2008.04.27 中国はチベットを手放さない(再論)
―チベット高原の一隅にて(16)

阿部治平 (中国青海省在住、日本語教師)

 新華社電によると、中国の胡錦濤国家主席は4月12日、オーストラリアのラッド首相と海南省三亜で会談し「チベット問題は完全に中国の内政にかかわること」と述べ、外国の干渉を許さない姿勢を強調した。また、胡錦濤主席は「ダライ・ラマ( 十四世)一味との闘争は民族、宗教や人権の問題ではない。国家の統一を守るか、あるいは祖国の分裂を許すのかという問題だ」と述べた。(共同)
 こうした発言を日本ではどう受けとめているだろうか。少数民族にたいする威圧的な政治的表現だとか、民族運動鎮圧についての弁解だと考える人がいるかもしれないが、わたしは、これを真剣な意志を表明したものとして字面どおりに受止めるべきだとおもう。3月ラサ事件に関しては映像でみるかぎり暴力と破壊そのものだから、法にもとづいて刑事責任を問うことは当然である。ただ、事件を誰が(真の演出者か)どのような政治的意図で起こしたか全体像は依然ナゾのままだ。
 チベットのみならずチュルク系、モンゴルなど少数民族の分離独立ではなく、「高度自治」あるいは自治区の区域変更などの要求までも、なぜ「国家の統一を守るか、分裂を許すのかという問題」になるのか。ここではこうした認識がうまれてから現在に至るまでの経過をたどってみたい。
2008.04.26 オバマ氏指名への流れ変わらず
ヒラリー氏ペンシルベニアで辛勝したが

伊藤力司 (ジャーナリスト)

アメリカ民主党大統領候補の指名争いの重要関門であるペンシルベニア州予備選でヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州)が辛勝、バラク・オバマ上院議員(イリノイ州)との争いがなお続くことになった。ペンシルベニア州の開票率99%でヒラリー氏の得票率54・3%、オバマ氏45・7%となり、その差は8・6ポイントである。ペンシルベニア州はもともとヒラリー氏の地盤であり、3月段階の世論調査では20ポイントの差をつけていたことからすると「辛勝」という以外にない。

AP通信の集計によると、ペンシルベニアで獲得した代議員数を加えたオバマ氏支持の代議員数は累積で1,714人、ヒラリー氏支持代議員は同1,589人となった。その差は125人である。ペンシルベニア州予備選前の差は140人だったから、ヒラリー氏はここで15人分差を詰めたわけだ。しかしまだ残っている7州と2自治領の予備選・党員集会で125人のギャップを埋めることは、専門家は至難とみている。2008年大統領選の民主党候補を指名する党大会は8月末コロラド州デンバーで開かれる。代議員総数は4,049人でその過半数2,025人の支持を得たほうが勝つ。

この4,049人のうち795人はスーパー代議員と呼ばれる。スーパー代議員は連邦議員、州知事ら選挙で選ばれた公職者、それに大統領、副大統領経験者とさらに全国および州レベルの党役員などの人々だ。各州の予備選・党員集会で選ばれる一般代議員は、選ばれた段階で党大会でどちらに投票するか決まっているが、スーパー代議員は個々に自分の判断で投票することができる。APの集計によると、スーパー代議員で4月22日までにヒラリー氏支持を明らかにした人が258人、オバマ氏支持が233人である。一般代議員ではリードされてヒラリー氏だが、党のキャリアが長いだけあってスーパー代議員では逆にリードしているわけだ。
2008.04.25 八ヶ岳山麓の四季 2
小口 隆三 

八ヶ岳山麓で春になったと実感できるのは4月半頃からです。次々に咲き出すさまざまな花に追いかけられているような落ち着かない気分になりながら、ようやくやってきた遅い春にどっぷりと浸かります。
富士見町に高森(たかもり)という古くからの地区があります。時代の流れを反映してご多分に漏れず集落の様相はじわじわと移り変わっていますが、まだ往時の山村の面影はあちこちに残っています。観音堂と呼ばれている小さな無人のお堂もその一つ、地元の人たちが共同で守り、手入れをしています。観音堂の庭には樹齢約250年の枝垂桜の老大樹があり、春には大きく広げた枝に精一杯に花を咲かせて訪れる人の感動を誘っています。最近はアマチュア・カメラマンの人気スポットになっていて、遠方から撮影に来るグループも時折見かけます。私は十年来毎春足を運んでいますが、花の色は年によって淡かったり濃かったり。今年はここ数年来では最も濃い色との印象を受けました。この観音堂から徒歩2・3分のところに作家井伏鱒二の別荘があります。
八ヶ岳山麓の四季 2

八ヶ岳山麓の四季 2

写真タイトル:「高森観音堂の枝垂桜」 (長野県富士見町で、2008年4月21日撮影)

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2008.04.24 「制度化された貧しさ」が与える衝撃
書評 堤未果著『ルポ貧困大国アメリカ』

半澤健市 (元金融機関勤務)

《女性ジャーナリストによるアメリカ虫瞰図》
 08年4月18日付の書評で紹介した中尾武彦著『アメリカの経済政策―強さは維持できるのか』はエリート官僚によるアメリカ経済の鳥瞰図であった。それに対して本書は気鋭の女性ジャーナリストによるアメリカ社会の虫瞰図である。「虫瞰」すなわち虫の目で見るとは、『何でも見てやろう』の小田実が使つた言葉だと思う。地べたからの視線で世界を見る立場である。本書では、中尾の鳥瞰図では顔の見えなかった人々が―その多くは辛い立場にあるのだが―生き生きと息づいている。彼らは自分の声で嘆き、自分の言葉で訴えている。著者の堤未果(つつみみか)は参議院議員川田龍平との結婚で話題の人だが、衛星放送「朝日ニュースター」の好番組「ニュースの深層」のアシスタントとしては口数が少なくさほど印象的ではないと感じていた。ところが著作は違うのである。アメリカ庶民の間を「虫瞰」して凄いルポルタージュを作ってくれたのである。

《プロローグからエピローグまで》
◆プロローグ
サブプライムの犠牲者取材から始めて、市場原理による「貧困ビジネス」批判を最初から展開する。

◆第1章 貧困が生み出す肥満文化
米国貧困層に対する政府の「無料・割引給食プログラム」の制度と運営の現状を伝える。米人の肥満は「過食」の結果ではなかった。「貧困」救済プログラムのメニューが、安くてカロリーだけ豊富なジャンクフードに偏るための結果だったのである。米国では肥満は貧困の象徴なのである。貧困とは世帯年収が4人家族で2万ドル以下の家族を指しその家庭の子どもを「貧困児童」とする。2005年、全米の貧困率は12.6%、18歳以下の貧困児童率は17.6%であった。ニューヨーク市では、190万人の児童の4分の1が「貧困児童」で、その3分の2が学校の「無料・割引給食プログラム」に登録している。この「貧困ビジネス」を求めて、マクドナルドやピザハットなどのファースト・フード産業が殺到する。「肥満」すなわち「貧困」が再生産される。
2008.04.23 鼓楼のある村―トン族・増衝村の人々
佐藤憲一 (写真家)

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鼓楼のある村―トン族・増衝村の人々

鼓楼のある村―トン族・増衝村の人々

鼓楼のある村―トン族・増衝村の人々

鼓楼のある村―トン族・増衝村の人々

鼓楼のある村―トン族・増衝村の人々
2008.04.22 シュールダンスをあなたと
原田克子 (詩人)

子どもたちが赤い風船をもっている
手に手に幸せを詰めた風船をもっている
遠足の日の朝雨だったこと
おもいがけず徒競走でビリにならなかったこと
思い出せる長い時間などなかったはずなのに
もう これからのことは考える必要がないかのように

遠くから大きなおとこがやってくる
静かに静かに靴音をならすこともなく
黒い木の実を入れた
堅い鞄をさげて
みたこともないお伽の國への地図を抱え
みんなで行こう と誘いにくる

ダンスを踊りましょう
蛇のようなリズムにのって
ステップを踏みましょう
羊のように並んで

あなたの暖かい指先がわたしの胸元をすべる
わたしの青い爪があなたの喉に刺さる
あなたの緑の涙がわたしの子宮に注がれる
わたしの凍った心をあなたは食べる

子どもたちは赤い風船を離す
上っていく風船に込めた思いを追いかけることもせず
二度と 戻らないもの
また 戻ってくるもの

大きなおとこはゆっくりと近づく
開いた地図のうえには
まんまるに太った蜘蛛の影がうつり
糸を張る楽しい呪文がきこえてくる

お伽の國はいつも祭り いつでも祭り

ダンスは
回転木馬にまたがるように
ステップは
離した風船にとどくように

わたしはあなたの筋張った手を握る
あなたはわたしの括(くび)れを探す
重なり 回り 回り 重なり
回り 重なり 重なり 回り

けして 隙間 を作らぬように

日英対訳版 クリックすると、日英対訳版が表示されます。
2008.04.21 黒澤明全作品30作の放映(2)
―『羅生門』にベネチア映画祭グランプリ―

半澤健市 (元金融機関勤務)

《黒澤も知らなかったベネチア映画祭参加》
 『羅生門』(1950年)は公開時から絶賛されていたわけではない。評価はさまざまであった。それでも映画専門誌『キネマ旬報』のベストテンの第5位に入っている。第1位から第4位までを挙げておく。カッコ内は監督。
第1位 『また逢う日まで』(監督・今井正)
第2位 『帰郷』(大庭秀雄)
第3位 『暁の脱走』(谷口千吉)
第4位 『執行猶予』(佐分利信)
なお外国映画の第1位はデ・シーカ監督のイタリア映画『自転車泥棒』であった。

 翌51年9月にベネチア国際映画祭へ出品されたことを多くの製作関係者は知らなかった。イタリア映画の輸入業者をしていた女性の熱意が『羅生門』を母国の映画祭へ送ったのである。黒澤は荻昌弘とのインタビューでこういっている。「実は僕、あの写真がベネチアへ送られたことも知らなかったのですよ。あれを向こうへ送ってくれたのは、ほんとにイタリフィルムのストラミジョリさんの功績です。受賞祝賀会のときにも僕は言ったのだけどね、日本映画を一番軽蔑してたのは日本人だった、その日本映画を外国に出してくれたのは外国人であった。これは反省する必要はないか、と思うのだな」。
2008.04.20 YAMABUKI
出町 千鶴子 (画家)

YAMABUKI

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2008.04.19 「五輪後」始まる?――曲がり角の中国経済
管見中国(7)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 中国の国家統計局は16日、今年の第一・四半期(1〜3月)の経済実績を発表した。速報値で成長率は10.6%(前年同期比1.1ポイントの下落)、消費者物価(前年同期比)は8%上昇、貿易黒字(同)は49億ドルの減少である。
 この結果について、同日開かれた国務院の常務会議(日本の閣議にあたる)では、「国際経済環境におけるまれに見るほどの変化と低温雨雪氷凍災害という極めて困難な状況の下、中央の時を移さぬ力強い対応措置によって、国民経済は安定したスピードの発展を保ち、当面の全体的な形勢は予想よりよい」と自画自賛した。(『新華社』)
 成長率、貿易黒字は昨年を下回るとはいえ、多少スピードが落ちたという程度だから「安定したスピードの発展」と言ってもいいだろう。問題は物価である。3月の全人代で打ち出した今年の物価上昇の目標値4.8%を大きく上回っている。
 国務院常務会議でも「物価の構造的上昇が明らかなインフレに転化するのを防ぐことがマクロ調節の第一の任務であり、物価上昇を抑え、通貨の膨張を抑えることをこれまで以上に優先する」とした。
 中国の消費者物価上昇率は去年の5月までは3%台だったのが、6月4%台、7月5%台、8月から12月まで6%台と階段を上るように上昇し、今年に入ると1月7.1%、2月8.7%、3月8.3%と騰勢が続いている。 この上昇の主たる要因は食品、とくに肉類、乳製品などの値上がりである。とくに豚肉などは、昨秋は毎月30%ほども値上がりした。
 そこでこのインフレと言ってもいいような状況をどう見るかである。
2008.04.18 書評 中尾武彦著『アメリカの経済政策―強さは持続できるのか』
―財務官僚のみた強いアメリカの鳥瞰図―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 「アメリカ経済はなぜ強いのか。グローバル化とITなどの技術はアメリカの強さとどう関わっているのか」。これは本書の書き出しである。
 「長期的な視点に立って見れば、アメリカ経済はその開放性、柔軟性やダイナミズムに起因する基本的な強さを持っており、今後も世界経済のメイン・プレーヤーであり続けると考えている」。これは結語部分の一節である。本書はアメリカ経済の強さを分析した報告書である。著者は1956年生まれ。東大経済を出て大蔵省へ入りカリフォルニア大バークレー校留学を含め7年の滞米経験(IMF3年、日本大使館2年)をもつエリート財務官僚。現在は財務省国際局次長の職にある。

 まず著者は過去10年の強い米国経済と弱い日本経済によって両国経済の格差は大きく広がったという。それは次の数値によく表れている。(本書9頁)

         1996年       2006年
■米国のGDP(10億ドル)  7,817      13,195
  日本のGDP(10億ドル)  4,638       4,366
  (対米比率)         59.3%       33.1%
■1人当たりGDP(ドル)
 米 国         28,996      44,024
 日 本         36,898      34,181
 (対米比率)      127.2%       77.6%
■対ドル円レート 108.7円      116.3円

 アメリカ経済の良好なパフォーマンスはどこから生まれたのか。
その主因は生産性の上昇であり、背景にはITを活用した技術革新と投資があった。それをを支える開放的な投資環境と競争的な労働市場という構造があった。つまり自由な市場がアメリカ経済の成長をもたらしたというのである。さらに世界の金融センターとしてのアメリカがクローズアップされる。世界経済はいまや「グローバル金融資本主義」の時代にあり、それを推進し発展させているのがアメリカの金融市場である。そこでは25年ほどかけて、規制の自由化、グローバル化、IT技術が進み、現在の繁栄がもたらされた。