成してからさらに取材を重ね、1年半かけてまとめたものである」

三上さんは映画『沖縄スパイ戦史』に、あえて沖縄の少年兵のゲリラ戦の事例を提示した。こうすれば「他府県でも地域に根差したジャーナリストたちが必ず埋もれた少年兵部隊の存在を掘り起こすだろう」と期待したのである。
はたせるかな、岐阜県で、陸軍中野学校でゲリラ戦を学び、岐阜県の少年を訓練した人が健在であることがわかった。この本にはその聞き取りが収録されている。
そしてこのたび長野県駒ケ根市で篤実な研究者によってほとんど同じ内容の文書が発見された。敗戦直後、米占領軍への警戒感から多くの公文書が焼かれたが、戦争の一端を物語る貴重な文書がたまたま生き残っていたのである。

本土決戦つまり国内を戦場として戦うとなれば、住民を軍に動員し協力させ、さらに動揺を抑えないわけにはいかない。沖縄では、先の見通しの得られない極限状態で、疑心暗鬼になったのは兵隊だけではない。総動員体制の下での住民は相互監視のなか、密告しあう事態が生まれた。ときには通敵行動の疑いだけで惨殺したのだから、戦後生残った人々の間では語るのは躊躇される事態が数多く生まれた。
三上さんはこれを取り上げ、体験者にリアルに語らせ、自身このように語る。
「ここでかたる『スパイ』という言葉の意味は、陸軍中野学校の工作員たちが敵を欺いて情報をとるというだけでも、少年や住民を使って、スパイ戦やゲリラ戦を展開したことだけでもない。軍が住民を欺き『始末のつく』状態にすること、また軍がスパイ容疑で住民を手にかけたり、住民同士がスパイの疑いをかけあうなど、秘密戦の枠の中で『スパイ』という概念は、相互に悲劇を生む多義的な忌まわしい言葉であることも理解してもらえればと思う」

三上さんは「しかし護郷隊を知ることによって、私は初めて率直に戦う兵隊側の気持ちになってみることができた。……沖縄戦の兵士の立場を考えることが可能になった。さらに中野学校の卒業生が課せられた秘密戦の全貌が理解できるようになってくると、正規軍の武力衝突と並行して行われる裏の戦争の輪郭がようやく見えてきた。なぜ軍隊は住民を守るどころか利用し、かつ見捨てるような結果になったのかも、秘密戦の構造を知れば謎が解けた」
「戦争マラリアも強制集団死も住民虐殺も、全部起こるべくして起きたことだとわかった」という。

私は三上さんらが作った映画を見たことはなかった。
この本をかつての教え子が「惜しむらくは、著者が随所で反自衛隊・基地反対的な話を証言者に向ける点です」といいながら、三上さんの本を紹介してくれたので、読む機会が得られた。この生徒は「日本政府は靖国神社で会おうといって死んだ護郷隊員や生残った少年らに表彰と恩給を与えるべきだった」とメールをよこした。
私はこの本を読んで、あれもこれも含めて沖縄戦について認識がまた一歩進んだと感じた。もう何十年も前、沖縄出身の畏友宮里政充が「一家に死者がいなかったのは、我家だけだった」と故郷の沖縄戦を語ったとき、非常な衝撃を味わったが、この本を読んでそれ以来の感動を受けた。不覚にも満州で死んだ少年義勇隊の従兄たちを思って私は涙を流した。(2020・06・03)
2020.06.26  私が出会った忘れ得ぬ人々(22)
          荻村伊智朗さん――国際平和に少しでも尽くせれば光栄

横田 喬 (ジャーナリスト)

 新型コロナ禍でくさくさしている。気分転換に、スポーツを話題にスカッとしたい。荻村伊智朗さんは現役当時は卓球の世界チャンピオンに度々輝き、先の大戦敗戦で打ち沈む日本社会に光明をもたらした人だ。引退後はスポーツの指導者として平和外交の推進に尽くす。なかんずく、「米中ピンポン外交」~「米中正常化」に尽力した陰の功労者で、ノーベル平和賞ものと言ってもいい。

 私は『朝日新聞』記者当時の一九九三(平成五)年に氏を取材し、次のような記事(要旨)を記している。
 ――スポーツ界有数の国際派として知られる。国際卓球連盟会長は現在三期目で、外国産スポーツの国際競技連盟のトップを極めたのは日本人初の榮譽。七一年の世界選手権では中国の国際舞台復帰に尽力し、米中国交回復のきっかけをつくった。中年以上のスポーツ・ファンには「世界チャンピオンの荻村」として忘れられない名前でもある。

 「私自身の国際舞台は、初出場で優勝した五四年の英国での世界選手権が最初。戦争の記憶が尾を引き対日感情が悪く、ひどい嫌がらせを受けた。スマッシュをしようとすると観客が号砲用のピストルをドンとぶっ放す。でも、めげずに勝ち抜いて優勝したら、万雷の拍手。翌々年に行ったら、もうファンになっていて、ひいきしてくれる。この体験は私の人生のために本当によかった」

 「世界中には今でも何億という人々が日本人に悪感情を抱いている。金にものをいわせて現地の人々の心を踏みにじったりしてるから。早い話、国際連盟の会長が日本人では恥ずかしいという意識です。幸い、卓球にはモンタギュー初代会長以来、世界平和に貢献しようという伝統がある。スポーツを通じて国際平和に少しでも尽くせれば光栄という気持ちです」

 都立西高~日大芸術学部卒。高校当時から卓球を始め、強くなるために独特の工夫をこらしたハードトレーニングを己に課した。その甲斐があり、日大時代の五三年に全日本硬式選手権優勝。「で、世界選手権出場となったが、協会に金がなく出場費用八十万円は自弁。うちは母子家庭でそんな大金はない。さあ、という時、通ってた吉祥寺の卓球クラブの面々が三鷹や吉祥寺などの駅前で十円募金を始めてくれ、費用のめどがついた。そんな支えがあってこその初出場~優勝でした」。
想像以上にたくましい体格と豊かな話の内容にただただ圧倒された。――

 卓球は三㍍ほどの距離で双方が打ち合い、強いスマッシュの打球だと○・二五~○・三五秒で飛んで来る。体の反応には○・四五秒ほどを要し、打球の方向や回転を予め予測していないと対応できない。卓球選手は究極の反射神経と瞬発力を要求され、勝負を左右するのは先の先そのまた先の展開を読む心理戦と言っていい。「卓球とは、百㍍競走をしながら、ブリッジ(トランプ競技の一種)をするようなもの」「大変な身体的能力と同時進行形で最高の知的能力を要求されるスポーツ」と荻村(敬称略)は言う。

 基礎体力を付けようと井の頭公園で十㌔ほど走ったり、足腰のバネを鍛えるため四十㌔のバーベルを担いだままウサギ跳びを一㌔以上も試みたりした。独特の練習法として、卓球台の隅に万年筆のキャップを置き、バックハンドからの長いサーブでキャップを打ち払う練習を度々重ねる。初めは全くダメだったが、段々に十回に一回~五回に一回~十発十中と進歩していき、彼特有の強力な武器となっていく。

 日大在学中と社会人になって以降との延べ八年間で、世界選手権大会で金メダルを都合十二個も獲得し、各種国際トーナメントでの優勝は百回を超える。とりわけ五四年のロンドン大会では、男子シングルスと同ダブルスに同団体と金メダルを三個も獲得。優勝の立役者・荻村は、太平洋戦争に敗れて打ち沈む日本社会に世界的快挙をもたらした輝かしい存在として、水泳の古橋広之進、ノーベル賞の湯川秀樹と並ぶ国民的ヒーローと一躍化す。

 このロンドン大会で彼は英国人一般の日本人に対する先の大戦がらみの反感の根強さを思い知らされる。が、めげずに勝ち進んで世界王者の座に就いたとたん、ムードは一変する。荻村は言う。
 ――スポーツ外交すなわち民間外交の果たす役割の大きさを身に沁みて感じた。卓球を続けることに、もう一つの生き甲斐を覚えるようになった。

 この後、六一(昭和三六)年の世界選手権・北京大会を機に、卓球界は中国の時代に移る。が、彼は大会後の記者会見で、中国チームのマナーの悪さ(試合途中に勝手にプレーを中断、ベンチに返ってコーチと相談したりする行為)を指摘。「世界チャンピオンとしての自覚を持ってほしい」と、持ち前の率直さであえて苦言を呈する。

 翌年、彼は周恩来首相に直々招かれ、中国を訪問する。周は無類の卓球好きで知られ、内戦当時は延安の洞窟に卓球台を持ち込んで同好の毛沢東主席とラリーを交わした、と言われる。周は「中国は未だ貧しいが、卓球台位なら自給自足できる。あなたの経験と技を生かし、卓球の魅力を大衆に伝えてほしい」と口説く。快諾した荻村は以後度々訪中し、地方の農村部などを精力的に巡回~卓球の普及に協力した。

 その中国では六五年、かの「文革」による社会的大混乱が生ずる。卓球界でも元世界チャンピオンが自殺に追い込まれたりし、世界大会にも欠席が続く異常事態に陥る。七一(昭和四六)年に日本で開く名古屋大会を前に、荻村は周恩来との個人的パイプを生かし、中国チームの大会復帰を秘かに働きかけようと決意する。

 彼は日中文化交流協会の訪中代表団の一員として北京に乗り込み、「文革」後初めて周と再会する。「卓球というスポーツを通じて国際社会への扉を開くのが、中国にとって最良の方法。出場すれば、欧米など世界中の国々との交流回復が期待できる」と言葉を尽くして大会復帰を働きかけた。受け入れ側の日本では当時の日本卓球協会会長・後藤鉀二氏が中国招致を決断。アジア卓球連盟からの台湾追放という荒療治と引き換えに「中共」(当時の呼称)参加を実現する。

 当の名古屋大会は、注目の中国チームが六年間のブランクを感じさせぬ活躍ぶりを見せる。男女とも団体決勝は日本対中国のカードとなり、男子は中国、女子は日本が優勝した。中国の復活劇は卓球関係者を驚嘆させるが、世界中をさらに驚かすニュースが生まれる。
 中国と米国の男子選手同士のふとした接触~記念品の交換が始まりで、チームぐるみの友情が芽生える。米国の選手団は大会後、羽田~香港ルートで中国入りして歓待を受け、マスコミが世界中に大きく報道する。このピンポン外交はキッシンジャー大統領補佐官の訪中を誘発~中国の国連加盟~歴史的な米中国交正常化へと発展していく。周恩来は「小さな白球が地球を動かした」とコメントした。

 荻村は七三年にITTF(国際卓球連盟)の理事に選出され、世界各地への卓球の普及活動に全力を注ぐ。八七年、ITTF会長選挙に中国などの理事らに推されて立候補。白人の二代目現職を六十五票対三十九票の大差で破り、第三代会長に就く。非欧米系の人間が国際組織のトップに就くのは当時珍しく、話題を呼んだ。

 彼は母の美千枝さんの「将来は国際活動に尽くしてほしい」という意向を受け、高田馬場にある大学生向けの通訳養成学校へ中学生の頃に通学している。元外交官の講師から基礎をしっかり学び、英会話に堪能だった。おまけに生来雄弁で押しが強く、「日本人らしくない」という定評があった。

 会長就任後、彼は九か月の間にアジアや東アフリカ・中東・南アジアなど六十か国・地域の卓球協会を歴訪。ITTF会長としては初めてラテン・アメリカの国々も訪ねた。ITTF関係者は二~三時間の仮眠をとって仕事に奔走する姿に「まるでナポレオンのよう」と驚嘆した。彼の口癖はこうだった。
 ――歴史は守るもんじゃなく、作るもの。自分が地球の大統領になったつもりで、大きな視点から考えるんだ。
 七年後の九四(平成六)年、肺癌のため六十二歳で他界するが、彼の真価をよく知る人たちからは「ノーベル平和賞を取ってもおかしくない存在だった」と惜しむ声が上がった。
2020.06.25  コロナ報道で検閲行為 海外メディアにも及ぶ
          NHKワールドなど政府コロナ要請放送受け入れ

隅井孝雄 (ジャーナリスト、京都在住)

 週刊ポストの最近の報道(6/5,6/12)によると、内閣広報室の数人の係官が、テレビの報道番組、コロナ報道などをモニターし、問題発言を書き起こして政府に報告しているという。

 テレビ報道をチェックし訂正求める
 そういえば「羽鳥慎一モーニングショー」(テレ朝月~金8:00) で安倍首相のコロナ対策後手に回っていること、医療機関へのマスクを重点的に配備すべきだとの発言を、厚生労働省が番組出演者を名指ししてツイッターで攻撃した(3/4)ことがある。
 内閣広報室のメディアチェックは、明らかな憲法21条違反の検閲と言わざるを得ない。
 週刊ポストが入手した情報公開資料によると、2月初旬から3月上旬までの40日ほどで、A4判1000枚近くに及んでいるという。特に目立つのはテレ朝の朝ワイドに出演している玉川徹キャスターやゲストの岡田晴恵白鷗大教授、更には「ダイヤモンドプリンセス号」に乗り込んで、政府の対応を批判した、岩田健太郎神戸大教授の発言などだ。報道番組やワイドショーが中心だが、情報番組の「アッコにおまかせ」(TBS、日曜11:45)での和田アキ子とIKKOとのやり取りも含まれていた。

 諸外国メディアに多い安倍批判
 諸外国の多くは安倍政権のコロナ政策に批判的だ。「日本はPCRの検査が少ない。日本のやり方は症状の軽い感染者を特定し、追跡することを困難にしている」(英紙ガーディアン5/4)と指摘した。4/23に外務省が海外メディア向けに開いた記者会見では、「もっと多くの市中感染があるのではないか」などの質問が1時間にわたって続いた。また韓国の「ハンギョレ新聞」(4/30)も「日本政府は韓国の防疫の成功を無視し、軽んじている」と批判した。(朝日新聞5/8の記事より)。安部首相の感染対策としてマスク2枚配布の発表(4/1)は、国内の批判に加え、海外メディアからも「アベノマスクはエイプリルフールか」(Fox News4/1)など嘲笑、揶揄が乱れ飛んだ。

 海外報道にも及ぶ検閲
 今国会で成立の予算の中に、“批判をチェックし、正しい情報を流すために”との予算24億円を外務省が組んだ。主要20か国などのSNSをAI(人工知能)も活用して海外メディアの報道チェック、“正しい情報を発信する”という。
 厚生労働省も国内海外に向けて「ネガティブ情報の払しょく」、「正しい情報の発信」を行う予算35億円が組まれた。
 外務省、厚生労働省、内閣広報室、内閣官房インフルエンザ等特別対策室は一体となって国内、海外の政府批判阻止の動きを強めているのが現状だ。

 特措法でNHKは指定公共機関
 「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」では日銀、赤十字などと並んでNHKが指定公共機関とされた。従来から政権寄りのNHKは、政府のコロナ対策への協力にアクセルがかかっている。国境なき記者団(本部パリ4/8)、日本ジャーナリスト会議(4/11)、などが独立した報道を阻害するとして反対声明を出し、NHKを指定から外すよう要求している。

 NHKの海外放送で政府の要請放送
 160の国・地域へテレビ国際放送(NHKワールド)や、ラジオ国際放送(短波)、インターネットニュースサイト(Japan On Line、17ヵ国多言語)など、NHKの海外向けの情報発信では、在留日本人の生命、身体にかかわる事項、国の重要政策などで政府の要請があれば、それを受け入れることになっている。4月1日に総務省が発表した2020年の要請放送の項目には「新型コロナウイルス感染症に関する国内の最新状況に特に留意すること」が付け加えられた。

 このままではNHKは政府広報機関に陥ることになる
 NHKを指定公共機関から外すよう求めるとともに政府の要請報道に応じないようNHKに求める必要がある。
2020.06.24  トランプ大統領、最後の1年(15)
          剛腕右派のボルトン前補佐官が暴露本出版 

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 共同通信は23日早朝、同日米国で出版され、同国内で大騒ぎを起こしている、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当補佐官の著書について、次のように速報した。
「 【ワシントン共同】ボルトン前米大統領補佐官は23日出版の回顧録で、昨年7月に訪日した際、トランプ大統領が防衛費の分担金として年間約80億ドル(約8500億円)の負担を求めていると日本政府高官に伝えたと証言した。在日米軍を撤収させると脅して交渉を優位に進めるようトランプ氏から指示を受けたことも明らかにした。共同通信が回顧録を入手した。
 80億ドルは日本が現在、負担している在日米軍の駐留経費負担の4倍以上に相当する。日本政府はこれまで米側の負担増要求の報道について「そのような事実はない」(菅義偉官房長官)と否定していたが、米側の当事者本人が明確に認めた形だ。」



 トランプ米大統領の国家安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトン氏が、1年半にわたる任期中の政権内部と外交の実態を暴露した回顧録「それが起きた部屋、ホワイトハウス回想録」を23日に出版した。大統領はワシントン地裁に「国家安全保障に損害を与える」として、出版の差し止めを求めて提訴したが、同地裁は19日、訴えを却下した。
 出版社のサイモン&シュスターは、出版を前に、トランプ政権の出版差し止め提訴を想定し、今月上旬から一部の新聞、テレビ、通信各社を選んで、完成本や抜粋を提供した。各社の報道合戦が国内はもちろん、各国に広がった。発売禁止を求めるトランプ氏側の提訴と却下も、ボルトン氏と出版社は予測していたことは間違いない。出版社側は米国内と全世界で何百万部も売れることを予測しているとの報道もある。しかし、米紙やBBCの抜粋報道を読む限り、ボルトン氏が書いている米国も世界も、ぎすぎすした世界で、感動するような話も見当たらない。世界のベストセラーになるかどうか?
 ボルトン氏は、その経歴、強硬な右派的主張から、17年1月のトランプ政権当初から、国家安全保障担当補佐官の有力候補者と見られていたが、まず国連大使に就任、翌18年4月に国家安全保障担当補佐官に就任。トランプ政権の対ロシア・ウクライナ政策、対イランはじめ中東政策、対アフガニスタン政策、対中国政策などに強硬な右派としての影響力を発揮し始めた。
 しかし、ボルトン氏の顔が何より示しているように、論理的で、自己主張が強く、抜け目がない。両方とも敵に対しては残忍になるが、トランプ氏のように、論理的に政策、物事を考えずに、感覚的に処理するタイプの人間は、ボルトン氏には理解できない行動をとる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談、会場でトランプ氏がニコニコしてみせることなど、ボルトン氏は唾棄する思いだったのではないか。

▼ボルトンの主張十項目
 ボルトン氏の著書の内容をBBC電子版が要領よくまとめているので、これに沿って以下に10項目を紹介しよう―

1.トランプは再選のための支援を求めた
 この本の中でボルトン氏は、昨年の日本での先進20か国首脳会議(G20)の際の、中国の習近平主席との会談について、次のように書いている。―「トランプ氏は、会談で米大統領選についての議題を持ち出し、さりげなく中国の経済力に言及、大統領選での勝利を確実にするための支援を嘆願したので驚いた」
 「彼は農民の重要性を強調、中国が大豆と小麦の買い上げを増加してくれることを求めた」
 農業は米国中西部の主要産業の一つで、2016年の大統領選でのトランプの勝利の地盤となった。

2.トランプは、抑留施設の建設は「正しい行動だ」といった・・・
 中国でのウイグル族や他の少数民族の取り扱いは、国際的な非難を引き起こしており、約100万人が新疆地域のキャンプに抑留されているとみなされている。
 トランプ氏はこの大量拘留に関わった中国当局者への制裁を承認、中国の怒りを引き起こした。しかし、ボルトンの本によれば、習主席がこれらの収容所建設を正当化したさい、中国の行動を承認した、という。

3.トランプは「私自身は独裁者好きだ」と発言
 ボルトン氏は、中国の指導者だけが、トランプ氏が迎合した独裁者ではない、と非難している。
 トランプ氏は彼が好む独裁者たちに「事実上の好意的措置を与えるため」犯罪捜査に介入したがっていると、ボルトン氏は書いている。
 本書によると、トランプ氏は2018年、トルコのエルドアン大統領に対し、トルコ企業のイラン制裁容疑に対する米当局の捜査に関して、助力を申し出た。
 米大統領は「注意深く捜査を進める」ことに同意し、捜査担当の検事たちは「オバマ時代の者たちだ」と言ったという。

4.民主党は弾劾努力をもっと進めるべきだった
 本書でボルトン氏は、民主党の大統領選候補者バイデン氏への捜査を開始するよう、ウクライナ政府に圧力をかけるために、トランプ氏はウクライナ政府への軍事援助の停止を望んでいたという民主党の主張を支持している。この民主党の主張により、トランプ氏に対する弾劾の動きが始まった。
 しかしボルトン氏は、本書の中で民主党を非難し、「彼らはウクライナだけに集中し、弾劾に失敗した」と述べている。ボルトン氏は、もし彼らが調査をもっと広げていたら、トランプ大統領を辞めさせるために必要となる「重大な犯罪と軽犯罪」を彼が犯していたと、より多くの米国民に信じさせることになっただろう、と述べている。
 ボルトン氏は、彼が述べる新たな主張が、弾劾に結び付くかどうかについては述べていない。
 彼は、昨年遅くに行われた、下院でのトランプ弾劾への手続きでの証言を避け、上院では、共和党議員たちによって証言が阻止された。

5.トランプは二期以上、大統領を続けるのを望んでいることを示唆した
 トランプ大統領の習近平との会話について続ける。ボルトンは、トランプ氏が中国の指導者に、米国人はトランプ氏が2期以上大統領を務めるために、憲法を改正することを熱望している、と述べている。
 「習はトランプに、6年以上やってほしいと思っていると応じて、会談は最高潮に達した。トランプは、国民は彼のために、2期までと定めている大統領の任期条項を廃止すべきだと言っている、と応じた」とボルトンは、ウオールストリート・ジャーナルが掲載した本書抜粋で書いている。
 「習は、選挙が多すぎる。と述べた。彼はトランプの交代を望んでいないからだ」
 ―以下、長くなるので、BBC電子版の一部を省略。

6.トランプは英国が核保有国であることを知らなかった
7.・・・もしフィンランドがロシアの一部だったら・・
8.彼はNATO脱退実行にとても近い
 トランプ大統領はしつこくNATO批判をしており、他の加盟国の分担金増額を要求している。
 米国はNATOメンバーに留まってはいるが、2018年のNATO首脳会議に際しては、トランプはNATO脱退を決意していた。
 ボルトン氏によると、大統領は「われわれは脱退する。支払わない国は守らない」と言った。

9.ベネズエラ侵攻は“クール”に
 トランプ政権の外交にとって、頭の痛い重要テーマの一つは、ベネズエラのマドーロ大統領の、ゆるぎない反米姿勢だ。
 この問題について、トランプ大統領は、ベネズエラ侵攻は「クール」だろうし、この南米の国は「実際は米国の一部なのだ」と述べていた。(この項後略)

10.同盟国でさえ彼を嘲笑している
 ボルトン氏のこの著書には、ホワイトハウス内の公職者たちがトランプ大統領を嘲笑している数例が記されている。
 彼はホワイトハウス内の機能不全について書き、会合が政策作成の努力とみなすより、“食べ物の奪い合い”に似ている、と記述している。
 彼がホワイトハウスに到着した時、首席補佐官のジョン・ケリーは「ここは、働こうとする人には悪いところです。あなたも分かるでしょう」といった。
 大統領に忠実だとみられているポンぺイオ国務長官でさえ、大統領のことを“Full of shit”(くそったれ)と呼んでいるメモを書いたといわれている。(了)

(注)トランプ米大統領はじめ人物の敬称、肩書については、BBCの原文になるべく従った。日本のメディアは、見出しでも文中でも、おそらくすべて「大統領」とか「氏」とかを付けているが、世界のメディアは違う。文中では単に「トランプ」で、肩書、敬称を付けないこともある。
2020.06.23  我孫子市議会の意見書提出について(報告) 
          韓国通信NO641

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 地元市議会に対する請願の結論が出た。
 本会議に先立ち、総務企画委員会では委員全員が賛成という信じられない採決をへて、本会議では5人の自民党系議員が反対したものの賛成多数で採択された。
 以下は当日傍聴に来た方に配った報告である。沖縄の辺野古基地問題で意見書を提出するのは千葉県では初。自民系が分裂。その他の会派は全員賛成という結果に注目していただきたい。

 本日6月18日、我孫子定例議会は私たち市民の請願によって下記意見書を採択しました。
<賛成 18 反対 5 保留0 > 

 
内閣総理大臣 安倍晋三様
国土交通大臣 赤羽一嘉様
防衛大臣  河野太郎様

辺野古基地について沖縄県と真摯に話し合うことを求める意見書
                         
 沖縄県が2019年2月24日に実施した県民投票によって辺野古基地建設反対の県民の意思が明らかになりました。しかし、政府は現在、国の安全保障にかかわる問題として県民の意思を尊重せず、埋め立て工事を進めています。
 国土の0.6%の沖縄が在日米軍専用施設・区域の約70.3%を負担するという苛酷な状況から生まれる苦痛は察するに余りあります。一地方自治体の民意を政府が考慮を払わないことに沖縄県外の住民としても看過できません。
 沖縄県民の意思に寄り添って、政府が沖縄県と真摯に話し合って頂くよう求めます。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出します。
令和2年 6月 18日
千葉県我孫子市議会議長 西垣 一郎
  


 意見書は極めて簡潔に、沖縄県の住民投票が示した基地建設反対の意思を尊重するよう政府に求めるもので、沖縄県民に強いている犠牲を私たちは見過ごすことはできないと主張しています。

<活動の経過>
 請願書の文章が完成して請願運動を始めたのは2月初旬でした。新型コロナウィルス騒ぎのさなか、苦労しましたが、620名もの請願者が集まりました。署名者は我孫子市を中心に千葉県、東京、神奈川、茨城、栃木まで広がり、若者を含め多くの年代層、特に女性たちの積極的な参加が特徴的でした。
 請願は、「辺野古」はすべての人にかかわる「自分の事」と呼びかけた玉城沖縄県知事の発言に応えたもので、民意の尊重と沖縄を孤立させない私たちの思いがしっかりと込められています。

<さらに多くの声を>;
 人口13万人あまりの小さな我孫子市で、この意見書が採択された意義はとても大きいと思います。市議会定数24名のうち清風会(自民系)8名、公明党4名、無所属フォーラム3名、あびこ未来3名、NEXTあびこ2名、日本共産党2名、あびこ維新2名という構成のなかで、市政と比較的なじみのうすい基地問題が真剣に討議され、請願の趣旨が理解されたのは画期的なことです。国政レベルでは進展が見られないなか、本日私たちの思いが確実に伝わったことを確信しました。
 請願活動のさなか、政府は中断していた埋め立て工事を再開するという暴挙に出ました。しかし住民の抗議でイージス・アショア計画が白紙に追い込まれたように、辺野古にも展望が大いに見えてきたのを感じます。
 今回の我孫子市民のメッセージは、沖縄はもとより全国の人たちに届くことでしょう。沖縄に連帯する声がさらに広がれば希望になります。

 最後になりますが、今回の請願の紹介議員としてご協力をいただいた坂巻宗男議員に心からの感謝を申し上げます。また署名にご協力いただいた皆さんに心から感謝申し上げます。
2020年6月18日
2020.06.22  「香りつき柔軟剤の販売を後押ししている」と批判を浴びる『朝日』の「香害」記事
          シリーズ「香害」第15回

岡田幹治 (フリーライター)

 5月9日の『朝日新聞』(東京本社版)に「ブームの柔軟剤 漂う匂いは『香害』?」という記事が掲載されて1か月余り。「香害や化学物質過敏症(CS)のことを理解せず、香りつき柔軟剤の販売を後押しする記事だ」という批判がくすぶり続けている。なぜなのだろうか。

◆「好きな香りでリラックスを」と呼びかけ
 柔軟仕上げ剤は、合成洗剤で洗濯すると衣類がゴワゴワしたり、静電気をもったりするのを防ぐために開発されたものだが、10年ほど前から「香りつき」が人気になり、近年は強い香りが長続きする「高残香性」商品が多数発売されている。
 この種の柔軟剤で洗濯した衣類からは成分が揮発し、これを吸い込むと、体調が悪化したり、CSになったりする人が少なくない。日本消費者連盟の「香害110番」では柔軟剤が原因のトップだった。
 このため国民生活センターは今年4月、「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供(2020)」を公開し、「使用量の目安を参考に、過度な使用は避けましょう」などを消費者に呼びかけた。

 こうした状況の中でこの記事は掲載された。こんな内容だった――。
 「柔軟剤の香りが気になるという相談が国民生活センターに相次いでいる」と始まり、香りを重視した柔軟剤が増えており、販売量は10年前の1.5倍にまで伸びたと指摘した後、「(柔軟剤によって空気中に放たれる化学物質の)体への影響はわかっていない。ただ、化学物質は空気中の汚れ。なるべく出さないほうがよい」というセンター担当者の発言を引用する。
 併せて、メーカーは香りの強さを容器に表示し、まわりに配慮するよう注意喚起もしていると紹介する。
 記事は次いで、札幌市の渡辺一彦小児科医院には、「匂いでCSになった患者」が昨年だけで83人訪れたことを記し、「香りを求める商品開発競争がアクセルを踏んでいる」「『香害』は深刻だ」という渡辺医師の発言を引用する。
 記事はその後、「なぜ、人は香りを求めるのか」に話を転じ、「霊長類は優れた視覚と聴覚を得たので、嗅覚は生死を決める重要な感覚から、生活を彩る感覚へと変わった」という平山令明・東海大学先進生命科学研究所長の見解を紹介し、こう締めくくる。
 「ラベンダーなどの香りには心を安らかにする効果もある。ストレスがたまりやすいこのごろ、使いすぎに注意しながら、自分の好きな香りで少しでもリラックスを」

◆「香害」とは何かを知らぬ記者
 江戸川夏樹記者によるこの記事でまず指摘できるのは、誤った記述が少なくないことだ。たとえば記事は「匂いでCSになった患者」と書いているが、においでCSになることはありえない。
 柔軟剤をはじめとする香りつき商品(制汗剤や消臭剤など)はいくつもの有害成分(化学物質)を含んでいる。それらの成分が揮発したのを吸い込んで体内に取り込み、その影響で体調が悪化したり、喘息などの病気になったりするのが「香害」であり、そのうち最も深刻な病気がCSなのだが、そうした事情を記者は理解していないようだ。

 香りつき商品にはどんな成分が含まれているだろうか。ライオン(株)の「ソフラン プレミアム消臭 ホワイトハーブアロマの香り」を例にとると、この柔軟剤には①エステル型ジアルキルアンモニウム塩と②ポリオキシエチレンアルキルエーテルと6種類の化学物質および「香料」が含まれている。
 このうち①は「陽イオン型合成界面活性剤」で、皮膚刺激性や眼刺激性が強い。②は「非イオン型合成界面活性剤」で、強い眼刺激性と弱い皮膚刺激性を持つ。
 香料はこの商品では36成分が混合されており、この中にはベンジルアルコールやゲラニオールなど、欧州連合(EU)が皮膚アレルギーを起こすと認めた化学物質が含まれている。これらは飲み込んでも吸入しても有害だ。
 柔軟剤のにおいを嗅ぐということは、以上のような有害な物質を体内に取り込むことなのだ。

 記事はまた「嗅覚は生活を彩る感覚へと変わった」と書いているが、嗅覚はいまでも「生死を決める重要な感覚」である。
 嗅覚が正常なら、たとえば食べものが腐っているかどうかをニオイで判断できるし、都市ガスが漏れればニオイですぐに気づく。ところが、香りつき商品を長年使い続けていると、嗅覚がマヒする可能性が大きい。香りつき商品の氾濫にはそうした弊害もある。

◆目安量通りの使用でも無害ではない
 記事の結びは、使いすぎに注意しながら、好きな香りでリラックスしようという呼びかけだ。この呼びかけは、香りつき柔軟剤はメーカーが表示する目安量通りに使用すれば、周囲の人の迷惑にはならない、という前提に立っている。
 しかし、香りの強い柔軟剤は目安量通り使用したからといって無害になるわけではない。目安通りの使用でも、その成分を吸い込んで体調が悪化する人たちは少なくないのだ。
 なぜそうなるのか。その理由が、国民生活センターが実施し、「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供(2020)」で公開した「柔軟剤に関するテスト」に示されている。
 このテストは、市販されている①洗濯用合成洗剤、②無香性の柔軟剤、③微香タイプの柔軟剤、④香りの強いタイプの柔軟剤を使って衣類を洗濯し、9畳ほどの広さの室内に干して、1時間後の空気中の揮発性有機化合物(VOC)の総量(TVOC)を測定した。VOCは香害の原因物質を多く含んでいる。

 測定の結果、①②③は室内のTVOC濃度が1立方メートル当たり40マイクログラム(㎍=100万分の1グラム)程度の上昇にとどまった。
 これに対し④は、表示された目安量通り使用した場合は80㎍程度上昇し、表示の目安量の2倍を使用した場合は230㎍程度も上昇した。香りの強い柔軟剤を使うと、目安通りであっても、TVOCの濃度が合成洗剤だけの場合の2倍にも上昇するのであり、目安量の2倍を使用すれば5倍以上にもなるわけだ。

 こうした事実を無視し、「使いすぎに注意しながら、自分の好きな香りで少しでもリラックスを」と呼びかける記者は、他人の吸うたば こで被害を受ける人のことを考えず、喫煙者に「吸い過ぎに注意しながら、たばこでリラックスを」と呼びかけているようなものだ。
 以上のように問題だらけの記事だが、柔軟剤メーカーからみれば、こんなありがたい記事はないだろう。
 『朝日』の記者は、だれの立場に立って記事を書いているのだろうか。
2020.06.21  「本日休載」
 
今日6月21日(日)は休載します。

リベラル21編集委員会