2017.05.18 日本語と英語の修飾語を比較する
主要語、前置修飾語、後置修飾語、複合修飾語

松野町夫 (翻訳家)

修飾語とは、他の語を修飾(説明)するために付け加える語をいう。たとえば、「赤い花」の場合、「赤い」が修飾語で、「花」にかかる。「ゆっくり歩く」の場合、「ゆっくり」が修飾語で、「歩く」にかかる。「花」や「歩く」は修飾されている語なので被修飾語と呼ぶ。品詞的には、「花」は名詞、「歩く」は動詞である。日本語では、体言(名詞)を修飾するものを連体修飾語と呼び、用言(動詞や形容詞)を修飾するものを連用修飾語と呼ぶ。

連体修飾語: 赤い花、遠い国、静かな街、この本、私の親友 (アンダーラインが修飾語)
連体修飾語になれるのは、形容詞(赤い・遠い)と、形容詞相当語、たとえば、形容動詞(静かな)、連体詞(この)、名詞(私)+格助詞(の)など。ちなみに、上記の修飾語を英訳すると、red, far, quiet, this, my となり、英語でも形容詞か形容詞相当語である。英語ではこれらを形容詞的修飾語と呼ぶ。

連用修飾語: ゆっくり歩く、かなり遠い、とても静かだ 美しく咲く
連用修飾語になれるのは、副詞(ゆっくり・かなり・とても)や形容詞の連用形(美しく)である。ちなみに、上記の修飾語を英訳すると、slowly, quite, very, beautifully となり、いずれも副詞である。英語ではこれらを副詞的修飾語と呼ぶ。

修飾語は、おそらく世界のどの言語にも存在する普遍的な概念であろう。しかし概念は同じでも、その文法、つまり見方・配置・語順などは当然のことながら言語により異なる。ここでは日本語と英語の修飾語を比較し、類似点や相違点を検討する。

英語では修飾語は modifier [mɑ́dǝfàiǝr] モディファイアという。
modifier: noun [countable] → LAAD2英英辞典から引用
a word or group of words that give additional information about another word. Modifiers can be adjectives (such as "fierce" in "the fierce dog"), adverbs (such as "loudly" in "the dog barked loudly"), or phrases (such as "with a short tail" in "the dog with a short tail").

【筆者訳】修飾語とは、ある単語に情報を追加する語のこと。修飾語になれるのは、形容詞、たとえば「どうもうなその犬」の「どうもうな(fierce)」とか、あるいは副詞、たとえば「その犬はけたたましく吠えた」の「けたたましく(loudly)」とか、または句、たとえば「尻尾の短いその犬」の「尻尾の短い(with a short tail)」とかである。

英英辞典の定義から、修飾語の概念は日英とも同じであることがわかる。英文法では一般に、名詞を修飾するものを形容詞的修飾語と呼び、動詞・形容詞・副詞を修飾するものを副詞的修飾語と呼ぶ。

形容詞的修飾語: a pen, the pen, a stone house, a nice house, a dog with a short tail
形容詞的修飾語になれるのは形容詞(nice)と、形容詞相当語、たとえば、冠詞(a, the)、名詞(stone)、形容詞句(with a short tail)、形容詞節などである。形容詞的修飾語は連体修飾語に相当する。形容詞的修飾語=連体修飾語。

副詞的修飾語: walk slowly, work hard, it looks like an orange, even more, very hard
副詞的修飾語になれるのは副詞(slowly, hard, even, very)と、副詞相当語、たとえば副詞句(like an orange)、副詞節などである。副詞的修飾語は連用修飾語に相当する。

このように、修飾語の概念や種類については日本語と英語に大差はない。しかし、句の見方や、修飾語の配置・語順については、日英ではかなり異なる。

句の見方
句について、日本人が「修飾語」と「被修飾語」の組み合わせと見るのに対して、英米人は「修飾語」と「主要語」の組み合わせと見る。たとえば、「赤い花」(red flowers)の場合、

日本語 → 「赤い」が修飾語で、「花」は被修飾語。
英語 → ”red” が修飾語で、”flowers” は主要語(head)。

主要語(head)とは何か
英語では被修飾語を主要語(ヘッド)と呼ぶ。head は頭(あたま)を意味するが、頭(かしら)や主導者、主要語の意味もある。「被修飾語」という呼び名は客観的だがどこか弱弱しい感じがあるのに対して、「ヘッド」は単語間の主従関係を明確に示し、いかにも力強い。「赤い花」の場合、文法的には「赤い」より「花」の方がエライのだ。

head:  → OALD7英英辞典から引用
the central part of a phrase, which has the same grammatical function as the whole phrase. In the phrase ‘the tall man in a suit’, man is the head.

【筆者訳】 主要語(head)とは句の中心を成す語で、その句全体の文法的機能を左右する。たとえば、「スーツを着た背の高いその男性」という句では、「男性」が主要語である。

修飾語の配置
修飾語の配置について、日本語ではすべての修飾語が常に被修飾語の前に置かれるのに対して、英語では、修飾語は主要語の前後に置くことができる。言い換えると、日本語の修飾語は前置修飾語の一種類しかない、一種類しかないので、わざわざ「前置」という語を付ける必要もない。これに対して、英語の修飾語は前置修飾語(premodifier)と後置修飾語(postmodifier)の二種類がある。

日本語では、修飾語はすべて被修飾語の前に置く
連体修飾語: 赤い花、遠い国、静かな街、この本、私の親友
連用修飾語: ゆっくり歩く、かなり遠い、とても静かだ 美しく咲く

英語では、修飾語は主要語の前に置くものと後に置くものの二種類がある
形容詞的修飾語: a pen, the pen, a stone house, a nice house, a dog with a short tail
*この例では、前置修飾語(a, stone, nice)、後置修飾語(with a short tail) となる。
副詞的修飾語: walk slowly, work hard, it looks like an orange, even more, very hard
*この例では、前置修飾語(even, very)、後置修飾語(slowly, like an orange) となる。

複合修飾語の語順
「スーツを着た背の高いその男性」という句には、「スーツを着た」「背の高い」「その」など、修飾語が複数ある。こうした複合修飾語に、少し強引だが、「風貌が高倉健にそっくりな」という長い修飾語と、「堂々たる」という短い修飾語を新たに追加すると、全体の語順はどうなるのだろうか。

日本語では複合修飾語の語順は、「長さの順」「句を先に」並べるのが原則。「風貌が高倉健にそっくりな」が一番長い修飾語なので先頭に、「その」が一番短い修飾語なので後尾に来る。したがって全体の語順は、「風貌が高倉健にそっくりな」「スーツを着た」「背の高い」「堂々たる」「その」 男性、となる。

「風貌が高倉健にそっくりなスーツを着た背の高い堂々たるその男性」
The dignified tall man in a suit who looks like Ken Takakura

英語では修飾語の語順は、冠詞+意見形容詞+事実形容詞がふつうの語順だ。英語には事実形容詞 (fact adjective) と意見形容詞 (opinion adjective) があり、新しい・大きい・丸い・木製の (new/large/round/wooden)は事実形容詞で、よい・美しい・おいしい・興味深い (nice/beautiful/tasty/interesting) は人の考えを述べた意見形容詞。通常、意見形容詞が先にくる。

前置修飾語: “The”( 冠詞), “dignified”(「堂々たる」、意見形容詞), “tall”(事実形容詞)
後置修飾語: ”in a suit”, “who looks like Ken Takakura”
ちなみに、in a suit は形容詞句、who looks like Ken Takakura は関係代名詞が導く形容詞節。

2017.05.17 「森友疑惑」逸らしと改憲論議の加速を狙った(一石二鳥の)安倍戦略が裏目に出た、自民党内には権力争いの匂いが立ち込めてきている。
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 5月12日の朝日朝刊は1面トップで、「改憲『20年に縛られない』、自民、首相発言めぐり表明」と伝えた。この記事は、中谷元・与党筆頭幹事が5月11日の衆院憲法審査会の幹事懇談会で野党に対し、「安倍首相発言は党内向けのもの」、「2020年施行と期限を区切った首相発言に審査会は縛られない」と表明したことを重視したもので、首相発言とは異なる今後の事態の可能性を示唆したものだ。

中谷氏は、憲法審査会の具体的スケジュールは各党各会派の協議で決定し、安倍首相の云う2020年施行には縛られず、審査会は今まで通り与野党の合意形成の下で進めることを提案した。森英介・憲法審査会会長も「憲法改正の発議権を有しているのはあくまで国会だ。会長として公正・円満な運営に努める」との文書でまとめることを約束した。自民のこの動きは、首相発言を審査会の議論と切り離すことで審議の再開を優先させたともいえるが、事はそう簡単な構図ではない。首相発言を巡っては、公式的ではないものの自民党内では右寄り・左寄りなどのさまざまな反応が出てきており、これまでの「安倍一強体制」(官邸主導による党内運営)に亀裂が入り始めているからだ。

 右寄りの反応としては、自民党の石破氏が5月11日、2020年に憲法改正の施行を目指すと表明した首相発言に対し、都内会合の中で国防軍の創設などを盛り込んだ自民党の憲法改正草案について触れ、「自民党のスタンスは一体どうなのかということで、これをどう取り扱うのかが一番大事だ」、「党の議論を粗略にして憲法改正ができるなどと全く思っていないし、勢いで憲法を改正していいはずがない」と批判した。中曾根元首相も近日発行する共著の中で、戦力不保持を定めた憲法9条2項を改正して自衛隊を軍と位置づける正面からの2項改正を主張しているという(毎日新聞、201年5月12日)。いずれも従来からの自民党憲法草案を重視する右からの発言だろう

 一方、左寄りの反応としては、岸田外相による5月11日の派閥会合での発言がある。「平和安全法制は憲法9条との関係でどこまで許されるかを議論して結論を出した。当時(2015年10月)、その基準となる9条を今すぐ改正することは考えず、平和安全法制がどのような成果をもたらすのかをしっかり見極めようと発言したが、きょう現在までその考えは変わっていない」というものだ(毎日、同上)。

 もっとも13日の朝日朝刊は、「安倍晋三首相(自民党総裁)が悲願の憲法改正に向け、また一段ギアを上げた。民進党を巻き込んだ与野党協議での改憲戦略を進めてきた自民党憲法改正推進本部に議論の加速を直接指示。首相の『圧力』に協調派も屈服した。連立を組む公明からは、首相の猛進に戸惑う声も出ている」と状況が急変したことを伝えている。「民進との協調を掲げてきた保岡、船田両氏が、首相に押し切られたのは明白」とのことなので、今後の事態がどう転ぶか全く予測がつかなくなった。

 しかし私が思うに、改憲論議の今後の展開は、憲法審査会での議論そのものよりも「森友疑惑」の動向に左右されると考えた方がよさそうだ。結論的に云えば、「森友疑惑」が高まれば高まるほど党内抗争の動きは大きくなるし、逆に幕引きが成功すれば改憲議論が加速されるかもしれないということだ。それほど安倍政権にとって「森友疑惑」の存在は大きく、この「のどに刺さった骨」を抜くことができなければ、安倍首相は憲法改正の悲願を達成できないといっても過言ではないのである。

理由は明白だろう。情けないことにいまの自民党内には政策的に安倍首相に対決する政治勢力がなく、「森友疑惑」のようなスキャンダルでもない限り首相の足を引っ張ることができない。かっての「ハト派」「タカ派」といった政策的な対決構図は跡形もなく消え、スキャンダル絡みの低水準の党内抗争しか権力争いに勝利する方法がなくなったからである。

 そうした観点からすれば、13日朝日朝刊が5面全紙を使って「森友疑惑」特集を掲載したことが極めて注目される。同紙は、「森友学園の国有地取得をめぐる経緯と主な出来事」を2009年度から2017年4月26日までにわたって時系列的に整理し、「8億1900万円がなぜ値引きされたのか」「官僚の忖度があったのか」の2大テーマを中心に疑惑解明の重要性を改めて喚起している。要するに朝日は、この問題の幕引きは決して許さないというジャーナリズムとしての決意と矜持を示したのである。

 森友学園の地元・大阪では、森友学園が関連保育園の保育士不足問題を自ら解決できず、大阪市の吉村市長は、園に対して7月1日付で事業停止命令を出すための手続きに入ることを言明している。すでに5月11日夜、大阪市は保護者に対する説明会を開き、園が閉鎖された場合の園児の行き先についての検討を終えたとしている(各紙。5月12日)。いわば、籠池理事長一家は絶体絶命の窮地に追い詰められているのであり、この状況を彼らなりに「打開」するとすれば、安倍昭恵首相夫人や近畿財務局(財務省)などとの更なる交渉記録を暴露することも十分考えられる。このとき国会ではどんな反響が起るのか予測もつかない。

 それにしても私が「森友疑惑」の発覚以来、一貫して疑問に思っているのは、この問題の核心を衝いた共産党小池書記局長での国会質問の材料がいったいどこから出たのかという問題だ。鴻池自民参院議員は麻生元首相の側近として知られており、その事務所記録が表に出るだけでも大問題なのに、それがこともあろうに共産党の手に渡ったのである。秘書の事務所日記は通常本人が肌身離さず持っているものである以上、鴻池事務所の誰かが故意に情報を流したとしか思えない。とすれば、その目的は一体何のためか。ひょっとすると、今後の党内抗争が激化すればその回答が出てくるかもしれない。(つづく)
2017.05.16 「五」について考える
  小山の教育通信 [2017.5月-2]

小山和智(グローバル化社会の教育研究会事務局長)

五月病シーズンのピークですが、皆様 お加減は如何でしょう?

五原則や五元素など“五”を一組とする感覚は、仏教・ヒンズー教圏の特徴です。起源は 手の「五指」なのでしょうが、親指を「finger」と考えない欧米では、“五”を完全数と感じないだけでなく、「fifth」には“裏切り, スパイ, 破壊…”のイメージもあります。「Olympic symbols」を“五輪”と呼ぶのは 日本だけ。五輪が象徴する“五大陸 (Continents)”の色 (左から青・黄・黒・緑・赤)の、どの色が どの大陸を指すのかの詮索は、無意味です。

「Oceans」は 日本では“五大洋”と訳しますが、太平洋と大西洋を 更に南北に分けて「Seven Seas」と呼ぶ方が、グローバルには一般的です。ただし、10~15世紀、世界文明の頂点にいたアラビア商人(+海賊)にとっての「七つの海」は、南シナ海・ベンガル湾・アラビア海・ペルシア湾・紅海・地中海・大西洋でしたけど…。因みに、北米の「Great Lakes」を “五大湖”と訳すと、ニピゴン湖・セントクレア湖などは 無視されることになります。

大阪夏の陣(1915年) は 旧暦4月26日開戦 (~5月8日) でした。現在の暦で5月下旬から6月上旬です。真田幸村の伝説的な活躍は、今でも子ども達に人気……沢田博史さんの『冥銭のドラグーン』は、もう読まれましたか?
「流鏑馬 <やぶさめ>」は 疾走する馬上から的を射る技術・儀式のことですが、弓矢の代わりに 小銃(rifle)を持つ騎兵を「竜騎兵 (dragoon,cavalry)」といいます。ただし、馬上からの射撃は 照準が難しいので、実戦では、下馬して “伏せ撃ち”するのが普通でした。日露戦争の「騎兵第1旅団」(秋山隊)も竜騎兵です。軽砲や機関砲まで装備していても、文字通りの“機動性 (cavalry)”が命でした。


この時期、新しい定期券を手にしている人が 多いでしょう。定期券は、券面に表示された経路通りにしか 乗れませんし、本人しか使えません。旅行ライターで漫画家の恵 知仁さんによると、2007年 他人名義の定期券を10ヶ月使った生徒に、JRは123万円を請求。複数の学生が不正な定期券を使用していたことが発覚した日本大学では、642万円の支払いに応じたそうです。「知らなかった」では済まされません。

満員電車での迷惑行為のトップは、痴漢ではなくて (注:痴漢は犯罪)、「リュックを背負って乗車」(マナー:リュックは前に) と「ドア地蔵」(マナー:入口付近に立たない) だそうです。前者は「スマホを見たい」という身勝手から、後者は「慣れない通勤・通学路で、降りられなくなるのが怖い」という心理から、と分析されています。いわゆる「新入りラッシュ」(=遅延) の元凶ですが、何度も注意されて、6月頃には 改まるのが普通です。

それでは、例によって他のニュースも。
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東京私立中学合同相談会

日 時  5月21日(日) 午前10時~午後4時
場 所  東京国際フォーラム (東京都千代田区丸の内3-5-1)
内 容  各校の個別ブース、東京大学やJAXA(宇宙航空研究開発機構)による体験講講座、「私立中高一貫教育の価値と魅力」 を知るセミナー、ほか
参加費  無 料(予約不要)

※ 東京の私立中学校173校が集結し 中高一貫校の優れた教育を紹介。

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中国の五行思想は、万物は 木・火・土・金・水 の5種類の元素からなるという説。各々に 青(緑⇒ 春、東)・赤(朱⇒ 夏、南)・黄(⇒ 土用、中央)・白(⇒ 秋、西)・黒(玄⇒ 冬、北) の色がついています。

音楽で使う五線紙は「staff」、楽譜/五線譜は「(staff) score」です。また、ギター教本では 親指を除いた4指を 1~4で示します。「親指も指だよ」と言うと、「toe (足指)と混同するな」と諭されるでしょう。

「冥銭」は 死者を葬る時に棺に入れる硬貨(=三途の川の渡し賃) のこと。中国では、本物のお金はあの世に持って行けないので、薄紙に紙幣のような印刷を施した「冥鈔 (ming2chao1)」を燃やして供養します。

5月17日(水)から、東京ビッグサイトで「教育ITソリューションEXPO」が開幕。21世紀型教育の実践を目指して、32もの特別セミナーもあります。体が一つでは とても足りませんね。

『海峡 27号』(社会評論社刊)に 桑ヶ谷森男先生の論文「新渡戸稲造と柏木義円の朝鮮認識を問う」が、掲載されています。新渡戸稲造に対する印象が大きく覆される一方、柏木義円という論客にも感激しました。二人とも クリスチャンながら、真反対の論調には驚きます。

『月刊 海外子女教育』5月号の特集は「アイデンティティをめぐる帰国生物語」「古典に親しむ」。後者は、国際バカロレア(IB)の「日本語科」が どういうものかを知る 格好の解説です。

日本は、一気に夏になってしまったような陽気です。毛穴が十分に開いていないと、熱中症の危険もあります。皆さま お身体を大切に。ごきげんよう。

小山和智( OYAMA, Kazutomo)
 
 http://www.toshima.ne.jp/~kyoiku/
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(過去のニュースは 下記をご覧ください。)
 http://www.toshima.ne.jp/~kyoiku/shijo-news.htm

<小山和智氏の略歴>
1952年生まれ。海外子女教育振興財団に13年半勤務したほか、ジャカルタ日本人学校 事務長、クアラルンプール日本人学校 国際交流ディレクター、啓明学園 国際教育センター所長、順心広尾学園 校長補佐、上海日本人学校学校 事業計画室長を歴任。現在、グローバル化社会の教育研究会事務局長。国際教育相談員。
著書に『インドネシア・マレイシア駐在員マニュアル』(旺史社)、『海外赴任のためのリロケーションガイド』(NNA他)のほか、ビデオ教材『中国人の交渉術と価値観』(ジオモンド社)など。
2017.05.15  トランプ大統領の“迷走・暴走”続く
  FBI長官解任に「ロシアゲート」の見出しも

伊藤力司 (ジャーナリスト)

就任後4カ月目に入ったドナルド・トランプ米大統領。この間支持率はずっと40%台と戦後の歴代大統領中の最低を記録中だが、5月9日突如としてFBI(連邦捜査局)のジェームス・コミ―長官を解任したことで「第2のウォーターゲート事件」として、メディアから「ロシアゲート」と呼ばれる騒ぎになっている。

FBIと言えば「泣く子も黙る」アメリカきっての捜査機関で、司法省に属しながら連邦法違反事件に対する捜査や公安情報の収集などを行う。アメリカでは一般犯罪を捜査するのは各州の警察で、FBIはその名の通り連邦事案を扱う。行政的には連邦政府の一環だが、汚職事件を扱うこともあって、政府からの独立性が高い機関である。

トランプ大統領がコミー長官を解任した理由は当初、ロッド・ローゼンスタイン司法副長官から「コミー氏を解任すべきだ」との要請書簡が寄せられたからだと説明された。解任すべき理由は、昨年の大統領選挙の過程で民主党ヒラリー・クリントン候補が国務長官時代に私用の電子メールを公用にも使った件を、法律違反として立件するかどうかの処理が適正でなかったからだと説明された。

昨年7月2日、FBIはクリントン氏を私用メール問題で任意の事情聴取を行ったが同5日、コミー長官はこの問題でクリントン氏の訴追を求めないと発表。ところが大統領選投票日の僅か11日前の10月28日、コミー長官は新しい材料が出たためこの問題の捜査を再開すると発表した。しかし投票日の2日前の11月6日、同長官は刑事訴追を見送る方針に変更なしと表明した。

投票日直前のFBIによる捜査再開発言は、明らかにクリントン候補を不利にする材料だった。クリントン氏はつい最近、「投票日が10月27日だったら(つまりFBIの捜査再開が発表される前日だったら)、私が勝っていたのに…」と発言したほどだ。誰が見てもコミー長官の10月28日発言はトランプ氏側有利に働いたのだ。コミー氏のメール問題処理が適正でなかった、というローゼンスタイン副長官の言い分には誰も納得できない。

だから「コミー解任」を報じた米国の主要メディアが一斉に報じたのは、解任理由がメール問題の処理ではなくて、コミー長官以下FBIが熱心に取り組んできたロシアによる米大統領選挙介入疑惑の捜査を止めようとするトランプ政権の思惑であった。コミー長官が3月の下院情報特別委員会の公聴会で、大統領選挙でトランプ陣営を勝たそうとしたロシアの介入疑惑を巡って、トランプ氏周辺とロシアの共謀疑惑を捜査していると証言したことに、トランプ氏が激怒していたことが政治専門サイト「ポリティコ」で報じられていた。

1972年大統領選挙で再選を狙うニクソン大統領の共和党陣営が、民主党陣営の事務所が置かれたウォーターゲート・ビルに忍び込み、民主党の秘密書類などを盗んだ事件があった。このウォーターゲート事件を捜査するために任命された特別検察官アーチボルド・コックス氏をニクソン大統領が、1973年10月30日(土)に解任したのが有名な「土曜日の虐殺」。結局ニクソンは弾劾を逃れるため自ら辞任に追い込まれたが、米マスメディアはコミー解任をこれになぞらえ、一件を「ロシアゲート」と呼び始めた。

騒ぎが大きくなったのを鎮めようとしたのか、トランプ大統領は5月11日NBCテレビのインタビューに応じ、その中で解任前のコミー氏に「FBIが自分を捜査対象にしているか」を3回にわたって尋ね、3回とも捜査対象ではないとの回答を得たことを明らかにした。さらにトランプ氏は、FBIにロシア疑惑の捜査中止を求めたことは一度もないと主張した。

またコミー氏については「目立ちたがり屋でスタンドプレーをしたがるので、FBIは混乱していた」と批判して解任を正当化。コミー氏に解任を通告した9日の書簡では、ローゼンスタイン司法副長官の進言に沿って判断したと述べていたのに、このインタビューでは「進言に関係なく以前から解任するつもりだった」と説明を変えた。

アメリカの大手メディアは、保守系とされるFOXテレビやウォールストリート・ジャーナルを除けば、概してリベラル色が濃くトランプ保守政権に批判的だ。ほとんどの大手メディアはコミー解任劇をとらえて、ロシア・プーチン政権との関係改善を図ろうとするトランプ政権に批判的だ。折しも4年ぶりにワシントンを訪問したロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とトランプ大統領、レックス・ティラーソン国務長官が会談したのが5月8日、コミー解任の前日だった。

2014年2月アメリカが陰に陽に後押ししたウクライナ政変で親露ヤヌコビッチ政権が倒されてウクライナ内戦が勃発。ウクライナ領クリミア半島では同年3月、親ロシア派住民が主導した住民投票でロシアへの編入が承認され、ロシア領となった。米欧はこれに怒ってロシアに対する制裁を発動、G8グループからロシアを外した。ロシアと米欧は冷戦時代に逆戻りしたかと思わせる「冷たい」関係になった。

トランプ大統領はロシアのプーチン大統領と気が合うらしく、トランプ氏は大統領選挙戦中から一貫して「プーチン大統領との和解・協力」を主張、イスラム過激派テロの元凶たる「イスラム国(IS)」を撃滅するのにロシアと協力すべきだと訴えていた。プーチン大統領も、トランプ氏が共和党の大統領候補に決まるずっと前の2015年12月の段階で「トランプ氏は傑出した人物で米国大統領にふさわしい」と公言していた。

トランプ大統領が最重要閣僚である国務長官に、プーチン氏と「昵懇の仲」と言われるティラーソン氏(エクソン・モービル石油会長)を任命したことでも“米ロ蜜月時代”の幕開けを予測させた。しかしヒラリー氏に代表される民主党や大手メディアは“プーチン・トランプ蜜月”に対する警戒心と敵意を持ち続けている。

さらに言えば、民主党と大手メディアの背後にはアメリカの「既成勢力(establishment)」である「軍産複合体」と「ウォール街」が厳然と根を下ろしている。「アメリカ・ファースト」を旗印に、メディアとの戦いも辞さないトランプ大統領の“迷走・暴走”は、今後も世界を騒がさせることになろう。
2017.05.14  「本日休載」
 今日、5月14日(日) は 休載します。

   リベラル21編集委員会

2017.05.13  改憲志向増すもなお9条を堅持
  マスメディアの全国世論調査

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 5月3日は日本国憲法施行から70年にあたった。この日に向けてマスメディアは憲法に関する全国世論調査を行い、その結果を発表した。それを分析すると、改憲派が増えつつある傾向がみてとれるが、その一方で憲法9条(戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認)を維持すべきだとする人たちが依然、多数派であることが浮かび上がる。

 憲法に関する全国世論調査をおこなった新聞社、通信社、テレビ局は、調査にあたって「憲法を変える必要があるか」「憲法を改正する方がよいか」、あるいは「憲法を改正すべきと思うか」などといった質問を設け、現行憲法の改定について賛否を問うた。その結果は、以下の通りである。
               20170513表1

 調査結果をおおまかにいうと、毎日、共同通信、NHKの調査では改憲派が多数派を占め、読売と日経・テレビ東京の調査では、改憲賛成派と改憲反対派が拮抗、朝日調査では、改憲反対派が改憲賛成派より多い、ということになる。
 各社の調査結果がこんなに違うと、憲法についての国民意識の確固たる全体像をしぼり込むのは難しい。だが、各社の調査結果を詳細に見てゆくと、国民意識の傾向が見えてくる。

 まず、「朝日」。「憲法を変える必要はない」は50%だが昨年調査では55%、「憲法を変える必要がある」は41%だが昨年調査では37%だった。
 同様なことが「毎日」の調査結果にも見て取れる。ここでは、「憲法を改正すべきだと思う」が48%、「憲法を改正すべきだと思わない」が33%だったが、昨年は「思う」「思わない」が共に42%だった。
 日経・テレビ東京のそれも同様だ。今年は、「憲法を改正すべきだ」45%、「憲法は現状のままでよい」46%だったが、昨年は「改正すべきだ」が40%、「現状のままでよい」が50%だった。
 
 つまり、これら3つの調査では、いずれも「改憲賛成」派が前年より増えているのだ。なぜだろうか。おそらく、昨年来、日毎に緊迫度を増してきた北朝鮮情勢が影響しているのではないか。すなわち、北朝鮮による核実験、度重なるミサイル発射実験が続き、これに対して米国が朝鮮半島周辺に兵力を差し向けるといった、いわば一触即発といった朝鮮半島情勢の展開に不安と危機感を抱いた人たちの一部が「現憲法維持」から「日本も憲法を変えて軍備増強を図った方がいい」との考え方に変わり、それが世論調査に反映したとみていいだろう。
 
 だとすると、「9条堅持派」も減っただろうなと考えるのが自然の成り行きというものだが、マスメディアの世論調査はなんと意外な結果を示していた。マスメディア各社のうち何社かは改憲の賛否を問う質問と共に9条改正の賛否を問う質問を設けていたが、その回答は以下の通りだった。
              20170513表2

 「読売」調査も、「あなたは、憲法第9条について、今後どうすればよいと思いますか」という質問をしている。それへの回答は、「これまで通り、解釈や運用で対応する」が42%、「解釈や運用で対応するのは限界なので、第9条を改正する」が35%、「第9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない」が18%だった。となると、「9条改正賛成」35%、「9条改正反対」60%ということになろうか。


 各社の世論調査の結果を見て、私は目を見張った。朝鮮半島情勢が緊迫化し、国民の間で改憲志向が増しているにもかかわらず、「9条堅持」がなお国民の過半数以上、あるいは過半数近くを占めていたからである。
 もちろん、「9条堅持」派は増えてはいない。いゃ、減っている。例えば、「朝日」調査では、「9条改正反対」は前年より5ポイント、「毎日」調査では、前年より6ポイント減となっている。
 しかし、日本の安全保障が厳しい局面を迎えているにもかかわらず、「9条堅持」派がなお、なお国民の過半数以上、あるいは過半数近くを占めているのだ。この事実は重い。日本国民の平和志向はなお根強いと言ってよく、これは、護憲派を勇気づけ、希望を抱かせるファクトだろう。

 でも、護憲派はこれから先、難しい局面に直面するのではないか。というのは、安倍首相が5月3日、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と、9条に自衛隊の存在を明記した条文を追加することと、高等教育の無償化を定めた条文の新設を提言したからである。
 護憲派の旗印はこれまで「9条堅持」であったし、これからもそうだろう。これに対し、自民党の改憲草案は9条を改変して(9条の2項=戦力不保持を削除して)国防軍を創設するというものだ。ところが、首相は9条の2項をそのままにして9条に自衛隊の存在を書き加えようというのである。
 なんとも唐突で、自民党改憲草案とも矛盾する提言に驚くが、首相の狙いが、「9条堅持」の護憲派の切り崩し、護憲派の改憲派陣営への取り込みにあることは明らかだろう。護憲派の中に「9条を変えないと言っているから」「災害援助で活躍している自衛隊の存在を憲法で認めてもいいのでは」と、首相提言に傾く人たちが出てくるのではないか。
 首相提言のまやかしをどう理論的に打ち破ってゆくか。そして、首相提言の狙いを広範な国民にどう伝えてゆくか。護憲派に課せられた課題は重い。護憲派にとっては、最後の正念場である。
2017.05.12  中国人在外研究者の逮捕と釈放について思うこと
  ――八ヶ岳山麓から(221)――

阿部治平(もと高校教師)

5月2日毎日新聞に、シリアで行方不明になっている、ジャーナリスト安田純平氏救出の努力を日本政府に求める記事があった。
「安田純平さん(43)を覚えているだろうか。2015年、シリアで行方不明となり、反政府勢力『シリア征服戦線(旧ヌスラ戦線)』に拘束されたとみられるジャーナリストだ。……このまま解決しない日々を重ねていくのか」(藤原章生記者)という。
いま日本人4人が中国当局にスパイ容疑で捕まっている。逮捕後、この人々のニュースはまったくなくなった。訪中する国会議員はいくらでもいるが、中国側に釈放を求めたという話は聞かない。国会でも問題にされない。私が中国滞在中に、英国政府が同国人の死刑執行に抗議したことがある。日本政府や国会は、抑留されている人たちのために釈放の努力をしているのだろうか。

これとは対照的なオーストラリア政府の事例がある。
今年4月2日早朝、中国に抑留されていたシドニー科学技術大学中国研究センター教授馮崇義が、シドニー空港に到着した。馮氏は中国籍であるがオーストラリア在住25年の現代中国研究者である。
彼は今年3月4日中国へ一時帰国して、中国人権派弁護士らの活動状況と彼らの政治的要求などを調査していた。3月24日オーストラリアへ戻ろうとしたとき、広州飛行場で国家安全部(省)の天津市機関によって「国家の安全に危害を加えた」という容疑で出国を阻止された。
馮崇義が中国に「帰国」し、民主人権派の調査をしたと知ったときは驚いた。彼は中国生れ中国籍だから、「帰国」目的が親きょうだい、友人知人と久闊を叙するというのならばあたりまえの行動だ。だが習近平政権にとっては、どうしたって逮捕・投獄したくなるような人物である。たとえば、去年中国語で書かれた馮氏の「毛沢東思想の劇毒」という論文だが、そのさわりはこんな具合だ。

1917年の「ロシア十月革命」は、レーニンなどペテン師とゴロツキどもが「プロレタリアート」の名を借りて、第一次世界大戦の混乱に乗じて権力を奪い、ロシアを一党独裁の全体主義体制に陥れたものだ。
1949年の中国革命は、山賊が山を占領して王様になり悪事をはたらいた歴史のくりかえしであり、マルクス主義と共産主義というレッテルを貼り付けたものに過ぎない。
毛沢東支配の時代には、「土地改革運動」などにより数百万の地主富農と中華民国政府の下層の兵と官僚とをあの世に送った。思想改造・反右派と称する一連の運動、人民公社などを通して奴役と統制をやり、大躍進政策では4000万の人々を餓死させ、文化大革命では大衆を互いに闘争させて、永遠に取消すことができないほどの殺しあいに人々をに陥れた。
習近平政権は、資本主義をやりつつ、毛沢東流に権謀術数をもって政敵を追落し、外交においては強硬路線をしき、内政では思想の統制を図っている。
中国大衆はいまこそ、毛沢東とその思想の魔術から、60年余の暴力が愚民を洗脳したその厳重な束縛から、抜け出さなくてはならない。憲政への転換を実現することが現代中国の唯一の活路である(本欄「八ヶ岳山麓から(200)」参照)。

この彼が「帰国」して人権派活動家・弁護士ら大量逮捕事件の本人やその家族などに接触して調査をやるという挙に出た。弁護士大量逮捕事件は、中国では「709大抓捕案」という。2012年7月以来、北京を中心に天津・黒竜江・山東・福建などで民主人権派の活動家や弁護士が大量に逮捕、拷問された。
新華社通信などは、彼らを「組織が厳密で多数を結集し、分業が精密な犯罪者集団」「正義・公益を名目としているが社会秩序を乱し、人に言えないような目的を持った連中」といっている。「709大抓捕案」は習近平政権にとって「敏感な」問題で国際的に非難の対象になっている。
馮氏があえてその調査をやったのは、まるで「さあ捕まえてくれ」というのと同じである。その自覚がないならば、オーストラリアに25年住んで、中国当局に対する警戒心を喪失したとしかいいようがない。
もし、こうした人物を逮捕しなかったら中国の治安当局は怠慢を指弾されるだろう。

4月2日、シドニー空港に戻った馮氏に、オーストラリア放送の記者が事件経過を質問したが、彼は「中国出国時に公安当局にこの間のできごとを秘密にする書面に署名を要求された」から、「中国でどのように過ごしていたかは明らかにできない」と答えた。
私には、馮氏が長期拘留・起訴されず、10日足らずの取調べでオーストラリアに戻れたのは奇跡に思える。彼自身も「なぜ中国を出国できたかよくわからない」といいつつも、「おおかた国際的圧力があったからではないか」と憶測を述べた。
たしかに、国際的な中国問題研究者100人前後が心配して、3月30日連名で習近平国家主席と李克強総理に手紙を送り、馮崇義のオーストラリアへの出国を取計らうよう求めた。だが、民間からの陳情など中国治安当局にとっては痛くもかゆくもないから、圧力にはならない。

だが、馮氏のいう「国際的圧力」はつづくニュースでわかった。
馮氏がシドニー空港に到着するとすぐに、オーストラリア外交貿易省は「オーストラリア政府は馮崇義が戻ることができたというニュースを歓迎する」という声明を発表したのである。
思うに、オーストラリア外交当局は馮氏が捕まった事実に「関心」を持ち、中国に「善処」を要求していた。そして中国はオーストラリアとの外交的関係を考慮して、馮氏釈放を決めたのである。オーストラリア政府はたとえ国籍が中国であろうとも、オーストラリアで仕事をしてきた人物を保護しようとしたのである。

日本にも在日中国人が「帰国」して逮捕され、長期にわたって拘束された事件がある。もう4年ほど前になるが、2013年5月日本の中国語紙『新華時報』編集長蘇霊氏が北京市出張中に消息を絶った。
同年7月やはり東洋学園大学教授朱建栄氏が、会議出席のため上海に向かったまま行方不明になった。朱氏の消息は、翌2014年1月に勤務先の大学が釈放を明らかにするまで7ヶ月間わからなかった。朱氏はもっぱら中国政府寄りの発言をしてきた人物だから、私にとってはまったく意外だった。日本では朱氏の二重スパイを疑うひとがいたが、真相は不明である。
2014年3月にも神戸大学教授王柯氏が、福建省泉州市で現地調査中に公安当局に逮捕され、18日間拘束されたのち釈放された。彼は中国新疆出身の漢人で、『東トルキスタン共和国の研究』で知られた人物である。拘留理由は調査の仕方が不適切だったということらしかったが、本当のところはわからない。
蘇霊、朱建栄、王柯の抑留のとき、日本政府はオーストラリア外務省のように、何か強力な外交圧力を中国側に加えただろうか。是非、知りたいものである。いまスパイ容疑で長期に捕えられている4人の日本人の安否は、どうなっているのだ。

一連の長期抑留事件があらためて示したものはもはや明らかであろう。中国に関して微妙な政治問題に関して発言をしたり、中国での立ち居振る舞いが当局に怪しいとにらまれれば、反政府の言動があろうとなかろうと、逮捕され長期に抑留される危険があるのである。
国際的な法感覚では不当逮捕である。こうしたとき、日本人だけでなく、在日外国人も日本政府の外交的配慮をあてにすることができるだろうか。どうも疑わしい。――諸兄姉、よくよく用心めされよ。
2017.05.11  文在寅(ムン・ジェイン)政権の幕開け
   韓国通信NO524

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

5月9日に行われた韓国大統領選挙で、民主党の文在寅(ムン・ジェイン)氏が国民党の安哲秀(アンチョルス)、自由韓国党の洪準杓(ホン・ジョンピョ)、正しい党の劉承旼(ユ・スンミン)、正義党の沈相奵(シム・サンジョン)らを抑えて当選を果たした。前回の大統領選では朴槿恵候補に僅差得票率3%で惜敗したが、今回は予想通りの圧勝だった。
今回の大統領選挙はこれまでの保守と革新という対決構造と様変わり、前回選挙では文在寅候補一本化のために立候補を辞退した安哲秀氏が立候補、さらに左派の正義党沈相奵候補が立候補し、ともに善戦した。選挙戦の後半に入り、保守派が巻き返し、自由韓国党の洪準杓候補の追い上げが注目されたが、結果は野党陣営による選挙戦だった。
 朴槿恵前大統領が任期半ばで罷免された異常事態のもとでは、与党セヌリ党系候補者の当選はおぼつかないばかりか、政党としての存在すら危ぶまれていた。事実、与党セヌリ党は分裂、党名を自由韓国党に変更。一部は朴槿恵大統領の不人気を嫌って新政党「正しい政党」を結成した。今回の選挙は何といっても「ろうそくデモ」で示された民意―「国民のための政治」「政治の主人公は国民」―がどれだけ選挙に反映されるかという点に尽きた。前大統領批判派(ろうそく派)が三人も立候補するという「ぜいたく」な構図はこれまで見たことはない。

<北朝鮮との緊張が高まる中で>
  5人の有力候補たちによるテレビ討論会は3回開かれ、福祉問題、教育問題など身近な問題について長時間にわたる熱心な議論が行われた。しかし「ろうそくデモ」で提起された数々の内政問題に関する議論はやや後方に押しやられた印象が強い。北朝鮮との緊張が高まり、安全保障問題が前面に現れたように見えた。しかし「ろうそく」の火は消えていなかった。80%近い投票率の高さに示されたように、「積弊清算」、これまでの韓国社会に積もり積もった弊害を清算するという文候補の訴えを国民は支持した。
北朝鮮に対する強硬な米国トランプ大統領の発言によって日本では戦争に対する不安と動揺が広がったが、韓国民は浮足立つことなく、冷静に未来を選択した。

<戦争か話し合いか>
わが国ではあまり知られていないが、2014年に5名の国会議員を擁する「統合進歩党」が「親北」政党と判断され、強制解散させられる事件があった。北朝鮮との融和をはかるという主張が「親北」「従北」、つまり「アカ」と見なされた。朴正熙軍事政権以来の「反北」「反共」の伝統は李明博、朴槿恵政権に引き継がれ、今でも根強い反共主義が国民のなかに根を下ろしているのは事実だが、北朝鮮との融和をすすめた金大中、廬武鉉政権をへた韓国社会で北との融和を主張しただけで公党が解散させられたのは信じ難いことだった。それが朴槿恵政権下で起きた。
大統領選のさなか、北朝鮮との緊張が高まり、野党候補、特に文在寅候補に「親北」「従北」というレッテルを貼り、旧ハンナラ党勢力が攻撃をしかけた。韓国の有力紙も文在寅候補の「危険」さを指摘した。故廬武鉉大統領の側近だった文在寅氏が「戦争回避のために北との話し合い」を主張したことが「親北」とみなされた。わが国の新聞・テレビも文候補に対して「親北」「従北」、つまり北朝鮮とつながっていると文候補を紹介した。
北朝鮮の恐怖を煽れば支持が得られるという政治風土の中で「親北」とそし誹られながら文在寅氏が当選した意味は大きい。一時、文在寅氏を凌ぐ評価を得ながら、安哲秀候補は北朝鮮問題でつまずいた。学者、清新、知性、クリーンなイメージで評価の高かった彼が、文候補との差別化を図り、保守層の支持を得るために北朝鮮に対して、やや「強硬」な発言をしたためそれが裏目に出て支持離れを起こしてしまった。
北朝鮮と対決するのではなく、「会話」を求める文在寅氏を選んだことは、北との共存をはかり戦争を回避する賢明な選択だった。

<私たちは韓国国民の選択に敬意を表すべき>
 トランプ大統領が新大統領にどのような評価をするかは不明だが、安倍政権の衝撃度は計り知れない。日米韓の軍事協力による北朝鮮包囲という目論見は変更を余儀なくされる。国会で過半数をもたない与党民主党であるため新大統領の国政運営は困難が予想されるが、安哲秀氏はもともと文在寅の盟友だった人物である。文在寅も安哲秀も「ろうそくデモ」を背景に大統領選挙に出馬してともに闘った。政治は国会議員の数だけで動くものではない。ろうそくデモが示した広範な民意がある。韓国は間違いなく「新時代」を迎える。
 ろうそくデモという前代未聞の「市民革命」は現在も進行中だ。財閥や検察の横暴、所得格差の是正、そのための不公平税制の改革、教育制度の改革、福祉の充実にたいする国民の期待は大きい。「国民こそ国の主人公」(憲法第1条1項)という原則にもとづく民主的な改革が進められていくはずだ。選挙の翌日には早くも大統領に就任した。新政府の動向は敬意をもって見守っていく必要がある。当面する日韓関係の懸案2015年12月の従軍慰安婦問題の日韓合意について私たちは謙虚に当事者と韓国国民の声を聞く必要がある。「政府間合意の履行をあくまでも求める」と繰り返すばかりでは韓国との相互理解は生まれない。
アメリカのTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の設置についても前政権がアメリカと合意したが、民意は反対だ。新大統領の決断は予断を許さないが、対米関係についても「積年」の韓米関係は見直されるはずだ。つまり国内の政治経済の改革に加えて外交もこれまでと違った独自の路線が予想される。半島有事に備えて米軍空母カールビンソンに付き従う日本とは違う方向を模索するはずだ。韓国新政権の発足は隣国日本にとっても内政、日米韓の関係を考えるうえで学ぶべき点が多い。新時代の到来を告げるものとして評価したい。
2017.05.10  「イスラム・テロ」を根底から問い直す―衝撃的な板垣雄三解説
  『シャルリ・エブド事件を読み解く』

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

2015年1月7日、パリで風刺誌出版社「シャルリ・エブド」社を2人の男が襲撃、同誌編集長以下の編集スタッフ10人と警官2人が殺害された。犯人2人は逃走し、人質をとって印刷会社に立てこもったが警官隊に射殺された。ほぼ同時に、別の男が市内のユダヤ食品店を襲撃、客と店員を人質にして立てこもった。こちらの犯人も警官隊に射殺されたが、人質4人が死亡した。フランス当局は、「シャルリ・エブド」社襲撃犯の二人をアルジェリア系のフランス人だとして氏名も発表した。「シャルリ・エブド」はイスラム教をあくどく風刺し、イスラム教徒が絶対的に信仰するムハンマドまで戯画化して掲載、そのつど、国内のイスラム教徒とイスラム諸国から強く抗議されていた。
4日後の11日、パリはじめフランス全土で、“Je suis Charlie “ (わたしはシャルリ)をかかげた大規模(370万人と報道された)なデモが行われた。イスラエルからネタニヤフ首相がやってきて、デモに参加した。事件後、フランスをはじめ欧米諸国では、イスラム・フォビア(イスラム嫌悪)勢力による反イスラム・キャンペーンが強まり、治安当局によるムスリム(イスラム教徒)社会への監視が強化された。一方で、中東での偏狭なイスラム過激派IS(イスラム国)に、欧州諸国からの若者たちの参加が拡大していた。
このような厳しい状況下、事件から3か月後の15年4月、本書が米国で刊行された。中心となった編著者は米国市民でイスラム教徒のケヴィン・バレット。アラビア語・イスラム・人文学の研究者。「対テロ戦争」批判で最も著名な一人。
22人の執筆者たちは、「社会的・宗教的・民族的帰属も思想信条もいちじるしく多様で、個性的だ。研究者・ジャーナリスト・技術者・市民運動家・かって政権内部にいた人・緑の党・アフロアメリカン・ユダヤ教ラビ・カトリック思想家・プロセス神学者・シーア派法学者・イスラム思想家・イスラム終末論者など」(板垣雄三氏による)。
多様な執筆者たちに共通するのは、「シャルリ・エブド」事件はじめ数多くのテロ事件がイスラム・テロだとすることへの強い疑念だ。諸事件はイスラエルの強大な謀略機関モサドか各国の情報機関が実行した偽旗作戦(敵対する勢力を他者に攻撃させるために起こす欺瞞的な軍事行動やテロ)、謀略ではないかという疑念を消し去ることはできない。その背景にはイスラム・フォビア(イスラム嫌い)があることも確か。
 本書が発刊された以後も、15年11月13日にパリで発生した同時多発テロ事件(6カ所で爆発や銃撃があり、計130人が死亡、300人以上が負傷)をはじめ、イスラム教徒によるテロと治安当局がみなす大小の事件が発生している。中東を本拠とするIS(イスラム国)が犯人との関係を発表することも多いが、犯人の多くが現場で死亡しており、メディアは治安当局の発表に頼るだけだ。
 
本書は全体で481ページ、そのうち77ページが、板垣雄三東大名誉教授の解説。板垣氏は言うまでもなく、日本での中東・イスラム研究のリーダーだ。
 この「ウソと謀略に踊る世界の破局―どう向き合うか」と題した解説は、本書の理解を助け、原著刊行から現在までの2年の時間差を埋めただけでは決してない。第2次世界大戦後の、とくに欧米で発生した「9.11」をはじめイスラム教徒の犯行だと喧伝されたテロ事件が、実はイスラエルや欧米諸国の情報機関の謀略、偽旗テロである疑いがあることを、板垣氏は解説で鋭く追及している。
 そして板垣氏は「この『シャルリ・エブド』の本では、ウソと謀略の現況の出発点を、ケネディ大統領暗殺まで遡らせた。しかし、植民地主義・人種主義・軍国主義批判と、いのちの尊厳擁護の観点からは、起点を1953年イランのモサッデグ政権を倒したCIAによる軍事クーデターまで、さらに1948年のイスラエル国家樹立まで、引き上げるべきではないだろうか」と主張している。
 この解説ではまた、過激発言とフェイク(偽・でっちあげ)を多用して当選したトランプ米大統領についても触れられている。
 なお、本書の続編が、米国で出版されている。

ケヴィン・バレット編著、板垣雄三監訳・解説「シャルリ。エブド事件を読み解くー世界の自由思想家たちがフランス版9.11を問う」。第三書館。2017年5月発刊。
定価3500円+税
           20170510坂井寄稿写真

2017.05.09  フランス共和国最年少のマクロン大統領が誕生
  極右ルペン候補も34%、1千万票以上を獲得

伊藤力司 (ジャーナリスト)

政治的関心のあるフランス人を除けば、1年前は世界でほとんど無名だったエマニュエル・マクロン氏(前経済・産業・デジタル相)(39)が、欧州の大国フランスの大統領に就任する。19世紀半ば、当時のナポレオン3世(40)が最も若いフランス共和国の国家元首に就任した記録をマクロン氏が更新するのだ。

5月7日に行われたフランス大統領選挙決選投票で、中道無党派のマクロン候補が得票率74・62%を収め、極右「国民戦線」のマリーヌ・ルペン候補(同33・94%)に対して圧勝した。2週間前の4月23日に行われた第1回投票の結果、マクロン、ルペン両候補が決選投票に勝ち残ってから、大方の世論調査や観測筋は決選投票でのマクロン候補の勝利を予測していた。そういう意味ではサプライズなき選挙結果であった。

問題は、昨年6月の英国のEU(欧州共同体)離脱の是非を問う国民投票で離脱派が僅差ではあったが勝利、ポピュリズム(大衆迎合主義)の流れがエリート支配層への反乱を促す世界的潮流が進んだことである。昨年11月のアメリカ大統領選挙でも、事前の世論調査や識者の予測に反して「アメリカ・ファースト」を前面に打ち出したドナルド・トランプ氏がポピュリズムの流れを受けて当選した。

ドイツと並んでEUの中核を成しているランスでも「フランス・ファースト」を打ち出すルペン氏の「国民戦線」が、経済のグローバル化とともに貧困化しつつある中間層の支援を受けて力を増しつつある。今から15年前の2002年の大統領選挙で、マリーヌ氏の父親で国民戦線創始者のジャンマリ・ルペン氏がジャック・シラク氏との決選投票に当たり、わずか13%の得票率しか取れず惨敗したのに比べると、マリーヌ氏は投票者の3割以上、1000万人以上の有権者の支持を集めたことを無視することはできない。

◆問題はマクロン氏や彼を支持したフランス国民の多数派は、フランスの将来もフランス国民の未来もEU、つまり欧州の統合を進めることを抜きにしては語れないと考えていることだ。フランスにとって欧州統合の第1のパートナーであるドイツとの盟友関係を抜きにしては、フランスの生き残りは考えられない。フランスのEU離脱を主張したルペン候補が敗退して、EU統合の深化を訴えたマクロン候補の勝利を誰よりも喜んだメルケル・ドイツ首相は早速マクロン氏に電話、マクロン氏が選挙戦で欧州統合を推進する立場を明らかにしたことを高く評価し「一緒に働くことを楽しみにしている」と伝えた。

またガブリエル・ドイツ外相はマクロン当確の報を受けて声明を発表「マクロン氏はナショナリストやポピュリストといったヨーロッパ統合に反対する人たちに抵抗できることを示した」とマクロン氏の勝利を祝福。同外相はさらに「マクロン氏の勝利でドイツにも責任が生じる。マクロン大統領が成功しなければ、5年後にはルペン氏が大統領に選ばれることになりかねないからだ」と述べ、ドイツもマクロン氏の経済改革を支援する考えを示した。

英国のEU離脱決定でEUの欧州統合の方針は揺さぶられたが、英国はもともと自分たち「大英帝国」の後身であって、大陸ヨーロッパには「一目置かれる存在だ」という意識が濃厚だ。そうした意識が目に見えないながら英国のEU離脱決定の背後にあったことは否定できない。しかしフランスとドイツは19世紀以来、普仏戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦と、3度にわたる血で血を洗って殺し合った戦争を繰り返したことを反省して、2度と独仏が殺し合いをしないことを誓い合ったEUの盟友どうしである。

2017年代のヨーロッパは、過去の中東アフリカ圏・植民地支配の後遺症の一環であるイスラム過激派テロにおびえながら、それでもイスラム圏からの亡命者の入国を受け入れるべきだとの理性的判断を示している。しかしフランスの国民戦線ルペン氏だけでなく、オーストリア、オランダ、ドイツなどの極右政党がイスラム系移民を排除すべきだと運動を展開して党勢を徐々に高めていることも事実だ。こうした右翼的潮流を、ヨーロッパの大国であるフランスが取りあえず防ぎとめたことは、大いに評価すべきであろう。