2019.10.06  「本日休載」

今日10月6日(日)は休載します。

リベラル21編集委員会

2019.10.05  韓国で日本を想う―6日間のソウル観光を終えて (中)
          韓国通信NO615

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

<秋夕>
 今年の「お彼岸」-秋夕(チュソク)は9月13日だった。陰暦の8月15日が太陽暦でこの日にあたる。韓国では秋夕に法事のために一斉に里帰りする。「民族の大移動」とも言われ、ソウルの町はカラッポになる。<下写真/鐘路大通りから人も車も殆ど姿を消した13日正午ころ>
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 12日、私がかつてハングルを教わった「先生」の墓参りをした。
 私がハングルを教わったのは朴媛淑さん、朴仙姫さんという姉妹である。二人とも国費留学生として東大の大学院で学び、40年も昔、私たちにボランティアで韓国語を教えた。ある人が「韓国の宝」と称賛したほど、優秀な姉妹だった。
 姉の媛淑さんは帰国後、陶芸家として、また晩年は韓画作家として活躍したが、61才の若さで亡くなられた。妹の仙姫さんは帰国後、公務員として食品安全部で活躍中だ。

 墓参には、「先生」と旧知の李君を誘った。ソウル郊外盆唐(ブンダン)の地下鉄駅前で待ち合わせ、彼の車で忠清北道の清州(チョンジュ)市に向かった。生憎の雨模様だったが、帰省ラッシュに巻き込まれることもなく霊園で妹さんの仙姫さんと落ち合うことができた。納骨堂に納められた仙姫さんの遺骨と位牌の前で、しばらく故人の思い出話をした後、三人で会食した。

<日本が心配>
 久しぶりの再会で話は尽きない。
 「韓国に避難してきませんか」と、李君は放射能汚染水を心配した。「日本大好き」の彼はかつて一人娘を日本に留学させる夢を語っていたが、2011年以降、口に出さなくなった。逆に私たち夫婦に避難をすすめたことに耳を疑った。福島の汚染水について、韓国の人たちは日本人以上に深刻に受け止めているようだ。日本には、120万トン近い大量の汚染水を海へ放流する計画がある。慎重で冷静な議論が必要であるにもかかわらず、韓国政府の懸念に対し、「よけいなことをいうな」とばかりにケンカ腰になる日本政府。
 韓国にも24基の原発がある。韓国政府が原発について日本にとやかく言える立場ではないのは事実だが、事故処理ができないでいる日本に韓国を批判する資格はない。韓国の要請に「逆ギレ」して、前後見境もなく海へ放流することになったら、それこそ本末転倒だ。
 聞く耳を持たず理性を失ったような日本の外交。それこそ「冷却水」が必要だ。福島の漁民たちが海洋汚染を心配するように韓国が心配するのは当たり前のこと。当たり前で大切なことが「韓国ぎらい」の中でかき消されようとしている。

 焼き肉を食べながら、話が日韓関係の問題に向かったのは当然の成り行きだった。朴さんは日韓関係の悪化を心配しながら、韓国内の安倍政権批判に対しては同調しなかった。韓国側の対応にも問題があるという。何処に問題があるのか、という質問には「悪化している現状がその答え」というばかり。安倍政権の歴史認識を問題にする男性二人(李君と私)は意気込むのだが、彼女はそれを言いだしたら解決にはならない、と冷静だ。議論はそれ以上深まることはなかった。

<考える韓国の人たち>
 実質秋夕入りとなったその日、駅の売店、コンビニで新聞を手に入れることができず、やっとホテルで朝刊を手に入れた。
 12日付『朝鮮日報』は一面、二面、三面で法務部長官に就任した曹国氏の疑惑を報じ、広告のページでは「文在寅退陣、国民運動」のキャンペーン。光化門広場で開かれる決起大会の呼びかけが行われていた。その他、秋夕の関連記事と並び、安倍内閣の組閣人事の記事が目についた。
 1920年創刊の朝鮮日報は東亜日報、中央日報とならぶ韓国の三大紙で、最も保守、財閥寄りの新聞として知られる。文現政権に批判的なのは日本の新聞各紙と共通するが、安倍政権に対する批判もなかなか厳しい。日本では『赤旗』「日刊ゲンダイ」以外に、朝鮮日報並みの批判記事を書いた新聞はあったのだろうか。以下、要約して紹介する。

 見出し―「安倍内閣19名中17名交代…右翼強硬派前面に」/ 小泉進次郎の任命式に向かう写真とともに、茂木、萩生田、菅原、河野新大臣を顔写真入りで紹介。
 小見出し―経済産業相に右翼菅原、外相に9回当選のベテラン茂木「韓国へ国際法違反是正を要求する」、小泉元総理の次男 進次郎は38才で男性最年少入閣
 11日に行われた内閣改造では19名の閣僚のうち17名を更迭、右翼傾向の強い人物と側近を大挙入閣させた。今回の改造によって安倍政権の右翼的体質は色濃く、韓国は勿論、周辺諸国との衝突が繰り返されることが懸念される。第二次安倍内閣発足以降の最大の内閣改造だが、麻生副総理、菅官房長官はいずれも留任。茂木外相は就任最初の記者会見で「(韓国の徴用工判決に触れて)韓国の国際法違反の状態が1年近くも続いているのは遺憾だ、是正を強く求めていく」と語った。韓国に対する輸出規制問題を担当する菅原経産相は日本の右翼団体「国民会議」に所属し、「河野談話」を否定する立場の人間だ。東京の消息筋によると「安倍首相の狙いは外務大臣と経産相の変更によって日韓関係に新しい雰囲気を作ろうとする意向が働いた」と言われる。安倍首相はこれまで韓国との関係で問題発言を続けてきた人物を大挙起用した。総務大臣として再抜擢された高市早苗も植民地支配を謝罪した村山談話を否定した人物として伝えた。萩生田文科大臣は首相の側近中の側近である、と伝えた。

 以上、記事を短かくまとめたが、改造新内閣の右翼的傾向を見事に伝えていた。
 徴用工問題に端を発した日本側の経済制裁に韓国社会は大反発し、「日本製品の不買運動」、「日本に行かない」キャンペーンを展開中だ。キャンペーンに感情的な側面があることは否めないが、最近では、ズバリ「NO(아베)アベ」と、安倍首相に焦点をあてた意思表示がみてとれる。首相個人を前面に押し出した運動はこれまでないことだ。これを「反日」運動と日本のマスコミ各社は伝えるが、明らかに間違い。正確には「反安倍」である。『朝鮮日報』が、安倍内閣を右翼集団と断定したことからわかるように、韓国は保守・革新を問わず「NOアベ」である。
 久しぶりに鐘路の教保文庫(大規模書店)をのんびり歩いてみた。青木理氏の著書『安倍三代』(2017)と『日本会議の正体』の翻訳本が山積みにされていた。ベストセラーだという。「日本会議」に乗っ取られた感のある安倍政権に対する韓国市民の警戒心と関心は相当なものだ。
 「他に適当な人がいない」「安定感があるから」という理由で、安倍政権をなんとなく支持する日本人には理解しがたいかもしれないが、日韓関係の悪化の原因は安倍首相個人にあると考える韓国人は多い。

<未来のために>
 日韓関係改善の糸口が見いだせない状態が続く。両国の関係悪化を憂いながら、ほとんどのテレビ番組は、連日のように文在寅大統領の批判をするという異常な状態が続いている。そして、韓国バッシングでは、韓国問題の「専門家」たちが競って韓国批判の旗振り役を務める。政府に都合のいい「反韓ムラ」の人たちだ。中でも韓国大使館勤務を振り出しに駐韓大使を勤めた武藤正敏氏の“活躍ぶり”が注目される。

 『日本大使が徹底分析 韓国の大誤算』(2016)、
 『韓国人に生まれなくてよかった』(2017)
 『文在寅という災厄』(2019)
 という彼の著書のタイトルからもわかるように、韓国への悪意が感じられる。元大使の肩書で韓国への非難を売り物にテレビで発言しているように私には思える。韓国の実態を本国(日本)に忠実に伝え、両国関係を円滑にするのが大使の仕事と思っていた私には信じがたい。
 彼が韓国に赴任中には、大使館前で「水曜デモ」が毎週続けられていた。彼は大使館のなかにこもって元慰安婦のハルモニたちへの蔑視と憎悪の念を燃やしていたのだろうか。
 こじれている徴用工問題の責任も武藤氏にあると言っても過言ではない。企業責任を問われた被告企業三菱重工業の顧問だったという経歴から、武藤氏が重工の利益を守る立場だったといわれても仕方ない。

 実は安倍政権と同調者たちがまき散らす「反韓」「嫌韓」に反論するのに少々疲れている。バカバカしくなったというのが偽りのない私の気持ちだ。それでも黙っていたら「負け」という気持ちもある。この異常事態を克服するのは容易ではない。
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戦争と狂気のファシズムに抗して闘った先人たちを思うと、私たちにはまだまだやれること、しなければならないことがある。<左写真/8月27日首相官邸前の「韓国バッシングへの抗議集会」には約500人の市民が集まった>
 言い尽くされた感もあるが、やはり一人ひとりが自分の目で確かめ、考え、行動するほかない。武藤正敏氏に代表される「反韓」専門家たちの嘘を見抜くのは、隣国とは対等に、隣人として敬い、平和を愛する私たち一般市民をおいてない。

 秋の旅行シーズンを迎えてなお、韓国への飛行機代は往復1万円以下である。韓国からの旅行客激減が影響していると思われる。日韓の交流事業が相次いで中止になるなか、頑張って交流を続ける団体も少なくない。この時期にこそ魅力あふれる韓国へ! ご一緒しませんか。未来のために。<次号に続く>

2019.10.04  立憲民主、国民民主、社保の野党3党統一会派結成が市民と野党共闘体制の崩壊につながる恐れはないか、
          程遠い野党連合政権への道(1)

広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

  2009年8月、民主は衆院選で308議席を獲得して大勝し、自民から政権を奪取した。だが、野田内閣による消費税増税(当面8%、数年後10%)実施を巡って党内が分裂した結果、12年12月衆院選では自民294議席に対してわずか57議席と惨敗し、政権を失った。それ以降も離合集散を繰り返し、16年に民主と旧維新の合流で民進党が生まれたかと思いきや、翌17年には希望の党をめぐって再び分裂するという有様で、これでは国民に信頼されるわけがない。

 それからというものは、政党支持率では立憲民主は10%に届かず、国民民主に至っては泡沫政党レベル(1%)でしかない。当然のこととして、2019年参院選では17年衆院選に比較して立憲民主は1108万票(比例代表得票数、以下同じ)から792万票へ▲316万票、国民民主は968万票(希望の党)から348万票へ▲620万票の大量票を失うという無残な結果となった。

 17年衆院選の瞬間風速的な「立憲ブーム」がその後も続くと錯覚したのか、枝野代表は「永田町の数合わせにはくみしない」と立民主導のスタンスを崩さず、野党共闘には極めて消極的だった。だが、19年参院選の結果には衝撃を受けたようで、19年8月には立憲民主と国民民主が衆参両院で「会派をともにする」との合意文書を交わすことになった。立憲民主単独では、国会運営で野党第1党のリーダーシップをとることが難しいと判断したからだろう。

 しかし、枝野代表の突然の心変わりがいかにも不自然だと映ったのか、有権者の多くが両党の合意には納得していない。共同通信が8月17、18両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、事実、以下のような結果が出ている。
 【問】立憲民主党は、国民民主党などに対し一つの衆院会派で活動するよう要請しました。あなたはこの立憲民主党の動きを評価しますか、評価しませんか。
 【回答】「評価する」30.2%、「評価しない」50.3%、「分からない・無回答」19.5%
 この数字は、民進党時代に大分裂した立憲民主と国民民主が、具体的政策への言及もなく、ただ「大きい塊をつくる」という理由だけで合流することへの不信感が依然として根強いことを示している。それはまた、国民の期待を裏切った民主党政権への失望と落胆があまりにも大きく、小手先細工では修復不可能であることを示している。

 もう一つの問いは、野党協力・連携のあり方を全体として問うもので、いわば「野党共闘のフレーム」に関する質問である。
 【問】あなたは、野党の協力に仕方についてどう思いますか。
 【回答】「できるだけ多くの野党が一緒になり、政権交代を目指す政党をつくる」21.0%、「野党はそれぞれの党を維持した上で、国会や選挙で協力して与党に対抗する」36.7%、「野党は政策課題ごとに与党に是々非々で対抗する」32.9%、「分からない・無回答」9.4%
 結果は「野党連合政権」2割、「野党共闘」4割弱、「各党独自路線」3割強というもので、全体としては「野党共闘+α」が多数を占めると言ったところだ。要するに、政権交代とまでにはいかないが、自公政権の腐敗や専横ぶりをチエックする野党勢力の強化が必要であり、そのためには国会や選挙での野党共闘が必要だというものだ。

 立憲民主と国民民主との間で「会派をともにする」合意が成立した後、会派名や人事をめぐっての交渉が難航して妥協に妥協を重ねた挙句、漸く統一会派が結成されたのは1カ月後のことである。それも立憲民主と国民民主だけではなく、野田前首相の率いる「社会保障を立て直す国民会議」(社保)を含めた3党派による統一会派の結成だ。何のことはない。旧民進党から分裂した野党3党派が再び野党統一会派を結成するだけの話ではないか。9月19日午後、国会で記者会見に応じた3党会派代表の写真をみたが、まるで野田内閣の亡霊をみるようでやりきれない気持ちになった。私の友人などは「見たくないものを見てしまった」と話していたが、多くの人たちが多分そう感じたのではないか。

 おまけに、これまで旧民進とは一線を画してきた社民までが方針転換して統一会派に参加するのだという。自民とほとんど体質の変わらない野田氏が一角を占める統一会派に、社民までが加わっていったいどんな野党勢力をつくるというのか、まったく見当がつかない。統一会派結成を契機に立憲民主に入党した安住元財務相は統一会派の国対委員長に就任し、「2大政党勢力で政権を争う体制を作らないといけない」と語ったという(朝日19年9月20日)。立憲民主が旧民主・民進の復活によって自民との「2大政党制」を目指すのであれば、これは旧民主党時代の姿と寸分も変わらない。それはまた、市民と野党共闘の間で結ばれた政策協定の趣旨にも反することになり、共闘体制の崩壊にもつながる恐れがある。

 これに対して、これまで野党共闘に取り組んできた共産はどのような態度を表明しているのであろうか。赤旗(19年8月28日)の「野党連合政権構想について、志位委員長会見 一問一答から」によれば、3党派の統一会派結成(の可能性)といった複雑な情勢には全く触れず、〝野党共闘一直線〟ともいうべき戦略と方針が提起されている。要点は、次期総選挙において国会で多数を占める野党連合政権を実現するためには、(1)政権をともにつくるという野党間の確かな政治的合意が必要であること、(2)政策については、政策的一致点を確認して魅力あるものに充実させるとともに、不一致点については政権運営の障害にならないようにきちんと処理して政策合意をすること、(3)総選挙での選挙協力とりわけ小選挙区における候補者調整は、政権合意を基礎に進めたいこと―の3点である。

 この呼びかけは、過去3回の国政選挙(2016年参院選、17年衆院選、19年参院選)における野党共闘が一定の成果を挙げたものの、政権合意を抜きにした選挙協力であったために、結果は共産の一方的サービス(候補者降ろし)に終わり、共産自体は党勢の後退を余儀なくされるという苦い経験と反省に基づくものだろう。参院選1人区32選挙区での候補者調整だけでも大変な犠牲を強いられたのに、衆院選小選挙区は全国で289もあるのだから、きちんとした政権合意のない候補者調整には応じられないとの意思表明でもある。

 共産からすれば大義のある呼びかけのつもりだろうが、3党派の統一会派結成に見られるように「2大政党制」の復活を企む潮流が再び浮上するといった複雑な政治情勢の下では、このような呼びかけが各党に素直に受け止められるとは到底考えられない。結局のところ、「本気の野党共闘」は選挙協力しなければ野党各党の命運が尽きる、あるいは命運が尽きる恐れがあるギリギリのところまで行かなければ実現しないのではないか。(つづく)
2019.10.03  大学改革-何が目標なのか
          「スーパーグローバル大学」のその後

小川 洋 (大学非常勤講師)

 この6月上旬、筆者はフランス、ノルマンジーの小さな町のホテルに宿泊した。そこで魅力的な若いカップルと一緒になり、いろいろと話が弾んだ。ウクライナで学業を終えて仕事に就き、その後、デンマークに移り、現在はユトレヒトに住んでいるという。初夏のフランスで週末を過ごすために車でやってきたカップルは、「イタリアは住むには魅力的だが、仕事を見つけるのが難しく、あっても給与水準が下がるので、敬遠せざるをえない」という。今後も、より良い条件の仕事や生活を求めてEU内を移動していくのだろう。母語とロシア語、英語、デンマーク語を操り、現在、オランダ語の習得に努めているという。
 
彼らと話していて、2014年、政府・文科省の鳴り物入りで始められた「スーパーグローバル大学事業」を思い出した。日本の大学のグローバル化とグローバル人材の育成を目標に掲げ、「世界レベルの教育研究を求められる大学(Aタイプ)」14校、「日本社会のグローバル化を牽引する大学(Bタイプ)」24校が選定された。前者は東大、京大を始めとする主要国立11校と早慶の2校、後者は国立10校、公立2校、私立12校であった。
選定当時は、「国がエリート大学を認定した」など、当該大学はもちろん受験業界などは興奮気味だったが、6年が経過した現在、話題となることも少なく、事業は尻つぼみの感がある。理由としては、10年間予定されている補助金の額が年を追って削減されるなど、国自身の熱意が冷めていること、また一部の大学では、下に紹介したように、過大な目標を掲げて息切れしている様子があること、などが考えられる。
 
さて、ヨーロッパ最古のボローニャ大学をあげるまでもなく、古来、大学は国家や言語の違いを超えて、新しい知識を求める人々が集まる教育の場だった。現代では、ますます世界中の大学が教育研究の優秀さを競い、より多くの優れた学生を集めようと競い合っている。Aタイプに選ばれた東大の大学院は現在、12,800人中3,000人が留学生人である。同じく東工大では5,400人中1,200人が留学生であり、国籍は80カ国に及ぶ。Aタイプ大学に対して示された課題は、教育研究のいっそうの充実によって、「世界大学ランキング」の100位以内に入ることである。20年版では、東大、京大、東工大、東北大、大阪大の5校がトップ100にランクインしている。

しかし皮肉なことに、これらの大学がポイントを稼いだのは研究活動によってであり、国際交流など、国際性の指標は後退さえしている。ランキングを発表しているイギリスの評価機関が設定する指標は、イギリスやアメリカの大学に有利になるように組まれていることは、つとに指摘されている。ランクを上げるためには、多少不本意でも、評価機関の示す指標に合わせた取り組みを増やすことが求められる。
 これに対してBタイプの、とくに私大の取り組みは、だいぶ異なった様相を示している。次表は、各大学の掲げる主要な数値目標である(新潟にある大学院大学の国際大と、もともと国際性の強い国際基督教大と立命館アジア太平洋大の3校は省略した)。いずれの大学もそろって、海外大学との提携によって、海外留学生の呼び込みと日本人学生の海外留学(研修)の大幅な拡大をあげる他、主として英語による授業科目の拡大や英語を中心とした学生たちの語学力向上を目標に掲げている。
大学名おもな数値目標
芝浦工業大学日本人学生の海外留学100%(1.7%)、外国人留学生数29.4%(1.5%)、外国語での授業1,200科目(4科目)
上智大学日本人学生の海外留学2,124人(625人)、外国人留学生2,940人(1,358人)
東洋大学日本人学生の海外留学10.3%(2.9%)、外国人留学生比率8.5%(2.1%)、海外学生交換協定100校(39校)
法政大学日本人学生の海外留学1,500人(775人)、外国人留学生3,000人(669人)、全学部学生CEFR B1の取得
明治大学日本人学生の海外留学4000人(1,007人)、外国人留学生4,000人(1,570人)
立教大学海外留学生2,000人(500人)、外国人教員比率20%(14%)、
創価大学日本人学生の海外留学16.7%(7.0%)、外国人留学生14.5%(3.8%)、TOEFL-iBT80点を満たす学生17.9%(3.6%)、
立命館大学日本人学生の海外留学3,200人、外国人学生4,500人(1,341人、2015年)
関西学院大学日本人学生の海外留学2,500人(1,000人)
   各大学HPページより作成。( )内は2013年時点、東洋大については2014年。

これらの大学が、多かれ少なかれ参考にしたはずの先行例がある。今回もタイプBに選ばれている秋田公立国際教養大である。ミネソタ州立大秋田校の跡地に04年に開設された。開設にあたっては東京外国語大学長だった中嶋嶺雄を招き、授業のすべてを英語で行い、在学中に1年間の海外留学を義務付けるなど、英語力と海外経験を強調する教育を展開した。19年現在、入学定員175人の小規模校でありながら、49カ国・地域の190校の提携校をもつ。
国際教養大から卒業生が送り出されると、大手企業からの求人が殺到するなど、大学は一気に評価を高めた。タイプBの大学の多くは、この大学に似たカリキュラムや学習環境の整備を目指しているようにみえる。では、それらの目標が達成されたとして、どのような人材が育つのだろうか。ウクライナの若者のように、より良い条件の仕事や生活を求めて生まれ育った国、あるいは教育を受けた国を離れ、国境を自由に越えて移動するような人材だろうか。そうではあるまい。
国際教養大の教育が評価されたのは、世界経済のグローバル化の波に翻弄される日本企業が求める人材の需要に応えたからだ。国際教養大の卒業生の進路の内容は意外と地味だ。17年度の卒業生183人中、大学院などへの進学者は10名程度、IT分野や教員の「専門的・技術的職業」も約10名に留まり、大半が大手企業の営業、事務部門である。大学自身も、「有名企業400社への実就職率全国3位」という、教育情報企業の出した情報を誇らしげに掲げている。

少子化が進行し、熾烈な競争環境に置かれている私大の多くは、以前からキャリア教育の充実など、学生の就職支援を熱心に行ってきた。保護者、受験生にとっても、卒業生の就職実績は最大の関心事である。Bタイプの私大が送り出そうとしている、一定以上の英語力と海外経験をもつ人材は、企業内教育の手間が省ける即戦力として、企業からは歓迎されるだろう。選定された私大は事業を最大限に利用して、卒業生を有力企業に送り出す。それが大学の生き残りに大いに資する、と考えるのもやむを得ない。また、「グローバル化の牽引」という事業の目標も、実際的にはその辺りにあるのだろう。

しかし筆者は、大学がそのような短期的な目標に合わせた人材育成に集中することに、疑問を感じざるをえない。長期的に見れば、今後、世界の政治経済の重心は、中国やインドさらには東南アジア地域に移動していくはずだ。日本人もその環境変化の波に飲み込まれざるを得ない。またEU圏内でナショナリズムの動きが強まっているように、世界的には反グローバリズムの流れも生まれている。
そのような環境では、「英語で仕事ができる」というだけでは通用しなくなる。今後、よりいっそう複雑化する国際社会への深い理解はもちろん、グローバルに移動するために、居住地の文化への理解や現地の言語能力も求められるようになるだろう。大学には、より一層の多言語・多文化の環境づくりを進め、即戦力に留まることのない人材を育てていくことを期待したい。

最後に筆者の期待をもうひとつ。フロリダのディズニーランドでのインターンシップを提供する明治大学が、女子受験生の間で人気となっているという。大学の努力を否定するわけではないが、女性の地位向上を考えるのであれば、もっと野心的なプログラムを考えられないか。例えば、女性の政治進出の著しい国の議会での長期間のインターンシップはどうだろう。経験した学生の中から将来、世界的な尊敬を集める女性首相が出現することが目標だ。教育とは、その程度の先を見て行われるべきものだ。
2019.10.02  不安?焦り?それともほかに?――国慶節、何故の大騒ぎ
          習近平の中国(5)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 昨10月1日は中国の建国記念日、国慶節だった。ことしは建国70周年ということで、盛大なお祝いになるらしいと言われていたので、さてどんなものかと、インターネットの中継を見ていた。驚いた。なんといったらいいか、何かに向かって虚勢をはっているとしか思えない大騒ぎだった。
 昔、東西対立が世界の最大の矛盾だったころは、ソ連の赤の広場のパレードに象徴されたようなデモンストレーションにも東側としてはそれなりの意味があったろうが、今となっては北朝鮮のパレードが他国から失笑を買うものでしかなくなっているように、パレードなるものは国家が先立ちになっておこなうものではなくなっている。
 習近平は2015年9月3日に抗日戦争勝利70周年と銘打って、天安門広場で軍事パレードをおこなった。この時は2012年に国のトップの座について3年、1度は閲兵を行って威信を示すのは、中国のトップのなかば慣例ともいえるので、まあそれほど違和感はなかった。
 ところが習近平は2017年7月30日にも閲兵をおこなった。この時は中国軍の建軍90年を記念するというのが名目で、そこにいささか無理があったが、それでも場所は北京でなく、内蒙古の朱日和演習場という砂漠の中だったから、習近平もわきまえるべきことはわきまえているなと思ったものだった。
 そこで今度である。建国70周年が名目だが、若い国ならいざ知らず、70年という中途半端な年に大騒ぎするのは野暮というものである。それもけた外れの大騒ぎであった。
 パレードは軍隊のそれと一般国民のそれとの2段重ねで行われたのだが、軍隊は道に何重にも整列して閲兵を受ける部隊が長さ2キロ分くらいいて、その後、今度は兵員が足音高く天安門前を行進するのだが、道幅いっぱい(と見えるくらい)に広がって四角形を形作る(これを「方隊」という)。一方隊あたり数百人になる。儀仗隊に始まって、陸、海、空軍それにロケット部隊だの女性部隊だの合わせて、今回は17方隊が行進した。
 そして次が各種武器の行進。今年は注目された東風41という最新型の多弾装大陸間弾道ミサイルも登場した。最後は空に各種航空機が次々と飛来した。
 軍隊が終わると、今度は国民の出番。各分野から思い思いの装飾や展示を施した大型の「彩車」(日本風にいえばダシ=山車)が70輌、そして徒歩(中には自転車もいた)の群衆が10万人(主催者発表)。行列はえんえんと続いた。
 見ていて疲れた。3時間近くかかった。何日も前から、夜間や休日に国慶節のパレードの練習が行われているという報道があったが、なるほどこれではよほど練習しなければならなかっただろうなと納得した。
 そこで話を戻す。なぜ習近平はこんな大騒ぎをしたのだろう。米との貿易摩擦はまだ解決の糸口も見出せていないし、香港の民衆の怒り、不安にも答えていない。来年1月の台湾の総統選挙にしても、情勢は親大陸の国民党にますます不利と伝えられている。どれもそれぞれに難しい問題だが、不思議なのは習近平政権が頭を絞って対策を考えているように見えないところだ。どの問題についても、中国が言うことは同じことの繰り返しだ。一見、筋を曲げないようにも見えるが、それは頭を使わないのと紙一重だ。
 たとえば香港だが、問題の根っこは1997年の英からの返還時に、20年後には行政長官の民選を実現すると約束しておきながら、それを平気で覆したことだ。香港を見くびっての仕業であることはよそ目にもはっきりしている。そこを考え直そうという気配すらない。
 台湾にしても、国の大きさをかさに着て、国際的に台湾を窒息させようとするばかりで、台湾の人間の気持ちをおもんばかる気配もない。これでは台湾内で大陸と一緒になろうという声が多数を占めるとは到底考えられない。
 習近平は焦っているはずだ。いくら国内で一強体制を固めても、だからといってこうした難題が自然に解決するはずもない。その焦りが昨日の大騒ぎ、ただただ「中国万歳!」を大声で唱えさせることで、なんとかなるという思いにつながっているのではなかろうか。
2019.10.01  中国経済をどう見るか
          ――八ヶ岳山麓から(292)――    

阿部治平 (もと高校教師)

この数年「中国経済は中所得国の罠にはまり始めた」「近々崩壊する」といった議論が論壇に繰り返し現れている。だが中国経済は減速したとはいえ、昨年もバブルははじけず、破綻もしなかった。だれが見ても崩壊したのは「中国経済崩壊論」のほうである。
とはいえ中国経済には、成長速度の鈍化、就業人口の減少、構造問題、金融引き締めによる倒産と失業人口の増大、そして依然拡大する富の偏在、2018年春米大統領トランプが仕掛けた米中貿易紛争の衝撃といった問題がある。

中国国家統計局が9月16日発表した8月の工業生産は前年同月比4・4%増だった。伸び率は2002年2月(2・7%増)以来、17年半ぶりの低水準となった。米中貿易摩擦の長期化で製造業の不振に歯止めがかからなかった(北京共同)。
中国経済は2000年から8%強の成長を遂げ、一時は10%台になったが、近年は明らかに減速している。中国国家統計局は、2019年1月、物価変動を除いた2018年の国内総生産(GDP)の実質成長率をプラス6.6%と発表した。2017年6.8%より0.2ポイントのマイナスであるが、中国の統計の信頼性からすれば、これは誤差の範囲かもしれない。
減速の原因は、「デレバレッジ」と米中貿易摩擦である。中国企業の金融分野以外の債務残高はG20の中で最大、GDPの1.5倍となり、放置できなくなっていた。債務圧縮・緊縮政策は2017年の中央経済工作会議の決定によるもので、2020年までの中期的な目標とされている。「デレバレッジ」の結果は、インフラ投資の急減となった。
この数年間、アメリカは金融バブルの膨張に頼って好景気を演出したが、中国はバブルを意図的に縮小した。中国がデレバレッジ政策に向かったのを見て、バブル崩壊だとさわぐ論者は多い。だが中国の実体経済は見かけよりも強力だ。

これについてはきわめて楽観的なのは、マルクス経済学雑誌「経済」(2019年9月)に掲載された中国経済専門家井手啓二氏の論文「どうなる中国経済―米中貿易紛争と中国の対応」である。井手氏は「結論からいえば」として、以下の4点を挙げる。
〇中国はアメリカに替り、自由で公正な貿易制度の擁護と改革の立場にたち、比較的に抑制した対応をしている。言論性においてアメリカは、初めから敗者である。
〇しかし、中国政府は、軍事力の増強に努め、基本的人権の擁護や平和的国際環境の構築の姿勢を確立しておらず、諸国民の期待には応えていない。
〇トランプ政権の一方的攻撃には毅然として対応し、改革・開放の深化で困難を乗り切ろうとしており、この点では世界経済の発展にとり、積極的役割を演じている。
〇米中経済紛争は中国経済に打撃を与え、困難を作り出しているが、決定的なものではなく、中国経済は今後も高成長を継続する。
井手氏のこの数年の中国経済に対する評価は次のようである。
すなわち2010年から「新常態」・中高速成長時代に入った。現状は、質と効率の向上を基礎とするインテンシブな経済発展へ向かう転型期にある。2018年はGDPが対前年比0.2%減を認めながらも、6.6%増加して全体としては安定的高成長が持続したというのである

ここでは、中国の軍拡や人権問題はひとまず置くとして、井出氏もマイナス要因は無視できない。これについて、氏は過剰生産能力、過剰債務など成長下降圧力が未解決の中で、米中貿易紛争がはじまった。その影響はまだ18年の統計数字には反映されていないが、就業人口のはじめての減少があり、今後は労働生産性の向上に頼らねばならないという。
さらに米中貿易紛争の18年経済への影響は、①人民元が高から安に、株が株安に転じたこと、②それが貿易依存度の高い沿岸諸省にとって大打撃となったこと、③設備投資が低調だったこと、④一部産業がベトナムなど周辺諸国へ移転し始めたことなどにあらわれているとみている。
こうした認識にもかかわらず、井手氏は、中国経済が「今年も世界最高レベルの成長を維持するであろうし、6%台成長は高成長であって世界経済成長の最大の牽引車となることは動かない。米中貿易摩擦はあっても、今年も中国躍進の1年となろう」という。

ジャーナリストの福島香織氏は中国経済崩壊論を繰返してきた人物だが、近著でもそれに対する反省はない(『習近平の敗北――紅い帝国・中国の危機』(ワニブックス 2019)。
だが福島氏が中国農業銀行首席顧問・人民大学国際通貨研究所副所長の向松祚教授の説を援用して指摘している事実は、たしかに中国経済に存在する。以下それを見よう。

向教授は、中国の2018年のGDP 成長率は実は6.6%ではなく、国務院の調査チームによれば、1.67%だったという。
さらに過去10年来、中国企業は銀行から金を借り社債を発行しシャドーバンクなどに頼り、低い自己資本比率で投資してきた。
他方、2017年の上場企業すべての利潤は3兆3000億元だが、40数社の銀行と不動産業がその3分の2を占めている。つまり一般企業の利潤は極めて少ないのである。
前述の通り、中国政府は2018年3月以降「デレバレッジ」によって金融バブルの軟着陸を図った。これによって、企業への資金の流れが滞り、社債不履行総額は1200億元に達した。2018年1年間に中国の資本市場は30%、7兆元あまり縮小し、2018年上半期だけでも倒産企業は504万社に達した(網易ネット)。中国企業総数は3100万社だから6分の1が倒産したことになる。

向教授の指摘の中で重要なのは、「国進民退(国有企業の肥大と民営企業の後退)」が一層進んだことである。2018年1~10月のあいだに、50以上の上場民営企業の株300億元相当が政府機関である国家資産管理委員会によって買い占められ、大企業も含めてかなりの数の民営企業の経営権を政府が握るという状況になった。
民営企業は就業人口の7~8割を担い、中国のイノベーションの担い手であるが、民営企業への圧力は1000万人超の大量の失業者を生むことになった。

この背景には金融バブルのほか、国有企業のもつ構造的問題がある。2018年の中国の売上上位10企業のうち、8社が国有企業であるが、それは国有企業が優秀だからではない。国有企業は経営が苦しくなれば政府の援助を求めることができ、自助努力の必要がない。トランプ米大統領は対中批判の際、何度かこれを指摘している。
中国経済の専門家関志雄(C. H. Kwan)氏によれば、国有企業は水資源・電力・土地・石油・天然ガスなど、産業の川上における独占的地位にあって、低効率であろうがなかろうが、その価格を吊り上げることができる。これに対して民営企業は原材料を不利な条件で購入し、その分収益を減らすことになる。また民営企業が国有企業の競争相手となったとき、政府がこれに介入して民営企業を規制したり、国有化することもできる。これが資源の利用効率の低下を招き、中国経済に巨額の損失をもたらしてしまうという
https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/190411sangyokigyo.htm)。

2018年の経済成長が予期したよりも鈍化したことを反映して、中国では経済学者らの間で、景気対策か構造改革かという論争があった。景気対策優先論者は、経済が停滞すれば経済体制の改革、構造調整、金融リスクの解消などが難しくなる。失業が生れれば社会の不安定をまねくとし、財政規模の拡大と金融政策を主張した。
これにたいして構造改革派は、景気対策をすれば投資効果が低くなり、物価高騰を招き、資産バブルの膨張が貧富の格差を拡大するとして、構造改善をしなければ潜在成長率が今よりも低下し、その代償が大きいと主張したという
( https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/190218kaikaku.html)。

では、国民の生活実態はどのように変わって来たのか。そしてどう変わっていくのか。
中国政府は富の偏在は徐々に縮小しているというが、所得格差を示すジニ係数は、相変わらず0.5に限りなく近く、いつ暴動が起きてもおかしくないレベルである(現に「暴動」は年10数万単位で発生している)。しかも労働賃金は、2010年前後に労働力不足が生れてからも依然低レベルにある。その税負担は国際的に見ても重い。
一方で高額所得層の富は、特権や賄賂、統計拒否によって十分に把握されてはいない。だから、単純に格差縮小に向かっているとは言えない。
私は中国で貧困の農村ばかりを見ているためか、庶民の生活水準がさほど向上したとは思えない。上水道のない村はいくらでもある。衛生、医療のレベルは依然として低い。中国経済を判断するとき、私は各種の経済指標だけでなく、環境・教育・医療福祉の現状をも見るべきだと思う。

2019.09.30 韓国で日本を想う―6日間の観光旅行を終えて (上)
       韓国通信NO614

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

9月8日、約1年ぶりに韓国へ向かった。5千円という格安のチケットにつられ、お粗末で理不尽な韓国批判に居たたまれなくなり、韓国の「風」に吹かれてみたいと思った。今年2月に亡くなった韓国語の先生(当時留学生)の墓参りもしたい。

<久しぶりのソウル>
6日間の長期のソウル滞在は留学時代を除けば初めての経験である。LCCイースター航空の飛行機代は5千円プラス燃料代を含めて1万3千円、私の韓国旅行では最安値の記録更新である。ありがたく、韓国がこんなに近く感じられたことはなかった。交通費が安い分、ホテルは少し奮発してソウルの中心街にあるコリアナホテルである。
ホテルに到着すると早速、歩いて数分のところにある光化門広場に足を運んだ。
鐘路の李舜臣の像から光化門へ向かう広場に「何かがある」と睨んでのことだが、案の定、小規模な文在寅大統領糾弾の集会が開かれていた。
彼らは2017年に弾劾され刑事被告人として獄中にある前大統領の釈放を求めていた。最近、反文在寅勢力を集めて注目されているが市民の目は冷ややか。彼らは2017年に発足したウリ共和党で、旧与党(セヌリ党)の流れをくむ極右政党。朴槿恵の救援活動を続けている。
文在寅大統領の対日政策、対北朝鮮政策、国内経済に不満を持つ市民たちに加えて、今回法務大臣に指名された曹国(チョグク)氏の評判が思わしくないせいか、少し勢いづいている。
現政権を「アカ」と決めつける極右集団について、普段は温厚な私の友人も、ガラパゴス化した集団と手厳しい。ビラをもらって読んでみたが、朴槿恵が何故濡れ衣を着せられ獄中にいるのか、何故、現政権が「左派独裁」なのか説得力に欠けるものだった。彼らは公園内にテント小屋を張っていたが、韓国の国旗と星条旗が並んでいた。

    20190930集会米国旗
 獄中闘争892日 釈放を求めるデモ。        公園内のテント小屋>

彼らは、2016年に朴槿恵政権と安倍政権が締結した軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄は日米韓の軍事同盟に対する裏切り行為だと強く反対する。GSOMIA破棄を通告した韓国政府を日本政府は批判し、日本のマスコミも同調するが、韓国の極右政党の主張によってGSOMIAの軍事同盟という本質が見えてきはしないだろうか。
北朝鮮との統一をめざす韓国にとって、GSOMIAはもはや無用のものとなった。国交回復を前提に「無条件に」北朝鮮と話し合うとする日本にとっても破棄提案は大騒ぎするほどのことではない。しかし、日本政府は韓国の協定破棄提案を「背信行為」と非難して北朝鮮との対決を望むウリ共和党と奇妙な一致点を見せる。それは従来の日米韓と北との対立構造の発想から日本政府が抜けだせない姿でしかない。日本政府と韓国の極右政党は「反文在寅」で一致する。

<それでも韓国へ、女性が社会を変える>
韓国は「反日」だと日本の新聞やテレビは騒ぎ立てる。中身の説明もなしに、もっぱら文在寅大統領の「反日姿勢」のせいにする。日本政府を批判することは「反日」なのか。米政府を批判したら「反米」という理屈がおかしいように、文在寅政権は決して反日ではない。
「反安倍」を主張する市民たち。「日本に行かない」「日本製品を買わない」キャンペーンは事実だ。しかし、日本人を敵視する「反日」ではない。日本の観光客が、報道に一抹の不安を感じながらもソウルにはたくさんいた。かつての無遠慮な姿はなく、静かに旅行を楽しむ姿はかえって好ましく感じられたほどだった。女性たちが多い。何人かの若い女性に声をかけてみた。「この時期にどうして韓国旅行を?」と。
彼女らの答えは「家族や友人言われて来た」だった。過去には、教科書問題で両国がもめた時期、食堂やタクシーで「日本人お断り」を経験した人がいた。今回出会った人たちは、「不安どころか韓国の人はとても親切だった」と話してくれた。ホテルでも食堂でも、気のせいか、むしろ日本人には気を使っているように感じた。
それにしても、韓国好きな日本人がこれほど多いとは! おいしい店、素敵なファッションの店のこともよく知っていた。東大門市場近くに屋台が並ぶ「広蔵(クワンジヤン)市場」にまで女性同士でやってきているのには驚いた。彼女たちは「K・POPSファン」、「食べ歩き」の話に屈託がなかった。
屋台で隣り合わせた女性に「どうして韓国と日本がこうなっちゃったの」と聞かれた。「安倍首相のせい」と答えると、彼女たちは微笑むだけで、反論はなかった。

2005年、詩人の金芝河氏が私たちに語った話を思いだす。彼は、理屈を語る頭でっかちの男性より女性たちに期待していた。日韓関係の将来を考えるうえでとても示唆に富むもので、忘れられないものとなった。以下は、当時書いた金芝河氏との会見記録の一部である。



現在問題になっている独島(竹島)問題や歴史教科書問題にもかかわらず、<金芝河氏>は「韓日関係に絶望していない」と言う。何故なら、今の日本には観念的でない良心層と市民運動があるからだと言い切り、続けて鶴見俊輔、大江健三郎らとの対談のなかで、鶴見俊輔の「日本文化の担い手が女性だった」という主張を興味深げに紹介しながら、「韓流ブーム」が決して一過性のものではないと、出席している女性たちに同意をもとめるように語りかけた。ブームの担い手である女性たちが、これからの日韓交流の担い手として大きな力を発揮する可能性について楽しそうに語り、「男はダメ。これからは女性の時代だ」と、社会的な体面や仕事中心の男社会への批判はその場にいた私を含めた三人の男性の耳には厳しく、女性の出席者たちに感動を与えていた。平和憲法を変えろ! 独島(竹島)は日本固有の領土だと叫ぶ右翼の存在にもお構いなく韓国大好きという女性たちの出現は韓日関係のみならず、アジアも変えてしまう可能性を秘めている。「韓流・ヨンさまブーム」という文化現象に対して意外なことに強い関心を抱いていることが感じられ、その日の話は「女性の可能性」を中心に語られたといってもよい。



『冬のソナタ』、『宮廷女官チャングム』が韓流ブームの火付け役となり、その後、数々のドラマ、映画が日本人の心をとらえた。多くの男性には韓流を軽視する傾向があったが、十数年たった今も多くの日本人女性たちは、真剣な「愛」「家族」「正義」をトコトン描く韓国作品に酔いしれている。加えて、最近の若い女性たちはKPOPに熱狂する。新大久保界隈の「コリアタウン」は中年女性と若い女性たちでますます賑わいを見せる。
ファンたちは安倍政権が煽りたてる反韓、嫌韓とは無縁である。彼女たちは政治とはあまりかかわりを持たない。「好きなものは好き」という感覚で受け止めている。歴史問題や歴史認識というややこしい話はあまり頭では考えないが、映画やドラマを通して不幸な過去の問題を肌で理解する。政治家が韓国は「許せない」といっても、韓国への関心は止むことはない。金芝河氏の日本女性への期待は現実になりつつある。
わが家では、関東地区地上波7チャンネルで朝8時15分から放映されている『ハムラビ法典』から目が離せないでいる。主人公の男女二人は裁判官。彼らが関わる裁判は「セクハラ」「パワハラ」「貧困問題」「麻薬」と多彩だ。法の壁にぶつかりながら、犯罪とは、裁判とは、若い判事が悩みながらドラマは展開する。法律では片付かない社会、国民は裁判に何を期待しているのか、示唆と説得力をもって進行する。新しい社会づくりを司法からどう進めていくべきかという提言が色濃くちりばめられている。「ローソク革命」がドラマの世界にも生きていることを感じさせる。人間が社会の主人公という主張を前面に押し出す。

<幻に終わったスピーチ>
毎週水曜日に日本大使館前で開かれる従軍慰安婦問題解決を求める集会に参加してスピーチをするつもりでいた。原稿まで用意した。韓国語を学んできた日本人として、従軍慰安婦問題に目を背けてきた日本政府に異議申し立てをしていること、心からの謝罪があってこそ再びおなじ過ちが起きない社会になると考えていることなどを、韓国の若者たちに話すつもりだった。が、11日の水曜日、忠清北道にある墓参りに行くことになり、残念ながら、スピーチは実現しなかった。
ソウルに到着した日、南山(ナムサン)にある従軍慰安婦の記念公園にでかけた。「私たちがもっとも恐れることは 私たちの辛い歴史を忘れること」と記された石碑には、慰安婦問題の歴史と、名乗り出た慰安婦全員の名前が刻まれていた。<次号に続く>
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2019.09.29 「本日休載」

 今日、9月29日(日) は 休載します。

   リベラル21編集委員会
2019.09.28  消費税減税は左派ポピュリズム

盛田常夫 (経済学者、在ハンガリー)

 れいわ新選組の消費税減税に、共産党がいち早く同調したようだが、世論の評価は総じて低い。減税を主張すれば有権者の票を獲得できるという浅はかな期待に乗っかった政策だが、これこそ国民を見下したポピュリズムであり、国民を馬鹿にした発想である。その魂胆があまりに見え透いていて相手にされない。
 そもそも、消費税を廃止したり、減税したりした国を探し回り、たまたまマレーシアが廃止したことに我が意を得て、喜喜として消費税廃止へ方向を切ったようだが、比較する国が間違っている。マレーシア並みの社会保障に切り下げるなら、消費税廃止もあり得るだろう。ところが、日本的な社会保障を維持したまま、マレーシアに倣って消費税廃止という論理は、まったく説得力がない。中学生でも分かることだ。あまりのご都合主義に滑稽でもある。
 いったい日本が目指すのはアジアの中進国なのか、それとも欧州の福祉国家なのか。アメリカ的な消費生活を維持して、西欧の福祉国家を目指そうということなのか。そのことを議論せず、「消費税を廃止している国があるから」というだけで、国民を説得できるわけがない。多くの若者は将来の年金を含めた社会保障に不安を抱いている。それをポジティブに解決する道を示すのではなく、後ろ向きに解決する政策は最初から「票目当て」と勘ぐられ、支持されない。「れいわ」が多くの得票を得たと言っても、高が200万余票である。ポピュリスト政策を信じる有権者がその程度いるというだけのことだ。
 成熟した日本経済に求められているのは、個人消費と社会消費の関係をどうするかである。社会消費を増やそうとすれば、個人消費を減らすしかない。個人消費を増やしたければ、社会消費の減額を受け入れなければならない。膨大な公的債務を抱える日本が、将来の税収を担保にした借金経営を続ける限り、将来の社会保障は限りなく切り下げられる。年金の4割5割減、医療費の自己負担率の大幅引上げは最低限の要件である。これだけ深刻な問題を抱えているのに、ふつうに考えて、消費税減税が解決策になるとは誰も思わないだろう。そういう国民の意識や不安を解決する道を示さないで、当座の減税だけ提言する政策は国民の支持を得られない。
 他方、政府は軽減税率導入による煩雑な問題に国民の目を向けさせ、いったい何のための増税なのかを真正面から議論することを避けている。明らかに安倍政権は将来社会の福祉水準の維持を真剣に考えて消費税増税を決めたのではない。安倍晋三にとって、将来社会の社会保障などどうでもよいことである。これだけ財政赤字をたれ流ししてきたのだから、少々の増税は仕方がないが、それが政権支持の票を減らしては困る。それだけのことである。だから、一生懸命に、複雑な軽減税率やポイント還元政策で、目くらまし作戦を展開しているだけだ。これこそ、右派ポピュリズムの最たるものだ。
 野党が追及すべきは、法人税の取り損ないがないかを精力的に調べ、法人からの税収を増やすことだ。また、消費税軽減税率やポイント還元に右往左往するより、消費税累進税率の導入を考えるべきだ。500万円1000万円の乗用車を購入できる人であれば、30-40%の消費税であっても購入するだろう。数百万円もする宝石類を購入する人であれば、40-50%の消費税でも購入を控えることはない。奢侈品の価値はあってないようなものだから、4-5割価格が高くなっても買い控えはない。消費税が課税の不平等をもたらすと声高に叫ぶ前に、富裕者の奢侈品購入の消費税率を標準税率の5割増し10割増しにすることだ。煩雑な軽減税率導入に経費をかけるより、奢侈品の累進税率導入を考え方が良い。
 ネットを通していろいろな情報が容易に取得できる時代になった。政党の政策立案者が考えているより、国民ははるかに多くの情報にアクセスできる。前向きの実現可能な政策を練ることなく、後ろ向きの政策で、当座の支持を増やそうという見え透いた魂胆は、簡単に見破られる。安易な政策提言は党の信頼性を損なうだけである。
2019.09.27 国内で手軽に使われている除草剤が、外国では発がん性などで大問題になっている
  「シリーズ香害」番外編
      
岡田幹治(ジャーナリスト)

 「根まで枯らす除草剤」「うすめて使う即効除草剤」などの商品名で販売され、多くの人が手軽に使っている除草剤の成分「グリホサート」について、外国では発がん性などが大問題になっているのをご存じだろうか。米国では、グリホサートの使用でがんになったと訴えた被害者に巨額の損害賠償を認める判決が3件続き、欧米やアジアではグリホサートの禁止や規制が広がり、さらに今年7月末には、産婦人科の国際組織が「グリホサートの世界規模での段階的禁止を求める」声明を発表している。

世界で最も売れた除草剤
グリホサートは、散布した植物をすべて枯らす強力な除草剤だ。米国の巨大種子・農薬企業のモンサントが開発し、植物に付着しやくする補助剤を加えた「ラウンドアップ」(製剤の商品名)として1974年に売り出し、遺伝子組み換え(GM)作物の種子とのセット販売で売り上げを伸ばした。
いまでは160カ国以上で販売され、世界で最も大量に使われている除草剤だ。
2000年に特許が切れた後は、同じ成分や類似成分を使った後発品(ジェネリック)を多数の企業が販売している。
日本では108製剤が農薬・除草剤として認可(登録)されており、2017年度にはグリホサート系4成分で約5670トン(前年度比4.2%増)も出荷されている。殺虫剤や殺菌剤を含めた農薬の成分としては最大の量だ。
グリホサートは登録農薬のほかに、無認可で価格が安い「非植栽用」としても多数の商品が販売されている。非植栽用の用途は道路・運動場・駐車場・線路など植物が栽培されていないところ(雑草のみのところ)に限られ、農作物のほか庭園樹・盆栽・街路樹・ゴルフ場の芝や山林樹木などを含む「農作物等」には使用できないと農薬取締法で決まっているのだが、ほとんど守られていない。
登録除草剤や非植栽用のグリホサートは「土壌に成分が残留せず、環境にやさしい安心安全な除草剤です」(「根まで枯らす除草剤」)などの説明つきで販売されている。

メーカーに損害賠償命じる判決が3件も
グリホサートの有害性については、さまざまな物質の発がん性をランクづけしている国際がん研究機関(IARC、世界保健機関=WHO=の専門組織)が2015年にグリホサートを「グループ2A」(人に対する発がん性がおそらくある)」に位置づけて論議になった。2Aは危険性が高い方から2番目のランクだ。
これに対しては欧州食品安全機関(EFSA)や米国の環境保護局(EPA)が発がん性を否定。日本の内閣府・食品安全委員会も2016年に「食品を通じて人の健康に悪影響を生じるおそれはない」と結論づけている。その理由として食品安全委は「IARCは科学的に価値が低い、問題がある論文まで取り上げて結論を出している」ことなどを挙げた。
しかしグリホサートの発がん性に対する懸念はなくならず、米国カリフォルニア州政府は2017年にグリホサートを州の「発がん性物質リスト」に掲載し、商品には「発がん性」と表示することを義務づけた。
これを受けて同州のいくつもの郡や市が、公園・学校など自治体が所有する場所でのグリホサートの使用を禁止する条例を制定。同じ動きはニューヨーク州やフロリダ州などにも広がっている。
こうした中で、ラウンドアップの使用でがんになったとしてモンサント社(昨年6月にドイツの総合化学会社バイエルが合併)に損害賠償を求める訴訟が多数起こされ、原告が勝訴する判決が昨年8月から今年5月までに3件続いた。
最初の判決はカリフォルニア州上位裁判所(1審)の陪審が下した。同州内で校庭管理人を務めていた46歳の男性が、グリホサートを主成分とする除草剤を年に20~30回ほど使用し続けた結果、2014年に「非ホジキンリンパ腫」というがんを発症したとして、損害賠償を求めた。
これについて陪審は男性の訴えを認め、総額2億8900万ドル(約320億円)の賠償をバイエル社に命じた。賠償額には、モンサント社がグリホサートの危険性を知りながら使用者に十分に伝えていなかったことに対する懲罰的損害賠償が含まれていた(2審では損害賠償額が約8000万ドルに減額された)。
1審判決が出ると、米国では同様の訴訟が急増し、最近では1万8000件を超したとバイエル社が認めている。同社の株価はモンサント社を合併した昨年6月から4割も下落している。

オーストリアでは下院が全面禁止を可決
一方、欧州連合(EU)では、農薬としての使用が認可されているため、いくつかの加盟国が公園・学校・家庭などでの使用を規制する方向へ動き出した。たとえばベルギーはグリホサートの一般市民向けの販売を禁止している。
そうした中でオーストリアの国民議会(下院)は今年7月、グリホサートの使用を全面禁止する法案を可決した。連邦議会(上院)やEU委員会が異議を唱えなければ、2020年1月から施行される(有機農業ニュースクリップ2019年7月21日)。
全面禁止を訴えてきた社会民主党の党首は「グリホサートの発がん性を裏づける科学的証拠は増えており、この毒物を身の回りから追放することは我々の責務だ」と述べている。
グリホサート追放の動きは欧米にとどまらない。ベトナム農業農村開発省は今年4月、グリホサートの使用と輸入を禁止すると発表した。同省は2016年にグリホサートを主成分とする農薬の新規登録を禁止し、人の健康や自然環境に与える影響を精査してきた。
グリホサート追放の動きは世界の小売店にも広がりつつある。
米国では、ワシントン州のスーパーがラウンドアップと他のグリホサート除草剤を店頭から外すと発表。イギリスでは、全英に約600店を展開するDIYチェーンがグリホサートを店頭から撤去している。
日本では、「小樽・子どもの環境を考える親の会」(北海道小樽市)が2万2000筆余りの署名ととともに小売業者4社にグリホサートなどの販売中止を要望したのに対し、100円ショップ最大手の大創産業(広島県東広島市)が「在庫がなくなり次第、グリホサートの販売をやめる」と回答し、実行している(注1)。

(注1)大創産業はグリホサートに代え、「グルホシネート」除草剤と「お酢」の除草剤を販売し始めている。このうちグルホシネートは生殖毒性などが疑われており、国内では農薬としての使用が認可されているが、フランスは2017年に販売許可を取り消し、EUでは翌年、農薬登録が失効している。

国際婦人科連合が世界的な禁止を求める声明
多くの国とは逆に日本では、農林水産省がグリホサートを主成分とする除草剤を次々に認可(登録)し、厚生労働省はグリホサートの農作物への残留基準(これ以下なら農薬が残留していても安全とされる値)を大幅に緩和してきた。
非農耕地用のグリホサートは、スーパー・ホームセンター・100円ショップなどのほか、ネット通販でも大々的に売られている。
そうした中で今年7月31日、産婦人科医の国際組織である国際婦人科連合(FIGO)がグリホサートの禁止を求める声明を発表した。
同連合の「生殖と発達環境衛生に関する委員会」が作成した声明は、今年発表された二つの研究から、「非ホジキンリンパ腫の増加とグリホサート曝露の間には密接な関係があること」と「グリホサートに曝露したラットでは、世代を超えた健康影響が見られること」が明らかになったとする(注2)。
そして、人に対するきわめて深刻な健康影響の可能性が明らかになった以上、グリホサートについては「予防原則」(人の健康や環境に重大な影響を及ぼす恐れがある場合、因果関係が科学的に十分に証明されていなくとも、予防措置を取ること)を適用すべきだとし、グリホサートを世界から段階的に排除することを求めている。
生殖と発達にかかわる医療に日々向き合っている医師たちの提言を、世界の関係者は重く受け止めるべきだ。

(注2)一つ目の研究は、Zang L(米カリフォルニア大学バークレー校)らが実施したメタ分析(複数の究結果を総合し、より高い見地から分析したもの)。
二つ目の研究は、米ワシントン州立大学のスキナーらが実施した。親世代と第1世代(子)に影響は出なかったが、第2世代(孫)では肥満に加え精巣・卵巣・乳腺の疾患が著しく増加した。第3世代(ひ孫)ではオスに前立腺の疾患、メスに腎臓の疾患が増えていた。2代目の母親の3分の1が妊娠せず、3代目はオスメス合わせ4割が肥満だった(天笠啓祐「グリホサート、安全神話の終焉 人体への健康被害が明らかになる」=『週刊金曜日』2019年6月14日号)