2017.09.18  make の慣用句
 make believe; make do

松野町夫 (翻訳家)

make は古英語から使用されている基礎語で、日本語の「つくる」(作る、造る)に相当する。

make a box 箱を作る; make a dress ドレスを作る
make ramen ラーメンを作る; make coffee コーヒーを作る
make a poem 詩を作る; make a will 遺書を作る
make a film  映画を作る; make a TV program テレビ番組を作る
make a law 法律を作る; make a contract. 契約書を作る

Wine is made from grapes. ワインはブドウから造られる。
= The grapes are made into wine. ブドウからワインが造られる。

Sake is made from rice. 日本酒は米から造られる。
= Rice is made into sake. 米から日本酒が造られる。

What is butter made from? バターは何から造られるのか。
Milk is made into butter or cheese. 牛乳からバターやチーズが造られる。

バターとチーズの違い:
バターの主成分は脂肪(fat)。チーズの主成分は蛋白質(protein)。

make は「つくる」の意味の最も一般的な、形式ばらない語であり、口語体でも文語体でも頻繁に使用されている。ここでは、make の慣用句の中から、以下のふたつを取り上げる:

make believe 見せかける, ふりをする → make + believe
make do (不十分ながら)間に合わす → make + do

これらはいずれも、ふたつの動詞が結合してひとつの動詞として機能する。こういう例は英語では珍しい。一見すると、複合動詞のようにも見える。しかし英語の複合動詞はたいてい、後ろの動詞が変化する。たとえば、複合動詞のfreeze-dry(凍結乾燥させる)の場合、freeze-dry, freeze-dries; freeze-dried; freeze-drying のように後ろの動詞(dry)が変化する。
これに対して、make believe, make do は前の動詞(make)が変化するので、やはり複合動詞ではなく、make の慣用句と解釈するのが妥当なのかもしれない。

make believe = pretend

Let's make believe we are pirates. 海賊ごっこをしよう。
= Let's pretend we are pirates.
Let's make believe we're ninja. 忍者ごっこをしよう。
= Let's pretend we're ninja.

The boys made believe they were explorers.
少年たちは探検家ごっこをした。
The girl dressed in a sheet and made believe she was a ghost.
その少女はシーツを身にまとって幽霊のまねをした.
He isn't really angry, he's just making believe (that he is).
彼は本当は怒っていない。そのふりをしているだけだ。
She made believe she was a fashion model and swung her hips.
彼女はファッションモデルのふりをして腰を振って歩いた
You can't go on making believe that nothing is wrong.
こちらに非はないというふりをしても、それではやって行けないよ。
They want to make believe that everything is all right.
彼らは、すべて OK と見せかけたいのですよ。

make do = manage

We make do on a low salary. 少ない給料でなんとかやっています。
= We manage on a low salary.
We are making do on a small pension. わずかな年金でどうにか暮らしています。
= We are managing on a small pension.

We have to make do with what's available.
手に入るもので何とかしなければなりません。
We had to make do without a telephone for a while.
しばらくは電話なしで我慢しなければならなかった。
We were in a hurry so we had to make do with a quick snack.
私たちは急いでいたので、軽食で間に合わせなければならなかった。
There was nothing in the fridge, so I had to make do with instant noodles.
冷蔵庫に何もなかったのでインスタントヌードルで間に合わせなければならなかった。
If we don't have carrots for the soup, we'll just have to make do without them.
スープに入れるニンジンがないのなら、ニンジンなしで済ますしかないね。
During the war we had no butter or coffee, so we had to make do without (them).
戦争中バターもコーヒーもなかったので、(それら)なしで済まさなければならなかった。

2017.09.17  「本日休載」
 今日、9月17日(日) は 休載します。

   リベラル21編集委員会

2017.09.16  どうした新聞報道
  改憲問題での重要な情報を載せない紙面

岩垂 弘(ジャーナリスト)

 安倍首相による「9条改憲」を阻止するために護憲派が大同団結して新しい護憲運動組織「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」を発足させたが、これを報じたのは在京6紙のうち、わずか2紙に過ぎなかった。改憲問題に対する国民の関心は高いのに、大半の新聞はなぜ、改憲推進の首相や自民党の動きを逐一報道するばかりで、対する護憲陣営の動きをきちんと報道しないのか。これでは、新聞に対する信頼はますます失われてゆくだろう。

 安倍首相がこの5月に、2020年までに憲法を改定し施行を目指すと表明したことについて、新聞各紙は全国世論調査で賛否を問うた。

 朝日新聞の調査結果では、「安倍首相が憲法改正を提案したことを評価しますか」との質問に対し「評価する」35%、「評価しない」47%。「憲法改正は2020年の施行をめざすべきだと思いますか」との質問には「時期にはこだわるべきではない」52%、「改正する必要はない」26%、「2020年の施行をめざすべきだ」13%。9条に自衛隊の存在の明記を追加する必要についての質問に対しては、「必要がある」41%、「必要はない」44%だった。
産経新聞とフジニュースネットワーク=FNNが共同で実施した調査では、「安倍首相は、自民党総裁として、憲法を改正し、2020年の施行を目指す意向を表明した。あなたは、この姿勢を評価しますか、しませんか」との質問に対し「評価する」と「評価しない」が46.9%で並んだ。「あなたは、憲法9条を維持したうえで、自衛隊の存在を憲法に明記することに賛成ですか、反対ですか」との問いには、「賛成」55.4%、「反対」36.0%。
読売新聞の調査では、「安倍首相は、2020年に、改正した憲法の施行を目指す方針。この方針に賛成ですか、反対ですか」との質問には「賛成」47%、「反対」38%。「安倍首相は、憲法第9条について、戦争の放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに自衛隊の存在を明記する条文を追加したい考えです。この考えに、賛成ですか、反対ですか」という問いには、「賛成」53%、「反対」35%だった。

 これらの調査結果から分かることは、改憲問題では、国民世論が真っ二つに分かれているということだ。であれば、新聞に求められるのは、改憲派、護憲派双方の動きを公平に報道することだろう。

 ところが、実態はどうか。いまさら具体例を挙げるまでもなく、新聞各紙は改憲に向けて突っ走る首相や自民党の動きはもらさず積極的に報道する。扱いは常に一面か政治面で、記事の分量は多く、見出しも大きい。一方、護憲派の動きについては、新聞総体で見た場合、載ればいい方で、載ったとしても扱いは小さく、せいぜい社会面である。

 最近、そうした新聞の一般的傾向を示す典型的なケースがあった。新しい護憲運動組織として発足した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」に関する報道である。

 この組織は8月31日に結成され、その関係者が9月4日、衆院第1議員会館で記者会見してその経緯を発表した。
 それによると、発起人には、有馬頼底(臨済宗相国寺派管長)、内田樹(神戸女学院大学名誉教授)、梅原猛(哲学者)、落合恵子(作家)、鎌田慧(ルポライター)、鎌田實(諏訪中央病院名誉院長)、香山リカ(精神科医)、佐高信(ジャーナリスト)、澤地久枝(作家)、杉原泰雄(一橋大学名誉教授)、瀬戸内寂聴(作家)、田中優子(法政大学教授)、田原総一朗(ジャーナリスト)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)、なかにし礼(作家・作詞家)、浜矩子(同志社大学教授)、樋口陽一(東北大学・東京大学名誉教授)、益川敏英(京都大学名誉教授)、森村誠一(作家)の19氏が名を連ね、アクションの実行委員会には、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に加わる19団体のほか、九条の会と、立憲デモクラシーの会、安全保障関連法制に反対する学者の会、安保関連法制に反対するママの会の有志が参加した、とのことだった。

 ここ数年の護憲運動は、おおまかに言って、総がかり行動実行委員会と九条の会という2大潮流によって担われてきた。それが、合流して新しい運動組織をつくるというのだから、護憲陣営でかつてない広範な共同が成立したことになる。
 記者会見では、実行委員会として今後、3000万筆を目標に「9条改憲に反対する署名運動」を全国で展開することも明らかにされた。
 こうした会見内容を知って、私には「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」の発足は、憲法問題に関する画期的なニュースに思えた。

 ところが、この会見を報じたのは在京6紙では2紙だけだった。
 東京新聞は9月5日付朝刊でこれを報じたが、15版では1面左下に写真付き3段48行。「9条守れ 市民団体結束」「3000万人署名目標」の2本見出しだった。
 朝日新聞も同日付の朝刊で報じたが、14版では第3社会面の最下段にベタ(1段)扱いで、写真付き27行。「9条改憲で反対で新たな団体設立」「署名3千万人を目標」の2本見出しだった。
 毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞にはこれに関する記事は見当たらなかった。
 なかでも読売と産経は、これまで、護憲派の、安保関連法や、「共謀罪」法、改憲に反対する運動をほとんど報道してこなかった。両紙とも改憲推進の立場なので、護憲派の運動は取り上げないということなのか。だから、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」についても報道しなかったことに私なりに“納得”したのだが、「毎日」の場合は、「どうして取り上げなかったのかな」と疑問がわいた。

 新聞界には、かつては、自社の主張と合わない意見も紙面に載せるという伝統があったと記憶している。が、今では、一部の新聞社で自社の主張に合わない意見は無視するという傾向が強まりつつあるように感じる。
 新聞各社が加盟する日本新聞協会の新聞倫理綱領には「新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する」とある。
 新聞は、反対意見も載せるという原点立ち戻ってもらいたい。そう願わずにはいられない。
2017.09.15  効目のない国連決議、危機を深める安倍従属外交
  ――八ヶ岳山麓から(235)――

阿部治平(もと高校教師)

わたしが思うに、戦争抑止力とは相手国に攻撃意図をもたせないことである。非軍事手段では相手国との交渉を通して信頼関係を構築し、戦争開始を企図するほどの敵意をやわらげること、軍事的には侵略の能力と意図とをもつ相手を圧倒する戦力を示し、それによって相手の侵略意図をくじくことである。
アメリカは大規模な米韓合同軍事演習を毎年展開し、さらに斬首作戦を公然と唱えて、北朝鮮を抑えようとしてきたが、なんにも効果はなかった。北は依然核実験とミサイル発射で対抗している。
イラクやリビアの政権がアメリカの手によって潰されたとき、サダム・フセインは絞殺され、哀れにもその一族も殺された。カダフィは銃撃戦の末捕えられ惨殺された。北朝鮮の金氏集団がこれを避けようとするのは自然のなりゆきだと私は思う。
ある強大な国家が安倍政権を極右だからという理由で、「悪の権化」とか「ならずもの」と定義し、対日貿易を極度に制限し、航空母艦を日本近海に展開して、いつでも核攻撃ができると軍事的圧力をかけ、あげく安倍晋三の首を取る作戦の準備をしているといったら、わが日本人は何をどうすればよいのか。

北朝鮮による6回目の核実験を受け、国連安全保障理事会(15カ国)は9月11日夕(日本時間12日朝)、新たな制裁決議案の採決を行い、全会一致で採択した。北朝鮮向け原油輸出は現状規模を超えない範囲とし、石油精製品輸出も年間200万バレルまでに制限し、北朝鮮の主要輸出品である繊維製品の輸入は全面禁止、するなどが柱である。北朝鮮に対する制裁決議はこれで9回目となった。
ただし強力な制裁に慎重な中国とロシアの同意を取り付けるため、アメリカの原案にあった石油の全面禁輸は見送られた(毎日ネット、2017・09・12)。
この決議には北朝鮮は内心ほっとしているだろう。
安倍晋三政権は徹底した制裁を主張するトランプ政権に追随し、これを国連決議にすべく、滑稽なほどに関係各国の間を跳ね回った。9月11日菅官房長官は、「厳しい制裁措置」を含む安保理決議の採択が重要だとの認識を強調したが、あまり厳しくない安保理決議にはさぞかしがっかりしたことだろう。だいたい、石油禁輸が何をもたらすか、考えたこともないのじゃないか?
そもそもアメリカの対北朝鮮制裁原案は、我々日本人がいや応なく歴史を思い出さずにはいられないしろものだった。78年前、中国を侵略し大陸市場を独占しようとした日本に、アメリカは中国から手を引かせようとして経済制裁を強化し、石油の輸出を禁止した。1941年、追詰められた日本は暴発した。石油の備蓄があるうちに対米戦争に勝ってしまえとなって、真珠湾攻撃を敢行したのである。

すでに、8月30日付の中国環球時報は、「ミサイル発射と圧力行使の悪循環をこれから何回くりかえせばよいのか」という論説で、米日韓は安保理決議で朝鮮にさらに制裁を課そうとしているが、それは何の役にも立たないことは明らかだと、「厳しい制裁措置」を拒否していた。いまさら環球時報にいわれなくても、これは日本人のほとんどがわかっている。
アメリカの原案通りの決議が通過したとしても、それが北朝鮮への抑止力になることはない。ましてや、今回の制裁決議では北朝鮮の経済に影響があるとしても、核・ミサイル開発に影響が及ぶことはない。北はワシントンやニューヨークに届く核搭載ミサイルの完成まではやるだろう。「金正恩政権は雑草を食ってでも核・ミサイルを開発しつづける(プーチン露大統領)」からである。

トランプに朝鮮半島の平和へのロードマップがあるのか。そんなものは持ち合わせていないのじゃないか。だとすれば今回の制裁決議がアメリカの国益にとって不利に働く、と彼が考えたとき、政治顧問の制止を振り切って粗暴で危険な戦術を選択する恐れはかなりある。
そのときも安倍政権は一貫してアメリカに追随するのだろうか。
北朝鮮はアメリカに追随する日本に対して、より強い敵意をもっている。すでに日本にある米軍基地攻撃を公言し、ミサイルが島根だか広島だかの上空を飛ぶぞと脅し、宇宙空間とはいえ北海道上空を飛ばしてみせた。次は東京の上空を飛ぶかもしれない。
安倍政権は宇宙空間を飛ぶ北ミサイルの危険を煽り、八ヶ岳西麓のわが村でも「J-アラート」なるものが、ミサイル避難のために「丈夫な建物か、地下へ避難せよ」と指示した。これには村人も思わず「何をこいてやがる」とわらった。いったい安倍政権の外交政策によって、日本がより安全になったといえることがひとつでもあるのか?

我々大衆は、北朝鮮の核・ミサイル開発を止めさせるには、石油の全面禁輸が決定的だと思わされている。だがこれは主として中国とロシアによってだけ可能な対策である。しかも中国とロシアだけにその結果を引受けさせる、じつに身勝手な政策だった。これが今回の国連決議で避けられたのは好いことだ。
トランプと安倍晋三は、石油の全面禁輸の結果生まれる混乱をどうするつもりなのか、まったく考えていない。トランプはこれを求められたら、カネ勘定をして「まあ全部中国とロシアに引受けていただきましょう」というだろう。中露両国がアメリカの原案を受入れなかったのは、ここにも原因がある。
金正恩は太っているが、北朝鮮人民に肥満はいない。彼の国は食料だの電気だのが十分ではない。貿易の制限だけでも、いま以上に人民の生活を苦しくする。石油全面禁輸となれば大勢の人々が餓死から逃れて中国に密入国する。だが、中国は経済制裁の結果うまれる年間万単位の難民を全部送還することはできない。
アメリカの制裁決議原案を国連決議にしたかったら、日米両国政府は北朝鮮難民をすべて引き受けると公言するのが筋だった。そしてそれを自国民に納得させるべきだったのである。

トランプは金氏集団の危機感を明確に認識していないように見える。地政学的位置からすれば、日韓はこれをアメリカにわからせるべき立場にある。本来なら、北朝鮮にたいしても核とミサイルではなく、平和的手段によって政権の確実な安全を図ることができると説得すべき立場にある。
だが、日本の歴代政権はアメリカに追随するばかりで外交らしい外交をしたことがないから、今かりにそれをやろうとしても説得力がない。文在寅政権は北との対談を試みたが、いまのところ何の成果もなく、新たなミサイル配備を余儀なくされている。安倍政権は、朝鮮半島の緊張を奇貨として、軍事費を史上最高レベルに増やそうとしている。

私は、今回の国連制裁決議よりも実効ある方法は中国の提案だったと思う。中国は「(北朝鮮の核実験・ミサイル発射と米韓による軍事演習の)『双方暫定停止』、そして対話を通じて各当事国の安全保障上の関心をバランスよく解決する」ことが必要だという
これは日米韓側からすれば、合同軍事演習の中止だけでなく、とりあえずは北朝鮮の核保有を認めざるをえないことを意味する。だが、それでも仕方がない。国際社会はイスラエルやインドやパキスタンの核を非難していないのだから、北が核を持つという状況を一時的になら認めてさしつかえはあるまい。日本が北のミサイル攻撃目標になるよりずっと賢明な方法である。
日米両国政府はこの現実をあるがままに認めて、そのうえで対応策を練るしか手はないと思う。
(2017・09・13記)
2017.09.14  「香害」が深刻になっています
  シリーズ「香害」 第1回
 
岡田幹治(ジャーナリスト)

身の回りに「香りつき商品」があふれるようになり、そこから放散される微量の化学物資によって深刻な健康被害を受ける人が急増しています。「公害」ならぬ「香害」です。
最近ようやく新聞やテレビが取り上げるようになったこの問題を、筆者は他に先駆けて正面から取り上げ、『香害 そのニオイから身を守るには』(金曜日)を今年4月に上梓しました。引き続き「『香害』最前線」と題する不定期の連載を『週刊金曜日』で続けています。
それらの取材で得た「香害」をめぐる最新情報をシリーズとしてお伝えしていきます。
第1回は、深刻化する「香害」の実態です。
(このシリーズでは、良いにおいを「匂い」、悪いにおいを「ニオイ」、どちらでもないときは「におい」と表記する)

◆消費者の8割が使用
まず、シャボン玉石けん(株)が7月に実施したウェブ調査(20~60歳代の男女598人が対象)の結果をみてみましょう(注1)。
それによれば、回答者の約8割が「香りつきの商品」を日常的に使用しています。具体的には柔軟剤・洗剤(衣類)、シャンプー(髪)、制汗剤が上位を占めています。使用目的は「衣類に防臭・消臭効果をもたせるため」や「嫌なニオイを抑えるため」が多く、「自分で香りを楽しみたいから」や「他人にいい香りと思って欲しいから」がそれらに次ぎます。
その結果、どんなことが起きているでしょうか。「他人のニオイを不快に思ったことがある」と回答した人が79%。「人工的な香りをかいで、頭痛・めまい・吐き気などの体調不良になったことがある」と回答した人が51%もいました。しかし、「人工的な香りによる被害が『香害』と呼ばれていること」を知らなかった人が61もいました。
対象者が600人ほどの調査ですが、多くの人がニオイに非常に敏感になり、ニオイを覆い隠すために香り商品を多用している実態、それによって健康被害が増えている実態が示されているように思います。

◆香りブームが加速
この国で「香りブーム」が加速されたのは5年前(2012年)のことです。独特の香りをつけた米国プロクター&ギャンブル社(P&G社)製の柔軟仕上げ剤(ダウニー)が08年に人気を集め、国内の大手3社(P&Gジャパン、花王、ライオン)が追随。消臭・除菌スプレーや衣類の洗剤にも香り成分を配合するようになりました。
これに加えてP&Gジャパンが12年に、衣服への香りつけだけを目的にした商品「レノアハピネス アロマジェル」を発売し、売り上げを伸ばしました。この結果、「香りつけ専用商品」が急増。「消費者が自身の好みに合わせて香りをブレンドする時代の始まり」などといわれました。拡散機(噴霧器、ディフューザー)を使って香りをホテルやショールームなどで流す企業が増え出したのもこのころです。
それから5年。いまでは文房具や洋服にまで香りつき商品が販売されるようになりました。購買層は女性だけでなく、成年男性や中高校生にも広がっています。ティーン向け雑誌には、整髪料・制汗剤や芳香・消臭スプレーの広告が満載。香り商品を使わないのは非常識といった雰囲気になっているようです。

◆健康被害の広がり
しかし香りへの感受性は個人差が大きく、使う人には良い香りでも、不快に感じる人もいます。何より問題なのは、香り商品がアレルギーの発作や喘息の悪化を含め、さまざまな健康被害をもたらすことです。
香り商品には香料をはじめ、いくつもの揮発性の化学物質が含まれており、これが化学物質に敏感な人たちを直撃します。
最も深刻な被害者が、化学物質過敏症(ケミカル・センシビリティ=CS)の人たちです。CSは(多数の人が何も感じないような)ごく微量の化学物質に体が反応し、さまざまな症状が出る病気で、だれがいつ発症してもおかしくありません。
CSの人たちが訴えるのが「脳への影響」です。香り成分を吸い込むと、身体が動かなくなり、頭がぼんやりして何も考えられなくなり、声や言葉も出にくくなる。まるで認知症になったように感じる人もいれば、気力が衰え、生きているのが面倒になる人もいます。そして空気の清浄なところに身を置いていると、症状は薄れていくのです。

◆「きれいな空気」が吸えない
20年以上にわたり、1000人を超すCS患者を診察してきた渡辺一彦医師(札幌市の渡辺一彦小児科医院院長)は「発症のきっかけは以前は新築やリフォームが多かったが、近年は何といっても香料(柔軟剤・香水など)だ」といいます。
香りブームの結果、CSの人たちは「きれいな空気を吸う」という当たり前のことがきわめて困難になりました。職場でも学校でも、通勤通学や散歩の途中でも、周囲の人から流れてくる化学物質に反応し、発作を起こすことがあります。自宅では隣家からのニオイや配達員のニオイに追われ、介護の現場でも病院に行っても、ニオイに悩まされるのです。化学物質による環境汚染はいまや、公害の一つになったといえるのではないでしょうか(注2)。
被害者からの相談急増を受けて国民生活センターは2013年9月、「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」を発表し、利用者に「自分にとって快適なにおいでも、他人は不快に感じることもあることを認識しよう」と呼びかけました。同時に業界と輸入業者には「においが与える周囲への影響について配慮を促す取り組みを行なうよう」要望しました(注3)。
これを受けて、日本石鹸洗剤工業会は「柔軟仕上げ剤を選ぶ・使うときは、周囲にもご配慮ください」などとウェブサイト(ホームページ)に記載。大手メーカーもサイトで周囲の方への配慮と適量使用を促す啓発をするようになりました。テレビCM・雑誌などの広告・製品の裏面表示でも、(注意してみないと気づかないほど小さな文字の場合が多いが)周囲への配慮を促す文言を入れるようになっています。
しかし、この程度の対策で事態が改善することはありませんでした。むしろ、香りを使い続けていると感じにくくなるため、香りがより濃厚で長続きする商品が増えているように見えます。

◆被害者の要望は無視
「ある商品が原因になって一定の人たちが健康被害を受けることが確実なとき、その商品はたとえ大多数の人たちにとって有益だとしても、欠陥商品だ。そのような商品を開発・販売することは、企業倫理として許されるのだろうか」(渡辺一彦医師)という指摘もありますが、メーカーは倫理より商売です。香りつき商品を低成長時代の数少ない売れ筋商品と位置づけ、競うように宣伝・販売に努めています。
(筆者は日本香料工業会・高砂香料工業・日本石鹸洗剤工業会・P&Gジャパン・花王・ライオンに取材を申し込んだが、すべて断られた)
こうした実態にたまりかね、被害者と支援者が結成した「香料自粛を求める会」など4団体は2013年12月、文部科学省に対し、教職員や児童生徒に強い香りの着香製品は自粛するよう呼びかけてほしいと要望しました(注4)。
続いて翌年1月には厚生労働省に対し、①香料の健康影響を広く知らせるとともに、規制に必要な調査・研究を始める、②保育園・病院・福祉施設の職員・利用者・来訪者に強い香りの着香製品の自粛を呼びかける、などの要望をしました(注5)。
関西では、日本消費者連盟関西グループが13年に被害者、14年には大阪府内の消費者センターと府内市町村の教育委員会にアンケートをし、その結果を踏まえて香料による健康被害をなくすための具体的な提案をしています(注6)。

◆公的規制が必要だ
しかしこれまでのところ、政府・自治体とも実効ある対策を打ち出していません。
少数の自治体が、「化学物質過敏症への理解とご協力をお願いいたします」とサイトに掲載したり(大阪府和泉市など)、「香料自粛のお願い」のポスターを作製・掲示したり(岐阜市、埼玉県など)している程度です。
その一方で、「大変心苦しいのですが、法的に規制がない状況のもとでは、県として香料の使用・利用の自粛を呼びかけるのは困難」(佐賀県)とする自治体もあります(注7)。
やはり何らかの公的規制が必要なのです。たとえば以下のような対策が考えられます。
▽政府・都道府県・市町村は、香料による健康被害の実態を調査し、被害が頻発・拡大していることを広く知らせる。
▽同時に、公共施設では香料を使用しないよう指導し、とくに子どもを香料被害から守るよう教職員などを指導する。
▽政府は、商品に含まれる香料の成分名を具体的に表示するよう義務づける。少なくとも、アレルゲン(アレルギーの原因物質)となる香料成分の表示を義務づけた欧州連合(EU)並みの対策を実施すべきだ(EUの対策については後の回で説明する予定)。
▽香り商品にはタバコと同じように「香料によって健康被害を受けることがある」という趣旨の表示を義務づけ、テレビ・雑誌などの宣伝・広告は自粛させる。

注1 シャボン玉石けん・ニュースリリーズ(2017年8月16日)
注2 環境基本法によれば、公害とは、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染・水質の汚濁(中略)・悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生ずることである。
注3 国民生活センター「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」
注4 香料自粛を求める会など「学校等における香料自粛に関する要望」
注5 同「香料の健康影響に関する調査および病院・保育園等における香料自粛に関する要望」
注6 日本消費者連盟関西グループ「香りが苦しい」「同PartⅡ」
注7 佐賀県民の「香料被害のポスター掲示のお願い」に対する同県の回答

*本稿は「ひろがる『香害』」(『週刊金曜日』2016年6月3日号)に最新の情報を追加し、書き改めたものです。
          20170914香害チラシの縮小

2017.09.13  原発にも戦争にもさようなら
  脱原発団体が反転攻勢へ

岩垂 弘(ジャーナリスト)

 脱原発を掲げる「『さようなら原発』一千万署名市民の会」が、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会の協力を得て、9月18日(月、敬老の日)、東京・代々木公園B地区で「ともに生きる未来を!さようなら原発さようなら戦争全国集会」を開く。同会が全国規模の集会を開くのは今年の3月20日以来で、6カ月ぶり。

 「『さようなら原発』一千万署名市民の会」は、経済評論家の内橋克人、作家の大江健三郎、落合恵子、澤地久枝、瀬戸内寂聴、ルポライターの鎌田慧、音楽家の坂本龍一各氏らの呼びかけで2011年3月の東京電力福島第1原発事故直後にスタートした、原発廃止を求める署名運動団体。すでに870万を超す署名を集めている。

 同会はこれまで何回も全国集会を開いてきたが、この時期にそれを開くことにしたのは、まず、「2011年3月の福島原発事故から6年を迎えたいまも、8万人近い人々が苦しい避難生活を余儀なくされ、補償の打ち切り、帰還の強制など、被災者の切り捨てともいえる『棄民化』が押し進められている」(全国集会参加を呼びかける同会のチラシから)のに加えて、安倍政権と電力業界が原発再稼働をいっそう推進しようとしているからだ。
 現在稼働中の原発は、九州電力の川内原発1号機、同2号機(鹿児島県)、四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)、関西電力の高浜原発3号機、同4号機(福井県)の5基だが、九州電力が来年1月に玄海原発3号機(佐賀県)を、関西電力が来年の1月に大飯原発3号機、3月に同原発4号機(いずれも福井県)を、それぞれ再稼働させる予定だ。
 加えて、原子力規制委員会が9月6日、東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)について、新規制基準に適合したとする技術的な審査結果と、同社の適格性を判断した文書を近くまとめる方針を決めた。
 こうした情勢に、脱原発運動関係者は危機感を深めており、原発廃炉と核燃料サイクルの中止を求める運動を再び盛り上げようというわけである。

 それに、改憲を悲願とする安倍首相が今年5月に「2020年までに、憲法9条3項に自衛隊を明記したい」と提起したことだ。同会は「安倍政権の暴走が止まりません。秘密保護法、戦争法、共謀罪の新設に続き、憲法9条の改悪を打ち出しています。私たちを戦争の泥沼に引きずり込もうとする動きで、決して許すことはできません」(全国集会参加を呼びかける同会のチラシから)として、「暴走政権に『NO!』の声をあげましょう」と呼びかけている。

 同会は、これまで、集会の中心スローガンには専ら「脱原発」を前面に掲げてきた。ところが、今回の全国集会のスローガンは「さようなら原発さようなら戦争」で、「脱原発」と「反戦」を同列に置いた。これは初めてのことで、脱原発団体としても日本の軍事化に突き進む安倍政権に対し強い警戒心を表明したものと言える。
 主催者は、1万人以上は集めたい、としている。

 同会によると、全国集会のタイムスケジュールは以下の通り。

11:30 出店ブース開店
12:30~13:30 けやき並木ステージ
     福島からの報告
     憲法課題:古今亭菊千代さん(落語家)
     憲法課題:清水雅彦さん(日本体育大学教授)
     沖縄から:山城博治さん(沖縄平和運動センター議長)

12:30 開会 野外ステージ
     うた:松崎ナオさん
    
13:30 発言 司会:木内みどりさん(俳優)
     鎌田慧さん、落合恵子さん、澤地久枝さん
     福島から:佐藤知良さん(ひだんれん幹事)
     自主避難者から:森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団代表)
玄海原発から:徳光清孝さん(原水爆禁止佐賀県協議会会長)
     沖縄から:山城博治さん(沖縄平和運動センター議長)
     総がかり行動から:福山真劫さん(総がかり行動共同代表)
    うた:趙博(チョウ・パギ)さん

15:00 デモ出発
渋谷コース:会場→渋谷駅前→明治通り→神宮通公園解散
原宿コース:会場→原宿駅→表参道→外苑前駅周辺解散

連絡先:さようなら原発1000万人アクション事務局
     東京都千代田区神田駿河台3-2-11 連合会館1F 原水禁気付。TEL:03-5289-8224
2017.09.12  東京都議選で民進党東京都連を解体させた連合が、今度は「民進党解体=野党再編」に乗り出した、野党共闘の解体は民進党の解体に通じる
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 民進党の「花」、山尾志桜里氏がW不倫疑惑で離党表明をした9月7日、前原代表は新執行部を引き連れて東京・神田の連合本部を訪れ、来る総選挙の支援要請をした。どんな話が行われたかはつまびらかではないが、前原氏は「働く者の立場で政治を行い、自民党に代わる選択肢をしっかり示すのでよろしくお願いします」と述べ、連合の神津会長は「前原代表には大変に期待している。連携の度を高めていきたい」と応じたという(朝日、9月8日)

連合といえば、今年7月の東京都議選では民進党を脱党して小池氏が率いる「都民ファーストの会」に走った候補を支援し、民進党東京都連の解体に手を貸したことで知られる存在だ。それが今度は前原新代表と手を組んで野党共闘を解消し、小池新党との連携を促進しようとするのだからただ事ではない。前原氏が山尾問題で右往左往するなかで取りも直さず連合本部に駆け付けたのは、それだけ連合の影響力が増している証拠だろう。

民進党の最大の支持団体である連合は、安倍政権の政策を実質的に推進する(労働団体の皮を被った)政治団体でもある。国の重要政策では、連合と安倍政権との間にはほとんど相違が見られない。原発政策に関しては電力業界のエージェントとして原発再稼働を強力に推進し、原発反対運動に対しては地元首長選挙などを通して身体を張って阻止する。連合出身の国会議員を多数民進党に送り込み、党内右派として野党共闘分断に奔走する。憲法改定の協議を始めることに賛成し、党内右派を激励する...などなど、自民党そこのけの活躍ぶりなのだ。

挙句の果ては、反対が強くて国会で2年以上も棚曝しされていた「高度プロフェッショナル制度=残業代ゼロ法案」を安倍政権との密室取引で成立を図ろうとして、傘下の産別組織や地方組織の猛烈な反対に遭うなど、表向きにも裏向きにも「働く者の立場」とは真逆の行動をとり続けている。高プロ制度をめぐる密室行動については、傘下組織から「連合はいったい誰を代表しているのか」と質されたが、もはやその実体は「経団連の下部組織=財界の別動隊」としか言いようがない。

そんな極め付きの連合が、蓮舫時代にはギクシャクしていた民進党に急接近しているのはなぜか。朝日新聞は「連合が民進との関係修復に動いた背景には、共産と距離を置いた上で、小池氏らを巻き込んだ野党再編を視野に入れている前原氏の姿勢がある」と分析しているが、まさにその通りだろう。連合の神津会長は、前原氏も同席した9月6日の広島市内の集会で「(民進党を)離党しても連合は応援してくれると勘違いしている人がいるが冗談ではない」と強調し、先月離党した細野衆院議員に支援打ち切りを伝えるなど、一転して前原体制を支える姿勢を鮮明にしたという(朝日、9月8日)。

これまで連合は、東京都議選の延長線上に野党再編の構図を描いていたと思われる。つまり、共産党を含む野党共闘に反対の民進党右派議員を離党させ、小池新党と合流させて強力な「保守補完勢力=第2自民党」をつくる政治シナリオが検討されていたのである。長島衆院議員や細野衆院議員がその先鋒隊として離党し、その後若狭氏らと新党結成についての協議を重ねているのはそのためだ。ところが、前原氏が民進党の新代表に選出されるや事態は一変したのである。わざわざ右派議員を離党させなくても、民進党全体を野党再編の方向へ引っ張っていける可能性が生まれたからだ。

可哀そうなのは、ハシゴを外された細野氏らだろう。日経新聞9月7日によれば、「5日に連合本部を訪れた細野氏は離党した理由について、党の前執行部が進めた共産党を含む野党共闘に不満があったなどと説明し、今後の支援継続を求めた」という。ところが予想に反して、神津会長は「推薦は取り消さざるを得ない」と拒否し、また党を除名された長島氏にも同様の対応を取ることを明らかにしたという。

東京都議選では連合東京が民進党離党者を支援し、国政選挙では連合本部が離党者は支援しないというのだから、これは矛盾そのものでありご都合主義もいいところだ。しかし、これを連合の野党再編の立場に立って考えるとキッチリと辻褄が合うのだから面白い。要するに、連合が民進党を支援するのは「保守補完勢力」を作るのに役立つか役立たないかであって、都議選では「都民ファーストの会」がその突破口になると睨んだので、民進党東京都連を解体してまで都民ファーストに入れ込んだのである。

一方、連合が細野氏をはじめとする「離党予備軍」に対して支援打ち切りを言い渡したのは、前原氏の方が民進党全体を野党再編の方向へ引っ張っていけると踏んだからだ。前原体制を支えることが野党再編の力になると睨んだので、「離党先鋒隊」を容赦なく切ることで「離党予備軍」を牽制し、前原体制を支えることを表明したのである。

先日、前原氏の動静に詳しい京都のジャーナリストと意見交換をした。彼は、目前に迫った衆院3補選で野党(民進党)が全敗すれば前原体制は失速する。だから、野党再編の方向に直ちに踏み切ることはない。当面は「部分的野党共闘」を維持しながら、党内体制が整い次第共産党とは手を切ることになるだろうと言った。

常識的に考えればそうかもしれない。しかし私は、神津会長の意気込みからして、すでに連合と前原氏の間には野党再編の方向について何らかの約束が交わされているのではないかと推測している。そうなると、前原氏の命運を握る連合との約束をそう簡単に破ることはできないだろう。山尾氏の不倫疑惑によって前原体制は出だしから大打撃を受けた。だがこれを逆手にとって、衆院3補選での敗北は山尾疑惑の所為だとすり替え、野党共闘を拒否して再編への舵を切るという裏技も考えられる。

野党共闘の破棄は民進党の解体に通じる、と私は思う。自公与党と変わらない政策を国民に押し付けるなど不可能なことだ。野党共闘が民進党を消滅させるのではなく、野党再編がその幕を引くのである。
2017.09.11  ファシズムは死語になったのか(7)
  ―中島岳志著『親鸞と日本主義』を読む

半澤健市 (元金融機関勤務)

《麻原彰晃は往生できるか》
 本書はリベラル保守を自称する論客中島岳志(なかじま・たけし)が「日本主義と親鸞」の距離を測定した作品である。一九九五年、地震被災後の神戸で、二〇歳の中島は吉本隆明の「ヨブ記」と題する講演を聴いた。そこで吉本は、親鸞について多くを語った。講演後、中島は質問祇に「親鸞は悪人正機を説きましたが、親鸞だったら麻原彰晃は往生できるというでしょうか」と書いた。吉本の答えは「間違いなく、往生できると言うでしょう」であった。「思想の凄み」に触れた中島は、これを機に吉本の著作に没入していく。その頃、中島は「理性の限界」という問題にぶつかり、保守思想に接近して西部邁、福田恆存、エドマンド・バークを読んでいた。吉本ショックから、保守主義者の「理性」への懐疑と、論理的な親鸞の「自力」への懐疑が、中島のなかでスパークし、その統合を目指そうと考える。数年をかけて中島は仏教徒の自覚を持つことになった。

《日本主義との格闘のこと》
 戦前の「日本主義」は、中島の思想的格闘の対象であった。
「日本主義」とは、天皇を中心とした国体を信奉する国粋的イデオロギーである。当時の国家主義者―田中智学、北一輝、石原莞爾、井上日召―には日蓮宗徒が多かった。中島からみると、彼らは保守主義から遠い「設計主義者」であった。中島の考えでは、理性よりも経験や歴史を重んじる「保守主義」と理性を信ずる「設計主義」は対照的な存在である。
ある日、中島は「原理日本」のリーダーの一人三井甲之(みつい・こうし)が親鸞主義者であることを知る。親鸞の徒も日本主義者であることを知り、中島の関心は本書のタイトル「親鸞と日本主義」へと拡がっていくのである。以上は本書「序章」の要約である。

本書の大半は、中島が日本主義者と考える知識人・宗教者の言動と彼らの言説の批評によって構成されている。対象は次のような人々である。
暁烏敏(あけがらす・はや)、亀井勝一郎、金子大栄、倉田百三、小林杜人、蓑田胸喜(みのだ・むねき)、吉川英治、山崎俊英、真宗教学懇談会。
この幾人かを私(半澤)は名前さえ知らなかった。
彼らが、アジア・太平洋戦争をどう捉え、どのようにその正当化に関わっていったか。中島の読み込みと分析はスリリングであり大きな知的刺戟を受ける。是非本書を手にして内容に当たって欲しいと思う。

《真宗エリートの討論が圧巻》
 中でも興味深いのは、一九四一年二月に行われた教学懇談会である。三日にわたる真宗大谷派の会議のテーマは、「国家神道」対「真宗教学」の理論闘争であった。
平たくいえば、「天皇と親鸞とどちらが偉いのか」、「聖戦は仏法に照らして正当化されるか」などが論点である。大谷派の戦争への態度を決定する会議である。
彼らは、「仏と神の関係(本地垂迹)」、大日本帝国は「穢土か浄土か」、「真俗二諦」論(真諦=仏法的真理と俗諦=世間的論理)、などを論点として神道の「帝国」と真宗の「浄土」との関係をどう位置づけるか、の熟議をおこなった。

その結論は、天皇と神道の優位であり、親鸞と真宗は神道空間に包摂された。聖戦への協力が仏教徒の使命であると宣言された。時流に乗った声の大きい勢力が勝った。
論争の経過を読むと、論争当事者の論理とともに、倫理(=精神の強さ)が厳しく試されたことがよく分かる。真宗教徒は、この理論闘争を通して聖戦のイデオローグへ「転向」した。ただ中島は事後一方的な「転向」断罪には慎重である。

《国体論と親鸞思想の親和性》 
 本書の「終章」は「国体と他力―なぜ親鸞思想は日本主義と結びついたか」と題されている。そこでは、この両者が本来的に結合の種子を孕んでいたという結論が示される。本文は精緻な分析が続くが、私(半澤)は次のように大括りしたい。

国体論は水戸学と国学に別れる。両者はナショナリスティックな性格で共通しているが、決定的な断絶がある。水戸学は秩序意識が強く徳川体制を自明の前提としていた。明治維新に直接に結びつく思想ではなかった。
中島は、橋川文三をひいて吉田松陰にみられるように国体論は「封建制を超えた一般的な忠誠心」を見いだし、その対象を天皇に求めたというのである。橋川はいう。
■日本人にとって形成される政治社会の主権が天皇の一身に集中されるとき、他の一切の人間は無差別の「億兆」として一般化される。論理的には、もはや諸侯・志大夫・庶民の身分差はその先天的な妥当性を失うこととなる■

一方、国学は本居宣長のいう漢意(からごころ)のない世界、すなわち大和心(やまとごころ)を理想とした。中島は、宗教学者阿満利麿(あま・としまろ)に拠ってこう理解する。宣長の浄土真宗との関係は深く、その影響を強く受けていた。宣長のいう「神の御所為(みしわざ)」は、法然の「阿弥陀仏の浄土」と同種のものである。天皇制ユートピアを描いた「国体論」と「他力の世界」を同一視する論理に肯定的な中島はこう結論する。
■多くの親鸞主義者たちが、阿弥陀如来の「他力」を天皇の「大御心」に読み替えることで国体論を受容していった背景には、浄土宗の構造が国学を介して国体論へと継承されたという思想構造の問題があった■

《歴史的な文脈・原典への回帰》
 本書に欠落があるとすれば、国体論に転向した真宗宗徒が、戦後どのように自己総括をしたかに、ほとんど言及がないことである。特に真宗大谷派の自己批判があったのか、なかったのか。読者として不満が残る。 

「ファシズムは死語となったのか」という文章を書いてきた私は、最近の世間の風潮をみるにつけ、本物の国体論や右翼の言説に立ち戻り検証する必要を感じている。中島書はその一冊として読んだ。私の蟷螂の斧はどこまで立ち向かえるか。(2017/09/07)

中島岳志著『親鸞と日本主義』(新潮選書、2017年8月刊)、1400円+税
2017.09.10  「本日休載」
 今日、9月10日(日) は 休載します。

   リベラル21編集委員会

2017.09.09  中印国境は緊張している
  ――八ヶ岳山麓から(234)――

阿部治平(もと高校教師)

8月半ば、北京の友人が「中印国境では、我国とインドとの本格戦争の恐れがあるが、日本ではどう見ているか」といってきた。日本では小さいニュースだったが、中国ではメディアがかなり緊張を煽っているらしい。

ドクラム高地(中国名・洞朗)は中国領チベットとブータン西部が接する地域である。この地で国境問題が顕在化したのは、文化大革命が始まった1966年といわれる。この年中国解放軍はチョモラリ(海抜7314m)南方のチュンビ渓谷南方に進駐し、その東側すなわちブータンと接するドクラム高地を自国領とし、1990年代には中国はここに道路をつくった。2000年代に入ってからも軍や民間人が越境したので、ブータン政府が抗議を行ったことがある。
今回の中印緊張は、今年6月中旬に中国軍がまた道路建設を始めたのに端を発している。この6月から中印両国軍それぞれ300人の兵士が進駐して、ときどき小競り合いをやった。中国ではこれが大きく報道されていたから友人は心配になったのだろう。

インドと中国はドクラム高地で境を接しているのではない。ここは中国とブータンの国境である。ではインド軍がなぜブータン領のドクラム高地にいるかといえば、複雑な経過によってブータンの国防がインドに委託されているからである。ブータン軍は警察も含めて1万人しかないうえに、兵器も貧弱だから中国とは勝負にならない。そこでインドは軍事顧問団1000人余を常時ブータンに置いている。
この8月3日には中国政府はドクラム高地でインド軍が兵舎を建設しているとして即時撤退を要求した。一方インド政府も「ブータン領内に中国軍が不法に侵入している」と非難してこれに応じなかった。
だが8月28日、インド外務省は突然、双方が現地から撤退することで合意したと発表し、中国でも同様の報道があった。9月3日から5日まで開催される中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ、新興5カ国(BRICS)の首脳会議があり、習近平とモディの両首脳もこれに参加するので、急いで事態の沈静化をはかったものと思われる。

これまでの中印国境紛争に関するニュースは、インドヒマラヤのシプキ峠などをめぐる小地域を除けば、カシミール東部のアクサイチン地区とブータン東方のアルナチャル・プラデシュ(州)の2カ所に限られていた。アクサイチンは九州に近い面積だし、アルナチャル・プラデシュは北海道とほぼ同じ面積であって、これに比べればドクラム高地などはわが村ほどの土地である。

中国はガンデン・ポチャン(旧ラサ政権)の支配地域を即ち中国領だとしているから、アルナチャル・プラデシュがヒマラヤの南麓とはいえ、これを中国領とする(この論理だとブータンも中国領になる)。アルナチャルのヒマラヤ寄りの人々の多くはチベット仏教信者である。
インドはヒマラヤ頂上線のマクマホン・ライン(1914年シムラ会議の際、イギリスの外交官マクマホンが引いたブータン東方からミャンマーまでのヒマラヤをインド・チベットの境界とする線)を国境としているから、当然のようにヒマラヤ南麓を自国領とした。
アクサイチンでは、ここがラサ政権支配地域であるうえに、ラサから新疆ウイグル自治区ヤルカンドに通じる少数民族支配上の戦略道路があるから、中国はこの土地を譲るわけにはいかなかった。インドはアクサイチンではイギリス植民地官僚がかってに引いた境界線を正当なものとした。

中国軍とインド軍はサイバー攻撃や小競り合いをアクサイチンとアルナチャルでもやっている。この夏はアルナチャル・プラデシュをダライ・ラマ14世が訪問し、法事をおこなった。もちろん中国はこれを批難し、インドは内政に干渉するべきでないと、中国の非難を拒否した。アクサイチンでもパンゴン湖付近の休戦ライン近くでは銃撃戦には至らなかったが、殴りあいがあった。

1954年「平和五原則」を共同声明でうたい、アジア・アフリカ諸民族の希望をになった中印両国だったが、62年になるとヒマラヤをめぐって本格的な国境戦争をやった。結果は中国軍の大勝利。アクサイチンではインド軍は高地障害などで戦えず、アルナチャルでは中国軍はあっという間にヒマラヤ南麓を占領した。
にもかかわらず、62年10月中国は突然に実際支配線から20キロ撤収するとして、マクマホン・ラインからヒマラヤ北麓に退いた。おそらく大躍進政策の飢餓状態が続いており、アルナチャルを維持しつづける国力がなかったからであろう。
もちろん公式には、両国とも東西2地域を今日まで自国領としてきたことに変りはない。当時も今日も「絶対にいかなる領土も放棄しない」というのが中国の領土問題にたいする原則である。これからすれば、アルナチャル・プラデシュを事実上放棄したのはこの原則に反する。

習近平政権にとってインドは、「一帯一路」など習近平政権の国際政策を展開する際の最大の障碍である。
中印国境はいま一時的におだやかだが、5日にBRICS会議がおわれば、すぐにでも軍事的対立に還る危険をはらんでいる。中国軍はインド軍の部隊駐留地から近い地域で、戦車訓練や迫撃砲による砲撃、ミサイルの発射といった臨戦的(原語「針対」)演習を行なっている。これに対するインド側拠点は数年前から軍事要塞化している。
インドは2014年にモディ首相が就任してから(就任式にチベット亡命政権のロブサン・センゲ首相を招くなど)、中国に対し以前の政権よりは挑戦的である。
一方今回の中印対峙で中国の思い通りにならなかったら(BRICS会議のさなかの北朝鮮の6回目の核実験で中国外交は打撃を受けているから)、習近平総書記にとっては失敗、面子丸つぶれになる。
このため中印両国の対立がエスカレートするのは目に見えている。前線で偶発的衝突が起きやすい状態だ。日本ではあまり注目されていないが、これはアジアの平和を左右する。双方は核保有国のうえに、人口世界第一と第二の国家の対立だから。

付加えておくべきことがある。ドクラム高地をめぐる中国とブータン・インドとの紛争に日本が「介入した」と思われるできごとがあった。
秋篠宮家長女眞子内親王が6月1日からブータンを訪れた。これは2011年11月ブータンのジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王夫妻が国賓として来日したことの返礼である。だが、今回の中国とインド・ブータンのつばぜり合いがそろそろ本格的になろうとする時期だから、眞子内親王のブータン訪問は、日本のインド支持というメッセージを送ったととられる可能性があった。外務省はこれに留意しなかったのだろうか。

さらにインドのラジオ放送やTimes of India紙は、ドクラム高地をめぐって日本の平松賢司駐インド大使が日本政府の「インド支持の立場」を表明したと報じた。これにあわてた在印日本大使館は、平松大使がインドメディアの取材に対して「力による一方的な現状の変更」を行わないことが重要だと述べただけだと、インド支持の報道内容を否定したという(時事2017・08・18)。
平松発言について中国外交部の華春瑩報道官は、8月18日の記者会見で平松大使のドクラム高地に関する発言は根拠がないとして、「ドクラム高地に関する対立は存在しない、国境線は明確であり、双方共にそれを受諾している」と述べた。
中国が日本大使の発言に対して拒否反応をあらわにしたのは、根拠のあることである。ことの経過からして「『力による一方的な現状の変更』を行わないことが重要だ」といえば、中国を牽制したことになる。駐印大使館がいくら弁解しても相手には通じない。日本政府の中国敵視政策をこれ以上エスカレートしたいならともかく、よく勉強してから発言すべきだった。知らないなら何もいわないほうがよい。